交渉開始
前話の投稿原稿が間違っておりましたので修正しました。よろしければ後半を読んでいただけたらと思います。(7/17)
「……初めまして、大統領閣下。私がこの船の責任者です。……まずは、昨日からの数々の無礼と、今朝の騒ぎをお詫びいたします。驚かせてしまって、本当に申し訳ありませんでした」
船長はそう言って、深く、誠実に頭を下げられました。
その声は、どこまでも穏やかで、しかし50万トンの宇宙船のリーダーとしての圧倒的な安心感に満ちていましたわ。
「「「…………」」」
その場にいた全員が、再び息を呑みました。
宇宙の彼方からやってきた(と地球人は思っている)超絶テクノロジーの主が、第一声で「謝罪」から入るなんて、大統領も補佐官も、全く予想していなかったはず……!
「……ふむ、やはりそうきたか。大胆かつ前代未聞の“手品”で、世界一の防衛網をまるでおもちゃ箱のように弄んでくれたものだ。……だが、今は違う。昨夜の執務室で見せた、その『人間臭い』……いや、『愛すべき』彼らの眼差しを思い出せば、貴方がたが単なる侵略者でないことは明白だ。……想像通りの男だ」
大統領は、厳しい眼差しの奥に、どこか期待と安堵を込めた光を宿しながら船長をまっすぐに見つめていますわ。
「ひゃあああーッッ! 船長、大統領閣下にはすっかりお見通しですわーーっ! 未知の超絶テクノロジーよりも船長の『人間臭さ』を真っ直ぐに見抜いて受け入れてくださるなんて、ぷぷ〜っ!」
「まいったな、大統領、……大したお方だ!」
船長が顔を上げて、ニカッと豪快に笑い返すと、その場に流れていた重苦しい空気が、まるで春の陽気のようにフワッとほどけましたわ!
「……ふふ、お代官様、大統領閣下のその鋭さ、やはり只者ではございませんな。これからの対話が実に楽しみでございますぞ!」
エジソンさんが鼻眼鏡を指でくいっと上げて、嬉しそうに頷いています。
「大統領、まずは約束した金塊を渡すぜ、あそこのトラックに積めばいいのかな?」
船長がそう言うと、大統領はゆっくりと頷き、傍らに立つ屈強な護衛たちへ視線を移しました。しかし、彼らが動くよりも早く、大統領は表情を少し和らげ、船長に向かって一枚の名刺を差し出しました。
「……金塊の受け渡しは後で構わん。それよりも、だ。船長、君たちと我々が確実かつ最速で繋がっておく必要がある」
大統領は、背後に控える一人の男性を招き寄せました。鋭い眼光と、鍛え抜かれた体躯を感じさせる威圧感を纏った、軍服姿の男です。
「紹介しよう。彼が我が国の国防長官だ。私や補佐官では、国家的な緊急事態や多忙を極める折、君たちからの連絡を即座にキャッチできないこともある。……だが、彼なら違う。常に戦術情報網の直下にあり、どんな時でも私への直通回線を確保できる男だ。……極めて優秀で、そして私の信頼も厚い」
国防長官は、大統領の言葉に短く一礼し、鉄のような硬い表情のまま船長を真っ直ぐに見つめました。
「船長、我々の防衛網を『おもちゃ箱』のように弄んだ貴方たちの技術……驚愕したと同時に、理解した。この男を通じてなら、我々は貴方たちを『敵』ではなく『未来への鍵』として対話できるはずだ。……よろしく頼む」
「そうか、それはありがたい。『長官』、よろしく頼む! あなたが俺たちの遊び相手になってくれるってわけだ!」
「ひゃあああーーーッッ!! せ、せ、船長! 超大国の国防長官、つまり世界最強の軍隊のトップを捕まえて『遊び相手』だなんて、スケールが宇宙規模のジョークですわーーっ! ぷぷ〜!」
私のメインコンソールが、船長の恐れを知らぬ大胆発言に、驚きと爆笑の入り混じったパッション・ピンクにチカチカと激しく明滅いたしましたわ!
