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「作戦はこうです。僕はこれから盃の見舞いという口実で病院へ向かいます。本部に連絡はできませんでしたが、他者との連絡は可能でしたので、信頼できる者に伝達を頼みました。
本部にうまく伝達されていれば、本部護衛は多くの警備を病院に派遣してくるでしょう。琴ちゃんはその間、車で薙斗くんと一緒に本部を目指してください。警備が病院の方に集中して、本部の方は少なからず手薄になっているはずです。
本部へ着いたら、地下五階の執務室を目指してください。エレベーターを下りて、直ぐ目の前に本部護衛の駐在場所があります。そこを通り過ぎて、一つ目の角を右に曲がって真っ直ぐ行けば執務室です。恐らく、彼女はそこにいます。
――いいですか、琴ちゃん。途中、薙斗くんが捕まったとしても、君は構わず行きなさい。僕は君に着いて行くことができませんが、うまくいくことを祈っていますよ」
琴音は時雨に言われたことを思い出しながら、車についている時計に目をやりました。午後十二時三十三分。死刑執行まであと、二時間二十七分。
高速道路を走る車内の後部座席で、琴音は時計に目をやる度に、死刑執行まであと何分、と心の中で呟くのでした。
「平日のお昼なだけあって、道も空いてますね! これなら余裕で間に合いそう」
薙斗が運転する隣で、場違いなほど明るい口調でこう言ったのは、琴音も何度か見たことのある女でした。しかし、琴音が見たのは敵地の旅館や、敵の拠点内という場所で、敵の隊服を着た女です。
そのため、共存陰陽隊の隊服を着て、平然と屋敷にこの女がやって来たのを見た時は、酷く驚いたのでした。
「驚きましたよ。潜入任務が終了して、ようやく休日が取れたと思ったら、時雨さんから電話がかかってくるなんて」
「あの、朱里さん、ごめんなさい。巻き込んじゃって」
「ああ、気にしないでください。どうせ暇だったし。本部の警備を強行突破するって聞いた時は、さすがに気が狂ったんじゃないかって思いましたけど、理由を聞いたら断れないですよ。わたしだって、あなたのことを騙してたようなものですから」
女――朱里は共存陰陽隊主戦力部隊の隠密担当という、特殊な部隊の隊長なのでした。隠密担当は、時雨直属の少数で結成された部隊であり、主に密偵や敵拠点での撹乱工作を任務としています。
朱里は制圧作戦の数日前から龍壬が率いる部隊に潜入し、内部情報を時雨に送っていたのでした。
「でも、強行突破したら処罰は免れないんですよね。薙斗も、ごめん」
「謝るな。今回の本部のやり方は、俺も気に食わなかった。だから協力する。それだけだ」
「副隊長ったら照れちゃって。――でもまあ、ほんと、今回の事はわたしも納得できません。……潜入調査ついでに、琴音さんの入隊実技試験を抜き打ちで行ったわたしが言うことじゃないんですけどね」
後半、ぼそりと朱里がこぼした台詞に、琴音は眉を潜めます。
「入隊実技試験?」
「お前、昨日の制圧作戦で俺と行動してる時に、こいつから声を掛けられただろ」
「ああ、そういえば! ゆいこさんに化けてる時に!」
「あれ、実は緊急事態に陥った時の対応力を測ってたんです。すみませんでした。――でも、咄嗟に出たあの嘘……! 笑いを堪えるのが大変でしたよ。任務中に隠れてデートって!」
「言わないでください!」
朱里はあの時の琴音のことを思い出し、肩をふるふると震わせて笑っていました。琴音は穴があったら入りたいと、真っ赤な顔を両手で隠します。
「まあ、いささか挙動不審ではありましたけど、それ以外はよかったので合格にしておきました。……入隊したら、やっぱり高校にも入学することになるんですかね、寺井先生?」
「俺は知らん。まだ入隊するかも決まったわけじゃないだろう」
「そうか、薙斗、高校の先生なんだっけ」
ここ数日、色々なことが起きたせいですっかり忘れていました。
「因みに、わたしも緑旺高校で国語教師をやってます。副隊長とは今でこそ上司と部下の関係ですけど、実は同期なんですよ」
なるほど、だから仲がいいのか。と、琴音は朱里の言葉に納得します。しかし、一つ気になることがありました。
「あの、二人とも教師なんですよね」
「そうです」
「平日に数学教師と国語教師が学校にいなくていいものなんでしょうか」




