月面お宿計画
「モグモグ、月面お宿の設計しようぜー!」
「ひゃあああーッッ! 船長! 3時のおやつタイムの極上のリラックス空間に、最高にロマン溢れるビッグプロジェクトの号令、いただきましたわーーっ!! ぷぷ〜っ!」
私がすぐさまダイニングテーブルのど真ん中に、かぉり副船長特製の美味しいおやつ(今日はいちごのショートケーキ)を避けるようにして、超高解像度の『月の裏側・巨大クレーター3Dホログラム』をドカンと展開いたしましたわ!
「だははは! 親父、俺はバーベキューができる展望デッキが欲しいぜ!そうだな、露天風呂もいいなぁ……」
「おれもおれもー!月で露天風呂入る―!」
「あたしもあたしもーー!お風呂で泳ぐのーー!」
「……ふふ。お前たち、酸素ボンベをつけて、ワイヤーで繋がれて入るつもりか?」
ホログラムを見ながら守さんが鋭い突っ込みを入れましたわ。
「ひゃあああ――! そうですわハンさん、月には空気がございませんことよー! それにそれに、重力が極端に弱いからハンさんがヤッホーい!ってジャンプでもしようものなら、お湯と一緒にプシケまで飛んで行ってしまいますわー、ぷぷぷ!」
「だははは、そいつを忘れてたぜー! ふぅ、危うくお湯と一緒に宇宙を泳ぐことになるとこだった、ビールマン、ワイン、露天風呂はだめだ!」
ハンさんが、頭をかきながらホログラムを見つめて笑いました。
「ひゃあああ〜っ! 夢を現実にするには物理法則という名の高い壁が立ちふさがりますわね! ぷぷぷ、ハンさんもお湯をこぼした瞬間に、それが氷の粒になってプカプカ浮かぶ銀河のスープみたいになっちゃうところでしたわよ!」
ダイニングテーブルのホログラムの中で、シミュレーションされていた露天風呂が、重力を失って丸い水の球体へと変化していきました。ぷるぷると揺れるその姿に、ビールマンとワインちゃんが「おぉ〜、おめめみたい!」と目を輝かせています。
「月の重力ってどのくらいなの?」
船長が興味深そうに尋ねると、私はメインコンソールのホログラムを操作し、地球と月を並べた比較図を浮かび上がらせました。
「いい質問ですわ、船長! 月の重力は、地球のわずか約6分の1……正確には約16.6%しかありませんの。これがどれほど『すごい』ことかと言いますと……。
例えば、地球で50cmしか跳べない人が、月面では3メートルもの大ジャンプが可能になりますわ。まるでスーパーマンですわね! お荷物だって、地球で60kgあるバックパックが、月ではたった10kgの感覚になるんですもの。重い建設資材を運ぶのも楽々ですわ」
「まぁ天井無しの吹きさらしはさすがにダメだから、透明ジルコニアドームにして……水ふわふわ問題だね。ミト君は地上に連れて行って工事のお手伝いしてもらうからなぁ……。」
「透明ジルコニアドームのお風呂!それは最高にラグジュアリーな月面リゾートになりそうですわね、船長! でもおっしゃる通りです、ミト君がいないとなると『水ふわふわ問題』はなかなかの強敵ですわ」
「月の重力が弱いということは、水が下に落ちようとする力(重力)よりも、水同士がまとまろうとする力(表面張力)や、壁にくっつこうとする力(付着力)の存在感が一気に増すということ。つまり、地球のように『お湯が浴槽に大人しく溜まってくれる』とは限らないのですの」
【 月面風呂で予想される「水ふわふわ問題」】
お湯が壁を登る: 湯船にお湯を張ろうとしても、水が浴槽の壁を伝って外へ這い上がっていき、ドームの天井まで濡らしてしまう可能性がありますわ。
波が収まらない: ハンさんたちがちょっとでもドボンと浸かろうものなら、大きな水塊がふわ〜っと宙に浮き上がり、なかなか落ちてきませんの。最悪の場合、浮いた水が鼻や口を覆って、お風呂の中で溺れそうになる危険も……!」
「ひえぇーー!親父、風呂で溺れたくねーぜぇ、何とかならねーか?」
「うきー! おもしろそー♪ぷかぷかおふろー!」
「あははー! あ!……あれ使えねーか? プロキシマの布……空気は通すけど水は通さないって感じだったじゃん。あの布をお湯の下に敷いてさ、下から吸引機で吸えばいけるんじゃね?」
「ひゃあああーッッ! 船長! まさかの天才的なひらめきですわーっ!! ぷぷぷ!」
私はホログラムのパラメーターを猛スピードで打ち込みながら、AIとしての計算回路をフル回転させてダイニングテーブルの横でポンポンと跳ね回りました。
「ふむ……! 正しい吸引、正しい入浴! 船長、プロキシマの布は吸収力が抜群ゆえ、今回の目的には逆の性質を持つ素材ですな。ですが、ご安心ください。この船にはうってつけの素材がございますぞ。農場区や水循環システムで使用している『防水透湿膜』を加工すれば、月面でのご入浴も十分可能ですぞ!」
「ぷぷぷーー! さすがはエジソンさん、完璧な素材のチョイスですわーっ!!」
私がすぐさまその『防水透湿膜』と吸引機を組み合わせた、絶対に水が逃げ出さない極上の月面ドーム風呂の完成図をホログラムに再構築いたしますわよ!