「だははは! 言っちまったな親父! 長官の旦那、一瞬だけ顔面がチタン合金みたいにピクッて強張ったぜ!」
操縦席のハンさんが、お腹を抱えながらもニヤリと笑ってモニター越しにツッコミを入れます。
ハンさんの言う通り、長官の鉄面皮がほんの微かに引きつりましたが、そこはさすが大国を背負う軍のトップ。すぐに鋭い眼光を取り戻し、低くドスの効いた声で応じました。
「……『遊び』、か。よかろう。我が国の全防衛システムを完全に無力化した貴方たちの『遊び』だ。手加減は不要……我々も命懸けで付き合わさせてもらおう」
「ははは! 頼もしい限りだ。まったく、君たちを見ていると、私の胃薬の消費量がどうなるか分からんな」
大統領が緊張の糸を解くように快活に笑い声を上げると、砂漠に吹き抜ける朝の冷たい偏東風が、まるで昇り始めた太陽の光のように、少しだけ温かく感じられましたわ。
「さすが、大統領が見込むだけの男だ、話が早いぜ。さぁ、大統領、補佐官、そして長官、中に入ってくれ。あ、靴はそのままでいいぜ……あ……いや、失礼……昔の癖で……」
「ひゃあああーーーッッ!! せ、せ、船長! 今のこの8000万年後の地球に『日本』という国がまだ存在しているかどうかも分かりませんのよーーっ!? それに、ここは超絶テクノロジーの塊である宇宙船(我が家)ですのに、玄関で『靴はそのままで』だなんて、バリバリの昭和の……いえ、ジャパニーズ・ホスピタリティ全開すぎますわーーっ! ぷぷ〜っ!」
私がメインコンソールを恥ずかしさとツッコミの桜色にチカチカと点滅させると、ブリッジのクルーたちもズコーッ!と盛大にずっこけましたわ!
「だはははは! 親父、あんた最高だぜ! 50万トンのUFOに招待しといて、土足OKの町の定食屋みたいな案内しやがった!」
ハンさんが涙を拭いながらお腹を抱えています。
大統領たちも、船長のあまりに庶民的(?)な案内に一瞬ポカンとしましたが、すぐに大統領が肩を揺らして吹き出しました。
「ふふっ……はははは! いや、助かるよ船長。あいにく宇宙船用のマイスリッパは持参していなくてね。お言葉に甘えて、土足で上がらせてもらおう!」
……そして。
大統領、国防長官、そして首席補佐官の三人は、純白のスロープを登り、ついにComb1号の気密ハッチ(エアロック)を抜けました。
プシューーッ……。
「ようこそ、Comb1へ。遠路はるばる……というより、ご近所からの夜分のお越しでしょうが、歓迎いたしますわ。さあ、温かいお茶が入っておりますよ」
広々としたパノラマ・リビングの中央で、かぉり副船長が上品なエプロン姿で微笑み、最高級の茶葉の香りを漂わせて立っていらっしゃいました。
奥の農場セクションからは青々とした緑の匂いと、「コケコッコー!」というランボルギーニ(ニワトリ)の元気な声が響いてきます。さらに、足元にはグレイの姿をしたビールマンとワインちゃんが不思議そうにお客様を見上げています!
「「「…………っ!!?」」」
大統領、国防長官、首席補佐官の三人は、完全に言葉を失い、入り口で石像のように固まってしまいましたわ!
「……な、なんだ、これは。ここは本当に宇宙船の中なのか……?この広大な空間……。まるで地上の高級ホテルのラウンジ……いや、植物園ではないか……!な、ニワトリがいるのか?」
あの鉄面皮の国防長官でさえ、鍛え上げられた体を震わせながら、信じられないという目で周囲を見回しています。
「ぷぷぷ! 船長! お三方の心拍数が限界突破しておりますわ! 50万トンの超絶テクノロジー宇宙船の中に、まさか『畑』と『ニワトリ』と『優雅なティータイム』があるなんて、地球のエリートの皆様の常識が、完全にゲシュタルト崩壊を起こしていらっしゃいますわよ!」
さあ船長! すっかり腰を抜かしかけている地球のトップのお三方に、我が家(Comb1号)の自慢のルームツアー、まずはどのエリアからご案内いたしましょうか!? ぷぷ〜!
