表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寄せては返す波のように〜妻は目の前から消えては何度もまた現れる〜  作者: ことりおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/38

27 海に引き戻す


 章司さんと会う日が来た。

 無事に待ち合わせて合流すると、俺たちはサミダレさんを探し始めた。

 まずは商店街。

 章司さんは俺が送った茉尋の描いたイラストを見ながら探していた。

 サミダレさんは人の姿をしている。視る力が強くない章司さんでもきっと、視ることができるだろう。俺はそれに賭けていた。


「どうですか?」

「んー…サミダレさんらしき人はいないかな」


 やっぱり無謀なのか…?


 俺が視えればよかったのに…。


 だったらこんなまどろっこしいことをせずに、自分ひとりでも探すことができたのに…。

 なんで俺には視ることができないんだよ。じいちゃんは視えていたのに。なんで俺にはそれが遺伝しなかったんだよ。

 俺はそんなことを思いながら商店街を歩いていた。


「サミダレさん。出て来て…お願い…」


 俺はそう呟いた。

 しばらくの間は章司さんと一緒に商店街を往復していた。


「あ…いたかも」


 章司さんは呟くようにそう言った。


「サミダレさんですか?どこ?どこにいます?」

「こっち」


 章司さんの後をついて歩いていく。

しばらく歩くと、章司さんは足を止めた。


「あの、サミダレさんですか?」


 やっぱり俺の目には何もない空間にむかって、章司さんは話しかけていた。


「あー、よかった。探してたんですよ、あなたのことを。この方を知っていますよね?……ええ、そうです。茉尋さんの旦那さんの千明くんです。……そうそう。それでね、千明くんがサミダレさんに聞きたいことがあって…」


 そんな感じで話し始めた。


「千明くん、サミダレさんが聞いてくれるって」


 続いて章司さんはそう言った。

 俺は何もない空間に向かって話しだした。


「あの…茉尋についてなんですが…」


 聞きたいことがたくさんあったはずなのに、いざ聞けるとなると、俺は動揺して頭の中が真っ白になってしまった。

 それでもなんとか頭をフル回転させ質問をした。


「茉尋はもう亡くなってますよね?それは海にいる妖に聞きました。本当に茉尋はもう…」


 ここまで言うと、俺は胸が苦しくなった。やっぱりはっきりと言葉にすると辛くなる。

 目の前が徐々に涙で滲んでいく。


「…サミダレさんは頷いてるよ…」


 そうか…やっぱりチャッピーが教えてくれたことは本当のことだったんだ。


「サミダレさんが知っていることを教えて欲しいんです。今茉尋に起こっていることを教えてください」


 俺がそう聞くと、サミダレさんは何か話し始めたようで、章司さんは相槌を打っていた。

 知りたい、知りたくない。聞きたい、聞きたくない。


 怖い。


 聞くのが怖い。知るのが怖い。


 怖い怖い怖い…。


 知りたくない。聞きたくない。

 もしも解決策が見つかってしまったのなら、それを知ってしまったのなら俺はそうしなければいけない。

 そんなのは最初からわかっていた。だからずっと怖かった。今までずっと、戦々恐々とした日々を送ってきた。

 茉尋が消えてしまうこと、もう二度と現れないかもしれないという恐怖感。

 なんとかしてやらないとという焦燥感。

 日々色々な感情が俺の中で渦巻いていた。


 怖い。聞きたくない。

 いや、そんなのダメだ。こんなの続けていたらだめだ。


「千明くん、大丈夫かい?顔が真っ青だよ?」


 気がついたら手には汗を握り、額には冷や汗が流れていた。

 章司さんの言葉で正気に戻ると、俺は「はい」とだけ答えた。


「今から話すこと、よく聞いてね」


 章司さんのその言葉に、俺は頷いてる返事をした。


「海にいる強い力を持った妖に、茉尋さんの魂はガッチリと握られているらしい。でも茉尋さんは千明くんのところに戻りたがってる」


 やっぱり…そうだったんだ…。

あの本の通りだ。田宮さんが書いた本…。


 “このまま会えなくなるのなら咲子の魂を私にくれ”


 今茉尋の身に、それと同じようなことが起きてるんだ。


「茉尋さんの戻りたいという強い想いと、その妖が持ってる強い力によって、どうやら茉尋さんは実体化しているみたい。これはあくまでサミダレさんの見解なんだそうだが」


 茉尋が…帰りたがってる…。

 ここで俺はとうとう泣き出してしまった。そんな俺に章司さんは、そっとポケットティッシュを差し出してくれた。


「まだ続きがあるけど、今聞くかい?それとも少し落ち着いてからの方がいい?」

「…っ…すみませんっ…少し待ってもらってもいいですか?」

「いいよ」


 俺がそう言うと、章司さんはまたサミダレさんと話し始めた。

 俺は立っていられなくてその場にしゃがんだ。


 ごめん。ごめん茉尋。

戻りたいよな。帰って来たいんだよな。お前あの家の縁側と庭、お気に入りだもんな。

心地のいい日はいつも、あの縁側でゴロゴロしてたもんな。そうだよな…帰って来たいよな…。


 ごめん茉尋。


 ごめん…ごめん……。


 俺はまた、自分の情けなさを痛感していた。

 何が“幻想でも偽物でもいい”だよ。いいわけないだろそんなの。茉尋が帰りたがってるっていうのによっ。


 クソッ…


 今までも何度もそう思ったことがあった。

でも茉尋が戻ってくるたびに、ずっとこれが続けばいいと願っていた。

 茉尋が俺のそばにいてくれるならそれでいいって…なんでもいいからそばにいてくれたらそれでいいって思ってた。


 あー…もう…なんで俺はこんなに優柔不断なんだ。


 茉尋のために行動しろ。

 茉尋のために動き出せ。

 