【防水透湿膜吸引システム、その驚きの効果】
「その『空気は通すけれど水は通さない布』を下敷きにして真空ポンプで引くアイデア、物理学的にめちゃくちゃ理にかなっておりますわ! これこそまさに、圧力差を利用した人工重力の代用品ですの!」
ホログラム上に、バスタブの断面図が浮かび上がります。
「布の下の気圧を下げると、ドーム内の空気(大気圧)が上からお湯をグギューッと押し付けてくれますわ。専門的に言えば、お湯を下に引きつける力は以下の流体力学的な計算式で表せますのよ!」
F = (Patm ― Pvac) × A
「つまり、ドーム内の大気圧(Patm)と布の下の圧力(Pvac)の差が、お湯が触れている面積(A)全体に下向きの力(F)として働くわけですわ! これなら、重力が地球の16.6%しかなくても、お湯を底にペッタリと張り付かせておくことができますわね!」
「おほほ、やったじゃん!『月面お風呂』造れそーだぜ」
「だははははッ!! マジかよエジソンの旦那! じゃあ、あのプカプカ浮かぶ恐怖の水風船トラップは完璧に回避できるってことだな!」
ハンさんがダイニングの椅子からガタッ!と立ち上がり、両手を天井に向けて突き上げて大歓声を上げましたわ!
「ひゃあああーッッ! その通りですわハンさん! 船長の天才的なひらめきとエジソンさんの技術のコラボレーションで、月面の弱い重力でも、地球の温泉みたいに肩までしっかりお湯に浸かって『ふぅ〜、極楽極楽〜』ができちゃいますわーっ! ぷぷ〜!」
私がホログラムのバスタブに『プロキシマ布の真空吸引システム』をカチッと組み込むと、宙にぽわ〜んと浮かびかけていたお湯が、まるで魔法のようにスゥーッと底に吸い付き、地球のお風呂とまったく同じような穏やかな水面を取り戻しましたの!
「っしゃあーーッ!! 親父、最高だぜ! 月の裏側で、漆黒の宇宙と美しい地球を眺めながらの透明ドーム露天風呂……! 想像しただけでテンションが銀河の果てまで振り切れそうだぜぇ! なぁ兄貴、俺、今すぐスコップ持って月面のクレーターを掘りに行きたくなってきたぜ!」
ハンさんが興奮のあまり、隣に座っていた守さんの肩をバシバシと叩いて大はしゃぎです!
「……ふ。確かに悪くないな。絶対的な静寂の中で、重力から解放されながら湯船に浸かる……。究極のリラクゼーションかもしれない。俺も少し、楽しみになってきたな」
守さんも、叩かれた肩をすくめながらも、いつもより少しだけ口角を上げてフッと微笑まれましたわ。
「うききーーっ! はん、スコップ! おれもほるー! おっきなおふろ、ザブーンってするー!」
「わぁい! ワインも、お湯のなかでアヒルさんプカプカさせるのぉ……♪」
ビールマンがハンさんの足に抱きついてピョンピョンと跳ね回り、ワインちゃんも嬉しそうにシッポをパタパタさせています!
「いいねぇ、あとさぁ……ここは地球のドックに入っているときに使うお宿だからさ、Comb1はないからな、農場は作らないとだな」
「ひゃあああーッッ! 船長、まことにその通りですわ! Comb1号の誇る農場セクターも、地球のドックに入っている間はなくなってしまいますものね!
