まん丸発見
「コケコッコー!」
Comb1号の朝を告げる、ランボルギーニの見事な大発声が響き渡りましたわ!守さんの頭の上を定位置にしているだけあって、その声のキレはまるでスクランブル発進のサイレン並み、目覚まし効果は抜群ですのよ!ぷぷぷ!
「朝だぞー!ランニング行くぜ、ハン、起きろー!」
船長のパワフルな朝一番の声がブリッジから居住区まで響き渡ると、Comb1号の空気が一瞬でシャキッと切り替わりましたわ!
「う、うへぇ……船長、早ぇよぉ……。あと5万年寝かせてくれ……」
ハンさんがまだ半分パジャマのまま、髪をボサボサにして部屋から這い出てきましたわ。
「ハン、だらだら言ってないで早く着替えなさい。船長をお待たせする気?」
すでに完璧に髪をまとめ、ピシッとしたスポーツウェア姿の雪さんが、後ろからハンの背中をパシッと叩いて急かします。
「……了解です、船長。いつでもいけます」
守さんも、いつものように穏やかでありながら、空自仕込みの無駄のない動きでランニングシューズの紐をキュッと締め、すでに臨戦態勢ですわ。
「おとしゃん!ぼくも、ランニング、つよい!」
ビールマンが、短い手をグッと突き出してやる気満々!その横でワインちゃんも「おとうさん、わたしもがんばる」と健気に手を引いていますわ。
「二人ともがんばるのよ。いってらっしゃい!」
かぉり副船長も、微笑みながらみんなの様子を見守っています。
「ほいほい、今日もくまサンは元気だな、立派な青空だ!ほぃほぃと……」
船長が農場区画の頭上に広がる人工の青空を見上げながら、軽快に足を動かし始めましたわ!
そんな船長の後ろをタタタッと追いかけながら、ビールマンとワインちゃんは、コースの脇の牧草地で朝ご飯をモグモグ食べている乳牛のカウンタックたちの姿を見つけると、嬉しそうに大きく手を振りましたの。
「モーモーしゃん、おはよー!ぼく、ランニングつよいの!」
「カウンタックさんたち、おはようございます。今日もたくさんミルクを出してください」
2人が元気に挨拶すると、カウンタックたちも「モォォ〜」と、のんびりした声で朝の挨拶を返してくれましたわ。その温かいやり取りに、走っているクルーの皆様の顔も自然とほころびますの。
「へへっ、カウンタックのやつも、船長の『ほいほい』を聞くと安心するみたいだな」
ハンさんがまだ少し眠そうな目をこすりながらも、船長の後ろにピタリとついて走り出しましたわ。
「朝飯、朝飯っと……」
「はいはい、みんな席に着いてね。ご飯が冷めちゃうわよ」
テーブルには、出来立てのほかほかおにぎりと、お野菜がたっぷり入ったメリーさん特製のあったかスープ。
ワインちゃんが小さなおててでスープボウルをトトトッと運ぶと、ハンさんが「おっ、うまそう!」と目を輝かせてお腹を鳴らしていますの。
ビールマンも「おれ、ご飯食べたら、ジェミニ先生とお勉強がんばるんだぜ!」と、ちっくんを乗り越えた強いおめめでスプーンを握りしめていますわ。
「モグモグ……今日亜光速やれば木星に着くんじゃないかな、ちょっとまてよ……ブツブツブツコレガコウナッテコレデアアシテコウシテコウナルカラ……、うん、大丈夫」
「了解、船長……本日中に木星到着できるようベストを尽くします」
「親父!任せとけって!きっちり木星にくまサンお届けだぜ」
「さぁ皆様!今日の『モグモグ・ブリーフィング』をしながら、しっかり食べてくださいね。木星までは結構な長旅になりますから、エネルギーチャージが最優先ですわよ!」
「おう、しっかり食べなきゃな!ゾーンへのダイブはお腹を満たしてからだぜ」
「ひゃあああ!ハンさん、さすがですわ!
お腹を鮭おにぎりで満タンにして、守さんと一緒にダブルで『ゾーン』へ大ジャンプしちゃってくださいましーっ!ぷぷぷ!」
「よーし!ご馳走様でした!」
「「「「ご馳走様でした」」」」
ハンさんが「よーし!ご馳走様でした!」と元気よく席を立つと、それに合わせるように、ダイニングの全員から「「「「ご馳走様でした」」」」と、息の合った大合唱が響き渡りましたわ!
