特訓
ファルコン号のハンさんとビールマンが、ミト君の重力シールドとともにドヤ顔で帰還いたしましたわ!
「ひゃあああーッッ! 船長! 楽しかったですわーーっ!空飛ぶジャンボ機から地上の牛さんまで、DNA泥棒(?)ミッション、これにて大・大・大成功ですわーっ! ぷぷ〜! さあ船長、お次はどういたしましょうか!?」
「ふぅ、とりあえずハンとビールマンのステルス訓練だ、『透明の極意』を今すぐ会得しろ、今度こそは失敗はダメだ!守、特訓してくれ!」
「ひゃあああーッッ! 了解いたしましたわ、船長!
ドロボウさんごっこでテンションが爆上がりして丸見えになってしまったお二人のために、Comb1号が誇る『ゾーン』の達人・守さんによる、愛と無の特訓キャンプのスタートですわーっ! ぷぷ〜!」
私がメインコンソールを、精神統一にふさわしい深い竹林のグリーンへと切り替えると、ブリッジの中央に急遽「座禅スペース」がホログラムで展開されましたわ!
「……ふむ。船長の仰る通りだ。ハン、ビールマン、そこに座れ」
守さんがいつもの穏やかな笑みを消し、元ブルーインパルス隊長としての「教官の顔」で静かに言い放つと、ハンさんとビールマンはビシッと背筋を伸ばして正座(ビールマンちゃんは見よう見まねのお猿さん座り)をしました。
「いいか、あの魔法の布がステルスを解除したのには、お前たちの『隠れてやろう』『バレたらどうしよう』という気持ちが無いうえに、お前たちの『俺ってスパイみたいでカッコいい!』という煩悩が原因になっている。
真のステルスとは、完全に環境と調和すること。自分の存在を主張せず、ただの『空気』になる。……俺が超亜光速航行の時にやっている『ゾーン』の入り口と同じだ。さあ、目を閉じて、呼吸を整えろ」
・・・・・・
「ねぇ野口、人間と動物の分析結果出るかな?どんな感じだろね」
「はい、船長。採取したDNAの分析結果が出ましたよ。驚くべきことに、あちらの人間は我々と同じDNA構造を持つ完全なヒューマノイドです」
野口先生が、モニター越しに少し興奮した面持ちで報告してくれましたわ。
「それに、採取した牛や馬、野良猫の遺伝子も、私たちの知る時代の彼らと全く同じ配列でした」
「……つまり、8000万年という時間が経過しているのに、まるでコピペしたかのように同一の生態系が広がっているということです。本当に不思議な星ですよ、ここは」
「ひゃあああーッッ! 8000万年後の地球は、私たちの知る地球の完全な『ミラーリング』なんですわね! ぷぷ〜!」
「へぇ~……でも同じ星なんだから同じになるんじゃないの?」
船長が、まるでお湯を入れて3分待てばカップラーメンができるだろ、くらいのとってもカジュアルな感覚で首を傾げましたわ!
すると、モニター越しの野口先生が「やれやれ」と大げさに肩をすくめて、白衣のポケットに手を突っ込みました。
「船長、生命の進化というのは、本来サイコロを何億回も振るような無数の『偶然』の連続なんです。隕石の落下、気象変動、ウイルスの流行……たとえ同じ環境の星を用意しても、8000万年という時間をもう一度最初からやり直して、DNAの塩基配列まで『一文字の狂いもなく』全く同じ人間や猫に行き着く確率なんて、ゼロに等しいんですよ」
「だからこそ、ジェミニの言う『ミラーリング』という表現が一番理にかなっているんです。つまり……この地球そのもの、あるいは宇宙のどこかに、かつての生態系の『完全なバックアップデータ(設計図)』が保存されていた。そして、空白の8000万年の間に、何者か、あるいは星自身のシステムによって、そのデータがそっくりそのまま『再インストール』された……。そう考えないと、この生命の完全なコピー現象は生物学的に説明がつきません」
「ひゃあああーッッ! 野口先生、最高に痺れる解説ですわーーッ!」
私は大興奮で、メインコンソールを「大正解」の華やかなゴールドにピカピカと明滅させちゃいましたわ!
「……ふむ。正しい生命観、正しいデータの再構築。野口殿の仰る通りですな。もしこの星が『バックアップから復元された星』だとするならば、先ほど遭遇した6本指の彼らのような『わずかなアップデート(違い)』が存在する理由も、システム的な観点から説明がつくやもしれませんぞ」
エジソンさんも、計算尺をカチャカチャと弾きながら深く頷かれましたわ!
