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戦いの傷跡

ガルフが倒された帝国軍は瓦解した。

万が一にも小隊長がやられることはないと思っていたのだろう。

ロイは、自分が人を殺めたことに微かに震えが走ったが、それ以上にリーチェとゴードンを守る意思が遥かに上回っていた。


グッと身体に力が湧き上がるのをロイは感じていた。

この感覚、ゴブリンを倒した時と同じレベルアップの感覚だ。

ロイ自身、レベル2で帝国兵を倒せるとは思っていない。だが、帝国兵を倒すことができたなら?

アイテムを使った攻撃なら、レベルに依存されず一定のダメージを与えられることは分かっていた。

そして、ゲームとは異なり、ちゃんと狙いを定めることができる。

密集地帯に投げた火炎瓶は、それだけで合計6人の兵士を倒すことができた。


「リーチェ!援護を!」


この感覚。レベルは4になっただろうか?

ゴブリンよりも兵士を倒すことが経験値が入ることは分かっていた。

確認する暇はない。指揮官が倒されたことで『士気向上』の恩恵も切れたはずだ。

この隙を狙って倒す!


「ハアアッ!!」


槍を繰り出すのは、殺すためじゃない。

傷つけることで、機動力を削ぐ!

レベル差で倒すには時間がかかる。相手を倒し切る前に、数的優位を活かされると殺されると分かっていた。


──ヒュンッ!ヒュンッ!


間髪入れずに屋根上からリーチェが矢を放つ。


「ガッ!」

「グッ!」


リーチェは鎧に覆われていない足元を集中的に狙った。


「小僧!よくも!」


一際体格の大きな男が槍を構えて走り寄ってきた。

見習い騎士ではない。

あれは本物の『騎士』だ。レベル10を超えると『見習い騎士』は自動で『騎士』へとクラスアップされる。

つまり、現状は6以上のレベル差があることになる。


「だけど、この距離なら!」


ロイはベストから袋を取り出すと、前方に叩きつけた。

袋は地面に落ちると、ボフッという音を立て、真っ白な煙を周囲に広がらせた。


アイテム『煙玉』。使うことで周囲の敵の命中率を著しく下げるものだが、至近距離でくらった敵はタダでは済まないはずだ。

ロイは距離を取ると、余っていた最後の火炎瓶に火を点け煙の中で槍を闇雲に突いている兵士に向かって投げ込んだ。


「熱い!熱いっ!!」


肉の焦げた臭いが鼻を突き、思わず吐き気がこみ上げてくる。


「副官を助けろ!」


周りの兵士が駆け寄って来る。

炎によって薄くなった煙を再度張るために、ロイは2個目の『煙玉』を投げ入れた。

巻き上がる白煙に周囲は再び混乱に包まれた。


「ぬううんっ!!」


振り返れば、ゴードンが立ち上がっていた。

ゴードンの隣にはリオナが立ち、簡単な治療をしたのか、ゴードンの身体に傷は残っていたが、刺さっていた矢は取り除かれていた。

鬼神のごとき荒々しさで、ゴードンは手当たり次第に兵士達を吹き飛ばした。


「父さんっ!」


リーチェが嬉しそうに声をあげる。

ロイもリーチェを見上げた。

──その時だ。リーチェの後ろで剣を振りかぶる兵士をロイは見つけた。


「リーチェ!飛び降りて!!」


リーチェはロイの言葉を瞬時に悟ったのか、弓を投げ捨てると屋根の上から飛び降りた。


「クソッ!間に合え!」


ロイも槍を捨てると、リーチェを救うべく走り出した。

屋根から地上までは8メートル程度。スライディングの様にリーチェの落下地点に身体を滑り込ませる。


「──グッ!」


手で受け止めて衝撃を殺したが、落下の速度も加わり思わず声が上がってしまう。


「ロイ!!」


リーチェが嬉しそうに腕の中で笑った。

ただ喜んではいられない。まだ帝国兵は混乱しながらも、次席の責任者を立てて再編しようとしていた。


「お前ら!ゴードンに続け!」

「ポスコス村は俺達の村だ!帝国なんかにやられるかよ!!」


湧き上がる男達の声にロイとリーチェは周りを見渡した。

見ると、手に各々がクワやナタ、農具を手にポスコス村の男達がスクラムを組むように帝国兵の前に立ちはだかった。

慌てる帝国兵達を前に、ゴードンはゆっくりと立ち向かうと斧を地面に突き立てた。


「帝国の諸君!お前達の隊長と副官は討たれた!!なお抵抗するというのなら、我々ポスコスの住人は、生命終わる瞬間まで戦うことを覚悟するがいい!!」


「オオオッ!!」


村の男衆が雄叫びをあげる。

その様子にすっかり戦意をなくしたのだろうか、帝国兵は隊長と副官、さらに生命を落とした仲間達の骸を連れ帰ることもなく敗走した。


「良かった⋯⋯」


ロイは身体に力が湧くのを感じた。

もしかすると、副官が火炎瓶によって絶命したことでレベルが上がったのだろう。しかし、精神的には擦り減っていた。


多くの家が燃えていた。

戦いには負けなかったが、村の復興には時間を要するであろう。

ロイは夜空に立ち昇る煙を見つめ、戦いの傷跡が早く癒えることを願うばかりだった。

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