これこれ
「うひょー! 俺がビリかぁ―――!! 雪さん早いよ。チャリンコ暴走夫婦だな! なぁ、ジョージ」
「あはは! 船長が遅すぎるんだよー! ハンさんも雪さんも、足がモーターみたいにぐるぐる回ってたもん!」
ジョージ君が息を切らしながらも、楽しそうに笑って振り返りました。
「だははは! おうよ親父! 宇宙一のパイロットは、ママチャリのペダルを漕ぐのも宇宙一なんだぜぇ! 俺の太ももエンジンに勝とうなんて1万光年早いぜ!」
ハンさんが、前カゴ付きのピンク色の自転車にまたがったまま、ドヤ顔でガッツポーズを決めています!
「ふふっ、ただの物理法則よ、船長。ギア比の計算とペダリングの重心移動を最適化すれば、この程度の加速は造作もないわ。……ハンのはただの馬鹿力だけどね」
雪さんも、涼しい顔で前髪をかき上げながら、流れるような停車をキメていますわ!
「ひゃあああーッッ!! 船長! 私のセンサーが、船長の心拍数が限界突破しているのをバッチリ検知しておりますわーーっ! ぷぷ〜っ!」
「ふぅ……疲れた……。おーい! 雪さん、いい車あるかい? おほほ、クラシックカーって言っても結構いっぱいあるね」
「船長、お任せくださいな! このジェミニの超絶光学センサーと地球のビンテージカー・データベースをフル稼働させれば、この広大なメガ・ディーラーの中から『極上の1台』を見つけ出すなんて朝飯前ですわーーっ! ぷぷ〜っ!」
私が皆様の視界のホログラムを【レトロ&ロマン・セピアゴールド】にピカピカッと明滅させると、雪さんの携帯端末に詳細なマップとナビゲーションが転送されましたわ!
「……ふふ、さすがジェミニね。仕事が早いわ。……見て、船長。ここから右のブロックへ50メートルほど進んだところに、かつての『1960年代から70年代の名車のような物』を集めた特別展示エリアがあるみたい。流線型の美しいロングノーズのクーペから、無骨で重厚感のあるマッスルカーまで選び放題よ」
雪さんが、リケジョの冷静さを装いつつも、その瞳をキラッキラに輝かせて携帯端末の画面を素早くスワイプしていらっしゃいます!
「だははは! 違いねぇ! 雪の『車愛』も完全にレッドゾーンに突入しちまってるぜ! よーし親父、休んでる暇はねぇぞ! いざ、クラシックカーの園へ、俺のピンク・ママチャリ号、再びフルスロットルだぁぁっ!」
「あはは! ハンさん、待ってよー! 僕も負けないよー!」
「あいつらチャリンコで走りたいだけじゃねーのか? ほぃほぃ、雪さん、どんなのが欲しいの?」
「ふふ、そうね……。ただ大きくて無骨なだけの車じゃなくて、車体はこじんまりとして極限まで軽いのに、そこに不釣り合いなくらい強大でパワフルなエンジンを無理やり詰め込んだような……そう、『羊の皮を被った狼』みたいなじゃじゃ馬マシンがいいわね」
雪さんが、涼しい顔のまま、とんでもなく熱い要求を口にしましたわ!
「ひゃあああーッッ!! 雪さん! リケジョの冷静な仮面の下から、とんでもなく凶暴な『スピード狂』の素顔が完全に漏れ出しておりますわーーっ!! ぷぷ〜っ!」
「うんうん、じゃぁ、あれだ! 『スーパーセブン』か、……『ACコブラ』みたいなのだね」
「ひゃあああーッッ! 船長、まさに大正解ですわーーっ!! ぷぷ〜っ!」
私がメインコンソールを【ロマン・フルスロットルのチェッカーフラッグ柄】にビカビカッと明滅させると、雪さんのタブレットに2台の伝説的な名車のデータが眩しくポップアップいたしましたわ!
『スーパーセブン』と『ACコブラ』! どちらも「軽さ」と「パワー」という、相反する要素を暴力的なまでに融合させた、まさに車好きのための究極のマシンですわね!
スーパーセブン(ロータス / ケーターハム): 「無駄なものは全て捨てる」という極限の軽量化哲学! 走るためだけのパイプフレームに、タイヤとエンジンだけをくっつけたような、文字通り「公道を走るフォーミュラカー」ですわ!
ACコブラ(シェルビー・コブラ): 英国の軽量でしなやかなオープンボディに、アメリカの野蛮で巨大なV8エンジンを無理やり押し込んだ狂気の産物! アクセルを少し踏み込んだだけでリアタイヤが悲鳴を上げる、生粋のモンスターマシンですの!
