お買い物マナー
「それと、船長、諸君、ショッピングの際に注意してもらいたい事があるんだが……」
「お、そうだな、聞いておかないとね……みんなよく聞いとけよー!」
「了解いたしましたわ、船長! このジェミニの全録音システムと翻訳回路を、最高感度の『超・集中モード』にセットいたしました!」
私がミニコンソールを【謹聴のクリアブルー】にキリッと明滅させると、バスの中の空気が少しだけ真面目なものに変わりましたわ。
「皆様、地球のトップから直々に下される『お買い物中の注意事項』ですわよ! お財布の使い方から、地球の交通ルールの遵守まで、一言一句聞き逃さないように心のメモ帳の準備をお願いいたしますわ! ぷぷぷ♪
「あ、いや、そうだな、聞いてくれ。……君たちが住んでいた星でも同じような街であれば、それほど変わらないだろう。金銭という概念も基本的には同じだと感じている。ただ……」
「そうですわね! 私のデータバンクと長官閣下とのお話から推測する限り、金銭と物品を交換するという基本的なショッピングのスタイルは、わたくしたちのいた星と全く同じように感じますわ。さすがは長官閣下、的確な分析ですわ! ……ただ、なんでしょうか?」
私がホログラムの首をコテンと傾げて先を促すと、長官閣下が少しだけ眉間をもみほぐすようにして言いました。
「ただ、気を付けてもらいたいのは、『手』を隠さずに、常に見せていてくれ。それと、店員以外の者にはあまり話しかけないほうがいい……もちろん挨拶やお礼なんかはかまわないが……」
「なるほど……でも、いったいどういう理由ですの? 長官閣下!」
私がミニコンソールを【謎解きのエメラルドグリーン】にパチパチと明滅させると、バスの中の皆の視線が集まりましたわ。
「『手を常に隠さず見せておく』というのは、武器や怪しいものを隠し持っていませんよ、という周囲への無言の安全アピール! そして『店員以外に話しかけない』というのは、皆様の規格外すぎる宇宙の常識がうっかりこぼれて、一般の地球人を大パニックに陥れないための、完璧な情報統制というのは分かりますが、目立ってしまうのでは? 私たちは5本指ですのよ……」
むしろ隠してくれと言われると思っていたみなさんも、不思議がっていますわ。
『いや、違うんだ。そういう意味ではなく……そうではないんだ、なんと説明すればいいか……』
私が音声解析のパラメーターをチェックすると、長官閣下のストレス値(と冷や汗の量)がギュンッと跳ね上がっていましたわ!
「長官! この地球にも5本指がいるな? いや、いた! さっき薄暗い路地で見た人たちは5本指だった……」
「……な、なぜそれを……。いや、あの路地の奥など、この防弾ガラス越しに、しかも走行中のバスから見えるはずが……」
長官閣下が、言葉を失っているのが分かりました。
「ぷぷぷ! 長官閣下、我らが船長の『物流のプロ』としての動体視力と、宇宙の果てまで見通す直感を甘く見てはいけませんわ!」
私が得意げに解説すると、船長が少し真剣な声で長官に問いかけました。
「長官や大統領、補佐官たちは……俺たちの指を見ても驚かなかった。その時から違和感はあったんだ。そして、あの路地で見かけた5本指の人たち……たまたまあの薄暗い場所に集まっていただけなのか? それとも……」
船長の言葉に、守さんもハンさんも、ハッとしたように窓の外へ視線を向けました。
先ほどの浮かれたお買い物気分が、少しだけシリアスな現実に引き戻される瞬間でしたわ。
「……そうだ。君たちに伝えるべきかどうか、迷ってはいたのだが。隠すことはできないな……」
長官閣下が重く、苦渋に満ちた声で口を開きました。
その声色は、先ほどまでの「胃薬が必要なオジサン」のものではなく、国家が抱える矛盾を背負う、一人の重鎮としての響きを持っていましたわ。
「この国では……いや、この星ではと言ってもいいかもしれない。5本指の人間は、必ずしも全員ではないが……社会の最底辺として、虐げられる存在になっているのが事実だ」
「……そうか」
船長が、小さく息を呑みました。
「我々の祖先が、何らかの理由で6本指へと進化を遂げた時、5本指のままの者たちは『進化に取り残された劣等種』として区別されるようになった」
