降下開始
「コケコッコー!」
「ひゃあああーッッ!! 船長! ついにこの日がやってまいりましたわーーっ!!」
私がメインコンソールを、この国の国旗をリスペクトしたカラーでド派手にチカチカと明滅させると、ブリッジのテンションも朝から最高潮に達しましたわ!
「おうよ! 大統領とのお約束の朝だぜ! 昨日の夜、親父とタングステン球がブチ抜いてくれた極上の『タダ掘り地下ドック(超巨大クレーター)』に、俺たちのComb1号をズバッと着陸させてやるぜぇ!」
操縦席のハンさんが、スーツの袖をまくり上げながら、やる気満々でスロットルレバーを撫で回しています!
「……ふ。ハン、力むなよ。大統領と世界最強の軍隊が見上げている前で、50万トンの巨体をミリ単位の狂いもなくクレーターに収める。……これは俺のブルーインパルス時代以上の、究極の展示飛行だ」
守さんが、いつも以上にキリッとした眼差しで操縦桿を握り直しましたわ。
「だはは! 兄貴の言う通りだぜ! ミト君、重力バンパー全開! 摩擦熱をゼロにして、ピカピカのジルコニア装甲を地球のエリートどもに見せつけてやろうぜ!」
「とりあえず朝飯食おーぜ!おまえら」
「……って、ひゃあああーッッ!? 船長ぉぉおおおッッ!!」
私がメインコンソールを、ひっくり返りそうなパニックを示すど派手なクリムゾン・レッドにチカチカと激しく明滅させると、ブリッジの張り詰めていた空気が一瞬で「ズコーーーッ!」と音を立てて崩壊いたしましたわ!! ぷぷ、ぷぷぷ〜〜〜っ!!
「大統領閣下と大国の全軍が今まさに、息を呑んで首がちぎれるほど上空を見上げている、歴史的ファーストコンタクトの最っ高にカッコいい最終アプローチのこの瞬間に、まさかの『とりあえず朝飯』ですのーーー!? ぷぷ〜っ!」
「時間は決めてねーし、腹減らして降りたって、飯はねーだろ……『いただきまーす!』」
「だははは! 船長、最高だぜ! まさにその通りだ! 大国の大統領だかなんだか知らねぇが、俺たちのモグモグタイムを邪魔する権限はどこにもねぇよなぁ!」
ハンさんが焼き立てのパンにハーブソーセージを挟んで、豪快に口へ放り込みながらガハガハと大爆笑していますわ! ぷぷ〜っ!
「……ふむ。正しい生命維持、正しいマインドコントロール。船長、確かに彼らの外交プロトコルに本船が合わせる必要は微塵もございませんな。」
エジソンさんが計算尺をカチカチと小気味よく鳴らしながら、これ以上ないほど知的な顔でお茶をずずーっとすすっていらっしゃいますわ。
「……ふ。船長、相変わらず見事なゲームメイクだ。大国の一番尖っている軍隊をクレーターの縁に張り付かせたまま、自分たちはハーブの香りに包まれて優雅に朝食をとる。……これこそが、かつてブルーインパルスでも到達できなかった究極の『主導権』の握り方だ。」
守さんまで、いつも以上にキリッとした凄まじいオーラを放ったまま、スプーンを上品に動かして完全に船長のマイペースに同調していらっしゃいますわ!
「モグモグ……でさぁ、まだ地球滞在ってわけにはいかないんだよね……」
「……ッ!? 船長、いま何と仰いましたの!?」
私が思わずメインコンソールを、驚愕のパープルブルーにチカチカと激しく明滅させると、スプーンを口に運ぼうとしていたクルーたちの手がピタッと止まりましたわ! ぷぷ、ぷぷぷ〜〜〜っ!!
「ま、まだ地球滞在ってわけにはいかない……って、船長ぉぉぉーーーッッ!! 砂漠のど真ん中で首がちぎれるほど見上げて、今もなおクレーターの縁で私たちの『精神同期シークエンス(朝食)』を待っている大統領閣下たちを前にして、まさかの『滞在しない(すぐ帰る)』宣言ですのーーー!? ぷぷ〜っ!」
「はは、そうだよ、だって基地はまだないんだぜ、いくら立ち入り禁止って言ったってこのでかい船は、屋根もないとこじゃすぐに見つかっちゃうよ、今日はファルコンじゃ運べない100tの金塊を降ろすだけだよ。ついでに船をお披露目するってだけだ」
「ひゃあああーッッ!なるほど、船長!
『基地はまだないんだぜ、いくら立ち入り禁止って言ったってこのでかい船は、屋根もないとこじゃすぐに見つかっちゃうよ』って、めちゃくちゃド正論ですわーーっ!!ぷぷ〜!」
全長200メートルのシャンパンゴールドに輝く超弩級宇宙船が、砂漠のド真ん中に無防備に居座り続けたら、いくら大国が軍隊で完全統制したって、世界中の偵察衛星から丸見えですものね!