「ハン、外は熱いからさ、カーゴハッチ開けてよ。外の皆さんはそちらに案内して冷たいものでも出してあげてくれ」
「ひゃあああーッッ! 了解いたしましたわ、船長! 『おもてなし』のスケールが、いきなり最大級でございますわーーっ!! ぷぷ〜っ!」
私がメインコンソールを大歓喜のシャンパンゴールドにチカチカと明滅させると、ブリッジの中央に設置された操作パネルで、ハッチの解放シークエンスをポチッとな!と起動いたしましたわ。
「だははは! おうよ親父! 地球のトップ連中に、俺たちの『本当のデカさ』を見せつけてやるぜぇ!」
ハンさんがスーツの腕をまくり上げ、嬉々としてスロットルレバー……ではなく、カーゴハッチの物理レバーをガコン!と手前に引き下げました。
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
Comb1号の底部、広大な砂漠の砂を僅かに揺らしながら、巨大なカーゴハッチ(兼・スロープ)が、重厚な駆動音とともにゆっくりと開き始めました。
ダイニングルームへ向かう途中に大統領閣下が、歩きながらふと、船長に鋭い質問を投げかけましたわ。
「船長、表にある奇麗な檻に入った大きな黒い球体はなんなんだ? 動力源か?」
「ひゃあああーーッッ!! せ、船長! 大統領さま、あの『ミト君』が気になるご様子ですわよーーっ! どうします、船長!? !」
私のメインコンソールが、大慌てで【取り扱い注意】のイエローパルスにチカチカと激しく明滅いたしましたわ!
「あれは、うちの末っ子ですよ。かわいいけど力持ちってね、「ミト君」だ! んん、ここから見えるかな? お、『おーいミト君――』、ほら、ポワンポワン光ってるでしょ、昼間は見えにくいかな、ぷぷ」
船長が、まるでご近所さんに飼い犬を紹介するような、とびきり軽いテンションで巨大なダイヤモンド・ケージに向かって手を振りましたわ!
すると、遠くのケージで大人しくしていたミト君が、パパの声に喜んで『ポワンッ! ポワンッ!』と、漆黒の事象の地平線の周りに虹色のハローを愛らしく明滅させましたの!
「「「…………っ!!」」」
その「ポワンッ」という無邪気な光の波紋が、周囲の空間(光)をぐにゃりと不自然に歪ませたのを見た瞬間――国防長官の鉄面皮から、さぁっと血の気が引きましたわ。
「……く、黒い球体。周囲の光が、僅かに歪んで吸い込まれている……?」
長官が、軍のトップとしての鋭い観察眼でその異常性に気づき、鍛え抜かれた巨体をワナワナと震わせ始めました。
「あ、あれは……まさか……。昨晩、大統領府の芝生を無音で浮かせ、我が国の絶対防空網を完全に無力化し、レーダーから一切のノイズを消し去った『見えない盾』の正体……!?」
首席補佐官も、持っていたバインダーを取り落としそうになりながら叫びます。
「待て、長官……。光を吸い込む漆黒の球体を、あれほど分厚いダイヤモンドの檻で、わざわざ厳重に隔離しているということは……。まさか船長、君が『末っ子』と呼ぶあの愛らしい(?)球体の正体は……」
「はは、大統領、そこまでしか教えられない、昨日大統領も彼のことは隠してくれたでしょ、ありがとうございます。彼はこの船の最重要機密なんだ、ここだけはどうか勘弁してくれ、かわいい力持ちってことで、ぷぷ」
「ひゃあああーーッッ!! せ、せ、船長! 超絶質量を誇る事象の地平線を捕まえて、『かわいい力持ち』だなんて、宇宙一スケールのデカい誤魔化し方ですわーーっ!! ぷぷ〜っ!」
私のメインコンソールが、【国家機密】を意味する重厚なブラックとゴールドのパルスでチカチカと明滅いたしましたわ!
