マロン
マロンは、領地運営をしている時にランダムで現れる行商人だ。高性能なアイテムを普通に購入するより安く売ってくれるので、プレイヤーは重宝するのだが、現れるタイミングは完全にランダムだ。
そのため、お金がない時に彼女が現れた時のショックは大きい。
しかも、3回全く購入しないと、
「しけた領地っすねー。商売にならないんで、もう来ないっす」
と捨て台詞を吐いて二度と現れなくなるというイベントつきだ。
ただ、彼女のアイテムが安いのには理由があった。
彼女自身がとてつもなく強いため、ダンジョンに潜り自分でアイテムを集めてくるから、原価がほぼ彼女の危険と労力しかかかっていないのだ。
「お二人さんは⋯⋯ははーん。この町の出身じゃないですね。女の子の服はロドブンド王国の西部地方によく見る刺繍が入ってるっす。キミは⋯⋯あんま得著ない服っすねー。遊牧民出身ですか?」
「すごーい!ボクはそっちの方の出身だよ!よく分かったね!」
リーチェは、先日の帝国の進軍があったため、ポスコス村のことははぐらかすように答えた。
「俺は傭兵団にいたから、あまり特徴のない服だろ。服だけで出身が分かるなんて行商人は流石だな」
リーチェの時と同じ轍は踏まないよう、星5キャラに会った衝撃からロイは名前を言わないよう自分を律した。
「おやー、その喋り。北方の方の出生っすねー。でも惜しかったー、傭兵団の人でいらっしゃったか!あ、そうそう!行商人は記憶と行動力が生命っすから!」
商売スマイルを浮かべたまま、マロンはマシンガントークを続ける。
「で、何が入り用っすか!戦いに必要なもの?彼女へのプレゼント?それとも夜を激しくする、アレっすか?いやー旦那も可愛い顔してやりますねー!あ、いやこれからやるっすか!」
可愛い顔して中身がオッサンだ。
マロンの話す意味をリーチェがあまり分かってない様子なのが、唯一の救いだ。
ロイは、一人で盛り上がっているマロンをよそ目に、並べられた商品をじっくりと吟味した。
ゲームだとスクロールで購入する商品が一瞥できるが、こうやって本当にアイテムを眺めることができることは格別だ。
「あれ?経験値を上げる『記憶の書』は切らしてる?」
マロンは、いつでもレベルアップに必要なアイテム『記憶の書』を売っているのが基本だ。
『記憶の書』には、いくつか種類があり『戦士』『狩人』『騎士』など職業によって必要な書は変わってくる。
これが、『試練の塔』では効率よくドロップするため、ロイがリーチェを連れてこのヨールヘムに来たのは、『記憶の書』を手に入れることが目的だった。
「⋯⋯今なんっつて言いましたか?」
突然ロイの言葉に、スンッとマロンが声のトーンを落とした。
そこには、先ほどまでのお調子をこいている感じはまるでなかった。
マロンは、ロイの頭から足下までを値踏みするように見ると。少し思案したようだが、ちょいちょいと耳を貸すようにロイを手招きした。
ロイが顔を近づけると、マロンは周囲を見渡した後小さな声で囁いた。
「お兄さん達、訳ありっすね。明日の朝。町の鐘が鳴ったら森に入る準備をして『大森林』の入口に来てほしいっす。場所は開けてるからすぐ分かるっすよ。あ、あとこれお近づきの印にあげるっす。で、他はなんか買って行くっすか?」
マロンは笑顔に戻ると、何かをロイのポケットに突っ込んだ。
「あ、ええっと。じゃあ、その水色のイヤリングをもらおうかな」
パッと見た中には、今が第1部開始くらいのためか強力なアイテムはなかった。ロイはその中で『魔除けのイヤリング』と呼ばれる水色の雫型のイヤリングを選んだ。
リーチェに似合うと思ったのは勿論、このイヤリングには『混乱耐性』を上昇させる能力がある。『大森林』に出現する魔物。『ウッドエコー』は混乱の状態異常をかけてきて、同士討ちを誘発させてくるため『魔除けのイヤリング』は重宝するのだ。
「やっぱ分かってやってますねーお兄さん!毎度ありっ!」
3回買わずして、もう会えなくなるのは勘弁だ。
なかなかの痛い出費だったが、これでリーチェの生存率が上がるなら安いものだ。
ブンブンと喜んで手を振るマロンに、明日再会する約束を交わすと二人は買い物を終えた。
「はい、リーチェに。『魔除けのイヤリング』っていう混乱になりにくくなるアイテムなんだ。『大森林』に入るのに役立つのは確かだけど、リーチェにとても似合うかなって思って。もらってくれるかい?」
ロイがイヤリングを渡すと、リーチェは少し恥ずかしそうに受け取った。
耳につけると、自慢するようにクルッとターンする。耳につけたイヤリングがリーチェの動きに合わせて、軽やかに踊った。
「フフッ、ロイありがと。ボク一生大切にするね!」
リーチェはそう言うと、ロイの手を掴んだ。
「そろそろ帰ろー。宿屋のご主人たちのご飯が楽しみすぎるよ!」
リーチェに引っ張られる形でロイ達は宿屋に向かって走り始めた。




