試練の塔①
翌朝、ロイとリーチェは荷物をまとめると『森林亭』を後にした。
昨晩ロイは床に寝ようとしたが、リーチェは許してくれなかった。
結局一人用のベッドを二人で使う形となり、窮屈ではあったが久々のベッドは抗い難い眠気を連れてやってきたため、おやすみの言葉と同時に二人とも夢の世界へと誘われていた。
ちなみに、昨日マロンがロイのポケットに突っ込んできたものを、ロイが訝しんでリーチェのいない所で開くと、かなり値の張る精力増強剤だった。
ロイは捨ててやろうかと思ったが、結局その値段にビビって捨てることを躊躇う形となり、今はリュックの奥底にしまわれている。
二人が町を抜けると、そこは開けた場所があり、『大森林』に向かって舗装された道が延びている。
『大森林』から切り出した木材を運ぶために整備された道だ。
本来はヨールヘム付近まで森があったのだが、開拓によって土地が拓けているのだ。
二人が歩くと朝を告げる町の鐘が鳴り響いた。
森に向かって進むと、小柄な人影が見えてきた。
「おーい!お二人さん!!こっちっすよー!」
マロンが、自分の背丈より3倍程の背嚢を背負い立っていた。
そのアンバランスな光景に驚いたが、冷静に考えれば大荷物を持てるだけマロンのレベルは相当な域に達していることが分かった。
マロンは合流すると、直ぐに道を外れて整備されていない獣道から『大森林』の中へと入っていった。
「もう少しすると、森林開拓の作業員や護衛が来るっす。その前に入っちゃえば難癖つけられないっすからねー」
マロンは迷うことなく獣道を進んでいく。暫く進むとマロンは立ち止まり、少し開けた場所で切り株に腰かけた。マロンに促されてロイとリーチェも切り株に座った。
「ふーっ、ここまで来たら開拓団も見えないっすね。あ、その前にお兄さんさん、昨日の効果はどうでした?二人ともスッキリしてるみたいっすけど」
マロンはニヤニヤしながら、反応を見るように笑った。
「効果?うん、久々のベッドの効果はやっぱり最高だよー!お陰ですぐ寝ちゃったもん。ね、ロイ」
ニコッとリーチェが笑いながら親指を立てた。
その様子をマロンはポカンとした表情で見つめたが、すぐにロイの肩に手を置くと、わざとらしく人さし指で涙を拭う真似をした。
「お兄さん、苦労してるっすね」
「余計なお世話だ。昨日の会話で知ってると思うけど俺はロイ。彼女はリーチェっていうんだ。色んなところを渡り歩いているみたいだけど、結構商人しては長いの?」
ロイが尋ねると、こりゃ失敬といった感じで、マロンは握り拳を作ると自分の頭を軽く叩いた。
「そーっす。こう見えて、種族はドワーフ。名前はマロン、年は17。行商人を始めたのは12歳からなんで、そろそろ駆け出しは卒業っすねー」
──ドワーフだったんだ!
ロイにとってマロンがドワーフというのは少なからず衝撃だった。
水島 勇斗は彼女をガチャで引いたことはなかったため、説明文を眼にする機会がなかったので、当然といえば当然なのかもしれない。
見た目に反した膂力も、彼女の種族を考えれば妥当性はある。
ドワーフは人族よりも筋力が多い設定だ。
『グランディア戦記』は、主に人族を中心とした国家間の領地を取り合うシミュレーションが主体だ。しかし、キャラクターにはエルフやドワーフなど、人族以外も存在し、2周目以降は人族以外もキャラクターとして使えるようになっていた。
「ま、ウチのことはさておいて⋯⋯あの本『記憶の書』って言うなんて初めて知ったっす。お兄⋯⋯ロイの旦那は何で知ってるんすか」
なるほど、この世界だとレベルアップアイテムの『記憶の書』は、認知されていないため、本の名前を知っているロイのことをマロンは不審がったのだ。
「親が一冊持ってたんだ。読むと力が湧き上がる不思議な書だって。名前も親から聞いたから、詳しくは知らない。『大森林』に由来があるって聞いたから真偽を確かめに来たんだ」
言い訳としては苦しいが、これでこの森が始めてであることは合点が行くだろう。
「ま、ロイの旦那は商人じゃなさそうですし、商売敵にならなきゃ問題ないっす。あと、あの本を安易に扱うのは止めた方がいいっす。きっと人ならざる者が作ったものくらいヤバいっすよ!」
それはそうだろう。敵も倒さずにレベルを上げるアイテムだ。
マロンの感覚からすれば、危険な物に写るだろう。
「その言いっぷりは⋯⋯マロン使ったんだろ?」
ロイの言葉にマロンは小さく舌を出した。
「あちゃ!バレたっすか!こんな荷物持って平気なのは確かにあの本のおかげっす!お陰様でレベルも32。大抵の魔物は逃げたり倒せるっすよ!」
ニコッと笑うと、マロンは腕をまくり力こぶを作った。
細い見た目に反してその腕には恐ろしい程の力が潜んでいることが分かった。
危険と言いつつも、かなりの本を使わないとレベル32にはならないはずだ。ロイは星5キャラのマロンがたくましく、ゲーム内でも活躍している理由の一端を垣間見た思いだった。




