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傭兵団を離れるという選択②

「よっ」


傭兵団『夜明けの狼』を束ねる団長ラグナスは、誰にも縛られず、誰を縛ることもない。

ただ、志を共にせんとする者達を受け止め、彼らと共に戦う傭兵団という群れのリーダー。それがラグナスだ。


──ゲームでも格好いいと思ったけど、実物はやばい。


有名絵師にデザインされた一枚絵が実物になるとこうなる。

その模範例を見た気分だ。


「なんだロイ、特等席じゃないか」


掲げた右手を下ろすと、ラグナスはロイの隣に腰を降ろした。

180は超えるであろう身長に、夜風になびく金色の髪。よく絞り込まれた筋肉は彫刻のようだ。普段は鎧を身に着けているラグナスだが、酒の席では鎧を脱ぎ、上半身は薄い黒い肌着を着ているのみだ。


「──すみません、僕のお祝いなのに席を抜けちゃって」


ロイが謝ると、ラグナスは左手を前に出し、持っていた2本の串を取り出した。


「1本食うか?今日の主役とあまり話せてなかったからな」


肉と野菜が刺さった串をラグナスはロイに差し出した。ロイは礼を述べると、ラグナスから受け取った串を頬張った。


「なっ!美味っ!!」


口に入れた瞬間、様々なスパイスの香りが鼻へと抜ける。

酒場の中でも食べた同じ串とは到底思えない、風味豊かな味わいが口いっぱいに広がった。


「いいだろ?俺の秘蔵スパイスだ。高価なもんだから、特別な時にしか食べないんだ。今日は、ロイの初レベルアップと俺たち『夜明けの狼』が依頼を達成した記念だ。皆には振る舞えないからな、内緒だぞ」


ラグナスはそう言うと、また一口串を頬張りニカッと笑った。

そんな彼こそ、『グランディア戦記』の最初のプレイヤーキャラで使える3人のうちの1人だ。

頼れる兄貴分で、明朗快活な仲間想い。そんな分かりやすく気持ちの良いキャラクターだからこそ、水島 勇斗も最初に選んだのがラグナスだった。


「ロイ、どうだ?お前がここに来てそろそろ1年になる。団にはもう慣れたか?」


ラグナスの問いに、ロイは言葉を詰まらせた。

ロイが『夜明けの狼』に入団するきっかけ。

それは、ロイが人身売買の被害者だったからだ。


「はい、隣町へ遣いに行く時に人攫いにあった僕を助けてくれたのが団長達『夜明けの狼』でしたよね」


水島 勇斗としての記憶と混同しないようにロイは言葉を繋げた。


「あぁ、お前は故郷のリーベ村で攫われ、帝国のローライで売られようとしていた。そこを、たまたま近くを通った俺達が助けてやったんだよな。──早いな、もう1年経つのか」


幌を張られた荷馬車に揺られ、もう家族に会えないと絶望に包まれながら荷台の上で、突如聴こえた戦闘の音。

人攫い達の悲鳴と刃が交わる音が止まった時、幌を破って差し伸べてくれた手を、ロイは今でも覚えている。


「はい、あの時の団長は僕にとっての英雄でした」


心の底からそう思っている。

ロイは柵から飛び降りると、ラグナスの前に立った。


故郷のリーベ村は遥か遠い。

あの日、僕は助けてくれた『夜明けの狼』に恩を尽くそう。ずっと団を支えていきたい。そう確かに感じたんだ。

──でも、水島 勇斗としての記憶が戻った今。ただここにいることはできない。


「でも団長、俺。やらなきゃいけないことができたんです」


ロイはそう言うと、バッと頭を下げた。


──怒鳴られるか?


覚悟はしたが、ロイの頭上には罵倒も鉄拳も落ちてはこなかった。

暫しの静寂のあと、ラグナスは口を開いた。


「──そうか、ロイが決めたんだもんな」


ただ優しく、どこか寂しそうなラグナスの声がロイの耳に届き、そこに何故という問いはなかった。



「──はい」


今までの団に対する感謝と、決心したはずなのに口に出してしまったことへの後悔。そして、そんな無茶を告げた自分に対するラグナスの優しさ。

それらの感情が混ざり合って口から出たのは、傭兵団を抜ける己の選択を肯定する言葉だけであった。

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