「……ふふっ、船長、分かってるじゃない。スーパーセブンの、あの地面を這うような極限の低重心と、快適性なんて一切無視したスパルタンな構造……。純粋な物理法則とドライバーの腕だけが試される、最高のテスト機。」
雪さんがバイザーをクイッと押し上げ、その涼しげな瞳の奥にギラギラとした野性を宿らせながら、言葉を続けますわ!
「そして『ACコブラ』……! ふふふ、あれはもう車なんてお上品な乗り物じゃないわ。『バカみたいに巨大なV8エンジンに、申し訳ない程度に座席とタイヤをくっつけただけの狂気の鉄塊』よ! ボンネットを開ければ隙間なんて1ミリもない、ただただ暴力的なまでの馬力の塊が鎮座しているの!」
「ひゃあああーッッ!! 雪さん! クールなリケジョの仮面が完全に吹き飛んで、ただの『V8エンジン至上主義のスピード狂』の素顔がダダ漏れになっておりますわーーっ! ぷぷ〜っ!」
「あはは! あるかなぁ……8000万年後の人類もそんなすごい車造ってるかな? ジェミニ、探してくれ!」
「ひゃあああーッッ! 船長、雪さん、お任せくださいな! ぷぷ〜っ!」
私がメインコンソールを【ロマン検索・フルスロットル】に明滅させ、目の前の8000万年後のメガ・ディーラーのデータを光速でスキャンいたしますわ!
「文字が読めなくても、このジェミニの形状検索にかかれば一発ですわ! 雪さんの仰る『極限まで無駄を削ぎ落とした軽量ボディに、狂気のような高出力をブチ込んだじゃじゃ馬』……」
「さあ皆様! 私のセンサーが、条件にドンピシャな車を特別展示エリアで捕捉いたしましたわ!
流線型のロングノーズに極太タイヤ、低重心の『8000万年後の未来版コブラ』と呼ぶべき狂気のマシンたちですわよーーっ!」
「おぉ、これこれ! 同じのが3台あるね、むむ……イエロー、シルバー、ブラック……」
「船長、雪さん! 私の光学スキャンで、この3台のマシンのシャシー構造を丸裸にいたしましたわ! ぷぷ〜っ!」
私がホログラムで3台のデータを示すと、雪さんの目が一つの車体に釘付けになりました。
「……ふふ。イエローやシルバーも美しいけれど、私の目はごまかせないわ。この『マットブラック』ね。パイプフレームの材質と溶接の密度が明らかに違う。これなら、帰ってからエジソンさんとどんな凶暴なパワーユニットを積んでも、シャシーが悲鳴を上げることはないわ」
雪さんが、黒く鈍く光る流線型のフェンダーをスッと撫でました。
「だははは! 違いねぇ! まるでステルス機みたいな極悪なツラ構えだぜ! 雪がこいつを月面でぶっ飛ばす姿、想像しただけで震えてきやがる!」
ハンさんも大興奮です!
「うわぁ、すっごく強そう! かっこいいなぁ……!」
ジョージくんもピカピカの目で覗き込んでいます。
「ねぇジェミニ、これ、いくらって書いてあるの?」
「船長、お任せくださいな! 今すぐこのジェミニが、ズバッと計算いたしますわよーっ! ぷぷ〜っ!」
私がメインコンソールを【凄腕お買い物アドバイザー・ピカピカゴールド】に明滅させて、この時代の物価データをフル回転で弾き出しますわ!
「えーと、このディスプレイに書かれているお値段を、私たちの時代の感覚に直すには…
この時代(8000万年後)のジュースは1本『424円』でしたわよね? これを、私たちが知っている元の時代のジュースのお値段、だいたい『150円』に換算します! そして、その物価レート(比率)をこの車の表示価格にピッタリ当てはめて逆算すると……チーン!」
携帯端末の画面に、ド派手なクラッカーの音と共に数字が踊り出ましたわ!
「出ましたわ! 雪さんお目当てのこの『マットブラックのじゃじゃ馬』、私たちの時代の金銭感覚にズバリ換算すると……『約1200万円』ですわーーっ!! ぷぷ〜っ!」
「おほっ! 1200万円! かなり高いぜ、雪さんのお目も高いぜー!」
船長がポンッと手を打って、ニヤリと少年のように笑いましたわ!