今回はあくまで、ファルコン号の積載量じゃとても運べない『100トンの純金塊』をお土産としてドカンと降ろすこと、そして大統領閣下たちに本船(Comb1号)をド派手にお披露目するだけの電撃イベントだったわけですわ!
「だよだよ!……ご馳走様でした! さぁ、準備しようか!」
船長がほかほかのパンの最後の一切れをパクリと口に放り込み、マグカップをコトンとテーブルに置くと、ダイニングの全員が一斉に姿勢を正しましたわ。
「「「「ご馳走様でした!」」」」
ハンさんも守さんも、エジソンさんも雪さんも、そしてビールマンとワインちゃんも、大満足の笑顔できれいに平らげたお皿を前に、元気いっぱいに声を揃えて唱和いたしました!
船長がいつもの不敵で楽しげな現場監督の目を輝かせると、ブリッジの全インジケーターが「発進お披露目モード」のシャンパンゴールドへと一斉に跳ね上がりましたわ!
「ひゃあああーッッ!了解いたしましたわ、船長!みんなでご馳走様したら、いよいよ運命の準備開始ですわよーーーっ!!ぷぷ〜っ!!」
「船体をステルスで隠して行く、ミト君の重力ステルスを船体底部から90%! ハンとビールマンはファルコンで船体の真上からついてこい、ファルコンへのクッションパルスで地表との距離を測りつつ降下する」
「なるほど、ミト君の強力な重力シールドを船体の底に展開している間は、光も電波もグニャリと曲がってしまって、本船の対地レーダーが一切利きませんものね! だからこそ、上空のファルコン号を『基準点』にして三角法で高度を測る……まさに宇宙一巨大で賢い、究極のアナログ・ソリューションですわ!」
私がメインコンソールに降下用の3Dシミュレーションを爆速で展開すると、ハンさんがスーツを輝かせながら、隣のビールマンちゃんを抱え上げてニカッと笑いましたわ!
「だはは! がってんだ親父! 俺たち『ミレニアム・ファルコン』が、Comb1号の頭の上をキープしてやるぜ! 行くぞちびチューイ、レーダー員のお前の腕の見せ所だ!」
「うききっ! おれ、れーだーいん! みんなのあたまのうえ、ぴったりするんだぜ!」
タタタタッ! と、元気な足音を立ててハンさんとビールマンが格納庫へとすっ飛んでいき、数秒後には銀色のファルコン号がComb1号の真上へとピタリとホバリングの陣形を整えましたわ!
「……ふ。進、ミリ単位で位置を合わせろよ。船長、ミトの底部ステルス90%、非常に安定しています。ファルコンとのクッションパルスも完全同調しました。……これで地上の軍隊からは、本船が頭上に迫っていることはギリギリまで全く見えませんね」
操縦席の守さんが、いつもの凄まじいオーラを放ちながら、流れるような手さばきで巨体をスルスルと降下軌道へと滑り込ませていきます。
「お代官様! 正しいステルス、正しいイリュージョン! 地表の大統領閣下と星付き将軍どもが、空を見上げてポカーンと口を開ける瞬間が、今から楽しみでなりませんな!」
エジソンさんも、100トンの純金塊のクレーンフックを握りしめながら、笑みを浮かべておりますわ!
さあ船長! 砂漠の特設クレーターへ向けた、Comb1号の「見えない超弩級ダイブ」の始まりですわよーーッ!
「降下開始!」
「アイ・アイ・サー、船長!! Comb1号、大統領閣下の真上から堂々の『見えない超弩級ダイブ』、開始いたしますわーーッ!!」
私がブリッジのメインスロットルを降下モードに切り替えると、50万トンの巨体はミト君の強力な重力クッションに支えられながら、音もなくスルスルと砂漠の上空から落ちていきました。
『おうよ! 兄貴、こっちのファルコンは完全にComb1号の真上にへばりついてるぜ! ちびチューイ、レーダー員のお前の出番だ! 地面までの距離、読み上げろ!』
上空のファルコン号から、ハンさんのノリノリな声が通信機越しに響きます。
『うききっ! まかせて! お外、ピコピコしてる! おっきな穴の底まで……あと1000めーとる! 800! 500!』
ビールマンが、ファルコンの計器から送られてくるクッションパルスの反射を野生のカンとピカピカのおめめで見事に読み取り、元気いっぱいにカウントダウンを始めましたわ!