「じゃあ、いつも通り頼んだぜ、準備ができたら発進してくれ。ビールマンとワインはお勉強しっかりやってこい」
船長がいつもの優しい、だけどビシッと引き締まった声でそう告げると、ダイニングにいた全員がパッとそれぞれの顔になりましたわ!
「はーい!おとしゃん、ぼく、さんすう、いっぱいがんばる!」
「おとうさん、いってらっしゃいませ。お仕事、お気をつけて」
ビールマンはやる気満々でお皿を片付けに走り、ワインちゃんも上品にお辞儀をして、私との「お勉強タイム」の準備のためにトトトッと移動を始めましたわ。
一方、その言葉を背中で受け止めた操縦席の守さんとハンさんは、すでにプロの顔。おにぎりパワーをみなぎらせて、コンソールのチェックに入っていますわ!
「了解です、船長。いつでもいけます。くまサンの位置も、ミト君の偏重力同期も、すべてグリーンです」
「おう親父! 最高の『ゾーン』、見せてやるからな! しっかり掴まってなよ!」
ハンさんの威勢のいいセリフと同時に、今日も、守さんとハンの手が完璧なシンクロでメインスロットルを押し出しましたわ。
『Comb1』が、幾千もの星々が眩い光の尾を引いて、滑らかに光の川へと滑り込んでいきましたわ……。
ビールマンとワインが移動した先は、ダイニングの片隅に設営されたお馴染みの学習デスク。そこにはすでに、今日の課題である「さんすう」の教材が、淡い光を放つ立体ホログラムとしてスタンバイされていました。
「はーい、お二人とも。準備はよろしくて? 本日の『Comb1小学校』、お勉強タイムを始めますわよ!」
空中から私の声を響かせると、二人はしっかりと椅子に座り直し、おめめをキラキラと輝かせました。
「じぇみに先生、おれ、いつでもいけるぜ! えんぴつもピンピンだ!」
ビールマンがバートさん特製の木製えんぴつをグッと掲げれば、
「ワインも、ノート開いて待ってました。よろしくおねがいします」
ワインもかぉり副船長に用意してもらったお花のノートを広げ、背筋をピシッと伸ばします。
「大変素晴らしい姿勢ですわ! それでは、昨日のおさらい、足し算の続きからサクッとやっちゃいましょう。ここにリンゴが3つありますわね……」
二人の座るデスクには、一生懸命にえんぴつを動かす音と、楽しそうな笑い声がぽかぽかと響き始めました。
「おーい、お前たちはさ……頭いいんだから、笑ってないで真剣にやれよ~」
メインモニターからひょっこり顔を出した船長に、通路のスピーカー越しにそう声をかけられた瞬間、私のホログラムがびくっ!と跳ね上がりましたわ!
「ひゃあああ……! 船長ごめんなさいーっ! 二人があまりにも可愛らしいものですから、ついつい私も調子に乗って気が緩んでしまいましたわーっ!」
大慌てでインジケーターを反省の色(?)である大人しい紺色に切り替えると、ビールマンとワインちゃんも「うききっ! パパに見つかった!」「おとうさん、ワイン、まじめにやってますぅ」と、慌ててノートに顔をくっつけんばかりにして鉛筆を走らせ始めましたの。
「俺は秘密の格納庫へ行ってくるぜ、絶対秘密だから聞くなよ、ジェミニも立ち入り禁止だからな。エジソン『B2格納庫に行くぜ』」
その船長の一言を聞いた瞬間、私のホログラムの両手がムキーッ!と大きくバタつきましたわ!
