出発②
カサッ、カサカサッ。
街道を暫く歩いたロイは、草原の一部の草が不自然に動いているのを見つけた。
空は青く、風は少ない。
そんな長閑な草原地帯は、第1部の始まりとしては申し分ない。
ただ、そんな長閑な風景にも危険は潜んでいる。
「ツノウサだな」
ツノウサは、最初の戦闘でプレイヤーがお世話になるチュートリアルモンスターだ。
魔物といえども、臆病で自分から攻撃をしてくることはない。
見た目は名前の通り角の生えたウサギだ。
チュートリアルに出てくる魔物に相応しくレベル1の星3 キャラクターでも、4発くらいは初期装備で耐えることができる。
「できれば倒しておきたいけど、15cmはある角に突かれるのは絶対まずいな」
ロイは槍を構えると、静かに草むらへと足を踏み入れた。
姿勢を低くすると、ツノウサに匂いで気付かれないよう風下から近づく。
ゲーム内では地形の高低差を利用して、通常であれば高い位置から攻撃するのが威力補正がついたが、今はツノウサに気付かれないことが一番の得策。
ロイが静かに草を掻き分け進むと、草の間でのんびりと野草を喰むツノウサの姿が見えた。
愛らしいモフモフの見た目に赤色のクリっとした眼。しかし、その長い両耳の間には1本の恐ろしい程に尖った角がついていた。
ツノウサは攻撃を受けると防衛のために、その脚力をもって角で突進攻撃を行ってくる。
ロイは槍を構えると、ツノウサの警戒を高めないように近づいた。
ロイの職業は、『見習い騎士』。このジョブと知った時、ロイは水島 勇斗として小さくガッツポーズを取った。
『見習い騎士』は、耐久値に優れるほか、職業がクラスアップした時に身につけることができる、スキルが魅力的だったからだ。
ツノウサが草の咀嚼を終え、次の葉を口に含んだ瞬間。ツノウサの意識が葉に向いたタイミングを見計らって、ロイはグッと手に力を込めると、手に持った槍で突きを放った。
──ドッ!
鈍い音を立てて、刃先がツノウサの首を貫いた。
「よしっ!」
ロイは思わず拳を握ると、一撃で絶命したツノウサを見て喜んだ。
勿論、ツノウサ一羽を倒したところで、レベルアップはしない。
レベル1から2になるには、最低ゴブリン1体は倒さなければいけないのだ。
それでも一人の力で魔物を狩れたことは、ロイにとって自信になった。
「ふぅ、これならレベル3も早く見えてくるかな」
ツノウサは血を抜いて今夜の食料にしよう。
そう思った時だった。
「フウゥーッ!!」
怒った様な獣の息が聞こえた。
「まずい!バックアタックか!」
バックアタック。
後方から不意をつかれる、クリティカル必至の攻撃だ。
──クソッ!
振り向くと、そこには仲間をやられて怒ったのであろう。
赤い目をギラリとさせて、頭から突っ込んでくるツノウサの角が間近に見えた。
──駄目だ!避けきれないっ!盾も間に合うか!!
ロイが必死に左手の盾を前方に構えようとした瞬間だった。
「動かないでっ!!」
透き通るような高い声。
それと同時にヒュンッと風を切る音が聞こえた次の瞬間、狙いすまされた矢の一撃が、ロイを襲うツノウサを捉えた。
──ドッ
矢の威力によって、突進していたツノウサの軌道は逸れ、ロイの右肩を通り過ぎると後方に崩れ落ちた。
そのスピードと軌道に、さっきの一撃が自分の頭を直撃する軌道と分かった瞬間、ロイは背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
「ちょっと、キミ。大丈夫!!」
ロイは一呼吸置くと、矢が飛んできた方向を振り向いた。
ボブくらいの長さのブラウン色の髪が風にフワリとなびく。
スラリとした体躯には弓を射るための胸当てとショートパンツ。
動きやすいブーツを身に着けた、人懐っこい笑顔の女の子が岩の上に立っていた。
「危ないとこだったね!ボクはレンジャーのリーチェ。キミの名は?」
ガチャを引いた時と同じ台詞を放った後、女の子は岩から飛び降りた。
空中で一回転すると軽やかに着地!
とはならず、地面に足がついた時にバランスを崩したのか、リーチェはコロリと転がると、ペタリと地面に座り込む形でロイの前に着地した。
台詞も登場の演出も見間違えるはずがない。
ロイの目の前には、星4キャラ。狩人のリーチェと呼ばれる少女が座り込み、照れ笑いを浮かべるとロイを見あげていた。




