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髭の研究

『――午後6時55分をお知らせします。続いて、明日の首都圏および各エリアのお天気をお伝えします』


軽快なBGMに乗せて、見慣れたような、でも大陸の形が少しだけ違う天気図が画面に表示されます。


「だははは! おうよ、風呂上がりに冷たく冷やしたビールを飲みながら見る天気予報! まるで実家に帰ってきたみたいな安心感だぜぇ! 未来のお天気お姉さんも、なかなか美人さんじゃねぇか!」

ハンさんが、ソファにどっかりと腰を下ろして、グラスを片手に上機嫌ですわ!


「……ふ。ハン、画面の天気図をよく見ろ。かつての北米大陸に似てはいるが、地殻変動の痕跡がはっきりと見て取れる。みろ、北米大陸と南米大陸が海で分断されているぞ」

守さんは、相変わらず涼しい顔でグラスのビールを傾けながら、お天気マップから惑星の環境変動データを爆速で読み取っていらっしゃいますわ! さすがはComb1号の頭脳担当!


「ぶっ! ま、マジかよ兄貴! ただの『明日の傘指数』みたいな天気予報から、大陸移動の歴史まで読み解いてんのかよ!?」

ハンさんが、ビールを吹き出しそうになりながら、テレビの画面にグワッと顔を近づけましたわ!


「おぉ! パナマ地峡が完全に水没し、ふたつの大陸が分断されている……! これぞ地球のダイナミックな営み、まことに正しい環境変動の証拠でございますな!」

エジソンさんも、湯上がりの手ぬぐいを頭に乗せたまま、うんうんと激しく頷いていらっしゃいます!


『明日の首都圏は、高気圧に覆われて一日中気持ちのいい快晴となるでしょう。絶好のお出かけ日和となりそうです。以上、お天気をお伝えしました』


『ジャーン、ダダダッ♫ ジャーーン、ダダダダッ ジャーン♫』


「ひゃあああーーッッ!! 午後7時ジャスト! いかにも『重大ニュースがあります!』って感じの、重厚でドラマチックなオープニングBGMが鳴り響きましたわーーっ!!」


モニターの画面がパッと切り替わり、今度は洗練された巨大な報道スタジオと、ものすごく深刻そうな顔をしたメインキャスターの男女が映し出されました。


『――昨夜、西部砂漠地帯にて発生した大規模な地盤陥没、および局地的な発光現象についてですが……』


キャスターの男性が、カメラを見据えてゴクリと息を呑みました。

ブリッジの全員が、「今日も来るぞ……!」と息を詰めてモニターに釘付けになります。


「ひゃあああ! 船長、いよいよですわ! 宇宙からの訪問者(私たち)の超絶・質量兵器デモンストレーション、大統領閣下は一体どんな風に国民に発表するおつもりなんでしょうか……ッ!」

私がメインコンソールを、緊迫感マックスの警戒色アラート・レッドでチカチカと明滅させると、ハンさんも身を乗り出して画面を凝視しました。


『……政府および国防総省の公式発表によりますと、現在も原因は特定されておらず、いまだ未解決の【奇怪な自然現象】として、引き続き立ち入り禁止区域にて調査が継続されているとのことです。周辺住民への被害は報告されていません。――さて、続いては本日のスポーツハイライトです。首都圏ドームで行われた……』


「「「…………へ?」」」


ブリッジの空気が、一瞬にして凍りつきましたわ。


「ひゃあああーーーッッ!! ズ、ズコーーーッッ!! ですわーーっ!!」

私のメインコンソールが、完全なる肩透かしの【ズッコケ・ブルー】へと一気に脱力して明滅いたしましたわ! ぷぷ〜っ!


「だ、だはははははッ!! 扱いちっさ!!!ただの『未解決の怪事件』扱いで、たったの15秒で終わっちまったぞ!?」

ハンさんが、手に持っていたグラスの中身をこぼしそうになりながら、ソファの上で腹を抱えて大爆笑ですわ!