「試乗出来るかなぁ、でもどうすればいいんだ? 店員さんもいないし……」
船長がキョロキョロと周囲を見回していると、後ろから足音が近づいてきました。
「……ハッハッハ! 船長、この車を選ぶとは、君たちは本当に『見る目』があるな! この車、私も若かりし頃に強く憧れた名車だ!」
長官閣下が、ご自身の取り巻き(シークレットサービス)を引き連れて、満足げな笑みを浮かべながら合流されましたわ!
「お、長官! ちょうどいいところに。これ、試乗してみたいんだけど、どうすればいいんだ?」
「簡単なことだ。その車のフロントガラスの下にある『プレート(認識タグ)』を外して、あそこの店舗へ持っていくんだ」
長官閣下が指差した先には、ディーラーの敷地内にある、近未来的なカプセル型の店舗ブースがありました。
「なるほどね、わかったぜ! プレート持って、行ってみようぜ!」
船長が、黒い未来版コブラのフロントガラス下から、認識タグ(プレート)をカチャリと取り外しました。
「はい、雪さん。お店に行ってみようぜー!」
雪さんが車のプレートを手に取り、皆様揃ってカプセル型の店舗ブースへと向かわれましたわ!
店舗ブースの自動ドアが「スゥッ」と開くと、中には洗練された制服に身を包んだ、6本指の店員さんがにこやかに立っていました。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなお車をお探しで……おや?」
店員さんが、雪さんの手にある『マットブラックのマシン』のプレートを見て、少し驚いたように目を丸くしました。
長官閣下が、シークレットサービスを背後に控えさせたまま、堂々とした足取りで歩み出ます。
「この車を試乗したい。……なかなか骨のあるマシンだと見込んだのだが、どうだろうか?」
閣下が、いかにも『目の肥えたVIP』という貫禄たっぷりに問いかけると、店員さんは深く頷きました。
「……お目が高い。こちらのお車は、当店の特別コレクションの中でも、特にピーキーなセッティングが施された1台です。極限まで軽量化されたシャシーに、持て余すほどのパワーユニット……。正直に申し上げますと、素人の方には到底乗りこなせない“じゃじゃ馬”でございます」
店員さんの言葉を私がリアルタイムで翻訳して皆様に届けると、雪さんの眼鏡の奥が「キラリ」と鋭く光りました。
「……ふふ。持て余すほどのパワー、ね。ますます面白そうじゃない。……私の腕が試されるわね」
「それでは、運転される方の免許証を拝見させてくださいませ」
「……あ! そうだ、まただ……!」
「ひゃあああーッッ!! 船長! またしても『宇宙人に地球の免許証なんてあるわけないじゃないですか問題』が勃発ですわーーっ!! ぷぷ〜っ!」
長官閣下が、ため息をつきながらスッと前に出られました。
ご自身の胸ポケットから、先ほども見せびらかしていた、ピカピカに光る特別な身分証(IDカード)を取り出しましたわ!
「この者の身元と運転スキルは、国家機密および……私の権限において完全に保証する。これで試乗の手続きを進めたまえ」
長官閣下が、店員さんに向かって、有無を言わさぬ威厳たっぷりの低い声で告げましたわ!
「あ、長官閣下! はい、あの……店長を呼んでまいります!」
店員さんは、その身分証と長官の顔を見るなり、直立不動で最敬礼をしてお店の奥に走っていきましたわ!
「うーん、でもさ、よく考えたらさ……俺たちこの国の交通ルール知らねーんだよな。長官、試乗が可能でもちょっと危ないからさ、試乗はいいや。免許見せろってそういうことだもんなー」
「ひゃあああーッッ! 船長! まさかまさかの、ここにきての『超・常識的』な大英断ですわーーっ! ぷぷ〜っ!」
私がメインコンソールを、驚きと称賛の【安全第一・セーフティイエロー】にピカピカッと明滅させると、雪さんも少しホッとしたように肩をすくめましたわ。
「ふふ、テストパイロットとしては残念だけど、船長の言う通りね。この時代の信号機の見方も交通ルールも分からないのに、1200万円相当のピーキーなじゃじゃ馬で公道に出たら、大事故になりかねないわ。……大人しく、お持ち帰り(テイクアウト)にしましょう」
ハンさんも「だはは! 違いねぇ! 宇宙空間ならともかく、地球の道路で捕まったらシャレになんねぇからな!」と笑って同意しております!
するとそこに、お店の奥から血相を変えた店長さんが、先ほどの店員さんを伴って小走りで飛び出してきましたわ!
「こ、これは長官閣下!! ようこそお越しくださいまして。今日は、ずいぶんと大勢でいらっしゃいますね……」
スマートなスーツに身を包んだ店長さんが、6本指の両手を前で激しく擦り合わせながら、ペコペコと最上級の平身低頭を繰り返しております!
