第47話 秋の終わりの寄り添い方
朝の見回りで、美帆はいつもと違う光景に気づいた。
窓辺の籠の中で、いつもは別々の場所で寝ているはずの二匹が、体を寄せ合って丸くなっている。
「紬さん、この二匹、今日は一緒に寝てます」
「本当ですね。寒くなってきたからかもしれません」
紬はそう言って、記録帳に短くメモを書き加えた。
「寒いと、一緒に寝るようになるんですか」
「必ずというわけではありません。気の合う相手がいればの話です」
美帆は店の中を見て回りながら、他の猫たちの寝床も確かめてみた。いつも一匹で寝ている猫は、今日も一匹で丸まっている。逆に、これまで距離のあった二匹が、今朝は同じ毛布の上で、少しだけ間を空けて眠っていた。
「この組み合わせは、初めて見ました」
「暖かい場所が限られると、普段は素っ気ない子同士でも、同じ寝床を分け合うことがあります。ただ、体をくっつけて眠るのは、もともと気を許している相手だけです。暖を取るための距離と、気持ちの距離は、また別のものなので」
「暑いときは、逆に離れていたのに」
「そうです。夏は少しでも涼しい場所を探して、それぞれ散らばっていました。今は、暖かさを分け合える相手を探しているんだと思います」
美帆は毛布を一枚多く用意し、隅の方に敷いてみた。しばらくすると、そこにも新しい組み合わせの猫が集まってきた。
「場所を作ると、集まってくるんですね」
「暖かい場所には、自然と集まります。無理に組ませなくても、いい場所さえあれば、あとは猫たちが選びます」
ハンだけは、毛布の輪には加わらず、少し離れた棚の上で一匹丸まっていた。
「ハンは寒くないんでしょうか」
「棚の上は日が当たる時間が長いんです。ハンは、暖の取り方が他の子と少し違うだけです」
「みんなと同じ場所にいなくても、いいんですね」
「暖まる方法は一つではありません。集まることも、日なたを選ぶことも、どちらも同じ目的です」
昼になっても、朝寄り添っていた二匹はまだ一緒にいた。片方が毛づくろいを始めると、もう片方もつられるように体を寄せる。
「この二匹、今日だけの組み合わせでしょうか」
「分かりません。明日も同じかもしれませんし、今日限りかもしれません」
「記録には、どう書くんですか」
「今日、この二匹が一緒にいた、とだけ書きます。それ以上のことは、また明日確かめてから決めます」
「意味づけは、あとからでいいんですね」
「先に意味を決めてしまうと、次に見るときに、その意味に合わせて見てしまいます。まずは、あった通りに書くだけです」
美帆は自分のノートにも、今朝気づいた組み合わせを書き留めた。まだ紬のように、意味づけまではできない。それでも、気づいたことをそのまま書くだけで、何かが少しだけ積み重なっていくような気がした。字を書く手が、思っていたより冷えていることに、美帆は今更のように気づいた。
夕方、窓の外が薄暗くなる頃には、店の中の毛布という毛布に、それぞれ違う組み合わせの猫が丸まっていた。同じ寒さの中でも、選ばれる相手は一匹ずつ違う。
「今日だけでも、こんなに色々な組み合わせがあるんですね」
「明日はまた変わるかもしれません。それも含めて、見ていくしかありません」
美帆はノートを閉じ、窓の外の暗くなっていく空を眺めた。今日書き留めた組み合わせが、明日も同じかどうか、それを確かめるのが、少しだけ楽しみになっていた。
棚の上のハンは、相変わらず一匹で丸まったままだった。それでも、その体は毛布の中の猫たちと同じくらい、ゆったりと緩んで見えた。
「ハンも、今日はよく眠ってますね」
「ええ。あの場所が、今日のあの子にとって、一番落ち着く場所だったんだと思います」
美帆は明かりを一つ落として、店の中を静かにした。それぞれ違う場所で丸くなった猫たちの息づかいだけが、暗くなった部屋にゆっくりと満ちていった。




