第2話:転移者の子孫たち
「エリシオ様、力は控えめに、そ~っとですぞ」
言いながら、ローブ姿の老人が両手を上下させてジェスチャーする。
「わ、分かった」
緊張しつつ、金髪の子供が片手に意識を集中し始める。
その手首には、水晶に似た透明な石が嵌め込まれた銀のブレスレットが装着されていた。
まだ5~6歳くらいの男の子、エメラルドグリーンの澄んだ瞳をもつ顔立ちは愛らしく整っており、色白のキメ細かい肌や上質な布地を使った衣服から高貴な出自と思われる。
子供のフルネームはエリシオ・トリス・プルミエといい、惑星アーシアに現存する最も古い王国プルミエの第三王子である。
その手を向ける先にあるのは、まだ火のついていない1本の蝋燭。
目的は、それに火を点けるという初歩の魔法。
「小発火」
小声で唱える。
直後、キャンプファイヤーでもそんなに火力いらんだろ?ってくらいの炎が出現。
蝋燭は瞬時に燃え尽きた。
「あああ~、やっちゃった」
「相変わらずねぇ」
魔法の出力加減が足りず失敗し落ち込むエリシオの背後から、笑い声が聞こえる。
振り返ったそこには、セーラー服姿の黒髪の美少女が立っていた。
「姉様、そんなに笑わないでよ」
「はいはい」
軽く抗議するエリシオの頭を撫でるのはソレミア・アン・プルミエ、第一王女でエリシオの姉でもある。
「ほら、そろそろ着替えて。遅刻するわよ」
「はぁい」
着替える為に城内へ走ってゆく弟を見送った後、ソレミアはローブ姿の老人の方を見た。
老人はまだ使われていない蝋燭を1つ箱から取り出して眺めつつ、何か思案している様子。
「魔法の出力、もっと抑えられる魔道具を作ってもらった方が良さそうね」
「そうですな。現存する魔道具では下げきれないようです」
「SETA商会に発注しておいて」
「かしこまりました」
老人が左手で空中を撫でるような仕草をすると、そこにホログラフ状のパネルと文字が現れる。
To. SETA商会 御中
第三王子の魔力制御装置を特注でお願いします。
王子の魔力レベル:∞
※祖先である勇者と同等もしくはそれ以上と思われます。
From. 王宮魔法教師クロード・カムラッド
パネルには日本語でそう書かれていた。
プルミエ王国は古来より日本から転移者を迎えており、1000年ほど前に転移してきた日本人・瀬田史郎によって日本の文化が多く取り入れられていた。
会話や文書のやりとりは言語理解スキルで足りるが、日本語を学びたいと望む者が多くなり、語学の中に日本語が追加されている。
現在ではほとんどの国民が日本語の読み書きが出来るほどになっており、クロードもその1人であった。
SETA商会は日本人経営者の店なので、顧客は日本語で発注する事が多い。
プルミエ王都の商店街、様々な店が並ぶ中にSETA商会もある。
店内の商品チェックをしていた獣人の少女が、ピコッと片耳を動かした。
その左手にはマイクロチップ型の魔道具が埋め込まれており、それが受信したメッセージは脳波で操作して閲覧する事が出来る。
「店長、クロード様からオーダーが入りました。そちらに転送しますね」
メッセージチェックをした後、店員の少女は店主に告げる。
キジトラの猫耳とシッポ、猫のような虹彩のマスカットグリーンの瞳を持つ女の子の名はテン・コー、本業は冒険者だがこの店の通信係も兼ねていた。
「ふむ。エリシオ様用の魔道具か」
脳波通信で転送されたメッセージを読み、店主が棚から分厚い本を取り出して思案する。
ビジネススーツが格好良くキマるスラリとした長身、黒髪黒い瞳の30代イケメンの名はコーイチ・ワタナベ。
986年前の祖先の代から王都のSETA商会本店の店主を務める日系アーシア人で、飲食系の店舗に移った先代店主(父)からこの店を引き継いで1年ほどになる。
「また魔力が上がったみたいですね」
メッセージに添付されている動画、今朝のエリシオの魔法出力レッスンの様子を見て、テンが猫耳をピコピコ動かしながら言う。
「制御技術も上がってはいるけど、魔力の成長に追い付いてないね」
コーイチも言う。
「社長に転送しておいてくれ。動画を見れば必要性能は分る筈だから」
「了解しました」
日本にある株式会社SETAの社屋、その研究室で1人の青年が新商品の動作テストを見ている。
明るい栗色の髪と紅茶色の瞳、色白で彫りの深い顔立ちから純血の日本人ではなく混血と分る。
ふと、彼は何かに気付いたように片眉を動かした。
(ふむ… 祖先以上かもしれない魔力か…)
転送されてきたメッセージを読み取る彼の手にもテンやコーイチと同じマイクロチップ型魔道具が埋め込まれている。
青年の名は瀬田拓郎、瀬田史郎の子孫である。
拓郎自身も先祖から受け継いだ転移装置でアーシアに転移しており、女神の加護で知力・魔力・発想力を大幅に引き上げてもらっていた。
「社長、会長からシエム国の防衛装置点検を見学に来るようにとのメッセージがきていますが、技術士を向かわせますか?」
動作テストに加わっていたスタッフの1人が問いかける。
「父さんから? そうだね、見学希望者を募っておいてくれ」
拓郎の指示で社内告知が流され、見学希望者が集められた。




