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「あら、揃ってなんの話?」
と、掃除機を持った涼香が居間に戻って来ました。
「いい所に来ましたね、涼香。今から本部の人間が琴ちゃんを訪ねにここへ来るので、茶の支度を頼みます」
「……あんたたち、事前連絡って言葉をいい加減覚えてくれないかしら。それより、どうして本部の人間なんかが琴音ちゃんを訪ねに来るのよ」
「入隊の件についてでしょう」
途端、玄関のベルが忙しなく鳴り響きました。
「え? 早くない?」
「前々から連絡取ってたんだろ。乾さんがいなくなった時に来るように」
時雨は薙斗の台詞を聞き、意味深な笑みを浮かべて玄関へと向かって行きました。どうやら、頻繁に連絡取っていたのは女ではなかったようです。
「本部の人間を待たせるな。客室で待ってろ」
「あ、はい」
薙斗は軍人のような厳しい表情を浮かべていました。琴音のため、本部護衛と殴り合ったとはいえ、未だ本部への忠義はあるようです。
団子の皿などを片づけて客室へ向かうと、客室の前で時雨と顔に見覚えのある男と鉢合わせました。
「こ、こんにちは」
龍壬がいる死刑場まで案内をしてくれた日以来、久し振りに見たその男は、相変わらず全体的に黒い服装を身に纏っていました。とにかく挨拶をしなければと思い軽く会釈をすると、男は無言で会釈を返しました。
「もう存じているとは思いますが、こちらは化け狸の琴音です」
「輝夜様の秘書をしている深影と申します」
時雨が琴音を紹介すると、深影は低い声でそう言って手を差し出しました。琴音はおずおずと手を伸ばして、深影の手を握ります。
「よろしくお願いします」
「客室はこちらです。直ぐに涼香が茶を淹れて来ますから、掛けてお待ちください」
時雨が客室の扉を開け、深影と琴音に座るよう促します。深影はソファへと移動しながら、こう言いました。
「構うな。直ぐに終わ――」
と突然、深影の身体が大きく傾いたかと思うと、そのまま頭を机にぶつけ、床に倒れ込みました。絨毯に足を引っ掛けて盛大に転倒したのです。しかし、深影は琴音が駆け寄るよりも早く何事もなかったようにすっと立ち上がり、
「……直ぐに終わる」
と言い直しました。表情は不自然なほど平静を保っていましたが、机にぶつけた額は少し赤くなっていました。
「あの、大丈夫ですか? 結構凄い音してましたけど」
「ああ、深影さんは転ぶのが特技でいらっしゃるのですよね。先ほども玄関の段差に躓いて転倒されていましたから」
いやいやいや、どんなに丁寧に言っていても、つまりドジっ子ってことでしょ。どうして共存陰陽隊にはこんなに変わった人間たちしかいないのだろう。琴音はやはり何事もなかったかのようにソファに腰を下ろす深影を見て、頭を抱えたくなりました。
「それでは、ごゆっくり」
時雨は愛想笑いを浮かべて客室から出て行きました。琴音はとりあえず深影の向かいに腰を下ろします。
時雨が出て行ってから、空気が一瞬にして緊迫したように感じました。なにか話さなければと思えば思うほど、なにから話したらいいのかわからなくなりました。
深影が話しに来たのは入隊についてでしょうが、それをいきなり自分から切り出していいものなのか考えあぐねます。
「申し訳ありませんでした」
と、相手の予想外な台詞に琴音は思わず首を傾げました。
「龍壬三佐のこと、本当に申し訳なく思っております。あなたにもう一度お会いしたら、詫びようと決めておりました」
琴音は深影が罪の意識を抱いていた事実に戸惑いを隠せずにいました。そのため、ついこのようなことを口走ってしまいます。
「あの、気にしないでください。深影さんのせいじゃありませんから」
「もう少し早くお伺いしたかったのですが、乾二佐がいるとこうしてあなたと話すことは難しいと時雨将補に言われ、今日まで伸びてしまいました。申し訳ありません」
共存陰陽隊次期総指揮官である輝夜の秘書であるなら、相当な地位に就いていることでしょう。そんな深影に低姿勢な態度を取られてしまった琴音は、逆に恐縮してしまうのでした。