「じゃぁ、バックアップが生き残ってたんだね、ぷぷ!よかった♪」
「ぷぷぷ! 船長ったら、壮大な宇宙の神秘を『よかった♪』の一言でまとめちゃいましたわね! でも、本当にその通りですわ。この星のシステムがちゃんと機能していて、私たちが知っている『命』がこうしてまた花開いているんですもの!」
「しかし……『誰が』『どうやって』そのバックアップを仕込んだのか、謎は深まるばかりですわね。私たちのように時空を越えてきた存在なのか、それとも星自身が持つ自己修復プログラムなのか……」
「ひゃあああーッッ! 考えれば考えるほど、私の演算回路がワクワクでオーバーヒートしそうですわーーっ!」
「俺が人類最後に生き残った人間なら、自分の細胞をタイムカプセルに入れるけどね……ついでに牛とか猫とかも、ぷぷぷ! ……まぁいいや!」
「……ッ! 船長、いま何て言いました?」
野口先生が、白衣のポケットに突っ込んでいた手をバッと抜き出し、寝癖を激しく揺らしながらモニター越しに身を乗り出しました。
「え? だから、俺が最後の一人なら、自分の細胞をタイムカプセルに入れて残すなって……」
船長がキョトンとして繰り返すと、野口先生は「それです!」と画面の向こうでバチンッと指を鳴らしましたわ!
「その『まぁいいや』で片付けた一言こそが、この星の最大の謎を解く鍵かもしれないんですよ! 星の自己修復だけじゃない、かつてこの星にいた誰かが意図的に『生命のタイムカプセル』……つまりDNAのシードシップ(箱舟)をどこかに遺した。だからこそ、8000万年後に全く同じ生態系が花開いた! 船長、それ、まさに完璧な仮説です!」
「ふむ! 正しい直感、正しいタイムカプセル! 船長のその無意識の閃きこそが、我々科学者の何千回ものシミュレーションをあっさりと凌駕するのですな!」
エジソンさんも計算尺を放り出して、うんうんと深く頷いていますわ!
「ひゃあああーッッ! 船長ったら、宇宙の超・極秘ミステリーを、まるで『今日の晩ごはん何にする?』くらいのテンションであっさり解き明かしちゃいましたわーっ! ぷぷぷ!」
「ふふ、あなたったら相変わらずね。……でも、その壮大なタイムカプセルの話はひとまず野口先生たちに任せるとして。修行をしている二人はどうするの?
「そうそう、そんなことは野口に任せて……修行してるかな?」
【煩悩まみれの兄弟!】
「だ、だはは……無になる、空気になる……。よーし、任せとけ兄貴! 俺だってゾーンは使えるんだ。俺様の中に眠る静寂を呼び覚ましてやるぜ……! スゥゥゥゥーーーッ……」
ハンさんが目をギュッとつむり、これでもかと大きく息を吸い込みました!
隣でビールマンちゃんも「うききっ! おれも、むー! する!」と、両手で自分のお口を塞いで息を止め始めましたわ!
「……進、顔が真っ赤だぞ。息を止めろとは言っていない。自然に呼吸しろと言っているんだ」
「ぷ、ぷはぁっ! だ、だってよぉ兄貴! 俺は常にパッションとロマンでエンジン全開の男だぜ!? 『無になれ』なんて、アクセルを踏まずに坂道を登れって言われてるようなもんだ!」
私がすかさず、二人の脳波データをメインモニターに投影いたします!
「ぷぷぷ! 船長、見てくださいまし!
