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次の目的地へ①

帝国軍の襲撃を受け、燃え広がった火事を鎮火できたのは空が明るくなり始める頃であった。

死者13人。負傷者8名。

家屋全焼3軒、半焼5軒。

100人規模の村の実情を鑑みると大損害である。


「帝国のやつら酷いことしやがる。村長が帝国傘下に降ることを断ったら、村長の家族を全員殺して火を放ちやがった」


燃えた家の鎮火作業を手伝うロイの耳に、村の大人達が話している内容が聞こえてきた。


「そんな⋯⋯村長さんところ。まだ5歳のお孫さんのファウもいたのに⋯⋯」


隣で瓦礫を運ぶ作業をしているリーチェが俯くと涙を落とした。


「ボクたち、何も悪いことしてないよね?」


リーチェは、村が侵略されようとした理由を探すように、周囲に問いかけた。大人達は皆表情暗く俯くばかりだ。


「あぁ、私達が悪いわけじゃない。ただ、このポスコス村は昔からロドブンド王国にとっては端。メドロワナ帝国に近い場所にあったんだ。歴代の村長はメドロワナ領ではあるが帝国にも表立って敵対はしていなかった。きっと帝国は長年の暗黙の了解を破って、帰順することを村長に迫ったんだろうね」


傷の治療もそこそこに、人の数倍の瓦礫を運んでいたたゴードンが手を休めて、悲しそうにリーチェを見つめた。


「二人とも、疲れただろう。後は私達に任せて休みなさい」


昨晩、鬼神の様に戦ったとは思えない、優しい声音でゴードンはロイとリーチェを労った。


「まだ、大丈夫です!村が大変な時に休むなんて」

「ボクもだよ!こんなことでへばってらんないよ!」


ロイとリーチェが口を揃えた。


「駄目だ。成人したと言っても二人はまだまだ私にとっては子供なんだ。こんな時だからこそ休むんだ」


ゴードンの口調は優しかったが、その声音は有無を言わさないものがあった。


「──ロイ君、こんなことになって本当にすまない。でも昨晩、君とリーチェが駆けつけてくれてなかったら、私は死んでいただろう。⋯⋯村長代理として、一人の父として君には最大限の礼を言わせてほしい。本当にありがとう」


ゴードンはロイに向き直ると、姿勢を正して深々と頭を下げた。

その様子を見ていた、周囲の住人達からも拍手が沸き上がり、口々にロイとリーチェへ謝意を伝えた。

その光景に、ロイは胸の中が温かいもので満たされるのを感じた。


ゲームなんかじゃない。

この世界は、こんなにも残酷で⋯⋯でも、人々の強さと優しさに溢れている。


全員救うなんてことはできるわけじゃない。

ロイは村長を始め、亡くなった人のことを思うと涙が止まらなかった。

隣でリーチェも同じように顔をクシャクシャにすると大粒の涙をこぼしていた。


「うん、ボク休むよ⋯⋯そして、休んだらまたいっぱい頑張るから!さ、ロイ行こっ!」


リーチェはロイの手を掴むと足早に歩き始めた。


「ありがとなー」

「ゴードンさんを助けてくれてありがとー!」


村人達の温かい声を背に二人はゴードンの家に戻ってきた。

家に着くと、始めはリーチェ、ロイの順番に裏手の井戸で血と汗にまみれた衣服を脱ぐとリオナが作っているという石鹸で汚れを落とした。


「ボクのだけど、まだ背は同じくらいだから着れるよね」


今のロイとリーチェの背はあまり変わらない。ロイが165cmくらいで、リーチェは160に少し足りない程度か。

できるだけ大きな服を選んだというリーチェの服を、ロイは少し気恥ずかしい思いで袖を通した。


汚れを落とし、清潔な服に身を包むだけで生まれ変わった気分になった。

二人は、転がり込むようにリーチェの部屋にたどり着くと。四肢に形容し難い疲れがのしかかってくるのを感じた。


リーチェは無言でベッドに飛び込むと、ギュッと布団の中に丸まってしまった。ロイは床に転がり、昨晩準備してもらった毛布を億劫そうに身体にかけようとした。


「ロイ。そこじゃやだ」


布団から少しだけ顔を覗かせたリーチェが、ロイに手招きした。

ロイは、何を言い出すかと思ったが、布団の中のリーチェの眼には今にも涙が溢れそうになっているのを見て、力を振り絞ってリーチェの布団に潜り込んだ。


「──怖かった」


「うん」


リーチェはすぐにロイの身体に抱きつくように手を回すと、ロイの胸に頭をつけた。


「初めて人を殺しちゃった」


「うん」


リーチェの全身は小刻みに震えていた。

気がつけば、ロイ自身自分の身体も震えていることに気付き、リーチェの背中に手を回した。リーチェの身体からは仄かな石鹸の香りが漂い、触れる手からはリーチェの温もりが伝わってくる。

暫く抱き合っていると、二人の震えは少しずつ治まってきた。


人を殺して平気なわけがない。

「休みなさい」と諭したゴードンの言葉が改めて必要だったのだと実感する。


「ボク。すっごく、すっごく怖かった」


「うん」


リーチェと自分の体温で温められた布団の中が、優しい揺りかごの様に眠気を誘ってくる。


「──だから、ロイ。ありがとう」


「──うん」


その後、何を喋ったのかは思い出せない。

ただ、戦いのことをまるで知らない小鳥たちのさえずりを耳に、抱き合ったまま二人は深い夢の中へと落ちていった。

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