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03

王宮から放逐されて、一週間。リゼットを乗せた簡素な馬車は、雪山を越え、北の果てへと辿り着いた。毒が蔓延する森。


「肌が……ピリピリする……。」


森に一歩踏み出した瞬間、大気に混じる高濃度の魔毒がリゼットの肌を刺した。普通の人間なら数分と持たずに肺を焼かれ、命を落とすだろう。しかし、リゼットの毒無効は死ぬことは許されず、ただ致死量の毒に包まれる苦痛だけが延々と続いた。


ガサガサと枯れた木々が不気味に震える。雪に足を取られながら、リゼットは力なく彷徨った。


(魔物に食べられるのが先か、崖から飛び降りるのが先か……。)


いっそ、深い川があればいい。そうすれば、痛みを感じる間もなく眠れるかもしれない。虚ろな瞳で周囲を見渡した、その時。大きな黒い魔獣が姿を現した。


(あぁ、最後は魔物に食べられるのね。)


グルグルと鳴く魔獣、目を瞑り最後を待つ。しかしいつまで立っても痛みは襲ってこない。代わりに、ペロリと頬を舐められる。


「え……?」


目を開けると、魔獣が目の前にいた。食べようとする様子はなく、リゼットの襟元を大きな口でそっと咥え、背中に放り投げる。


「きゃぁっ」


驚く間もなく、魔獣は凄まじい速さで走りだした。


(あぁ……巣に持ち帰られて食べられるのね。)


激しい揺れに身を任せながら、リゼットの心は不思議と冷静だった。数分か、数時間か、たどり着いたのは、豪華な黒く輝く城だった。


「わんっ!」


短い吠え声とともに、リゼットは城の中庭へとドサリと下ろされた。恐る恐る顔を上げると、魔獣は巨大な尻尾をブンブンと振り回し、再びリゼットの頬を熱心にペロペロと舐めてくる。まるで、迷子を見つけて喜んでいる大型犬のようだった。


(北の最果ての地に城……。もしかしてここは北の辺境伯のお城かしら。)


北の最果てには噂があった。人を喰らう、冷酷非道な「呪われた怪物」が住む城。


「……フェンリルが人間を拾ってくるとは。毒の森で死に損なったか?」


背後から響いたのは、心まで凍りつかせるような低い、けれど美しい男の声だった。辺境伯アルヴィス・ブラックウェルだった。アルヴィスは顔や手に黒い傷跡があった、瞳は感情のない、凍りついた湖面のような静寂だった。


「お、お初にお目にかかります……リゼット・グランヴィルと申します。私は、王都より追放の身です。勝手に上がり込んで申し訳ございません。」


リゼットは震える声で挨拶し、ぎゅっと目を閉じた。人を喰らう、冷酷非道な伯爵の噂が本当なら、今ここで首を跳ねられるか、あの魔獣の餌にされるだろう。


「はぁ……毒の森はゴミ箱ではないのだが。勝手にしろ。死にたければ森へ戻れ。生きたければ、城の隅で泥でも啜っているがいい。」


アルヴィスは興味を失ったように背を向け、城内へと歩き出す。リゼットは呆然とした。殺されない。それどころか城に居てもいいと。関心が無いのかもしれない。


(……泥、でも……。アンゼリエッタに飲まされた毒に比べれば、きっとマシだわ。)

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