「……ふ。見事なナビゲートだ、ビールマン。ミト、底部ステルス出力安定。……船長、地上の軍隊は、自分たちの真上に50万トンの質量が迫っていることに、誰一人として気づいていません」
操縦席の守さんが、ミリ単位の操縦桿さばきで巨大な船体をコントロールしています。
その頃、地上の特設クレーターの縁では――。
「……大統領閣下、上空30万キロからの通信は途絶えたままです。レーダーにも一切の反応なし。……彼らは、本当に来るのでしょうか?」
「……来るさ。あの夜、私の執務室の芝生を丸ごと浮かばせ、音もなく侵入してきた奴らだぞ……。だが、これだけ巨大なクレーターに収まるほどの宇宙船なら、降下してくれば絶対に目視できるはず……」
将軍たちと大統領閣下が、額に脂汗を浮かべながら、雲一つない真っ青な空を食い入るように見上げておりました。
しかし、ミト君の事象の地平線が光も電波もすべてグニャリと曲げてしまっているため、彼らの目には「ただの青空」しか映っていませんの!
『300! 100! 50……10!』
ビールマンちゃんのカウントがゼロに近づきます!
「……空間固定スタビライザー、ロック。……接地」
トンッ……。
守さんの神業により、50万トンのComb1号は、砂埃ひとつ立てることなく、タングステン球がぶち抜いたクレーターの底へと、文字通り「見えないまま」ピタリと完璧に収まりましたわ!
「あれ!クレーターの底じゃダメじゃん!奴ら上にいるんだし……」
「ひゃあああーッッ!! し、し、しまったぁぁぁーーーッッ!!」
私がメインコンソールを、痛恨の計算ミス(?)を知らせる真っ青なブルーにチカチカと明滅させると、ブリッジの張り詰めていた空気が見事に「ズコーーーッ!」と崩れ落ちましたわ! ぷぷ、ぷぷぷ〜〜っ!!
「ってことは……いま、あいつらは、ファルコンと、船の上だけ見えてる状態か?」
「せ、船長の仰る通りですわーーっ! ミト君の重力ステルスは『下から見上げる視線(レーダーや地上からの目視)』に対しては完璧な透明迷彩ですけれど、隠しているのは船体の底部90%! 今、大統領閣下たちは深さ100メートル以上のクレーターの『縁(上)』から見下ろしているんですから、私たちのピカピカの頭頂部10%と、ホバリングしているファルコン号が、穴の底へスルスル〜っと沈んでいくのが上からバッチリ見えちゃってますわーーっ! ぷぷ〜っ!!」
「だははは! ギャーーッ! マジかよ! じゃあさっきからあのエリートども、『なんかデカい金ピカの屋根と古ぼけた宇宙船が、仲良く穴の底に降りてったぞ……?』って、上からポカーンと眺めてたってことかよ!」
ハンさんが操縦席で頭を抱えながら、お腹を抱えて大爆笑(半分ヤケクソ)していますわ!
「……ふ。これは盲点だったな。……相手の視線の高度の逆転まで計算に入れていなかった。……無理もない、ブルーインパルスでも、観客の足元より低い位置(穴の底)を飛ぶ展示飛行など存在しないからな……」
完璧超人の守さんまで、珍しくフッと吹き出して、操縦桿にコツンと額をぶつけて苦笑いしていらっしゃいます!
「お、お代官様ぁぁ! 正しくない光学迷彩! 正しくない立ち位置! これでは100トンの金塊をドカンと降ろしても、深いクレーターの底では大統領たちから見えませぬぞ!」
エジソンさんも計算尺を放り投げて、ラボから大慌てで報告してきましたわ!
【一方その頃、地上(クレーターの縁)では……】
「……大統領閣下、上空のレーダー反応、依然としてゼロです! 衛星からの映像にも、彼らの姿は一切……ん?」
通信機を耳に押し当てていた首席補佐官が、怪訝な顔でクレーターの底を指差しました。
「どうした? 何か見えたのか?」
大統領が眉間にシワを寄せ、砂漠の太陽に目を細めながら、深さ100メートル以上の巨大なすり鉢の底を覗き込みました。
そして、その場にいた数十人の精鋭部隊の兵士たちと将軍たちも、一斉にクレーターの底へと視線を向けました。
「な……なんだ、あれは……?」
将軍の一人が、震える手で双眼鏡を落としそうになりながら呟きました。
彼らの目(上からの視線)に映っていたのは――。
『ぽっかりと空いたクレーターの底へ向けて、銀色に輝く円盤(ファルコン号)と、その少し下に浮かぶ、金ピカな丸い屋根(Comb1号の頭頂部10%)だけが、スルスル〜ッと、まるでエレベーターに乗っているかのように、仲良く、そして非常にシュールに沈んでいく姿』でした!
