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 そう、琴音は気づいてしまったのです。朱里に至っては詳しい日数はわからないものの、薙斗は平日の一昨日と昨日、そして今日を含め三日間は学校に行っていません。


教師というものは生徒のため、這ってでも学校に行かねばならない職業だと認識していた琴音は、授業がなくなったことをいいことに、今頃クラスは学級崩壊してしまっているのではと想像をしていました。


「学校には、怪我や年齢で隊員を引退している者もいる。俺たちが任務に当たっている間は、そういう人たちが穴埋めをしているから心配ない。生徒には俺たちのことについては出張だと言ってある」


「ああ、安心した。そうだよね、現役の隊員だけで教師やってたら任務が忙しくて授業なんてできないもんね」


 しかし、朱里はなにが気に食わないのか、苦虫を噛み潰したかのように顔をしかめました。


「逆に、現役の隊員がわたしと副隊長しかいないので、任務が重なると二人揃って出張で抜けることが度々あるんです。そのためか、事情を知らない生徒たちは、わたしと副隊長がこの出張期間中に密会してるんじゃないかって噂するんですよ。だから、任務の後の出勤が一番憂鬱なんです」


 確かに、何度も二人揃って出勤が重なれば、年頃の生徒がそう思うのも無理はありません。現に、任務ではあるものの、今こうして会っているのですから。


 琴音はにやにやしながら薙斗を見つめました。薙斗も苦々しく顔をしかめています。


「そりゃ俺だって同じだ。授業がやりづらくて敵わん」


「嘘です! わたしに比べたら寺井先生は怖くて噂できないって生徒が言ってましたもん!」


「んなこと俺が知るか」


 琴音は、先生も色々大変なんだなと他人事のように思いつつ、この二人いっそ本当に付き合ったらいいのにとも思います。しかし、それをわざわざ口に出すほど愚かではありませんでした。


「わたし、好きな人いるんですよ。なのに、その人にこんな噂聞かれたらどうしてくれるんですか」


「朱里さんの好きな人って誰ですか!?」


 初めての女子トークに琴音は、身を乗り出して問い掛けます。


「副隊長がよく知ってる人ですよ」


「も、もしかして時雨さんとか?」


「隊長は恐れ多いし、なんか怖くて近寄りがたいです。あ、今の隊長には内緒ですよ?」


「おい、お前らいい加減にしろよ。これからなにをしに行くかわかってんのか。もっと緊張感を持て」


 薙斗の鬱陶しげな声が耳につきます。が、言っていることはもっともです。琴音は不謹慎な態度を取ってしまったことを後悔しました。しかし、琴音と同じく注意を受けた朱里は、頬をぷくりと膨らませており反省の色は見られません。


「せっかく和ませようと思ったのに。副隊長は空気が読めませんね」


「馬鹿か。和んでどうする」


「副隊長はいっつもそうやってむすっとしていて、人生楽しいですか」


「お前に俺の人生をどうこう言われる筋合いはない」


「そんな性格だから友達少ないんですよ」


「お前、もうここで降りろ!」


 やっぱり友達少ないんだ……。


 琴音は心の内で思いつつ、薙斗の威圧をもろともせずここまで言い返せる朱里の偉大さに敬服するのでした。


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