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そんな琴音の態度を見た乾は、再び琴音を諭そうと口を開きかけました。が、そんなどこまでも平行線なやりとりに飽きたらしい静が口を挟みます。
「あーもう、ほんっとに頑固ね。いいじゃない、行きたいって言ってるんだから、行かせてやれば」
「頑固とかそういう問題じゃねえだろうが。そんな軽い気持ちで行かせられるとでも……」
「じゃあ、どうすんの? 特殊部隊だけで龍壬さんのこと、助けられるわけ? 現実問題、そんなこと不可能よね? 主戦力部隊に協力してもらっても数が足りないくらいなんだから。それともなに、あなた、大切な娘を遺して隊員たち道連れにむざむざ死にに行くわけ?」
静は思う存分まくしたてると、最後にこの場の緊張感を払拭するような大きな欠伸をしました。
琴音は静が乾を「あなた」と呼んだ時、乾が静に反論できないことを知っていました。案の定、乾は唸り声をあげています。
「決着はついたようですね」
と、時雨がそんな乾の背に声を掛けました。乾は時雨を親の仇のようにじろりと睨みつけます。
「お前、謀ったな」
「おや、なんのことでしょう」
乾と約十年同じ屋根の下で暮らしてきた時雨も、乾の弱点はきちんと理解していました。立場は中立のように見せていた静ですが、その心はやはり妖です。十中八九、琴音につくと読んだ時雨は、敢えて静もこの場に留まらせたのでした。
静と正論に挟まれた乾は、なにも言い返すことができません。琴音は恐る恐る乾に訊ねます。
「行っても、いい?」
「……勝手にしろ」
琴音はぱあっと表情を明るくすると、静に抱きついて頬ずりしました。静はそれを、鬱陶しげな表情で拒絶します。
「その代り! 絶対に無茶はするな。撃退しようと考えるな。迷わず逃げろ。わかったな?」
「わかった!」
「ほんとにわかってんだろうな」
「うん!」
龍壬を助けに行ける。そんな喜びに浮かれている琴音のそばで、時雨は薙斗に指示を出します。
「午後五時、緑旺高校にて集会を行います。主戦力部隊と特殊部隊に召集を掛けておいてください」
軍議後、朝昼兼用食を摂った琴音は、龍壬に想いを馳せながら集会の時を待ちました。その時間は、さながら嵐の前の静けさのようで、やや不気味にも思えます。
昨夜、妖術を使って戦いに加担はしたものの、自分自身が戦地に立つことは初めてのことである琴音は、あまりの緊張から落ち着きなく自室でぺらぺらと忙しなく専門書のページをめくっていました。
しかし、心は戦地での自分の行動と龍壬のことばかりに囚われ、その動作はなんの意味も成してはいませんでした。
「入るぞ」
と、突然、そんな掛け声と共に廊下から薙斗が入ってきました。あまりに普通に入って来るので、ごろ寝をしながら専門書をめくっていた琴音は、薙斗を見て一瞬固まります。薙斗の蔑むような目を見た琴音は、慌てた様子で乱れた服や髪を整えて正座をしました。
「ちょ、ちょっと、レディの部屋にそんなずかずか入って来ないでくれる!?」
「ごろ寝してた奴がレディだと。馬鹿狸、冗談は大概にしろよ」
「酷い!」
琴音が頬を膨らませて大声を出すと、薙斗は急に琴音の口を塞ぎ、自分の顔を寄せました。静はおらず、薙斗と二人きりという状況もあり、その至近距離に思わずどぎまぎとしてしまいます。
「静かにしろ」
と、薙斗は顎を時雨の部屋の方へしゃくりました。どうやら、時雨には内密で用事があるようです。琴音は無言で首を縦に振りました。それを確認すると、薙斗はそっと琴音の口から手を外します。
「で、なんの用」
琴音は声を潜めつつ、あからさまに不機嫌そうな口調で薙斗に問いました。
「お前、自分がやるべきこと、わかってんだろうな」
「戦場でやること? 地下一階から敵さん引き連れて、地下三階に下ればいいんでしょ?」
「で、そこからお前はどうすんだ」
「え? そこから?」
首を傾げる琴音の反応を見た薙斗は、心底呆れたように額に手の平を当てて深いため息をつきます。時雨が隣の部屋にいなければ、「この馬鹿狸!」と怒鳴られていたことでしょう。
それほど、薙斗の態度からは苛立ちが感じられました。しかし琴音は、怒鳴られる理由がわかりません。腕を組み、首を傾げ続けます。