 茉尋を…ちゃんと安心して眠らせてやんないと…。


 俺は章司さんから受け取ったポケットティッシュで涙を拭くと立ち上がった。


「待ってもらってすみませんでした。続きを聞かせてください」

「わかった。それじゃあ続きを話すね。どうやらね、その妖は実体化した茉尋さんを海に引き戻そうとしているらしいんだ」


 海に引き戻そうと…


 だからか。だから茉尋は海に入りたがるんだ。

今までも何回もあった。元々茉尋は海に入るのが好きだ。


「今までにそんなことはなかったかい?」

「ありました。何度も…」

「それは海の妖が茉尋さんの魂を呼び戻そうとしているらしいからなんだ。今は茉尋さん、落ち着いてるんじゃない?」

「ええ。この数ヶ月間、茉尋は消えていません」


 そうだ。茉尋は最近ずっと俺と一緒にいる。消えていない。


「茉尋さんはサミダレさんからもらった石?を持ち歩いている?」

「はい…はいっ。そうですっ。茉尋はその石をネックレスにして毎日身につけています。」

「それが茉尋さんを守ってくれているみたいだよ。サミダレさんが茉尋さんのためにその石を調達してきたみたいなんだ」


 わざわざサミダレさんが…


「サミダレさんは…その…茉尋がどこにいるかとか、こんなことがもう続かないようにするにはどうしたらいいのかとか、わかりますか?」


 俺がそう聞くと、章司さんはまたサミダレさんと話しだした。


「…それはわからないみたい。ただ茉尋さんが海深くにいること、海の妖が茉尋さんを連れ戻そうと必死になっていること…サミダレさんはそのくらいのことしかわからないみたい」


 それからまた少し話した後、俺たちは解散した。

 

 “海の妖が茉尋さんを連れ戻そうと必死になっている…”


 茉尋がこっちに戻ってくるたびに、海の妖は茉尋を海に連れ戻そうとしているのか…。

 

 結局解決策はわからなかった。


 さっきは心の中であんなに茉尋に謝っていたというのに、解決策はないとわかるとホッとしてしまう自分がいた。


 茉尋はまだ俺のそばにいる。

 しかもサミダレさんがくれたお守りが効いている。

 まだまだ茉尋と一緒にいれるかもしれない。

 俺はそれがすごく嬉しかった。


 家に帰ると茉尋が好きなデミグラスソースのオムライスの準備をした。


「ただいまあー」

「おかえり。お疲れさん」


 茉尋が帰って来た。

 嬉しい。


「今日はオムライスだぞー」

「やったあっ」

「早く手ぇ洗ってこい。それとも風呂上がってからにするか?」

「んー、もう食べるうっ」

「わかった。じゃあ準備する」


 …“海の妖が茉尋さんを連れ戻そうと必死になっている”…この言葉が、俺の頭の中にこびりついて離れない。


 また茉尋は…消えてしまうのだろうか…。


 だから違うだろっ。


 なんとかしてやれよっ。


「あ、そういえばさあーーー」


 “茉尋さんの戻りたいという強い想いと…”


 確かサミダレさんはこう言ってたんだよな。

“戻りたい”…か…。俺も茉尋に戻って来て欲しい。


「千明くん?」


 でもどうやって?あれから2年が経とうとしている。茉尋はもう、骨だけになっているのか?

もし見つかったとして、俺はそんな茉尋と対面することになるのか?


「っ…うっ…」


 俺はそう考えると吐きそうになり、口元を手で押さえ、急いでトイレへと向かった。

 そんな俺を心配して、茉尋はついて来た。


「千明くんっ?なに?いきなりどうしたの?具合悪いの?」

「…大丈夫」

「大丈夫そうに見えないよ」


 茉尋は俺の背中をさすってくれた。


「風邪?どう具合悪いの?熱はありそう?」


 違うんだよ茉尋。


「大丈夫だから。そういうんじゃない。心配かけて悪かった」

「吐いたんだよ?大丈夫なわけないじゃん」

「昼に食い過ぎただけ」

「本当?」


 なんとか茉尋を納得させると立ち上がり、口をすすぐと茉尋を抱きしめた。こうやって茉尋に触れられるのもあと少しかもしれない。

 解決策はまだ見つかってないけど、わかったことも増えてきた。このままいけばきっと、いずれ解決するはずだ。

 今度は海にいる妖が茉尋の魂を離してくれる方法を探さないと…


「千明くん?苦しいよ」


 気づかない間に、俺の腕に力が入っていたようだ。


「ごめん」

「別にいいけどさ、なんかあった?」

「大丈夫。腹減ってるよな?すぐに作るから」

「気持ち悪いんじゃないの?私が作るから千明くんは座ってて。てか千明くん食べられるの?」

「吐いたからもう大丈夫。スッキリした。俺が作るから茉尋はゆっくりしてて」


 魂を離す方法…か。

俺ひとりではやっぱり無理だな。何か方法はないか田宮さんに聞いてみるか。

 もし田宮さんがその方法を知っていたら…


 知っていたら…


 今度は本当に茉尋とお別れだ。


 だったら…その日は俺が決めたい。笑顔の茉尋とお別れしたい。泣いていたり、具合が悪くなっている茉尋の姿が最後だなんて嫌だ。

 方法がわかったら茉尋を海に連れて行って、それで好きだってたくさん伝えて、抱きしめて、そらから手を繋いで2人で海に入って…そのあとに茉尋の魂を解放してもらう…なんてことはできないだろうか。

 

 …そんな都合のいいことできるわけないか。


 はあ…


 きっつ…


 覚悟しろ。ちゃんと覚悟しろ…俺。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