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寄せては返す波のように〜妻は目の前から消えては何度もまた現れる〜  作者: ことり おと


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12/38

12 決心


 3度目に茉尋が消えてしまってから1ヶ月が経った。

 仕事が終わり、いつものように海へと立ち寄った。


 茉尋…もう1ヶ月経ったぞ…いい加減戻ってこないか?


 俺はそんなことを思いながらぼんやりと海を眺めていた。そうしながら数年前のことを思い出していた。


「茉尋はさ、将来したいこととかもう決まってんの?」

「んー…それがさ、まだなんだよね」


 卒業後の茉尋がどうするのか知りたくてそう聞いた。それは茉尋と付き合って1年が経ったころだった。茉尋はまだちゃんと決まっていないようだった。


「千明くんは地元に戻るって言ってたよね?」


 茉尋はそう聞いてきた。

 俺は元々最初からそのつもりだった。地元で就職したいと思っていたから、茉尋にもそう伝えていた。


「茉尋も卒業したら俺の地元に来ない?」


 俺はそう話を切り出してから、自分の地元について色々と話した。

 自然が多いこと、妖がたくさんいると言われていること、俺の家は古いけど庭と縁側があること。俺は卒業したらその家に戻ろうと思っていることも伝えた。

 

 その家には今は誰も住んでいない。

 俺が高校生になったと同時に、母さんは親父の転職先の土地について行き、俺はばあちゃんと2人で暮らしていた。そんなばあちゃんも俺が1人暮らしをするタイミングで、親父たちのところへ行った。

 そんな話を茉尋にすると、茉尋が目を輝かせながらこう聞いてきた。


「縁側があるの?妖がたくさんいるの?」

「あるよ。あと俺には視えないから本当に“たくさん”いるかどうかはわからないけど、昔からそう言われてるよ?」


 どうやら茉尋は縁側に憧れがあったようで、わくわくとした様子だった。

俺はその反応を見て嬉しくなり思わず言ってしまった。


「茉尋が卒業したら結婚しない?もちろん今すぐに返事はいらない。卒業までに考えてくれないかな?」


 俺がそう言うと、茉尋は驚いたあとでこう言った。


「そんなふうに言ってくれる千明くんの気が変わらないように、私頑張らないとだな」

「…それって、前向きに捉えてもいいの?」

「ははっ。まだ色々気が早いって。でもそう思ってくれたのはすごく嬉しい。だからちゃんと千明くんと向き合って付き合っていきます」


 そのあと茉尋は「まさか大学の中庭でプロポーズされるだなんて思ってもみなかったよ」と、笑いながら言っていた。


 休みの日には、実際に俺が生まれ育った家を見せるために茉尋を連れて行った。茉尋は「縁側最高っ。お庭も最高っ」と言いながら楽しそうにしていた。


 それから俺は半年後にも茉尋にプロポーズをし、その3ヶ月後にも同じことを言った。それから気がつけばしょっちゅう言うようになっていた。


 告白の時もそうだったけど、どうやら俺は色々と諦めの悪くてしつこい男のようだ。ちゃんと自分でそう思ってたけど、結婚するなら茉尋がよかったから、そうやって何度もプロポーズをした。


「あははっ。そんなに何度も言わなくてもわかったからっ」


 しまいにはこんなふうに笑ってあしらわれるようになってしまった。

 でも俺が卒業をする時に茉尋はこう言ってくれた。


「卒業おめでとう。私も無事に卒業と就活ができたら、千明くんとあの家で一緒に過ごしたいな」

「…それって…」

「卒業と就職ができたらの話ね」


 茉尋はちゃんと前向きに考えてくれているようだった。

 

 でも、茉尋の就職先はなかなか決まらなかった。俺の地元の会社は全て落ちてしまい、受かったのは今茉尋が住んでるところから1時間の所。俺の地元からだと2時間以上は通勤にかかってしまう。