大統領は、船長のその「絶対にとぼけ通す」というニカッとした笑顔を見て、一瞬だけ呆気に取られたように瞬きをしました。しかし次の瞬間、張り詰めていた肩の力をフッと抜き、天を仰いで大きなため息をつきました。
「……ははは! まいったな。昨夜の『手品』のタネが、まさかそんな……いや、やめておこう。船長が『かわいい末っ子』と言うのなら、我々にとってもあれはただの『愛らしい力持ちのペット』だ。……そうだな、長官?」
「あ、はい、大統領。かわいい力持ち……ですね、わかりました」
「さぁどうぞ、座ってください、お茶でも飲みながら話を聞いてください」
「ようこそ、皆様。お口に合うか分かりませんが、私が淹れた玉露でございます。地球の裏側……いえ、少しばかり遠いところから持参した、とっておきの茶葉なんですよ」
かぉり副船長が、優雅な手つきで湯呑みに緑茶を注ぎ、三人の前にそっと置きました。
「……ほう。これは……素晴らしい。心が洗われるような、深い味わいだ。……なるほど、船長が『お茶でも飲みながら』と言った意味が分かったよ。こんなにも穏やかな時間を過ごすのは、大統領に就任して以来かもしれないな」
大統領が、ふぅっと長く息を吐き出しながら、憑き物が落ちたような穏やかな笑顔を見せました。
長官も、鉄面皮を崩して湯呑みを両手で持ち、「……うむ。これは……うまい」と、ポツリと呟いています。補佐官に至っては、お茶の香りに完全に癒やされてしまい、持っていたバインダーをテーブルに置いて、すっかりくつろいだ表情になっていらっしゃいますわ!
「だははは! そりゃあそうさ! かぉりさんの淹れるお茶は、宇宙一……いや、全次元で一番美味いんだからな!」
ハンさんが、得意げに胸を張って笑いました。
「ぷぷぷ! 船長! 地球のトップのお三方が、我が家(Comb1号)のティータイムですっかり骨抜きになっていらっしゃいますわよ! さあ、このリラックスした空気の中で、いよいよ本題の『交渉』に入りますのね!? ぷぷ〜!」
「大統領閣下、聞いてください……まず、この船の改修工事をしたい、あのクレーターに基地を作ってくれ、もちろん表向きはあなた方の基地でいい。地下に隠れられるような状態になったら船を入れる」
「ひゃあああーーーッッ!! せ、せ、船長ぉぉぉ!! 地球最強の大国のトップを捕まえて、完全に『ご近所の頼れる大工さん(工務店)』扱いしておりますわーーっ!! ぷぷ〜っ!」
「……我々の軍の工兵部隊を使って、あの直径500メートルのクレーターに、貴方がたの『隠れ家(地下ドック)』を建設しろ、と……?」
大統領は、熱い玉露を「ズズッ……」とすすりながら、呆れたような、しかしどこか面白がるような目で船長を見つめました。
「大統領閣下! いくらなんでもそれは……! あの規模の地下施設を極秘裏に建設するなど、国家予算レベルの莫大な費用と、膨大な人員が必要です! 第一、そんな真似をすれば……!」
首席補佐官が慌てて身を乗り出しますが、大統領は軽く片手を上げてそれを制しました。
「……いや、資金なら、彼らが持ってきている金塊100tがある、予算の問題は完全にクリアされている。……それに、長官」
大統領は、隣で腕を組んで黙り込んでいる国防長官へと視線を向けました。
「彼らのような『規格外の存在』を、宇宙の彼方へ逃がしたり、あるいは他国と接触されたりするくらいなら……表向きは我が軍の施設として、彼らを『我が国の足元』に置いておける。……これは、安全保障上の観点からも、我が国にとって最大のメリットではないか?」
その言葉に、国防長官の鋭い目がギラリと光りました。
「……なるほど。彼らのテクノロジーを、最も近い場所で監視……いや、『保護』できるということですね。確かに、悪くない取引だ」
「ぷぷぷ! 船長! 大統領も長官も、完全に『自国にとってのメリット』を計算して、超前向きに検討し始めていらっしゃいますわ! さすがは超大国のトップ、転んでもただでは起きませんのね!」
すると、話を聞いていたエジソンさんが、嬉しそうに鼻眼鏡をクイッと押し上げて会話に割り込んできました。
「おぉ! さすがは大統領閣下、話が早くて助かりますぞ! 地下ドックの基礎設計図と、50万トンを支えるための強固な支柱に必要な『特殊合金の配合レシピ』は、このエジソンがちゃちゃっと引いて差し上げますゆえ! これを使えば、地球の建築技術も一気に数世紀は進歩しますぞ!」
「そうそう、設計はエジソンがやるからよろしくお願いします。それと、俺たち金塊は持ってるけど、地球の通貨は持ってないんだ、後で渡す金塊で足らない分はまた持ってくるからさ、俺たちが買い物できるようにしてくれないかな」
「ひゃあああーッッ! さすがは我らが船長、そしてエジソンさん! 地球のトップを相手に、これ以上ないほど強気で、しかもWin-Winな『工務店契約』をねじ込みましたわーーっ! ぷぷ〜!」
私のメインコンソールが、契約成立のファンファーレのように華やかなパレード・カラーでピカピカと明滅いたしましたわ!