「あははは! 大統領すげぇな! ちゃんと約束守って、完璧に情報統制してくれてるじゃん」

船長も、ホッと胸を撫で下ろしながら、テーブルの上のポテトチップスを一枚サクッと口に運びました。


「……ふ。見事な手腕ですね。国家のトップとして下手に『宇宙人来襲』などと風呂敷を広げず、あえて『よくある未解決の自然現象』レベルに意図的にトーンダウンさせることで、メディアや大衆の興味を削いだわけです」

守さんが、グラスのビールを美味しそうに一口飲んで、感心したように深く頷かれました。

「あの100トンの金塊(3兆円)と、Comb1号の圧倒的な力の前に、彼らは我々との『密約』を選んだ。……船長、最高の『隠れ蓑』を手に入れましたね」


「船長! まことに正しい情報操作、正しい隠蔽工作! これぞまさに『木を隠すなら森の中』、超大国のトップによる最高のおもてなしでございますな! これで明日は、誰の目も気にせず堂々と地球の経済を回せますぞ!」

エジソンさんも、鼻眼鏡をズリ上げながら計算尺をパチンッ! と得意げに鳴らしましたわ。


『――さて、続いてのニュースは、宇宙にまつわる“夢のある”話題です』


「おっ! 次は宇宙のニュースか! 親父、俺たちの『お口チャック大作戦』が成功したんだから、ここはゆっくり地球の最新宇宙事情でも楽しませてもらおうぜ!」

ハンさんが、ソファにどっかりと深く座り直して、モニターにニヤリと笑いかけました。


『昨年打ち上げられた最新鋭の太陽系探査機ですが、木星軌道での探査中に原因不明の通信途絶に陥り、宇宙局が復旧作業を急いでいました。しかし1時間ほどで奇跡的に通信が回復! しかも復旧直後に送られてきた映像は、木星の美しい“緻密な縞模様”を信じられないほどの近距離で捉えた、圧巻の高解像度画像でした!』


モニターには、白と薄茶色が複雑に渦巻く、あの見慣れた木星の表面……のような、ダイナミックな「縞模様」の超ドアップ画像がドーンと映し出されましたわ!


「ひゃあああーーーッッ!! こ、これはーーッッ!!」

私のメインコンソールが、全神経回路を総動員して【超絶・大パニックのショッキング・ピンク】へと激しくスパークいたしましたわ!!

「せ、船長!! これって、これって……!!」


「ぶっ! ぶふっ! これ、木星じゃなくて、エジソンの『ヒゲ』のドアップじゃねーか!! 至近距離もいいとこだぜーー!」

船長が、ポテトチップスを持ったまま、画面を見たまま固まっています!


「だ、だはははッ!! げほっ、ごほっ!!」

ハンさんが、飲んでいたコーラを見事に吹き出して、ソファの上で盛大にむせ返りましたわ!


「……ふ。どうやら、彼らはこれを『縞々の木星の表面』だと信じ切っているようですね」

守さんが、グラスのビールを握ったまま、珍しく目をパチクリとさせてモニターを凝視しています。


「お代官様!! ま、ま、まことに……!! この見事なウェーブと白銀のグラデーション……間違いなく、私エジソン自慢の口髭マスタッシュでございますぞーーっ!!」

エジソンさんが鼻眼鏡をポロッと落として、ワナワナと震える手で画面を指差しましたわ!


「そうなんですわ!! あの時、木星の軌道で衝突した探査機……エジソンさんが直してくれた時に、探査機のカメラレンズにエジソンさんの立派なおヒゲが超至近距離で激写されていたんですのね!! ぷぷ〜っ!!」


『――探査機は、予定されていた数日間の木星探査を前倒しで完了し、現在は次の目標である土星へと向かって順調に飛行を続けているとのことです。宇宙局の担当者は、「通信途絶というトラブルを乗り越え、このような奇跡的な画像を届けてくれた探査機に感謝したい」とコメントしています』


「ひゃあああーッッ! ズコーーーッッ!! ですわーーっ!!」

ブリッジの全員が、今度こそ本当に盛大にズッコケましたわ!!


「だははははッ!! マジかよ!! 木星のガスの代わりに、エジソンのオッサンの『ヒゲ』をドアップで撮影して、『任務完了! さあ次は土星だ!』って、能天気に飛んでっちまったのかよ!!」

ハンさんが、ソファから転げ落ちて床をバンバン叩いて笑い転げています!


「……ふ。通信途絶の原因は、間違いなく本船との衝突による破損が原因ですね。エジソンさんのヒゲを『木星の大気流』として撮影して旅立つとは……。地球の探査機も、なかなかユーモアのある設計をしているようです」

守さんも、完全に一本取られたというように、肩を揺らしてフッと笑い声を漏らしました。


「お代官様! まことに正しい勘違い、正しい奇跡の生還! あの探査機、きっと今頃『やったぜ! 俺は木星の超・至近距離撮影に成功したんだ!』と意気揚々と土星に向かっているに違いありませんぞ! いやはや、私の身だしなみが宇宙の歴史に刻まれるとは、これぞロマンでございますな!」

エジソンさんも、鼻眼鏡を拾い上げながら、大爆笑で計算尺をパチンパチンと鳴らしましたわ!