 しかもほとんどの新入社員は最初は地方勤務になるらしかった。


「ねえ茉尋。本当にその仕事がしたい?」


 俺がそう聞くと茉尋は首を横に振った。


「だったらさ、卒業したらもう俺のところに来いよ。こっちでアルバイトでも見つければいいだろ?別に正社員じゃなくても」

「…いいの…かな…」

「何がいけないんだよ。俺嫌だよ、遠距離なんて。ただでさえこの1年間、俺は地元に戻って中距離だったのに、これ以上離れるのは無理」


 茉尋は何か考え込んでいた。


「茉尋。俺と結婚しよう?」

「うん…」

「なんだよ。俺と結婚したくないのかよ」

「ううん。したいよ?」

「だったらこっちに来い。きっと楽しいぞ?」

「…うん…そうだねっ。わかった。そうする」


 色気もムードもない、茉尋を説得するようなプロポーズになってしまったけど、返事を聞いた瞬間ものすごく嬉しくて俺は再度確認をした。


「本当にっ?」

「はい。不束者ですがよろしくお願いします。私も遠距離とか耐えられないや」


 少し照れくさそうにしながらそう言う茉尋のことが、とてもかわいく見えた。


 …。


 …帰らないと…。

 

 俺は立ち上がり、自分についた砂を払うと家へと向かった。

 

「もう遅いっ。どこほっつき歩いてたの?」


 茉尋…


「私鍵なくて家に入れなかったんだからね。スマホも家に忘れちゃったみたいだし」

「…」

「千明くん?」

「…おかえり」


 茉尋だ…茉尋が帰ってきた。


 俺はすぐに茉尋を抱きしめた。

 


 茉尋が帰ってきて、また俺の日常は元に戻った。

 家に帰れば茉尋が先に帰っていて、たまに俺の苦手なピーマンの料理が出てくる。

 休みになれば出かけたり散歩をして過ごし、雨が降れば家でゆっくりと過ごす。

 茉尋は家に来た妖とたまに遊び、楽しそうにしている。

 2人で縁側に座ると夕方から酒を飲んだりもした。

 シンちゃんや琥太郎を誘い、庭でバーベキューもしたし、2人でチャッピーに会いにも行った。


 そうやって過ごして1ヶ月。

 ある日家に帰っても茉尋はいなかった。

今日はバイトだったはず。いつもは茉尋の方が帰りが早い。残業…?いや、今までそんなのなかったよな?

 俺は心配になり茉尋のスマホに電話をかけてみた。すると、ソファでブーブーと無機質な音が聞こえてきた。忘れていったのか?

 俺はすぐに茉尋の職場へと向かった。

 …閉まってる…電気もついていない。

 次にシンちゃん家にも行った。ドアを開けたシンちゃんに向かってこう聞いた。


「シンちゃん。茉尋来てない?家に帰ってもいないんだよあいつ」


 それを聞いたシンちゃんは辛そうな顔をした。


「千明…大丈夫か?前にもこんなことがあったけど、ひとりで抱え込まないで辛かったらちゃんと俺を頼れ」


 一体なにを言って…


「別に何も抱えてないよ。茉尋を探してるだけ」

「…きっと…そのうちにちゃんと見つかるから」


 そのうちって…帰ってこないと心配するだろ普通。もう夜だし、大人といえど茉尋は女なんだから。何かの事件にでも巻き込まれたら大変だ。


 …いや違う…


 あー…


 そういうことか…。

 会話の食い違いに合点がいった。


「ごめんシンちゃん。ちょっと茉尋の夢を見たから色々と混乱しちゃったみたい」

「それならいいんだけど…気をしっかり待てよ」


 この反応…

 

 茉尋はきっと消えてしまったんだ。茉尋はひとりで海に行って消えたんだ…。

だからシンちゃんはああいうふうに言ったんだ。

まるで茉尋がもうこの世にいないかのように…。


 俺はまた海へと向かって砂浜に腰を下ろした。

 

 茉尋…お前はまた海に触れて消えてしまったんだろ?

 あんなにダメだって言ったのに…。


 なのにどうして…。


 やっぱり茉尋を海へと呼び寄せる力が強いのだろうか。海が茉尋を引き込もうとしてるのだろうか。


 もう…このままじゃいけないような気がする。


 ちゃんと調べないと。


 でもどうやって?


 とりあえず妖が関係していることも考え、家に帰るとそれについて調べてみることにした。スマホを手に取り色々と検索をしてみる。


 “海に触れると消える”

 “妖 海に触れると消える”

 “死人 蘇る”

 “死人 蘇る 海に触れると消える”

 “死人 見える 実体化”


 色々なワードを組み合わせて検索をしてみた。


 でも…


 どれも俺が欲しい情報はなかった。

 

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