村の防衛②
メドロワナ帝国の先遣部隊を任されていたガルフ小隊長は、逃げ惑う村人を見つめながら、あまり良い気はしていなかった。
こうも無抵抗な村民を蹂躙することは、彼の矜持に反していた。
しかし帝国の方針は、徹底的な力を見せつけることで得られる服従こそが、後々の反逆の意思を削ぐと考えている以上、彼はその方針に従わざるをえなかった。
メドロワナ帝国は、周辺諸国を平定しつつ領土を広げてきた強国だが、ここ10 年は小競り合いはあるものの、大規模な侵攻作戦などは行っていなかった。事の発端は数ヶ月前に、皇帝陛下が崩御したことが最大の要員だろう。
5人の後継者達は、誰もが次の皇帝になるためにそれぞれ策を画策していた。ガルフ自身、第2王子のメリダス王子の派閥に属している。
第1王子と違い、メリダス王子は好戦的だ。温厚な第1王子が後継者として有利と知るやいなや、武勲を立てて帝国の威厳を増そうと考えていた。
「ったく、にしてもわざわざロドブンドにちょっかいをかけるとはねぇ。メリダス王子も何を考えているんだか」
そう愚痴りたくなるのも当然だ。
先帝とロドブンド王国は比較的有効な関係を築いてきたのだ。
ロドブンドは小国だが、肥沃な土地と優秀な人材が集まることで、交易の拠点として成長してきた。そんなロドブンドと交易を持つことは有益と先帝は判断したのだ。
今回の進軍は、間違いなくロドブンド王国との関係を破滅させるだろう。
小隊規模でこの村を急襲したのも、ロドブンドから突角になっているこの村を帝国の足がかりとすることで、ロドブンドに対する前線基地とするためだ。そのためには、大規模の軍を編成して優秀なロドブンドの者に気づかれてはならなかった。
帝国に、ロドブンドの偵察が入り込んでいることは、ガルフも承知していた。まさか、その先鋒を拝命するとは。
「まったく、とんだ貧乏クジだぜ」
ため息混じりに、ガルフは馬を進めた。
ポスコス村は大した抵抗もなく、数人の大人が村を守る為に立ちはだかったが、訓練し装備も整っているメドロワナ帝国の正規兵には無意味だった。
「おーい、略奪はやめろよ!お前ら、帝国の威信に泥を塗るんじゃねぇぞ!!」
40を超えるガルフにとっても、戦は10年ぶりだ。
新兵などは、戦を経験したことなどあるはずがない。
領内の魔物退治を散発的に経験した程度だ。そんな彼らが興奮のまま、村を荒らすことは今後の戦にとっても良い経験ではない。
「ハッ!隊長、部下に再度徹底致します!」
一回り若い副官は敬礼すると、馬に鞭を入れると走り去った。
「まぁ、仕事とはいえ良い気はしないねぇ」
ガルフは火の手が上がる家から上がる熱気に頬を赤くさせながら、無精髭をさすった。そんな時だ、一人の兵士が足をもつれさせながらガルフの前に走り寄ってきた。
「ガルフ隊長!!大変です!1人、村の大男が凄い勢いで兵士達を倒していきます!もう5人が戦闘不能です!」
──ドンッ!
鈍い音と共に、数十メートル前方で兵士が雪玉のように吹っ飛ぶ姿をガルフは見た。大男の背丈は2メートルを超えるであろう。
肩や背には数本の矢が刺さり、小さくない刀傷がいくつもついていたが、男は勢いを失うどころか、手に持った斧を肩に担ぐと怒りに満ちた眼でガルフを睨んだ。
そう、リーチェの父。ゴードンだ。
「はっ、やれやれやっぱ貧乏クジだわ」
ガルフはそう言うと馬上で剣を抜いた。
「俺たちが正しいとは思わないけどよ。これでおまんま食ってるんだ。仕事はやんなきゃな」
小さく毒づくと、ガルフは馬にピシリと一鞭入れた。