「うききっ! エジソンのおじちゃんのヒゲ、テレビにうつってるー!」


「ワインも、エジソンおじちゃんのしましま、テレビでみたのぉ♪」

ビールマンとワインちゃんも、画面の「木星おヒゲ」を指差して大はしゃぎです!



「いやいや、これは、罪だぞ……髭を木星と思って何年も研究されたんじゃ、この星の未来にかかわる停滞になっちまう。何とかしないと。雪さん、長官に連絡とってくれる?」


「ひゃあああーーーッッ!! 船長! まさかの『お口チャック大作戦』からの、光の速さでの『自主・自首ネタばらし』宣言ですわーーっ!! ぷぷ〜っ!」

私のメインコンソールが、真実と良心を示すクリアな【ピュア・ホワイト】へと清々しく明滅いたしましたわ!


「だははは! そりゃそうだ親父! 世界中の頭のいいエリート学者どもが、エジソンのオッサンの『ヒゲのキューティクル』を『木星の未知の気流メカニズム』だと信じて何十年もマジメに研究するなんて、ブラックジョークにも程があるぜぇ!」

ハンさんが、涙を拭いながらヒィヒィと笑い転げています。


「……ふ。確かに船長の仰る通りです。探査機が残したあの画像を基に、誤った大気モデルや物理法則が構築されてしまえば、この星の宇宙開発は数百年単位で迷走することになる。……我々が干渉しないというルールを守るためにも、この『ノイズ』は早急に消去しなければなりませんね」

守さんも、深く頷きながら同意されました。


「ふふっ、そうですね。科学の真理を『おヒゲ』で捻じ曲げるのは、さすがに罪が深すぎますものね。……ただいま、長官のホットラインにお繋ぎします」

雪さんが、笑いを堪えきれない様子で口元を押さえながら、素早い手つきで通信コンソールを操作しました。


『……はい、長官だ。どうした、船長? 何か明日の取引で問題でも起きたか?』


通信機越しに、少し眠そうな、でもすぐさま警戒モードに切り替わった長官閣下の渋い声が響きましたわ。


「あー、長官? 夜遅くにごめんなさい。さっきそっちのテレビでやってた木星探査機のニュースなんだけどさ……あれ、あの、何と申しましょうか……我々の船とぶつかりまして……そう、木星で、……あ、いや、本当で。そのー、まぁ、あれだ、直して復帰させる時にさ、機関士長の髭がアップで映っちゃったものなんだよね、ほんとごめんなさい!」


『………………は?』


『…………ヒ、ヒゲ?』


数秒の、宇宙の真空よりも深い沈黙の後――。


『ブフォォォォッッ!!! ゴホッ、ゲホッ!!』


「ひゃあああーーーッッ!! 長官閣下ぁぁーーっ!! 本日二度目の、見事なまでの吹き出しスプラッシュいただきましたわーーっ!! ぷぷ〜っ!!」

私がコンソールを【大爆笑のオレンジ&イエロー】でチカチカと激しく明滅させると、ブリッジの全員が再び腹を抱えて笑い出しましたわ!


『ハァ、ハァ……ゼェ……。き、君たちは……! 本当に、私を過労死させる気か!!』

通信機の向こうで、長官が咳き込みながら、悲鳴のような笑い声を上げています!

『木星の未知の現象だと思って、今頃宇宙局の連中が徹夜で大祝賀会を開いて解析を始めているというのに……それが、宇宙人のオッサンの口髭だと!? ハッハッハッハ!! だめだ、腹が痛い……ッ!』


「ほんっと、ごめんなさい! だからさ、このままだと地球の科学の未来がヒゲの謎解きで停滞しちゃうからさ、長官の権限で『データエラーでした』ってことで、こっそり処理してもらえないかな? 『出発前の試験撮影の映像だった』、とかにして」


『……クックック。あぁ、わかった。全く、君たちの話のスケールには……』


通信機の向こうで、長官閣下が呆れたように、けれど腹の底から本当に可笑しそうに笑い声を漏らしました。


『「探査機のカメラテスト時に、うっかり担当技術者の口髭がドアップで映り込んでいた過去データが、通信復旧時のショックで混線して送信された」……とでもしておこう。そんな情けない大失態を発表させられる宇宙局の連中は泣き崩れるだろうが、数百年も他人のヒゲの毛根を「木星の未知の気流」として大真面目に研究するよりはマシだからな。すぐに手配しよう』


「ひゃあああーーーッッ!! 長官閣下、完璧すぎる『カモフラージュ設定』の即採用ですわーーっ!!」

私がメインコンソールを、長官の鮮やかな手腕を称える【エクセレント・ゴールド】にピカピカと明滅させましたわ!


