上限レベルは40、未来は詰んでいる③
さて、ここまで状況を整理すると⋯⋯
ロイが更に状況を整理しようとした時だ。
「おいおい、本格的に酒が回っちまったのか?それとも、初めてのゴブリン討伐が今になって恐ろしくなったのか?」
ブワーっと酒臭い息を吐きながら、グランツはロイの肩に手を回した。
馴れ馴れしい態度だが、ロイとしての記憶から、この30歳手前の大男が情に厚い良い人物であることを知っていた。
「え、えぇ。僕にとっては初めての実践だったもので」
一人称を「僕」と名乗ったのは、ロイとしての記憶からだ。
水島 勇斗として使っていた「俺」を、14歳のロイがいきなり使うことは、周囲から不審に思われるだろう。
周りにはいつも通りに振るまわなければならない。
そう。今日は少年ロイにとっては初めての実践。
傭兵団「夜明けの狼」が請け負った依頼。村に実害を成すゴブリン討伐にロイは初めて参加したのだ。
今でも、握りしめた両手にはゴブリンの肉を貫いた槍の感触が残っている。槍の刃先がゴブリンの臓腑を貫いた生々しい感触、たまたま骨を避けて振るわれた切っ先は、ゴブリンの腹部を貫いた。
その後は、ロイは訳も分からないまま必死で槍を引き抜くと、ゴブリンの身体に再び、三度と槍を刺した。
「よくやった。もう絶命してるぞ」
仲間が肩に置いた手で、ロイはようやく我に返ることができたのだ。
──レベルが上がりました。
脳内に直接響く、どこか機械的な女性の声。
その直後身体に湧き上がった力の上昇に、ロイは自分のレベルが2に上がったことを実感していた。
「そうか、レベル2に上がったんだ」
スマートフォンの画面越しにポチポチと指をタップしていた水島 勇斗では体感することのなかった、レベルを上げた重み。
それは、ゴブリンの生を奪ったことに対する命の重みが、ずしりとロイの両手にのしかかっていた。
「おぉ、そうだとも!初めての実践、ロイ!お前は見事ゴブリンを倒すことをやり遂げたんだ!レベルも2になった。俺たちはロイが一人前になったことが嬉しいんだ!なぁ、みんな。ロイに乾杯!!」
ロイの肩に手を回していたグランツが、空いている手で高々とジョッキを掲げた。
『ロイに乾杯!!』
酒場に溢れている仲間達。およそ30人はいるだろうか、その各々がほろ酔い顔でジョッキをロイに向かって掲げると、一気に残ったエールを飲み干した。
この雰囲気に合わせるため、ロイもジョッキを掲げるとエールを口に流し込んだ。
水島 勇斗が記憶しているビールの味とは程遠い。
雑味は残り、アルコールの強い酒はお世辞にも美味いとは言えない。
だが、口の中に残る苦味が生きていることを実感させてくれた。
上限レベルは40、逆立ちしてもレジェンドになることはないこの人生。
未来は詰んでいるのかもしれない。
だが、不思議と戦うことを避けて平和に暮らそうとは思わなかった。
生き抜いてやる。
そう心に誓うと、ロイはようやく落ち着いて眼の前に広がる料理の数々に手を伸ばした。
「おっ、調子が戻ってきたか?良かったぜ」
グランツが嬉しそうに笑った。
「はいっ!」
仲間達に囲まれながら、ロイは夢中で料理を口に頬張った。