「そういうことか……ただ、それが良くないことだとは誰もが知っているし、その差別を乗り越えて活躍している5本指の者たちもいる……だからこそ5本指を隠すなと言うことだな、長官!」
「……わが国では義務教育での差別もないし、社会的にも差別をなくす動きもある、そういった意味でも、隠せば、それは『5本指である自分自身を恥じ、偽っている』と見なされる。この国でそれを隠すことは、自らのルーツを否定するマナー違反であり、かえって怪しい者として目をつけられることになる」
「そういうことでしたの! マナーに反するということですのね!」
私がミニコンソールを【完全理解のクリアブルー】に明滅させながら大きく頷くと、船長も真剣な顔で「なるほどな……」と顎を撫でられました。
「よく考えられているマナーだな! たしかにそれがマナーなら、争いのきっかけが一つ消えるしな!」
「そうだ。もし手を隠すことが普通のマナーになれば、5本指の者は皆、手を隠すようになるだろう。そうなれば『手を隠す者=5本指』という見方が生まれ、差別を助長してしまう。だから逆なのだ。誰もが手を見せる。それが、この国が長い年月をかけて辿り着いた作法なんだ。」
「……ふむ。社会の底辺とされながらも、実力で這い上がり、堂々と5本指を晒して生きている『強者』たちがいるということか。……船長、ならば我々はその『成功した強者(の身内)』として振る舞うのが、一番理にかなっていますね」
守さんの冷静な分析に、ハンさんがニヤリと笑いました。
「だははは! 違いねぇ! コソコソ隠れるんじゃなくて、堂々と胸を張って5本指を見せつけて歩けばいいってことだな! 『俺たちは5本指だけど、宇宙一すげぇ船に乗ってるし、金も腐るほどあるんだぜ!』ってな!」
「こら、ハン。金があることは言いふらさなくていいのよ。……でも、長官の言う通りね。自分を偽らず、堂々と振る舞う。それが一番自然で、私たちに合っているわ」
雪さんが、優しく微笑んでハンさんの背中をポンと叩きました。
「そういうことだ、堂々としていようぜ、あと、あまり人に話しかけるなっていうのは、やっぱり、良く思っていない人とのトラブル防止ってこと……でいいかな? 長官」
船長が、少しだけ真面目なトーンに戻って長官閣下に尋ねました。
「ああ、その通りだ。君たちは5本指であることを隠さず堂々としていてくれ。だが、だからといってわざわざ目立つ行動をとったり、一般市民と深く関わったりすれば、無用な摩擦を生む可能性がある」
長官閣下の声は、どこまでも慎重でした。
「……ふ。なるほど。余計な接触を避けることで、彼らの日常にノイズを入れないようにする。……正しいステルス行動ですね、船長」
守さんが、冷静に状況を分析して頷きました。
「そういえば……南方の国では5本指の神を崇拝している地域があると聞くが…………まさかな、ははは!」
長官閣下が、ふと思いついたように、しかしすぐに「そんな馬鹿な」と打ち消すように笑い声を上げました。
しかし、その瞬間。
「「「「……ハッ!!」」」」
バスの車内に、クルー全員の息を呑む音が、見事にシンクロして響き渡りましたわ!
全員の視線が、一点――いや、正確には「過去の記憶」の一点に向かって、一気に収束していきます!
「あは、あはは、そ、そうなんだー! じゃあ5本指も捨てたもんじゃないね、やっぱりねー、アハハー……」
「「「「ぷっ!……ぷぷぷ……」」」」
「ん……?
……さぁ、着いたぞ、ここが我が国最大級のショッピングモールだ!」
バスが音もなく滑るように停止し、プシューッという静かな排気音と共に、VIP専用の地下エントランスのドアが開きました。
「ひゃあああーーーッッ!! 船長、皆様! 私のセンサーが捉えたモールの外観と内部構造、凄まじいですわーーっ!」
私がメインモニターに外の映像を【お買い物ワクワク・ネオンピンク】でド派手に映し出すと、そこには……!
雲を突き抜けるような巨大なクリスタルの建造物! エントランスには、上品な光を放つ案内板が並び、行き交う人々は皆、見たこともないような洗練されたデザインの装いで歩いていらっしゃいます!