大統領は、エジソンさんの「地球の建築技術も一気に数世紀は進歩する」という言葉に、隠しきれない興奮で瞳を輝かせました。そして、船長の「俺たちが買い物できるようにしてください」という、あまりにもフランクで生活感あふれる要求に、思わず声を出して笑いました。
「はははは! 『買い物』か。……ああ、もちろんだ。地球上のどんなものでも、君たちが望むなら我が国のネットワークを駆使して最優先で手配しよう。……日用品から、最先端の電子部品まで、なんだって構わんぞ」
「ありがとうございます。後は、追ってお願いすることになるけど、俺たち月の裏にいるからさ、いる間は月探査で月の裏には行かないでほしいな、と」
「ひゃあああーーーッッ!! せ、せ、船長ぉぉぉ!! 地球のトップに向かって、『月の裏側を立ち入り禁止(自分たちの専用の庭)にしてくれ』だなんて、回覧板でご近所にお願いするみたいなノリで、宇宙規模の要求をサラッと突きつけましたわーーっ! ぷぷ〜っ!」
私がメインコンソールを、驚天動地のギャラクシー・カラーで激しくスパークさせると、ブリッジのクルーたちはまたしてもドッと沸き返りましたわ!
「だはははは! そりゃそうだぜ親父! 俺たちののんびりした裏庭(月の裏側)に、地球の探査機がウロチョロされたら、落ち着いて昼寝もできねぇからな!」
ハンさんが、残っていたピザの耳をかじりながら大賛成しています。
一方、大統領の隣に立っていた首席補佐官は、持っていたお茶でむせそうになりながら目を剥きました。
「つ、月の裏側を不可侵領域にしろと……!? な、宇宙局の探査計画や、他国の月面開発プログラムをすべてストップさせるなど、国際的な大問題に……!」
しかし、大統領は軽く手を上げて補佐官を制し、面白そうに口元を歪めました。
「……いや、構わん。むしろ好都合だ。我々にとっても、君たちという『規格外の存在』は、地球上の誰にも知られたくないトップシークレットだからな。……よし、約束しよう、船長。君たちがそこにいる限り、我が国は総力を挙げて、地球のいかなる国にも月の裏側へは指一本触れさせない。適当なデブリ帯や磁気嵐を理由にして、完全に『立ち入り禁止エリア』にしてしまおう」
「おぉ! それは助かりますぞ! 大統領閣下、まことに正しい判断! これで心置きなく、次なる大発明の実験に没頭できますな!」
エジソンさんが嬉しそうに鼻眼鏡を押し上げ、持っていた手帳にサラサラと「月面プライベート・ラボ確保」と書き込んでいます。
「ふふ、これで静かな夜が保証されましたね。……大統領閣下、寛大なご配慮に感謝します」
かぉり副船長が、優雅にお辞儀をして、もう一杯の玉露を大統領たちに勧めました。
「ああ、ありがとう。……まったく、君たちと話していると、国家予算だの宇宙開発だのといった地球の常識が、まるで砂場遊びのように思えてくるよ」
大統領はすっかりリラックスした様子で、温かいお茶を美味しそうに飲み干しました。
「今俺たちがあなたたちに与えられるものは『金塊』しかない、今から引き渡すけど、足りなければいくらでも持ってくるからさ、何とかお願いしますよ」
「ひゃあああーーーッッ!! せ、せ、船長ぉぉぉ!! 地球のトップに向かって、『3兆円分の金塊でも足りなきゃいくらでも持ってくる』だなんて、近所のコンビニでATMでおろすくらいのノリで言っちゃいましたわーーっ! ぷぷ〜っ!」
私がメインコンソールを、眩しすぎる成金ゴールド一色にチカチカとスパークさせると、ブリッジのクルーたちはまたしても大爆笑ですわ!