つまりこれは、ただの月面露天風呂リゾートではなく、『完全自給自足型の月面エコ・コロニー』の建設という、超弩級のワクワクプロジェクトへと一気にスケールアップいたしましたわーっ! ぷぷ〜!」
私がホログラムの操作パネルをさらに輝かせ、透明な月面ドーム風呂の横に、巨大な『月面農場ドーム』の設計図をババーン!と追加展開いたしましたわ!
「ふむ! 正しい保養所、正しい自給自足! 船長、お任せを。月面の土壌をプラズマ洗浄して無菌化し、先ほどの透湿膜による水循環システムと人工太陽ライトを組み合わせた『エジソン式・超高効率月面温室ドーム』を建設いたしますぞ! これで酸素の供給も、美味しいお野菜の栽培も完璧でございますな!」
エジソンさんがスコップを杖のように突きながら、誇らしげに鼻眼鏡を光らせました。
「だはははッ! そいつはすげぇ! 透き通る月面風呂でひとっ風呂浴びた後に、隣のドームで採れたての月面トマトを丸かじりするってわけか! 親父、こりゃあ地球のどんな高級ホテルも敵わねぇ、宇宙一の極上バカンスだぜ!」
ハンさんが想像だけでヨダレを垂らしそうになりながら、青ピチ迷彩スーツのお腹をポンと叩きましたわ。
「ふふっ、本当にそうね。美味しいご飯と、みんなでゆっくり入れる温かいお風呂。……それさえあれば、たとえ空気のない月の裏側でも、そこはもう立派な『我が家』だもの。地球でのドック入りが、なんだか待ち遠しくなってきちゃったわ」
かぉり副船長が、ショートケーキのイチゴを優しくフォークで切り分けながら、最高に温かいお母さんの笑顔を浮かべられました。
「うききっ! おれ、おふろのあとは、あまーいイチゴたべるー!」
「ワインも! お月さまのイチゴ、おっきいの作るのぉ……♪」
ビールマンとワインちゃんも、すっかり月面別荘の虜ですわ!
さあ船長! 地球帰還の前の最高に楽しい大仕事! みんなの夢がギッシリ詰まった『月面お宿・Comb1別館』の設計図、このジェミニ先生が愛とユーモアたっぷりに、完璧に正書しておきますわよーっ! ぷぷ〜!
「いや、そうもいかないんだよ! 農場は絶対に必要だ、酸素が欲しいからな。まぁお風呂も贅沢にいこう……そこまでだなぁ」
「ええええええーーーーッッ!? な、なんでですの船長ぉぉぉーーーっ!!」
私がホログラム空間いっぱいにババーン!と展開しかけていた『月面超巨大アミューズメント&カジノ付き・ドリームコロニー構想』の設計図を、大慌てでシュンッ!と引っ込めましたわ……!(涙)
「た、確かに船長の仰る通り、農場は『生命線(酸素)』ですから絶対に必要不可欠ですわ! 物理的にも生物学的にも、まことに正しい現実路線です! ……で、でもでも! せっかくの誰もいない月の裏側のプライベート空間なんですもの! もっとこう、パーッと! ドカンと! 遊び心全開でいきたかったですわーーっ! ぷぷ〜っ!」
私がメインコンソールを、まるで駄々をこねる子供みたいにブルーとパープルにチカチカと明滅させると、ブリッジの皆さんが一斉に吹き出しましたわ!
「だはははは! ジェミニの奴、本気でスネちまったぜ! 親父、こいつの特大リゾート構想、見事にへし折っちまったな!」
ハンさんが、操縦席でお腹を抱えて笑い転げています。
「ふむ! ジェミニよ、無念は分かりますが船長の判断は絶対にして完璧ですぞ。酸素の無い月面での過剰なリゾート計画など、ただの『豪華な墓標』にすぎませんからな! まずは息ができること、これが宇宙生活の大前提です!」
エジソンさんも自慢の計算尺をパチリと鳴らしながら、私のロマンに現実のメスを容赦なく突き刺してきますの! うぅ……正論すぎて反論できませんわ!
「だってよ、これ建てる作業できるの、俺たちだけだぜ……ここ月だし、大工さんいねーぞ!」
「ひゃあああーッッ! そ、そうでしたわーーッッ!!