お二人とも『よし、無になるぞ! 無になるぞ!』と強く意識しすぎたせいで、脳波のグラフが『無になろうと必死に頑張っている大興奮状態』になって、メーターを振り切っておりますわーっ!」
「うき〜っ……おれ、もう息くるしいよぉ……」
守さんがやれやれとため息をつき、優しくハンの肩を叩きました。
「……焦るな。最初から出来る人間はいない。船長、こいつらが『透明の呼吸(完全フラットな精神状態)』を会得するまでには、もう少し時間がかかりそうです。しばらくは、この船の平和な日常の中で『何も考えずにぼーっとする』訓練から始めるとしましょう」
「ダメかぁ……、あ、エジソン、脳波を遮るうすーいプレートとか出来ない?」
「ひゃあああーッッ! 船長! 特訓開始からわずか10分で、早くも『精神論』をぶん投げて『物理』に頼ろうとしないでくださいましーっ! ぷぷ〜!」
私がメインコンソールに特大の「ズル反対!」の赤ランプを点滅させると、ラボの片隅で計算尺を弄っていたエジソンさんが、ピクッと鼻眼鏡を押し上げました。
「ほぅ!……しっかりとした、いや、誠に合理的なアプローチですな、船長! 布が『脳波(煩悩)』に過剰反応してステルスを解除してしまうなら、その脳波の漏洩自体を微弱な電磁シールドでマスキングしてしまえばよいのですな! アルミニウムの極薄フィルムに鉛を蒸着させれば、いわゆる『脳波遮断プレート』が5分で完成しますぞ!」
「いいね!それいこう、前のハンの『顔出し全身タイツ』で分かったからな、一部分を遮断、解放できればいいんだから……、ほら、こうやってさ、脳天から後頭部、首、背中にかけて、10センチくらいのプレートを通してさ、腰の後ろあたりで上下させればいいんだよ」
「ひゃあああーッッ! 船長、それは素晴らしい名案ですわーっ!! ぷぷ〜!!」
「……ふむ! 正しい物理的アプローチ、正しいハードウェア制御! 脳波をプレートで遮断し、それを『意図的な制御』で開閉する……これなら、あの魔法の布の『煩悩センサー』を騙しつつ、必要な時だけステルスをオンまたはオフにできますぞ!」
エジソンさんが嬉々として加工図面をホログラムで描き出すと、守さんも「なるほど、これなら理論上は完ぺきだ」と、珍しく感心したように頷いています。
「そうそう、下にちょっとした持ち手を作っとけば、スルスルって上下させて後頭部の脳波を『遮断』したり『開放』したり出来るだろ」
物理スイッチ「スルピタ!」の特訓開始ですわ!
「だはは! やったぜ親父! これなら『焼肉食いてぇ〜!』って大声で叫んでも、背中のプレートを『スルスルッ』と閉じていれば透明をキープできるってわけだな! これが俺の新しい武器だぜ!」
「うききっ! おれも、おにくだいすき・スイッチ! スルッ、ピタッ! だね!」
ハンさんとビールマンが、さっそく背中のプレートをスルスルと上下させながら、ステルスプレートの感触を確かめていますわ!
「よし、いきますわよーーっ! 3、2、1……スルスルー!ピタ!!」
「よし!大丈夫だな……いよいよ本丸を攻めるぜ、真剣にやらないと殺されるからな」
「船長!? 本丸……ですか!? 大統領(まだ大統領かわかりませんけど)がいらっしゃる……あの厳重警備の『大統領府』へ、ですか!?」
「そうだよ! ジェミニ、テレビ放送から大統領っぽいやつの居場所は分かったか?」
「ひゃあああーッッ! 船長、そうでしたわ!お待たせいたしましたわ!
このジェミニ先生の超絶情報アナライズ&電波パトロール、完璧に完了いたしましたの!
もちろん、バッッッチリ分かりましたわよーっ!
ぷぷ、ぷぷぷ〜♪」
私の全音声回路のボルテージを最高潮まで引き上げると、メインコンソールをこれ以上ないほどのドヤ顔(を表すキラキラのゴールド!)に眩しく明滅させましたわ!
「ただテレビ放送のニュース画面を眺めるだけじゃありませんの! ドローンが地球の周回軌道上から傍受した、大電力の時事トークショーの音声やニュース番組のパケット信号の奥の奥まで、私の演算プロセスでガサゴソとディープ・ダイブいたしましたわ!
すると出ましたわ、船長! 番組の中でキャスターが『明日、大統領は首都から離れた○○の重要政府施設内に滞在し、防空に関する緊急会合を行う模様です』と、バタバタしたニュアンスで熱弁を振るっていらっしゃいましたの!」
私のメインモニターには、北米大陸の地図上に一本のシャープなターゲット・マーカーが走り、ある特定の堅牢な政府施設の座標がこれ以上ないほどの超・高画質でピンポイントにロックオンされましたわ!