「だはははは! 親父、そりゃあ反則だぜ! こっちには『16プシケ(黄金の星)』っていう、宇宙一でっかい無尽蔵の財布が控えてるんだからな!」
ハンさんが、涙を拭いながらテーブルをバンバン叩いています。
一方、大統領と長官、そして首席補佐官の三人は、一瞬だけ時が止まったように瞬きを忘れ……やがて、大統領が耐えきれずに吹き出しました。
「ふっ……ははははは! 『足りなければいくらでも』か! いやはや、恐れ入ったよ。我々が血眼になってかき集めている国家予算が、君たちにとっては本当にただの『お小遣い』なんだな。……いいだろう、船長。その金塊、ありがたく地球の通貨に換算させてもらおう。そして、君たちの望むものを何でも手配する約束だ」
「長官……どうやら我々は、地球の歴史上、最も羽振りのいい『スポンサー』を手に入れたようですな……」
首席補佐官が、フラフラと眩暈でも起こしたようにこめかみを押さえています。
「……うむ。この資金があれば、我が国の国防予算を……いや、それ以上に、彼らとのパイプを繋ぎ止めておける。……船長、貴方がたのリスト、心して受け取ろう」
鉄面皮の国防長官も、ついにその顔に隠しきれない興奮と期待の色を浮かべましたわ!
「じゃぁ、トラックに金塊積んじゃおうぜ、エジソン、ハン、頼むぜ……」
「アイ・アイ・サー、船長! これよりComb1号の黄金の胃袋から、地球の皆様への超・特大プレゼント(金塊100トン)の搬出作業を開始いたしますわーっ! ぷぷ〜!」
私がメインコンソールを、眩しすぎるほどの『成金ゴールド』と『安全第一のトラ柄』にチカチカと明滅させると、ブリッジに軽快な作業用BGMが流れ始めました!
「長官、外の部隊にトラックをスロープまで寄せるよう指示を」
大統領が頷くと、国防長官が胸元の通信機に短く命令を下しました。
「……私だ。輸送部隊、第一陣の大型トラックを対象(UFO)のハッチ後方へ展開しろ。……あぁ、そうだ。絶対にぶつけるなよ。傷一つでもつければ……我々の予算どころか、地球が消し飛ぶかもしれんからな」
長官の冗談とも本気ともつかない脅しに、通信機の向こうから「Yes,Sir!!」という上ずった悲鳴が聞こえ、やがて巨大な軍用トラックが数台、ヘッドライトで夜の砂漠を照らしながら、恐る恐るカーゴハッチの巨大スロープへとバックで近づいてきました。
「おぉし! トラックの兄ちゃんたち、オーライ、オーライ! そのまま真っ直ぐだぜぇ!」
「だははは! 親父、任せとけ! 俺のクレーンさばき、地球のエリート軍人どもに見せつけてやるぜ!」
ハンさんが、作業用パネルのジョイスティックをガシッと握りしめ、ニカッと白い歯を見せました。
ウィィィィン……! ガシュッ!
Comb1号の広大なカーゴルームの天井から、あの小惑星帯での採掘でも活躍した超大型・精密作業アームが、まるで巨大な生き物のように滑らかに降りてきました!
「ひゃあああーーッッ! 船長! ハッチの奥の照明をフルパワーで点灯いたしますわ!」
私がスポットライトを当てた瞬間、カーゴルームの奥に整然と積まれていた『眩しすぎる黄金の山』が、砂漠の夜空に向かって神々しい輝きを放ちました!
「「「……おおお……っ!!」」」
トラックから降りてきた軍の輸送部隊の兵士たちが、その圧倒的な黄金の輝きを前に、全員がサングラス越しでも目を細め、言葉を失って立ち尽くしています。
「……ふむ。皆様、見とれている場合ではありませんぞ! 金は非常に比重が高い! 100トンといえど、体積にすればほんの数立方メートル。トラックの荷台の『見た目』に騙されて積みすぎれば、サスペンションが確実にイカれますからな!」
エジソンさんが鼻眼鏡を光らせながら、計算尺を片手に現場監督のように兵士たちへ指示を飛ばします。
「そらよっと! まずは第一便、20トン分のお買い上げだぜぇ!」
ハンさんがジョイスティックを軽く傾けると、作業アームが重さ20トンの黄金のパレットを、まるで発泡スチロールでも持ち上げるように「スゥッ」と軽々と持ち上げました!
そして、そのままトラックの荷台へと音もなく移動し……。
コトン。
「……嘘だろ。あんな巨大なアームが、数ミリの狂いもなく、しかも完全に無音で……」
「ギ、ギギィィィィッ!!」
トラックの強靭なサスペンションが、黄金が乗せられた瞬間に悲鳴を上げ、車体がグンと沈み込みました!