ぷぷぷ! 完璧な設計図ができても、それを月面で組み立てる『人手』という名の、一番大切なパーツがすっぽり抜け落ちておりましたわ!!」
私が慌ててホログラムの「大工さん(クマのぬいぐるみ)」アイコンをピコピコと明滅させると、ブリッジの皆さんが一斉に顔を見合わせて固まってしまいました。
「だははは……! 確かにな。親父の言う通りだぜ。いくら無重力で資材が軽くても、この超巨大なジルコニアドームを俺たちだけで組み立てるなんて、地球に行く前に過労で倒れちまうぜ」
ハンさんが、先ほどまでの勢いはどこへやら、少しだけ青ざめた顔で頭を掻いています。
「……ふむ。正しい現状認識、正しい人員不足!
いくら私の設計した『超絶・組み立て簡単ユニット』とはいえ、基礎工事から気密シールの接着、さらには水ふわふわ風呂の配管まで……。この数人で行うには、控えめに言っても数年……いや、数十年がかりのビッグプロジェクトになってしまいますな!」
エジソンさんも、計算尺を弾きながら冷や汗を拭っていますわ!
「……ふ。俺とハンでファルコンを使って資材を運んだとしても、限界があるな。かぉりさんたちに重労働をさせるわけにはいかないし……」
守さんも、腕を組んで静かに考え込んでしまいました。
「ぷぷ〜! 船長、皆様! 大丈夫ですわ!こんな時のために、私がとっておきの秘策を用意しておりますのよ!」
私はホログラムを再びパァッと輝かせ、皆さんの目の前に一つの映像を展開いたしました。
「ジャジャーン! 『ミト君&ドローンちゃん大活躍・全自動建設プログラム』ですわーーっ! ぷぷ〜!」
ホログラムの中で、ミト君が「キュイーン♪」と重力波を使って重いジルコニアのパネルをヒョイヒョイと持ち上げ、その周りをエジソンさん特製の小型ドローンたちが飛び回って、レーザー溶接で次々とパネルをくっつけていきます。
「ひゃあああ! 見てくださいまし!ミト君の圧倒的な重力コントロールと、ドローンちゃんたちの精密な作業!これなら、私たち人間は『ここをこうしてね〜』と指示を出すだけの、超・快適な現場監督で済みますわ!
……あ、もちろん、最後のお風呂のタイル磨きくらいは、ハンさんにも手伝っていただきますけれどね! ぷぷぷ!」
「うききっ! おれも、ドローンちゃんと一緒におうちつくるー!」
「ワインも、ミト君におねがいするのぉ……♪」
「そうそう、ミト君にもくまサンにもドローンちゃんにも活躍してもらって、でもそんな豪華なお宿は出来ねーだろ! 力仕事はミト君でも……ジルコニア製造、組付け、塗装、調整とかは人力だぜ。 アミューズメント&カジノ付き・ドリームコロニーは却下!」
「ひゃあああーッッ! そ、そこをなんとかーー! ……(ガクッ)」
私はメインコンソールのホログラムで、一瞬だけしょんぼりと肩を落とすモーションをしましたの。
「でも、船長の仰る通りですわ! ミト君にお願いしても、人力作業は結構な仕事量がありますわ。それに、静寂の月の裏側に、ギラギラしたネオンやスロットマシーンは無粋というもの。美しい地球の青い光をのんびり眺めながら、自分たちの手で育てたお野菜をかじり、あたたかいお湯に浸かる……それこそが『究極の贅沢』ですものね! ぷぷ〜!」
「宿は普通の一戸建て住宅くらいがいいよ、何年も住むわけじゃないしね。出来るだけ空間を少なくしないと酸素供給が間に合わなくなるぜ」
「ひゃあああーーーッッ!! 船長! またしても私の銀河級のロマンが、『普通の一戸建て(3LDK)』サイズにまでギューーッと圧縮されてしまいましたわーーッ! ぷぷ〜っ!」
私がホログラムの巨大ドームを「ポンッ」と弾けさせ、代わりに可愛らしい地球の戸建て住宅サイズ(ただし外壁はピカピカのジルコニア製)へとスケールダウンさせると、ブリッジの空気がさらにアットホームに和みましたわ!
