第3話:転生する魔族たち
カートル王国には巨大な地下迷宮がある。
あまりにも広大過ぎて、冒険者ギルドもその全てを調査しきれていないダンジョン。
その最深奥に古代遺跡がある事を、人々は未だ知らずにいた。
「…どういう事…?」
乳白色の大きな卵のような球体から生まれ出た女性が呆然とする。
ウエーブのかかった紫の髪、同じ色の瞳、豊満なバストを持つ妖艶な雰囲気の美女の名はロミュラ。
左右の側頭部にねじれた角があり、背中にはコウモリのような被膜のある翼がはえていた。
魔王が誕生する前に転生し、王の誕生と存命に必要なエネルギーを集める役割を担う側近である。
見回す場所は、現代の人類は知らぬ古代の建造物の中。
今では神話にのみ名を残す、神ルシエルの神力により保存された遺跡。
現存する人類の技術とは異なる文明に造られたそこは、石柱の1つ1つに魔力を秘めた古代文字が刻まれ、継ぎ目のない1枚の岩盤のような床に古代語の魔法陣が描かれた大広間だ。
本来ならば彼女が生まれた卵の近くに多くの卵と、ひときわ大きな存在感を放つ卵がある筈。
しかし今あるのは、彼女よりも格下の魔族が宿る卵のみ。
「魔王様の卵が無い…何故?!」
勇者に斃されるとおよそ1000年後に転生してくる魔王。
その卵はロミュラが誕生してすぐ出現するものなのだが、今はそれが無かった。
周囲の卵が割れて、次々に魔族たちが産まれてくる。
彼等も辺りを見回し、異変に気付いた。
「ロミュラ様、魔王様はいずこに?」
産まれた魔族の青年が聞く。
「もしや、もうお産まれになったのですか?」
「我等のエネルギー供給が必要な筈ですが…」
他の者たちも困惑していた。
「無いのよ…」
「えっ?」
ロミュラの言葉に、魔族たちは更に困惑する。
「魔王様の卵が、どこにも無い。前世で斃されたならば、ここに卵が出現する筈なのに」
ロミュラは広間中央の台座に歩み寄りつつ言う。
台座の上にもその周囲にも、割れた殻は見当たらない。
それは、魔王が先に孵化した訳ではない事を示していた。
今まで、こんな事は無かった。
ロミュラたちが卵から出てくる時には台座に卵があり、地上の生命体から吸い取るエネルギーを注いで魔王の誕生に至るのが常である。
「もしや、前世で我らが魔王様の誕生前に全滅した事で、何か異変が起きたのでしょうか?」
魔族の1人が問いかける。
「異変………そうね、前世の魔王様は力が満ちる前に産まれて、虚弱体質だったわ。成長するには人魚の心臓を差し上げるのが一番だけど、奪えなくてフォンセの提案で人間たちを存在力変換したのよ」
答えたロミュラはふと、今ここにいない眷属の存在を思い出した。
(フォンセがいない…?)
それは、前世のロミュラが仲間に引き入れた闇魔法使いの男・フォンセ。
人間であったが、魔王の血印を与えられ、魔族となった者。
前世のロミュラが見た最後の記憶では、彼女と魔王を転移魔法で逃がし、勇者たちと単独で闘おうとしていた。
その闘いで彼が死んだならば、魔王の眷属としてここに転生してくる筈。
残念ながらロミュラは逃がしてもらった直後、追って来た黒髪の勇者に斃されたので結末を知らない。
そして別の場所に逃がされた魔王のその後も、彼女は知らない。
ロミュラは考え、ぽつりと呟く。
「もしかしたら、魔王様とフォンセは生きているのかも…」
「フォンセとは何者ですか?」
その呟きに、魔族の1人がまた問う。
「貴方たちが前世で全滅した後に眷属となった者よ」
答えながら、ロミュラは前世の記憶を頼りに魔王とフォンセの存在エネルギーを探る。
ロミュラは生命体の存在エネルギーを奪う力と、それを探知する特殊魔法を持っていた。
これまで多くの生命をエネルギーに変換し、魔王に注いできた。
存在力強奪
生物が存在する為に必要なエネルギーを奪う魔法。
奪われた生物は完全消滅する。
魔王の側近ロミュラのみ使える特殊魔法。
存在力探知
生物が存在する為に必要なエネルギーを探知する魔法。
対象が気配を消していると探知出来ない。
主に味方の居場所を知る為のもので、敵の場合は抵抗されて探知出来ない事もある。
魔王の側近ロミュラのみ使える特殊魔法。
(2人とも生きてる…!)
大陸全土に探知をかけて、遂にロミュラは居場所を突き止めた。
「魔王様はプルミエ王国、フォンセは聖王国トワに居るわ。存在力が弱いから仮死状態かもしれない」
「!!!!!」
彼女の発言に、一同が驚き騒めく。
「何故止めを刺していないのか………まさか、転生を阻止する為?」
更なる呟きに、動揺が広がる。
ロミュラの推測は当たっていた。
魔王とフォンセは、転生しないように仮死状態で封印されていた。




