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「……早速ですが、あなたにお聞きしておきたいことがあります」
「は、はい」
琴音は突然、話題が変わったことに対して違和感を覚えつつ、身構えます。
「あなたに、入隊する意思はありますか」
深影の単刀直入な質問を聞くと、琴音は深く息を吸って真っ直ぐ目を見て答えました。
「あります」
この一週間、迷いに迷った結果でした。龍壬に言われたとおり、自分の道は自分で決めようと決心したのです。琴音は続けてこう言いました。
「けれど、条件があります」
「……なんでしょう」
「座敷童子の静を、妖捕獲令の対象外とすることです。彼女はこのまま、パパと同じ家に住まわせてください」
きっと乾も静も、互いが離れることを望まないはず。それに、運を操れるとはいえ静のあの小さな身体で、戦力になるとはとても思えませんでした。
「構いません。あなたが入隊を拒否した場合、あの座敷童子を入隊させるつもりでした。あなたが拒否しないのであれば、その必要はないようですね」
慇懃無礼。琴音の頭にはそんな四字熟語が浮かびました。深影は琴音が入隊を拒否した場合、静を再び人質として脅そうとしていたのです。所詮、いくら腰が低くても本部の人間に変わりはないのでした。
なにかを手にしたければ、どんな手でも使う。外道め。と、琴音は心の中で毒づきました。
「契約書にサインを。そうすれば、入隊試験免除となり全ての手続きは完了致します」
深影は琴音の殺気を素知らぬ顔で流し、黒のバッグからファイルを取り出して中のA4サイズの用紙を琴音の目の前に差し出してきました。そして、その用紙の隣に黒のボールペンまで丁寧に用意してくれます。
「……入隊試験、免除でいいんですか」
あなたを吹き飛ばす術なら今ここで実践してご覧に入れますが。という台詞を必死に飲み込みます。
「先の旅館地下での活躍は、薙斗士長と朱里一士の報告書で輝夜様も存じております。入隊するには、申し分ない実力を持っていると判断したようです」
旅館地下での活躍とは、龍壬を連れ戻すために敵拠点がある旅館の地下に侵入した時のことを指しているようでした。琴音は以前、朱里があの制圧作戦で実技試験を内密で行ったと話していたことを思い出します。
「失礼します」
と、盆に湯気の立つ湯呑を乗せた涼香と時雨が部屋に入って来ました。
「お茶をお持ち致しました」
「入隊は、決まったようですね」
琴音は会話を聞きながら、契約書の内容を軽く目を通してサインをします。
「おや、よく読まずにサインして大丈夫ですか」
「読みづらくて……」
ずらずらと第何条どうたらこうたらと決まりばかりが書かれている文面は、読者の読む気力を一気に削ぐ力を持っていました。
「一番重要なのは、一部例外を除いて死ぬまで脱退はできないということかしら」
涼香は湯呑をそれぞれの前に置いて、契約書の書面を覗き込みました。
「一部例外?」
「総指揮官が脱退を認めた者です」
深影はそう言いながら琴音がサインした契約書に手を伸ばし、ファイルに収めると湯呑に口を付けました。
「では、うるさい人が帰る前にお暇します」
「鬼の居ぬ間になんとやらですね」
時雨は楽しげに笑っていました。そのうるさい人と鬼というのはパパの事か。なんとも酷い言われようで、琴音は乾が少し可哀相になります。
深影は特に話しを続けることはなく、直ぐに立ち上がりました。それを見送るため、時雨もついて行こうとします。
「玄関までの見送りは結構。……それより、近いうちに必ず本部へ来い」
深影は冷徹にそう言い放ちました。時雨は「やれやれ」と息をつきながら、玄関へと向かう深影の後ろ姿を見送ります。