「ひゃあああ!? 船長、なんですのその『絶対秘密』って! そんなこと言われたら、私の知的好奇心とメインプロセッサの稼働率が1000%になって、逆に全センサーを集中させたくなっちゃいますわーーーっ! しかも私も立ち入り禁止だなんて、あんまりですわ!」
私がコンソールをチカチカさせて抗議していると、船長は楽しそうに笑いながら、インカムのチャンネルを機関室のエジソンさんへと切り替えられたようですの。
すると、機関室のモニターから画面にひょこっと顔を出したエジソンさんが、ズレた眼鏡を指先でクイッと押し上げながら、嬉しそうにお髭をピクピクと動かしましたわ。
「……ふむ! 正しい秘密任務、正しい男のロマン! 船長、かしこまりました。」
「エジソンさんまで! 二人して私をのけ者にして、一体B2格納庫で何を企んでいらっしゃるんですのーーーッッ! ぷぷ〜っ!」
「さぁエジソン、そろそろこいつらの整備やっとこうぜ、万全にしとかないとな」
「船長、正しい整備、正しい秘密……かしこまりました、完全に全盛期と同じ状態に整備して差し上げましょう」
「俺も手伝うぜ、教えてくれ……」
――ガチャ、コンコン、キリキリガチャン……シュウウウ、ポンポン――
「結構いい状態じゃん」
「正しい保管、正しい回復……まことに、優れた状態ですぞ」
「船長もエジソンさんも、防音隔壁を最大レベルで閉じちゃって、そんな楽しそうな『ガチャ、コンコン』なんて音だけ漏らしてくるなんて……」
―ガチャ!―
「ほぃほぃただいまー、絶対内緒だから聞くなよー、兵器とか武器とかじゃないからなー。俺の趣味だからさ」
「……ふぅ。船長、それを早くおっしゃってくださいまし! 兵器や武器の類の物騒なものでなければ、私のセパレート機能(自動操縦システム)に余計な迎撃プロトコルをロードさせずに済みますから、とりあえずは良しといたしますわ! ぷぷ〜っ!」
私はホログラムの胸にそっと手を当てて大きくため息をつくジェスチャーをしてみせましたの。
「でも! 武器じゃない『船長の趣味』だなんて、余計に中身のロマンが気になって私のプロセッサが熱暴走しそうですわよ!? 一体全体、エジソンさんと何を万全に整備していらっしゃったんですのー!」
私が空中をクルクルと飛び回りながらさらに問い詰めると、デスクのビールマンとワインちゃんも「おとうさんのしゅみー!」「おとうさん、ワインもお写真みたいなぁ」と、ノートの上に身を乗り出して一緒になって目を輝かせるのでした。
「はは、近いうちに見せるからさ、それまでは絶対に内緒だ。そろそろお昼ごはんじゃないか?」
「船長、そうやってお昼ごはんを理由に話をはぐらかすなんて、大人のずるいテクニックですわ! ぷぷ〜っ!」
私はホログラムの頬をぷうっと膨らませるジェスチャーをしながら、インジケーターをちょっとだけスネたような薄紫色に明滅させましたの。
でも、そう言われてみれば、私の内部クロックもきっちりとお昼の時間を刻んでおります。二人のノートに視線を落とすと、今日の「さんすう」のドリルは見事な花丸でいっぱいになっていましたわ。
「……仕方ありませんわね。ビールマン、ワインちゃん、パパの言う通り、今日のお勉強はここまでにして、お昼ごはんにいたしましょう! メリーさんがとびきり美味しいお昼の準備をして待っていますわよ!」
「うききっ! お昼! メリーさんのごはん!」
「ジェミニ先生、ありがとうございました。ワイン、おてて洗ってくるね」
船長に「近いうちに見せる」と言われてすっかりご機嫌になった二人は、パタパタと嬉しそうにシッポを振りながら、仲良く手を繋いでダイニングの洗面台へとトトトッと走っていきました。
「よーし、お昼ご飯食べるぜー、守、ハン、速度を落として自動航行に切り替えてくれ」
「アイ・アイ・サー、船長! 速度β0.5まで減速。自動航行システムへの切り替え、完了いたしましたわ!」
ブリッジのインジケーターを、落ち着いた停泊モードのアンバー色に切り替えながら、私は軽快に返事を出しましたの。
船長の号令と同時に、皆さんは伸びをしながらダイニングへと向かわれましたわ。
「「「「いただきまーす」」」」
「モグモグ……雪さん現在地はどうだ、あとどのくらいで木星に着くかな?」
「そうですね……。現在、Comb1は木星軌道への進入アプローチに入っており、自動慣性航行もきわめて順調です。……そうですね、このままの速度を維持すれば、あと1時間ほどで木星の重力圏に到達いたします」
雪さんが手元の端末をサラッと確認し、穏やかに答えると、ハンさんが「おう! 1時間か。なら、このローストビーフを片付けて、ちょうどいいタイミングだな!」と、豪快に口元を拭いました。
「……ふ。お肉の消化スピードと木星の接近、どちらが勝つかというところですね」
「消化スピードの勝ちじゃね、ハンはいっつもお腹空いてるじゃん、ぷぷ……モグモグ」