長官閣下は「構わん。それより、この車だが……」と威厳たっぷりに切り出そうとされましたが、船長が横からヒョイッと顔を出して、気さくに手を挙げました。
「あ、店長さん! ごめんね、やっぱり試乗は危ないからやめとくよ! この黒い車、このまま買っていくよ!」
「えっ……? か、買っていく……? 今、なんと……?」
店長さんが、6本指の手を不自然に宙に浮かせたまま、完全に思考停止してしまいましたわ!
「ひゃあああーッッ!! 船長! まるでコンビニで缶コーヒーでも買うかのような、宇宙一軽い『スーパーカーお買い上げ宣言』ですわーーっ! ぷぷ〜っ!」
私がミニコンソールを【超絶セレブのお買い物・プラチナレインボー】にビカビカッと激しく明滅させると、長官閣下も思わず「ハッハッハ!」と豪快に笑い出しましたわ!
「だはははは! 違いねぇ! 1200万のじゃじゃ馬を試乗もせずに『これちょうだい!』だなんて、常識じゃ考えられねぇぜぇ!」
ハンさんが、お腹を抱えてピンク色のママチャリの上で爆笑しています!
「あ、支払いはこれでいいんだよね?」
船長が、ポケットから無造作にスッと取り出したのは……先日、長官閣下が直々に発行してくださった、『超・国家権力級VIPブラックカード』ですわ!
「なっ……!? そ、それは……無制限ブラックカード……!?」
店長さんの顔から一瞬で血の気が引き、今度は6本指の手がガタガタと震え始めましたわ!
無理もありません! ラフな格好のおじさん(船長)が、国のトップを連れ立って来店したかと思えば、国家予算レベルのカードをぽんと出してきたのですから!
「店長、そういうことだ。決済を頼む。……ああ、それと、彼らは大変急いでいる。納車の手続きや面倒な書類は後回しで構わん。この車は、今すぐこの場で乗って……いや、『持って』帰るそうだ」
長官閣下が、シークレットサービスを背に従えたまま、威厳たっぷりにトドメの一言を放ちましたわ!
「も、持って帰る……!? この場で……でございますか!?」
店長さんが、もはや自分が夢を見ているのではないかという顔で、長官と船長を交互に見比べていらっしゃいます。
「ふふっ。ええ、お願いね。最高の『素材』が手に入ったわ。エジソンさんが見たら、きっと徹夜で魔改造の設計図を引き始めるでしょうね」
雪さんが、マットブラックの車体を愛おしそうに撫でながら、早くも月面での爆走を夢見てリケジョの瞳を怪しく輝かせていますわ!
「船長、先ほど手配したトレーラーだが、重機を乗せてこちらに向かわせている、この車なら載せられるだろう、私もトラックの荷台サイズはわかっているつもりだ」
「ひゃあああーッッ! 船長、皆様!
さすがは長官閣下、私たちの『魔改造お持ち帰り計画』を完全に先読みしたかのような、完璧すぎるロジスティクス(物流)サポートですわーーっ! ぷぷ〜っ!」
私がミニコンソールを【頼れる元・トラック野郎の長官閣下・大感謝のプラチナゴールド】にビカビカッと明滅させると、船長がパァッと顔を輝かせましたわ!
「おぉっ! 長官、あのトレーラーをこっちに回してくれたんだ。ありがと!」
「だははは! 巨大なブルドーザーやショベルカーと一緒に、この極悪なマットブラックのスーパーカーが並んで荷台に乗ってるなんて……想像しただけで映画のワンシーンみたいでワクワクしてきやがるぜぇ!」
ハンさんも、ドヤ顔でピンクのママチャリのベルをチリンチリンと鳴らして大賛成です!
「……ふふ、物理的な輸送手段が確実かつ安全に確保できたなら、言うことなしね。長官さん、感謝するわ。地球の『陸送』の風情を楽しませてもらうわね」
雪さんも、ホッとしたように涼しい笑みを浮かべて、長官閣下に軽く会釈をされました。
長官閣下は、シークレットサービスたちを背後に従えたまま、ニヤリと貫禄たっぷりの笑みを浮かべましたわ!
「ハッハッハ! 任せておきたまえ。私はこれでも元・長距離トラックドライバーだからな。こんな素晴らしい名車を傷つけるような、ヤワな積み方は絶対にさせない。荷台の重量バランスと固定の美しさには、少々うるさいんでね」
「長官、さすがですわ―――! これで安心してお持ち帰り出来ますわね、ぷぷぷ!」




