第4話:トワの聖女と魔王の眷属
大陸の端に突き出た半島に位置する、聖王国トワ。
この世界に現存する国々の中で、プルミエの次に古い歴史ある国。
遠い昔、創造神アーシアによって創られた勇者と聖女が降り立った場所に建国された。
そこでは、朝日は海から昇り、夕日は海に沈む。
海は命の源とされ、太陽は輪廻する魂の源とされている。
トワの大神殿、その裏庭の一角に白く丸い建造物がある。
周囲にはトワの国花イジェの木が植えられており、白い5枚の花弁をもつ花が咲き誇る。
建造物の名は Pearl cradle 、真珠の揺り籠という意味を持つ封印用の大型魔道具。
986年前、1人の魔族がそこに封印された。
魔族の名はフォンセ。
元は人間であった者。
魔王から血印を与えられ、眷属化した者。
闇属性に特化した大魔導士で、魔族が繁栄する世を望む男。
真珠の揺り籠は彼の封印用に造られた魔道具で、転移者の大賢者シロウの作品。
封印は大脳(思考と行動を制御する脳の部位)の機能を停止させ、視床下部と脳幹(生命維持に必要な機能を制御している脳の部位)の機能のみ稼働している植物状態を維持していた。
「そろそろ現れる頃だと思っていたわ」
偵察の為に忍び込んだ使い魔は、そんな声を聞いた直後に消滅した。
声の主は1人の乙女、艶やかな黄金の長い髪と紺碧の空のような鮮やかな青い瞳を持つ。
トワの聖女・セイラ。
肉体の寿命は普通の人間と同じだが、死ぬとすぐ新たな肉体を持って転生する神秘の乙女。
死期が近付くとその死と来世を予知夢で知り、それを告げられた法王が予言された子を養子として神殿に迎え入れ、修道女たちに育てられる。
当代の彼女は生まれて18年ほど。
若々しさと大人の魅力が混ざり合う美女に育っていた。
「勇者じゃなくても、これくらいは出来るのよ」
塵と消えた魔物が居た辺りを一瞥して、彼女は言う。
セイラは他の聖女よりも強力な神聖力を持っていた。
一般的な聖女は祈りによって生き物を癒し、瘴気を清めて災害や疫病を抑える力を持つ者。
セイラはそれに加えて、魔王や魔族や魔物に甚大なダメージを与える浄化の力を持つ。
神聖魔法:悪魔消滅。
魔族の出現に備えて、セイラが独自に組み上げた魔法の術式である。
「始まったみたいだね」
声と共に、セイラの隣に1頭の青い竜が現れた。
竜といってもそれほど大きくはなく、馬くらいのサイズで2足歩行出来るスリムな体型。
「シアン、また神竜の間を離れたりして…いいの?」
まるで友人に対するような気安さで、セイラは竜に話しかけた。
「だって暇だもの。当代の聖剣は主と一緒に転生しちゃってるし」
神竜シアンが苦笑して答える。
「転生する聖剣なんて前代未聞ね」
セイラも苦笑した。
宝石のように美しい青色の鱗を持つ竜の名はシアン。
勇者に聖剣を授ける【神竜の間】を管理する役目を担う。
986年前に勇者セイルに聖剣を授け、名をもらった神竜だった。
当時は生まれたばかりで基本サイズがリスくらいと小さかったが、今ではすっかり成長して馬サイズが基本になっている。
セイラとは初代からの仲で、友人のような立場にあった。
「あ~…そういや、アイツもそろそろ動き出すかも」
ふと何か嫌なものを思い出したように、シアンが呟く。
「そうね、今まで大人しかったけど、魔族が動き出せば力を貸すと思うわ」
それが何か理解し、セイラも言う。
「そのまま大人しく…しないだろうなぁ…」
「動き出す前に斃しに行く?」
「ちょっ…本気?!」
セイラの聖女らしからぬ先制攻撃発言に、シアンは目を丸くする。
「私はもう勇者だけを戦わせるのは嫌なの」
強気な聖女は、その青い瞳でシアンをまっすぐ見詰めて言った。




