リーチェという少女②
「まぁ、これでもレベル5だからね!それに、狩人は集中が高まると、狙いがアップするんだよ!だから、キミの頭がグロテスクな状態になる前にちゃんと当たって良かったよ」
リーチェは、カラカラと笑うと手に握っている木弓をロイに見せた。
初期装備の弓だろう。しかし長年彼女が使い込んでいるのか、あちこちに小さい傷がついている弓はリーチェの手によく馴染んでいた。
「でも、なんでキミはこんな所に一人いたの?」
リーチェは不思議そうに首を傾げた。
「ロイ、俺の名前はロイって言うんだ。『夜明けの狼』って傭兵団にいたんだけど、さっき傭兵団から離れたんだ」
ロイが傭兵団の名前を出すと、リーチェは眼を丸くした。
「えーっ!!ロイって、あの『夜明けの狼』の団員だったの?最近一気に知名度が上がって、傭兵団らしくない紳士的な振る舞いが評判なのに!⋯⋯もしかして、ロイって何かやっちゃったの?あー、もう!!さっき別れたなら、追いつけない?もー、私が『夜明けの狼』に入りたーい!!」
リーチェは、傭兵団を離れたロイのことを信じられないといったように見つめると悔しがった。
「もしかして、今より強くなりたいの?」
ロイの言葉に、リーチェは何度も力強く頷いた。
「勿論だよ!ツノウサ、鳥。鳥、鳥、ツノウサって、ずっと狩って3年でレベル5までは来たんだよ!でもそれっきり!全然レベルも上がらないし、結局覚えたスキルは『ハードショット』だけだもん」
3年でレベル5。多分、これはリーチェのたゆまぬ努力の成果だ。
レベル5だと、現時点のストーリー的には充分な戦力だ。
ただ、そこはゲームの都合があって、本来ならこの第1部でもレベルが高い強者がゴロゴロといるはずだ。王国や帝国の騎士団や将軍が皆低レベルなわけがない。
「それは⋯⋯ツノウサや鳥ばっかり狩っていたから、レベルが上がって必要な経験が溜まらなくなったんじゃない?」
そう、ゴブリンを狩ったからロイはレベルが上がった。
だが、レベルが上がるにつれて必要になる経験値は増えてくる。
鳥やツノウサ程度の経験値では、リーチェがレベルアップするには最早効率が悪すぎる。
「やっぱそう思う?いくら狩っても狩ってもレベル上がらないんだもん。あー『夜明けの狼』に入ったなら、魔物を狩る機会も増えるのに」
リーチェはそう言うと、残念そうに空を見上げだ。
「──レベルを上げる方法ならあるよ」
ロイはそう口にした。
そして、それは『夜明けの狼』にいると難しいと分かっていたから、ロイは傭兵団を離れたのだ。
「うそっ!ほんと!!──まさか、キミ。新手の詐欺⋯⋯ってツノウサにやられそうになる時点でそんなことないか」
うっ、腹立たしいけど本当のことだから反論はできない。
「うん、リーチェさえ良ければ。効率の良いレベルアップを教えるよ」
ロイが提案すると、リーチェはキラキラと眼を輝かせた。
「本当!?嘘じゃないよね!じゃあ、家においでよ!ここから近いんだよ。父さんと母さんに言えば、寝床くらい準備できるよ」
リーチェは顔をほころばせると、ロイの手を握った。
華奢な手だが、長年弓を扱ってきたその左手には硬いマメが作られていた。
あぁ、一瞬リーチェと二人っきりと思った邪な自分を殴りたい。
自己嫌悪半分、残念半分の心持ちで恥ずかしさをこらえながらロイは頷いた。