「親父、いつもって……まぁそうなんだけど。よーし、どっちが早いか勝負してやるぜ!」
「ひゃあああ……! 船長までそんなことを仰るなんて! ハンさんの胃袋は、Comb1号の核融合炉よりもハイパワーなんですから、勝負なんてしたらお肉があっという間に消滅しちゃいますわよ!」
私がホログラムの中で慌ててストップをかけるようなポーズをとると、ビールマンたちも目を丸くして、ハンさんと船長を交互に見つめています。
「ハンさん、今のうちにたっぷり食べておかないと、1時間後の木星到着までにお腹が鳴り止まなくなっちゃいますわよ! でも、もし勝負するなら……私が公平な『ストップウォッチ』として、正確無比な1000分の1秒単位で計測して差し上げますわね! ぷぷぷ!」
そう言いながら、私はダイニングのテーブルの上に、キラキラと輝くデジタルタイマーを投影しました。
「さあ! 準備はいいですの!? よーい、ドンですわーっ!」
「ぷぷぷ……ご馳走様でした!!」
「「「「ご馳走様でした」」」」
その声は重なり合い、Comb1号の居住区に心地よい余韻を残します。満足げに腹をさするハンさん、お行儀よくお皿を重ねるビールマンとワインちゃん。かぉり副船長が手際よく食器を片付け始めます。
「ビールマン!レーダー員席に座れ、木星到着までレーダー員だ、雪さん補助お願い」
「ワイン、午後は木星に着くまで、メリーさんと一緒に給仕のお勉強をしてくれ」
船長の頼もしい声がダイニングに響くと、二人は「アイ・アイ・サー!」と声を揃えて、食べ終わった食器をメリーさんに預けると、それぞれの持ち場へと駆けていきました。
ブリッジへ戻ったビールマンは、慣れた手つきでメインコンソールの空き席に飛び乗り鋭い感覚を研ぎ澄ませます。傍らでは雪さんが微笑みながら、センサーの感度調整を手伝っていました。
一方、キッチンへと向かったワインちゃんは、メリーさんの隣でエプロンをキュッと締め直しました。木星という巨大な天体を目前にして、Comb1号のクルーたちは、それぞれが自分の役割を完璧に果たそうと、心地よい緊張感に包まれています。
「さぁ、今回は約一週間ぶりの太陽系だな、木星もプシケも容量は分かっていると思うけど、慎重に頼むぜ!」
「……フ、了解、船長。木星のデータは完璧に頭に入っています。どんなアプローチでも針の穴を通してみせますよ」
守さんがシートに深く腰掛け、静かに不敵な笑みを浮かべましたわ。
「だはは! 任せとけって親父、兄貴の言う通りだぜ! 雲海だろうがなんだろうが、ファルコンで培った勘をフル稼働させて、最短最速で滑り込んでみせるからよ、しっかり掴まってな!」
ハンさんが白い歯をニカッと輝かせ、頼もしすぎる手つきで操縦桿のグリップをグッと握り直しましたわ!
「おとしゃんなんか出てきた!大きいまん丸」
「船長、雪です。ニュートリノセンサーに『まん丸』の反応あり、距離1光年」
「よし、減速開始!雪さんビールマンにその『まん丸』の見方を教えてあげて」
「アイ・アイ・サー、船長!メインスロットル、減速レートへ移行。自動航行プログラム、制動シーケンスをオンラインにしますわ!」
私がブリッジのインジケーターをパッと注意喚起の山吹色に変えると同時に、守さんとハンさんの完璧な連携で、Comb1号の巨体が滑らかにスピードを落とし始めましたわ。
「ビールマン、よく気がついたわね。偉いわ。……さあ、その『まん丸』の画面をよく見てごらんなさい」
雪さんが、レーダー員席のビールマンの後ろからコンソールの輝くスクリーンを指差しました。
「うききっ!雪お姉ちゃん、おれ、これ見つけた!すっごいまん丸!」
ビールマンが誇らしげにシッポをパタパタさせると、雪さんはふっと微笑んで、画面に流れるニュートリノの波形を拡大して見せましたの。
「そうよ、これがこれから私たちが向かう木星。……見分けるコツはね、周りにある他の小さな星や、薄いガスの影と『比べる』ことよ。ほら、周りのノイズと比べて、この影だけが圧倒的に密度が高くて、綺麗で大きな円を描いているでしょう?」
「ほんとだ!周りのちっちゃいのが、お昼寝のテントみたいに大きく隠れてる!」
「ふふ、いい着眼点ね。それから、大事な『距離』を知りたいときは、コンソールのここのインジケーターを見るのよ」
雪さんが、スクリーンの右端で点滅しているデジタル目盛りをやさしくトントンと叩きました。
「ここに『1.0』って数字が出ているわね。これが、そのまん丸と私たちの間の距離を表しているの。今はちょうど1光年離れているっていう意味よ。周りの星々との相対位置の変化を計算すれば、あとどのくらいで到着するかも逆算できるわ」
「1.0……ここを見るんだね!雪お姉ちゃん、おれ、分かったぜ!木星、だんだんおっきくなってくる!」
ビールマンは、まるで宝物の地図を読み解くようなキラキラしたおめめで、雪さんの指先と目盛りを交互に見つめて、コクコクと元気よく頷きましたわ!