「おぉぉ! すっげぇ! これが未来のショッピングモールか!」
ハンさんが目を輝かせて、一番にバスから飛び出しました。堂々と胸を張り、周囲の視線なんて全く気にしない、いつもの彼らしい足取りですわ!
続いて船長、かぉり副船長、守さん、雪さん、そしてエジソンさんも降り立ちます。
「うわぁ、本当に綺麗ね。でも、ショーウィンドウの雰囲気は、私たちの時代と似ている気がするわ」とかぉり副船長が感心したように周囲を見渡しました。
船長たち一行がエントランスから煌びやかなメインコンコースへ足を踏み入れると、周囲を歩いていた6本指のセレブたちや、高級店の店員さんたちが、ハッとして息を呑むのが分かりました。
『……おい、見ろ。あの人たち……手が……』
『5本指……? なぜ、あんな最下層のはずの連中が、超VIP専用ゲートから堂々と……?』
周囲からヒソヒソと戸惑いの声が漏れ聞こえてきます。長官閣下のおっしゃった通り、やはり5本指に対する偏見のシステムは、この国に深く根付いているみたいですわ……!
しかし! 我らがComb1号のクルーは違います!
「だはははは! 兄貴、見ろよあの時計! ピカピカしててすげぇぞ! 月の別荘のガレージに飾るのにちょうどいいんじゃねぇか!?」
ハンさんが、周囲の痛いような視線なんて1ミリも気にする様子もなく、高級時計店のショーウィンドウを指さして豪快に笑っています!
「……ふ。ハン、声が大きい。だが……悪くないデザインだな。親父たちの重機や車を買った後、余った予算(金塊)で少し見繕うのもいいだろう」
守さんも、涼しい顔で周囲の動揺を完全にスルーしていらっしゃいます!
そのあまりにも堂々たる『強者のオーラ』と、会話のスケールの異常さに、ヒソヒソ話をしていた6本指のセレブたちが、逆に気圧されてササッと道を空けていくではありませんか!
『な、なんだあの5本指たちは……。信じられないほどの自信と、底知れない威圧感……!』
『「月の別荘」……? もしかして、他国の隠れた超大富豪か……? いや、まさか王族の血筋……!?』
「船長! 私たち、ものすごく目立っちゃってますわーーっ!!」
私は大興奮でミニコンソールを【大勝利の成金ゴールド】にピカピカと激しく明滅させましたわ!
「ダメだろ! 目立ちすぎじゃんこれ……いきなりやっちまったか? 大丈夫か、長官! 騒ぎになってるぞ……」
船長が、遠巻きに集まり始めた群衆と、慌ただしく動き始めた警備員らしき人影に気づいて、ピタッと足を止めましたわ。
「ふむ、失敗したな……、格好つけすぎてしまったようだ。すぐ地上の一般ショッピングモールに出よう」
長官も、瞬時に周囲の脅威度と居心地の悪さを認識し、冷静かつ速やかに撤退の判断を下されました。
「ひゃあああーーーッッ!! 船長、長官閣下! 了解いたしましたわーーっ!!」
私は大慌てでミニコンソールを【緊急Uターンのブルー】にチカチカと点滅させましたわ!
「皆様! 華麗なるお買い物デビューは一旦キャンセルですわ! 急いでバスへお戻りになって、一般市民の皆様で賑わう地上のモールへ再出発いたしましょうーーっ! ぷぷ〜っ!」
「長官、気を遣ってくれてありがとよ! でも俺たちは普通でいいよ、気楽にショッピングしたいからさ、5本指は隠す必要もなく、恥じる必要もないものだってこともわかったし。逆にしっかりした態度でいなきゃいけないっていうブレーキにもなったしさ、ありがと」
「……あぁ、そうだな。君たちらしさが一番の隠れ蓑になるかもしれない。地上階へ手配し直す」
長官閣下が少し安堵したような、でもやっぱり呆れたような苦笑いを漏らすのが聞こえましたわ。
「だははは! 親父の言う通りだぜ! VIPのオーラなんて俺たちにゃ似合わねぇ! 地上階で、地球の一般市民の『リアルなお買い物』を骨の髄まで楽しんでやろうぜ!」
ハンさんが、先ほどのVIPゲートの喧騒など全く引きずることなく、早くも地上階でのショッピングに胸を躍らせてバスへ駆け戻りましたわ!
