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「地下三階に誘導してから、お前はどうするつもりだ。まさか、地下三階からまた上がって来ようとは思ってねえだろうな。敵も馬鹿じゃない。恐らく、北と南にある階段から降りて挟み撃ちでお前を捕まえにかかって来るだろう。そうなったら突破は不可能だ」


 薙斗の言葉を聞いた途端、琴音の顔からはさっと血の気が引いていきました。琴音は引き連れて逃げ回ることばかりに気を取られて、その後の自分の脱出まで考えていなかったのです。


「ちょ、ちょっと待って。薙斗たち、助けてくれないの?」


「もちろん助けには行く。だが、俺たちが地下一階、二階と制圧をしている間、確実にお前の方が早く地下三階に辿り着くはずだろう。俺たちが地下三階に辿り着くまでの間、お前はどうやって自分の身を守るつもりなんだ」


「そっか。あたしが敵さんたちを引き連れてる間に突入するんだもんね」


 時雨から引き連れて逃げ回ってくれということのみ伝えられていた琴音は、最大の課題を突きつけられたことですっかり自信を無くしてしまいました。


「時雨は今回の制圧作戦で、お前がどう行動するか試している。だから敢えてこのことは言わなかったんだ」


「そんなあ。あの、地下三階からの逃げ道は……」


「北と南にある階段か中央に設置されているエレベーターだが、階段はさっき言ったとおり挟み撃ちにされた場合、突破はほぼ不可能だ。中央のエレベーターは地下に行ってから自動で地上に戻る仕組みになっている。普通に考えて、エレベーターを待っている間に捕まるな」


 絶望している琴音に、薙斗は更に追い討ちを掛けます。


「悪いが、お前が捕まって人質にされたとしても俺たちは拠点制圧と龍壬さん確保の任を続行する。そのつもりでいろ」


「この薄情もん!」


 このままじゃ、ただの捨て駒だ。琴音は頭を抱え込んで時雨の部屋の方を向きます。


 きっと時雨さんは、あたしがどんな選択をするのか試してる。


 琴音は下唇を噛みしめると、薙斗に向き合いました。


「薙斗、お願いがあるの」


「なんだ」


「まだ少し時間あるでしょ。近くに百円ショップとかない?」


「あるが、なんの用だ」


「ちょっと欲しい物があるの」


「わかった」


 薙斗は本気になった琴音を見て、なにかを察したようでした。嫌味を言う事もなく、琴音の要求を素直に聞き入れます。琴音は外出をする支度を始めました。


「いいのか。今ならまだ、引き返せるぞ」


「いいの。覚悟ならできてるから。――それに、あたし龍壬さんに直接会って、どうしても伝えたいことがあるんだ」


「伝えたいこと?」


「内緒」


 琴音はにやっと含みのある笑みを薙斗に向けます。薙斗は肩を竦めると、「外にいる」とだけ言って部屋から出て行きました。その背を見て、琴音は思います。


 ――龍壬さん、あたしね、龍壬さんのおかげで、家族以外で心から頼れる人たちに出会えたんだよ。


 琴音は時雨が自分を試しているのは、琴音の力に少なからず期待をしているからなのではないかと思っていました。そして、口には決して出さないまでも、それを案じて伝えてくれる薙斗。


そんなみんなを、健康面から支えてくれる涼香。琴音はこの人たちと一緒にいることで、本当の自分らしさというものを見つけられたような気がしていました。


 この人たちとだったら、きっと龍壬さんを助けられる。


 琴音は肩までの亜麻色の髪を一つに結わき、バッグを持って勢いよく立ち上がると颯爽と自室を出て行きました。


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