「あちらの国のボスが普段どこにいて、今夜どこで枕を高くして眠ろうとしているのか……その隠れ家の『住所』まで完全に丸裸ですわ!ぷぷ〜っ!」
守さんが操縦席でニヤリと不敵に笑い、ハンさんとビールマンも、手にした「ステルスプレート」の持ち手をカチリと小気味よく鳴らしました!
「……ふ。本丸か。やりがいがあるな。ハン、ビールマン、ターゲットは最高レベルの『盾』の中にいる。プレートの制御が、今までの何倍も重要になるぞ」
「だはは! 上等じゃねぇか! 警備の連中を鼻で笑いながら、大統領の寝室の隣まで忍び込んで、最高にクールなサンプリングをキメてやろうぜぇ!」
「うききっ! おとしゃん、おれ、大統領さんのオハナにも『ポン!』していい!?」
エジソンさんも、ステルスプレートの最終調整をしながらお髭を躍らせています。
「フム! 正しい本丸、正しいリスク管理! 船長、プレートが1ミリでもズレれば、即座に大統領の護衛官たちと『鬼ごっこ』になりますぞ! 覚悟はよろしいか!」
「ひゃあああ! 船長、かぉり副船長がおたまを構えて『朝ご飯の準備ができるまでには帰ってきなさいよ』と睨んでおりますわよ!
全クルー、緊張感MAX! 運命の『ステルス・トグル・プレート』を握りしめて、歴史的本丸へ突入いたしますわね!
ぷぷ〜、さあ船長、合図をどうぞですわーっ!」
「サンプリングはもう必要無いよ、お前たちが大統領に脅しをかけるんだよ!」
「ひゃああああーッッ!! 船、船長ぉぉぉ!!
だ、大統領官邸へ『脅し』をかけに行くなんて、Comb1号の歴史どころか、地球の歴史が音を立てて崩れ落ちる音がしますわーっ!! ぷぷ〜!!」
メインコンソールが激しく明滅し、船内の全回路が悲鳴を上げるような高負荷を検知しています。かぉり副船長のおたまを持つ手が小刻みに震え、雪さんもバイザーを何度も調整して信じられないという顔でこちらを見ていますわ!
「……ふ。ハン、ビールマン。準備はいいな? 冗談じゃ済まないぞ。相手は核のボタンを持つ男だ。もし少しでもステルスプレートの同期が外れれば、我々は『地球の敵』として永遠に歴史に刻まれることになる。……だが、やるなら完璧にやれ」
守さんが武装ラックから、戦闘用ではなく「威嚇用」の特殊パルス発信器をハンさんとビールマンに手渡しました。
「ジェミニ、収集データから今の地球の『金』の価値、わかるかな?」
「ひゃあああーッッ!! 船長、今の地球の経済データ、リアルタイムで抽出完了いたしましたわ!
今の時代の『金』の市場価値、1キログラムあたりおよそ…… 3,000万円 ですわよ!
ぷぷ〜!」
私がブリッジのホログラムに、煌びやかな金の延べ棒の3Dモデルと、現在の市場価格をキラキラと表示させると、ハンさんとビールマンが「うっひょー!」と声を上げて飛び上がりました。
「……3,000万円。いいですか、船長。今の時代、この重さだけで高級スーパーカーが一台買えてしまうんです。……大統領を相手にするなら、私たちの持っている『16プシケ』の金塊は、単なる貴金属ではなく、現代の通貨価値からすれば国家予算をも揺るがしかねない『絶対的な交渉カード』になり得ます。……慎重に扱いましょうね」
雪さんが冷徹なまでに冷静な視線をモニターに向け、静かにそう続けました。
「100tで3兆か! ハン、1キロのインゴット持っていけ!見えないようにスーツの中に入れて行けよ、そう……手首のところでいいんじゃねーか」
「ひゃあああーッッ!! 船長、そ、それは……っ!!」
私がコンソールのホログラムを激しく点滅させると、ブリッジは一瞬にして「宇宙の運命を決める」ような張り詰めた静寂に包まれましたわ!