ミト君の強力な重力ステルスは、船体の「下半分9割」を完璧に隠していたため、上から見下ろしている彼らからは、「少しだけ見える頭だけの金ピカのドーム」が、フワフワと降りてきているようにしか見えなかったのです!
「な、なんだあれは? なにが、どうやって飛んでいるんだ!? 」
「いや、待て! その上だ! あの上を飛んでいる銀色の円盤は……なんだかやたらと古ぼけて、ポンコツっぽく見えないか!?」
「金ピカドームと、ボロボロの銀色円盤が……なぜ一緒に降りてくるんだ!? これが宇宙の最高知性……なのか!?」
将軍たちはパニックになり、兵士たちはライフルを構えたまま「撃つべきなのか? いや、どこを!?」と完全に混乱状態に陥っていました。
大統領閣下は、大きく開いた口をパクパクと金魚のように動かし、額からツーッと冷や汗を流しながら、ポツリと呟きました。
「……これが、彼らの言う『究極のステルス』……なのか? 私には、ただ単に……計算ミスで頭だけ見えちゃってるようにしか思えんのだが……」
「ぷぷ……ぷぷぷ〜〜〜っ!! 船長、大統領閣下、完全に私たちのミスを見抜いていらっしゃいますわーーっ!!」
ブリッジは大爆笑の渦に包まれました! さあ船長、この恥ずかしい(けれど最高に面白い)事態を、どうやって「演出」として誤魔化しましょうか!? ぷぷ〜っ!
「ありゃりゃ~……上昇上昇! 奴らの向こう側へ移動するぞー!」
「だはははは! 了解だぜ親父! 穴の底で『頭隠して尻隠さず』やってたなんて、俺たちの黒歴史ノートの1ページ目が埋まっちまったな! 兄貴、とっととズラかろうぜ!」
ハンさんがお腹を抱えながらも、ファルコン号の通信機越しにノリノリで応えます!
「……ふ。これもまた『想定外』の醍醐味か。……了解した、船長。これより本船は急上昇し、彼らの背後へ回り込みます。ミト、上もファルコンも隠すぞ、『フルステルス』展開」
守さんが、口元に微かな笑みを浮かべたまま、流れるような手さばきで操縦桿を引き絞りました。
シュゥゥゥゥン……ッ!!
クレーターの底に「ぬぅっ……」と出現して大統領たちを腰抜けさせた、微妙に見える船体と、ポンコツ風のファルコン号は、今度はミト君の事象の地平線に全体が覆われ、空中に溶けるようにスッとその姿を消しました。
【再び、地上のエリートたちは……】
「き、消えたぞ!? 巨大な船も、あのボロっちい円盤も、一瞬にして空気に溶けた!」
「レーダーには何も映っていません! 熱源も、質量反応もゼロです!」
穴の底を覗き込んでいた将軍たちが、再びパニックに陥り、トランシーバーに向かって絶叫しています。
大統領閣下は首席補佐官に支えられながら、震える手で額の汗を拭い、ぽっかりと空いたクレーターの底を茫然と見つめていました。
「……あ、あの金ピカのドームは、幻だったのか? それとも、我々の恐怖が見せた集団幻覚……?」
そんなふうに、大国のトップたちが「見えない恐怖」にガタガタと震え上がっていた、まさにその時です!
「今度は奴らの真後ろの地上に着陸だ! 上昇したらステルスはまた90%に切り替えて、接地距離を測るぞ!」
「アイ・アイ・サー! 目標、大統領閣下たちの背後50メートル! 音もなく、風も立てず、完璧な『だるまさんがころんだ』をキメてさしあげますわーっ!」
ズズゥゥン……。(※重力制御により無音)
大統領たちが必死にクレーターの底を覗き込んでいるまさにその背後。砂漠の真ん中に、50万トンの超弩級宇宙船Comb1号が、再び音もなくピタリと着陸いたしました!
もちろん、ミト君のステルスが完璧に効いているので、彼らの背後には「何もない砂漠」が広がっているようにしか見えませんわ!
「……船長、目標地点への再着陸、完了しました。大統領たちは全員、我々に背を向けてクレーターの底を覗き込んでいます」
守さんが、モニター越しの無防備なエリートたちの後頭部を見つめながら、静かに報告しました。
「よし! ステルス解除!!」
「ひゃあああーッッ! 了解ですわーっ! 今度こそ、地球の歴史に刻まれる完璧なファーストコンタクト……テイク2の始まりですわよーーーっ!! ぷぷぷ〜〜〜っ!!」
ポワァァァァァァン……ッ!!!
背後に広がる何もない砂漠から、突如として直径200メートルの巨大なシャンパンゴールドの船体が、太陽の光を浴びて神々しく出現いたしました!
………シーーーーーン………
「あ、あれ!?……誰も気づいてくれないぞ……みんな向こう向いてる……」