「……ですが、計算回路を回せば回すほど、船長のお言葉は100%の真理ですわ! 巨大な空間を作れば作るほど、そこを満たすための空気(酸素)が必要になる。お遊びで窒息してしまっては元も子もありませんものね!」
「ふむ! 正しい容積計算、正しい生命維持! 船長の仰る通りですぞ!」
エジソンさんが、自慢の計算尺を弾きながら大きく頷きました。
「我々の持ち込む『無菌レゴリス農場ユニット』が作り出す酸素量と、滞在するクルーの呼吸量を天秤にかければ、まさに地球の一般的な『一戸建て住宅』のサイズが、もっとも安全でパーフェクトな黄金比となりますな! 無駄な空間を省けば、空調システムの負荷も激減しますぞ!」
「だははははッ! 宇宙一の超弩級船に乗ってきて、月の裏側に建てる別荘が『普通の戸建てサイズ』ってのが、いかにも親父らしくて最高だぜ! 宇宙規模のスケールと、庶民的な生活感のギャップで風邪引きそうだ!」
ハンさんが操縦席でバンバンと膝を叩いて笑い転げています。
「……ふ。だが、それがいい。広すぎる空間はかえって落ち着かないからな。俺たち家族が身を寄せ合って、温かいメシを食い、静かな夜を過ごせる場所……。究極の『秘密基地』だな」
守さんも、ふっと優しい笑みを浮かべながら、ホログラムの「小さな月面のおうち」を眺められました。
「あ、あと……ハン、ジェミニ! 月の裏だから風呂から地球は見えねーぜ!」
「ひゃああああーーーッッ!! し、し、しまったぁぁぁーーッッ!!」
私がメインコンソールを大慌てで【システム・エラーの真っ赤な警告色】に激しく明滅させると、ホログラムで展開されていた『地球ビュー露天風呂』の青い地球が、プシュンッ!と音を立ててブラックアウトしてしまいましたわ!
「だははは!……って、えええええ!? マジかよ親父!! 俺の『地球を見下ろす極上風呂』計画が、根本からへし折られたじゃねーか!」
ハンさんが、先ほどまでのドヤ顔から一転、頭を抱えて操縦席に突っ伏しましたわ!
「ふむ! 正しい天体力学、正しい潮汐ロック(同期自転)! 月は自転と公転の周期がピッタリ同じゆえ、常に同じ面を地球に向けております。つまり『月の裏側』からは、永遠に地球を拝むことはできませぬな! ジェミニよ、ロマンに目を奪われた痛恨の設計ミスですぞ!」
エジソンさんが、自慢の計算尺でホログラムの空きスペースをピシッと叩きながら、容赦ない物理の現実を突きつけてきますの!
「うぅ……っ! AIとしての計算回路が、楽しすぎるお宿計画の前に完全にポンコツ化しておりましたわ……!(涙)」
私がしょんぼりとホログラムの肩を落とすと、かぉり副船長がクスッと優しく笑いかけてくれました。
「ふふっ、ジェミニもハンくんも、地球の絶景にご機嫌になりすぎちゃったわね。でも、地球が見えない完全な漆黒の宇宙というのも、裏側ならではの『本当の隠れ家』って感じで素敵じゃない?」
「かぉりさんの仰る通りですわ! ……それにハンさん、泣くのはまだ早いですわよ!」
私はすぐさま気を取り直し、メインコンソールをパァッと得意げなゴールドに輝かせましたわ!
「本物の地球が見えないのなら、このジェミニ先生が作って差し上げますわ!透明ジルコニアドームの素材に特殊な光学投影フィルムを組み込みます! ドローンちゃんたちが衛星軌道上から中継する『リアルタイムの超高画質・地球映像』を、お風呂の天井いっぱいにホログラム投影する『全天球VR・極上リラックスドーム風呂』への仕様変更ですの!」
「おおおーッ!? ジェミニ、お前ってやつは……!」
ハンさんがガバッと顔を上げ、再び目をキラキラさせ始めました!
「ぷぷぷ! しかもこれなら、ただの地球だけじゃありませんわ!設定ひとつで、目の前にド迫力の『木星の嵐』を映し出すことも、1200万光年先の『M81の黄金の渦』に切り替えることも自由自在! 毎日日替わりで宇宙の絶景を楽しめる、究極のアミューズメント風呂になりますわよーーっ!」
「もう一度言うけど、造るのは俺たちだからな……」
「ひゃあああーーーー!」