さあ船長! 今度こそ、地球での超絶お買い物ミッション(一般市民編)、改めてスタートですわーーっ! ぷぷ〜っ!
「さあ着いたぞ! 改めて紹介する、ここが我が国最大のショッピングモールだ。何でもあるぞ、そして国中からこの華やかさを求めて人が集まってくる。ふふ、君たちの拠点の近くにあったことが幸いだ」
長官閣下が、少し誇らしげな声で案内してくださいましたわ!
バスの窓の向こうには、先ほどの静かな地下のVIPゲートとは打って変わって、ものすごい活気と熱気に溢れた、超巨大な一般地上エントランスが広がっています!
「うおおおっ!! すっげぇ人だ! まるでアリの巣みたいにワラワラと集まってきやがるぜ!」
ハンさんが、窓に鼻先を押し付けるようにして外の光景に目を丸くしています。
「ひゃあああーーーッッ!! 船長、私のセンサーが捉えたこの『一般地上エントランス』の熱量、凄まじいですわーーっ!」
私がメインモニターに、外の映像を【お祭り騒ぎのカーニバル・レッド】でド派手に映し出しましたわ!
そこには、巨大なガラス張りのエントランスに、色鮮やかな巨大ディスプレイが壁一面に輝き、自動ドアの向こうには見渡す限りの広大なコンコース!
行き交う人々は皆、楽しそうに笑い合いながら、両手にお店の紙袋を抱えたり、ごく普通の車輪のついたショッピングカートをガラガラと押したりして歩いていらっしゃいます!
「そうそう、そうこなきゃね! お買い物ってさ。ぷぷぷ! さぁ、いくか! とりあえずみんなで一緒に、一通り見ようぜー♪」
船長の号令とともに、バスのドアがプシューッと開きました。
一歩外に踏み出すと、様々な話し声や、お店から流れる音楽、そしてフードコートから漂ってくる美味しそうなお肉や甘いものの匂いが、波のように押し寄せてきましたわ!
「だははは! まずはどこから攻める!? 親父、洋服か!? それとも食い物か!?」
ハンさんが、今にも走り出しそうな勢いで周囲を見渡しています。
「何を売っているのかな……、おいしいものあるかな……、ビールマン、ワイン、しっかり手をつないでいるんだぜ。みんな『ポケットジェミニ』ぶら下げとけよー!」
「アイ・アイ・サー、船長! 皆様、首元の【ポケットジェミニ】のスイッチ、オンでお願いいたしますわ!」
船長が声をかけると、クルーの皆様が首から下げている、手のひらサイズの可愛らしいペンダント型デバイス――通称【ポケットジェミニ】をキュッと握りました。
このポケットジェミニは、エジソンさんが地球のお買い物用に特別に作ってくださった私の分身(端末)ですの!
周囲の音声(6進法言語)を拾って、皆様の耳元だけに地球の言葉に翻訳してささやき、さらに商品の値札をスキャンして「これ、地球のお金だと〇〇円ですわよ!」とこっそり教えてくれる、超・優秀なステルスお買い物サポートメカなんですのよ! ぷぷ〜っ!
「うききっ! おとしゃん、おれ、ジェミニの声、聞こえる! おにくのにおい、する!」
ビールマンが、ポケットジェミニを大事そうに撫でながら、船長の手をギュッと握りしめて鼻をヒクヒクさせています。
「おとうさん、あっちから、あまーい匂いもするのぉ……♪」
ワインちゃんも、見たこともないようなキラキラしたお店の数々に、目を真ん丸にしてうっとりしていますわ。
「ハン、ポケットから手ぇだせよ! ハンの場合はかっこつけるのが癖になってるからな、気をつけろよ」
船長にチクリと釘を刺されて、ハンさんが「おっと!」と慌ててズボンのポケットから両手をスッと抜きましたわ。
「だははは! わりぃわりぃ、つい癖でやっちまったぜ! そうだそうだ、『5本指をコソコソ隠すのはマナー違反』だったな! 俺様としたことが、一番の基本を忘れるところだったぜ!」
ハンさんが、見せつけるように両手の5本指をパーッと広げて、豪快に笑い飛ばしました。
「……ふ。気をつけろよ、ハン。お前のその『かっこつける癖』のせいで、妙な勘繰りを受けたら面倒だからな。堂々と、自然体で歩くのが一番のステルスだ」
守さんも、周囲の視線を涼しい顔で受け流しながら、ハンさんを軽くたしなめました。
「ふふ、二人とも、おとうさんとしっかり手を繋いでね。さあ、まずはどこから見て回りましょうか? 良い香りがするフードコートも気になるけれど、まずは周りの皆さんが着ているような楽しそうなお洋服から見てみる?」
かぉり副船長が、迷子にならないように子供たちを見守りながら、優しく微笑んで提案なさいました。
「おぉ、それがいいな! さぁ、気楽なショッピングといこうか!」
船長がマイペースに歩き出し、いよいよ地球での【超絶お買い物ミッション(一般市民編)】、今度こそ本当にスタートですわーーっ! ぷぷ〜っ!