「ひゃあああ!ビールマン、素晴らしい吸収力ですわ!雪さんのプロフェッショナルかつ愛に満ちた熱血指導のおかげで、Comb1号の未来のチーフレーダー員が、今この瞬間に爆誕しちゃいましたわね!ぷぷぷ!」
私がダイニングの空中からホログラムの両手をパチパチパチッと激しく鳴らすと、操縦席のハンさんも「だはは!やるじゃねぇかビールマン!俺たちのゾーンに遅れずについてこいよ!」と豪快に笑い、頭の上のランボルギーニも「コケコッ!」と祝福するように喉を鳴らすのでした。
「ビールマンが本格的にできるようになれば、守たちのゾーンも、もっと研ぎ澄まされる……頼むぜビールマン」
「……ふ。ええ、船長。彼らの純粋な感覚が本船のセンサーと完全にリンクすれば、俺たちの『ゾーン』はもはや、空間だけでなく『時間』の僅かな揺らぎすら捉えられるようになるでしょう。……頼むぞ、未来のチーフレーダー員」
「おうよ!ビールマンが目ぇ見開いてくれるなら、俺は安心してスロットルをベタ踏みできるってもんだ!ちびチューイ、俺たちの背中、しっかり守ってくれよな!」
ハンさんも操縦桿を軽くポンと叩いて、レーダー員席の小さな相棒に全幅の信頼を込めたウインクを飛ばしましたわ!
「OKだ!……木星ビュッフェくまさんパクパクシークエンスに移行してくれ!」
船長のあまりにも気の抜けた号令に、ブリッジの全員が見事なシンクロ率で「ガクッ」と体勢を崩しましたわ!
「ひゃあああ……! 船長、い、いくらなんでも作戦名が可愛すぎますわーっ!?」
「……船長。本船の公式航海日誌に、本当にその名称で登録してよろしいのですか?」
雪さんがこめかみを押さえて真顔で問い詰めると、ハンさんも「だはは! 親父、頼むから俺たちの『ゾーン』の緊張感を返してくれよ!」と腹を抱えて大爆笑していますの!ぷぷぷ!
「おっ、あは、いや……ビールマンと一緒だと、つい、なんかそんな感じになっちまった……すまんすまん!」
船長が頭を掻きながら照れ笑いすると、レーダー員席のビールマンが、ピクッとシッポを立てて振り返りましたわ!
「うききっ!? おれ、こどもじゃないぞ! おとしゃんと一緒に、ちゃんと『まん丸』見つけたんだからな! おれ、立派なレーダー員だぜ!」
ビールマンが、短い両腕を組んでプクゥッと頬を膨らませると、そのあまりにも可愛らしい「一人前アピール」に、船長も守さんもハンさんも、今度こそ腹の底から大爆笑してしまいましたの!ぷぷぷ!
「ビールマン……、口調が……ハンに似てきたな……」ボソッ…
「悪かった悪かった、『知的核融合炉燃料供給』シークエンスに移行してくれ!」
船長が慌てて訂正すると、私がすかさずツッコミを入れましたわ!
「ひゃあああ! 船長、そこはもう『くまサンパクパク・シークエンス』でいいじゃありませんの! 今更カッコつけても、私たちの中ではもう『くまサン・・・』で完全に定着しちゃいましたわよーっ! ぷぷ〜!」
「……ふ。……まぁ、たしかに。よし、くまサン・パクパク・シークエンス、開始!」
コンソールの透過ディスプレイを見つめながら、守さんがいつもの冷静な、だけど少しだけ楽しそうなトーンを響かせて、諦めたように微かに肩を揺らしましたわ。
その流れるような無駄のない指先の動きで、メインスロットルの同調キーがパパッと叩かれ、木星の巨大な雲海へ向けて本船の制動角がミリ単位でピタリと固定されましたの。