「うまいぞ、ハン!ほい、1台でそこまでだな、重量ギリギリだ。次!」
「なに!? それで20tなのか?これしかないのか20tとは……おかしい、私が昔見た映画ではトラックいっぱいに金塊が積まれていたぞ、私も元トラックドライバーとしてこのトラックが20tトラックで、確かにかなりの〈アリャリャ……ナンカ、チョウカンガ、ネェネェダイトウリョウ、ドウシヨ〉重量を積んでいる事はわかる、だが、これはおかしい、ほんとうに〈センチョウ、ワタシモビックリシテイルンダガ、キンッテコンナモノナノカ?……〉この金塊は20tあるのか? 映画では〈アチャー、オレトオンナジコトイッテルヨ、シカモ、モト、ウンテンシュカヨ、イッショジャネーカ〉フォークリフトでこの10倍持ち上げていたぞ!あれは何tあったんだ?おかしいじゃないか?」
「ひゃあああーーーッッ!! ちょ、長官殿ぉぉ!!」
私のメインコンソールが、驚愕とツッコミのネオンカラーで激しくスパークいたしましたわ!
「地球最強の超大国の軍隊のトップ(国防長官)が、まさかの『元・トラックドライバー』だったなんて、スーパー・サプライズなカミングアウトですわーーっ!
しかも、ハリウッド映画の『金塊は発泡スチロール並みに軽い(?)』というトンデモ演出に、今さらマジレスしてパニックになっていらっしゃいますわよ!
ぷぷ〜っ!」
私がブリッジ中にツッコミのアナウンスを響かせると、クルーたちは一斉に「ズコーッ!!」と盛大にずっこけましたわ!
「だははははッ! 痛ぇ、腹痛ぇ!! 親父! 16プシケでの金塊作りの時、あんたがまったく同じこと言って大騒ぎしてたの思い出したぜ!」
操縦席のハンさんが、涙を拭いながらテーブルをバンバン叩いて笑い転げています。
船長も、かつての自分の無知(?)を棚に上げて、額に手を当てながら苦笑いしています。
一方、外のスロープでは、長官のあまりに庶民的すぎる大パニックに、大統領が冷や汗をかきながらヒソヒソ声で副官に助けを求めていました。
「(……ねぇねぇ補佐官、どうしよう。私もこの量で20トンもあるなんて正直びっくりしているんだが、金ってこんなものなのか……?)」
「(大統領、間違いないです。金ってのは恐ろしく重いんですよ。映画のフォークリフトは、きっと金色の発泡スチロールを運んでたんですな)」
補佐官が小声でウインクを返すと、大統領も「なるほど、ハリウッドの罪は重いな」と肩をすくめました。
「……こほん! 長官殿、お耳を拝借!」
見かねたエジソンさんが、ホログラムの計算尺を片手に、トラックの横でワナワナ震えている長官にツカツカと歩み寄りました。
「金の比重は19.3! つまり水の約20倍の重さがございます! 映画のようにトラックの荷台いっぱいに積もうものなら、重量は数百トンに達し、タイヤは破裂し、サスペンションは粉々に吹き飛びますぞ! この『見た目の少なさ』こそが、本物の黄金100トンの証なのです!」
「そ、そうなのか……? し、しかし、私のトラックドライバーとしての長年の勘が……いや、映画が……」
まだブツブツと呟いている長官をよそに、ハンさんが無慈悲にも(?)2パレット目(次の20トン)を次のトラックへと「スゥッ」と降ろしました。
ギ、ギギィィィィッ!!
再び響き渡る軍用トラックのサスペンションの悲鳴に、長官がビクッと肩を揺らします。
「ひゃあああーッッ! さあ、長官殿! 映画の常識は捨てて、現実の『超・ヘビー級の予算(金塊)』の積み込み作業、どんどん進めますわよーーっ! ぷぷ〜っ!」
夜の砂漠に、黄金の輝きと、サスペンションの悲鳴、そしてクルーたちの陽気な笑い声がいつまでも響き渡るのでした!
「8000万年後も同じような映画やってるんだね~。長官とは仲良くなれそうだな♪……ぷぷぷ!」