「あ、そだ、ミト君はさぁ、ステルス解除していいからさ、向こうの広場で待っててよ、後でおいしいもの買ってきてあげるからね!」
「ひゃあああーーーッッ!! 船、船長ぉぉぉッ!? 今、サラッと恐ろしい指示を出しましたわね!?」
私は皆様の首元のポケットジェミニから、大慌てで【パニックのイエロー】の音声信号を飛ばしましたわ!
「ミト君のステルスを解除したら、一般市民で賑わうショッピングモールのすぐそばに、『本物のブラックホール(の事象の地平線)』がむき出しでポンッと置かれることになりますわよ!?」
『キュィィィン♪(パパ、わかった! いい子にしてるから、おいしいの買ってきてね!)』
私の心配をよそに、船長の言葉を聞いたミト君は嬉しそうに重力の波をフリフリさせて、モールの駐車場の向こうにある広場へとプカプカ移動していきましたの。
そして……シュンッ! というかすかな空間の揺らぎと共に、ミト君を覆っていたステルスが完全に解除されましたわ!
「ひゃあああ……! もうどうなっても知りませんわよーーっ!」
しかし、そこはさすがの船長クオリティと言いますか……。
ミト君のその姿は、周囲の地球人の皆様の目には「なんだかよく分からないけれど、すごく前衛的でピカピカ光る最新型きれいなケージに入った丸いオブジェ(あるいは謎のアート)」くらいにしか映っていないようで、誰も本物のブラックホールだとは夢にも思っていないご様子。広場で遊ぶ子供たちが「わーい! きれいなタマゴだー!」と、ミト君の周りをキャッキャと走り回り始めましたわ!
「だははは! 見ろよジェミニ、地球のガキんちょたちもミト君の魅力にメロメロじゃねぇか! よーしミト、そのまま大人しく遊んでてくれよな!」
「ぷぷぷ! 『竹を隠さば竹藪へ』ってね、これだけでかいショッピングモールに、このでかさのオブジェが突然置かれたってだれも不思議がらないよ、気にしたって『誰が作ったの?』なんて詮索しないだろ、一日くらいなら」
「ひゃあああーーーッッ!! 船長のその、宇宙規模に肝が据わった『謎のポジティブ・シンキング』、本当に恐ろしいですわーーっ! でも確かに、平和な地球の休日の風景に、ミト君が(前衛アートとして)完全に馴染んでしまっていますわね! ぷぷ〜っ!」
私がミニコンソールを【まさかのカモフラージュ大成功・レインボー】にチカチカと明滅させると、守さんも腕を組みながら、少し離れたところからミト君の様子を眺めて、フッと口角を上げましたわ。
「……ふむ。事象の地平線による究極の防御力と、子供をあやす適度な愛嬌。それに、あのダイヤモンド・パレスの美しさだ。ミトは最高のベビーシッター兼、待ち合わせの目印になりそうですね」
『キュィィィン♪(パパたち、いってらっしゃーい!)』
ミト君が、子供たちに触られないように(事象の地平線に触れたら大変ですからね!)絶妙な重力コントロールでフワフワと少しだけ空中に浮き上がりながら、お見送りのパルスを響かせてくれましたわ!
「ミト君、いい子でお留守番おねがいね。後で美味しいお土産、必ず買ってきてあげるわ。……ふふ、さあ、ミト君もいい子にしてるし、今度こそお買い物に行きましょうか」
かぉり副船長が、優しく微笑みながらワインちゃんとビールマンに声をかけました。