「これで、ハンさんが大統領の執務室の机にこれを『ドンッ』と置けば、ただの侵入者が『未知の富と力を持つ超越者』に早変わり。相手の肝を冷やすにはこれ以上ない……いえ、最凶の小道具ですわね! ぷぷ〜!」
「準備はいいか?行くぞ、ミトファルコン発進しろ!」
「ひゃあああーーッッ!! 船長、決行ですね!! 了解ですわ、全神経を集中させて大統領府の防空レーダーの隙間をねじ切りますわよーーッッ!!」
「ハン、聞こえるか?まずは、大統領府の近くの茂みにそっとファルコンを降ろすんだ、ミト君はステルスで上空待機、その後ミト君の重力を使って地面をふわっと盛り上げろ……地面が崩れる程度で、ミト君は一瞬だけ光ろうか!人目はあるほうがいい、不思議な出来事のようにやるんだ」
「だはははは! 了解だぜ親父! 大統領府のド真ん前で、強い光が現れて地面がいきなりトランポリンみたいにフワッと浮き上がる……! UFO襲来か!?ってシークレットサービスどもが腰を抜かす、最高のイリュージョンをカマしてやるよ!」
ハンさんが通信機越しに最高にワルい笑顔を浮かべているのが、声のトーンだけでブリッジまで伝わってきますわ!
「うききっ! おれも、おにわの草、フワフワにするー!」
ビールマンも、ステルス・プレートの持ち手を握りしめながら、すっかりイタズラ小僧の顔で大はしゃぎです!
「……ハン、やりすぎるなよ。あくまで『不思議な現象』に見せかけるんだ。建物の基礎ごとひっくり返してインフラを破壊したら、ただのテロリスト扱いだぞ。慎重にやれ」
守さんが操縦席から、冷静かつ的確な釘を刺しました。
「わかってるって兄貴! ミト、行くぞ! ターゲットの大統領府・南側芝生エリア、重力干渉……ほんの少しだけ、フワッとな!」
『キュィィィィン……♪(フワッとするのとひかるの、まかせてー!)』
ミト君の事象の地平線が輝きを放ち、繊細に波打ちましたわ!
すると、メインモニターに映る大統領府の広大な芝生の一部が、光に吸い寄せられるように、音もなく「フワァ……ッ」と数メートルほど丸く持ち上がったのです!
「ひゃあああーッッ!! 船長、皆様、大成功ですわーっ!
夜間パトロール中の警備員の皆様が、突然の光と足元の芝生が浮き上がったのを見て、『なんだ!? 地震か!? いや、光が……!?』って大パニックになって無線を飛ばしまくっていらっしゃいますわ! ぷぷ〜!」
私がメインコンソールを大興奮のオレンジ色に明滅させると、雪さんもバイザーの奥で目を細めて頷きました。
「うまいうまい、よし、ミト君!少し離れて観察するんだ……出てきた出てきた、やっぱり黒いスーツなんだな、こういうやつらは」
「アイ・アイ・サー、船長! 地上カメラの映像、さらにズームアップいたしますわ!」
私がメインコンソールを操作して、大統領府の南側ゲート付近の映像をメインモニターへデカデカと映し出しました。
ミト君の重力イタズラでトランポリンみたいにフワッフワに波打った芝生を囲むように、耳に通信機のイヤホンを当てた屈強な黒スーツの男たち――シークレットサービスがワラワラと湧き出してきて、ジャケットの奥の武器に手をかけながら必死に周囲を警戒していますわ!
「ぷぷぷ! 船長のおっしゃる通り、8000万年経っても『要人警護=黒スーツにサングラス』の伝統はしっかり受け継がれているみたいですわね!」
そして、「何事だ!?」と騒ぎを聞きつけた野次馬たちが、早くも鉄柵の規制線の外側に集まり始め、スマホのような薄型端末を一斉に掲げてパシャパシャと撮影会を始めております。
「よしよし、見ていろ……走り回って状況を確認している奴らが大勢いるな、一カ所に向かっていく様子がわかるか? そこにいる奴こそが、この場の権力者だ。いいか、大統領の部屋までの案内人を見つけるぜ」
「さすが船長、不敵な観察眼ですわ! 混乱の渦中にあっても、人の流れの『中心』を瞬時に見抜いてしまわれるなんて、まさに修羅場を潜り抜けてきた大ベテランの現場監督ですわね!」
「男が動いたらステルスのままついていけ。行く先……つまりこの事態を伝えに行く相手が、大統領の可能性が高い」
「了解だ親父! 地震でもテロでもねぇ、ただの『芝生フワフワ事件』だってのに、どいつもこいつもピリピリしやがって! 俺とビールマンで、一番偉そうなスーツ野郎の背中にピッタリ張り付いてやるぜ!」
ハンさんが通信機の奥で、スパイ映画の主人公気取り(?)の自信満々な声を上げましたわ!