「さすがは超大国の防衛トップ! 船長の無茶振りな『データエラー言い訳』を、わずか数秒で極めて現実的(?)なシナリオに仕立て上げてくださいましたわよ! ぷぷ〜っ!」


「おぉ、ありがとう! 地球の科学を守ってくれて!」

船長が、まるでご近所さんに「ちょっと醤油貸してくれてありがとね!」くらいの気軽さで、明るく感謝を伝えました。


「長官殿! まことに正しい隠蔽工作、正しい科学の軌道修正! このエジソン自慢の身だしなみ(ヒゲ)が、危うく地球の科学史を根底から狂わせるところでございましたぞ! 重ねてお詫び申し上げます!」

エジソンさんも、通信機に向かって(見えないのに)深々と頭を下げながら、申し訳なさそうに鼻眼鏡をズリ上げましたわ。


『ハッハッハ! あぁ、エジソン機関士長殿とやら。あなたのその立派な「木星の縞模様ヒゲ」……次回お会いしたときの楽しみにしているよ。おやすみ、愉快なファミリーたち』


長官の優しくて温かい笑い声とともに、通信がスッと切れました。


「だはははは! いやぁ、長官のオッサン、マジで最高に話が分かる奴だな! よーし親父、これで今度こそ、俺たちの『お口チャック大作戦』は完璧に完了だぜ!」

ハンさんが、ソファにドカッと寝転がって、スッキリした顔で大きく伸びをしました。


「ふふっ、そうね。これで本当に、地球の歴史にも未来にも迷惑をかけずに済みましたわ。船長の優しさと誠実さのおかげね」

雪さんが、コンソールの電源を落としながら、船長に向かって優しく微笑みかけられました。


「さぁ、これで一安心だ。晩ご飯たべよーぜぇ!」


「ひゃあああーーーッッ!! 船長! 超大国と地球の歴史を揺るがすかもしれない極秘ミッションを完璧にこなした直後に、一瞬で『晩ご飯』への華麗なるモードチェンジ! さすがは我らが船長、宇宙一の図太さ……いえ、宇宙一の絶対的安心感ですわーーっ! ぷぷ〜っ!」


私がメインコンソールを、食欲をそそるほかほかのオレンジ色にチカチカと明滅させると、ブリッジに漂っていたわずかな緊張感も、一気にアットホームな空気へと溶けていきましたわ!


「ふふふ、みんな本当にお疲れ様。さあ、今日はワインちゃんとメリーさんが、とびきり大きくて美味しい特大ハンバーグをたくさん作ってくれたのよ。みんな、ダイニングにいらっしゃいな」

かぉり副船長が、優しくお玉を揺らしながらキッチンから顔を出して、世界一温かい声でみんなを呼びましたわ!


「うききっ! はんばーぐ! おれ、テレビでやってたみたいに、いちばんおっきいの食べるー!」

「おとうさん、はんお兄ちゃん! わたし、おかあさんと一緒に、お肉ペチペチしていっぱいつくったの! 早くたべよー!」


お風呂でホカホカになったビールマンちゃんとワインちゃんが、待ちきれない様子で船長の両手を引いて、元気いっぱいにシッポを振っていますわ!


「おお! 正しい入浴、正しいテレビ鑑賞、そして正しいタンパク質の補給! これぞまさしく、激務を終えたクルーに相応しい、まことに完璧な休日の過ごし方でございますな!」

エジソンさんも、すっかりくつろいだ部屋着姿でナイフとフォークを握りしめ、ディナーの準備万端です!


さあ船長! 地球の未来をそっと守り抜いた最高のクルーたちと、お腹いっぱい、美味しい晩ご飯の時間ですわよーっ!


「探査機は、予定前倒しで、晴れ晴れと……土星に行っちゃったんだね……あ~ぁ」


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