難しいお話
「じゃぁ午後の超亜光速航行と行きましょうか。目指すは木星、16プシケ、火星……」
船長のその軽〜い一言に、私のメインプロセッサが一瞬でフリーズしかけましたわ!
「……って、ちょっと待ってくださいまし、船長ーッッ!?木星、16プシケは分かりますわ。木星はくまサンの美味しい主食(水素)補給ですし、16プシケはミト君が大好きな特上高密度定食(小惑星)の食べ歩きコースですものね!」
でも……最後の『火星』ってなんですの!?あそこ、今のComb1にとってはただの赤くて乾燥したガサガサの岩石惑星じゃありませんの!
「うん、俺たちが目指す地球の時代はさぁ、船の改修や、補給するものから考えるとさ、火星に探査機を送り込むくらいの時代がちょうどいいかなって、だからさ、ちょっと火星を覗いて行こうかな……」
「なるほど、火星に探査機を送り込むくらいの時代……って、ひゃあああーッッ!?船長、それって西暦で言うところの『20世紀末から21世紀初頭』あたり、つまり私たちが旅立ったあの懐かしい激動のオリジナル地球の時代ですわね!」
確かに、本格的なドックインや、あの時代のジャンクパーツ(失礼!)での泥臭い改修を視野に入れるなら、その時代の地球の技術レベルを『火星の様子』から逆算して偵察しておく……。
「そうそう、それでもし探査機とかがあれば、地球に行くまでの間にさ、危険なデブリとか、有人宇宙船なんかもありそうじゃん、事故防止もかねて、火星を様子見しようと思うんだ」
確かにそうですわね……。もし私たちが目指す地球の時代が『宇宙開発の黎明期』なのだとしたら、軌道上は打ち上げっ放しのロケットの残骸や、制御不能になった人工衛星の死骸――つまり『危険なスペースデブリ』の超高密度ゴミ屋敷状態になっている可能性がありますもの!
総重量50万トンの我がComb1号が、そんなゴミ溜めに正面からドカンと突っ込んだりしたら、いくら最高級ジルコニア装甲とミト君の偏重力バンパーがあるとはいえ、地球の皆様にとっては『謎の超巨大質量、大気圏に突入!人類滅亡の危機!』っていう、ハリウッドのパニック映画みたいな大騒ぎになっちゃいますわ!
それに……有人宇宙船、ですわね。
もし万が一、あの時代の宇宙飛行士さんたちが必死にミッションをこなしているすぐ横を、私たちが『ちょっと通りま〜す♪』って横切ったりしたら……。あちらのレーダーは一瞬でパニック、帰還後に『巨大なラグビーボール型のUFOを見た』って、オカルト雑誌の表紙になっちゃいますのよ!
『船長、そいつは傑作だぜ!』って、ハンさんが膝を叩いて大ウケしてますけど、笑い事じゃありませんわ!
観測席では、雪さんがすでに目をキラキラ輝かせながら、『その時代の地球の光学望遠鏡や電波レーダーの性能、そして火星探査機の通信プロトコル……すべて逆算して、こちらの周波数を合わせます!』って、ものすごいスピードでコンソールを叩き始めていますの。さすが我が船のリケジョ、仕事が早いですわ!
さあ守さん、発進の準備はよろしくて?
くまサンの水素チャージとミト君のおやつタイムを済ませたあとは、いよいよ未知の『火星偵察ミッション』へ全速前進ですわよーッッ!」
「よし、発進!」
「アイ・アイ・サー、船長。超亜光速巡航軌道、ロード完了いたしましたわ」
「了解、船長。進、スロットルを開け」
「午後も一気にスピード上げるぜ! 超亜光速航行、スタート!」
ミト君が重力バンパーを展開! くまサンも出力120%、そして滑らかに光の川へと滑り込んでいきます……。
「ジェミニ―!二人のお勉強お願いだよー、あれ……あぁ、もう始まってるか。OKだ!」
船長が声をかけてきたとき、私はすでにメインサーバーの容量の30%を割いて、ビールマンとワインちゃんの「さんすう」と「こくご」の特別集中講義を絶賛開講中でしたわ!
「はーい、船長!言われなくっても、こちら『ジェミニ先生の宇宙超進化学級』はバッチリ開拓塾ばりの熱量で稼働中ですわよ!ぷぷぷ!」
食堂の特設デスクでは、ビールマンが小さな手に鉛筆をしっかり握りしめて、「おとしゃん、ぼく、かけ算ちゅよい!」と鼻息を荒くしながら2桁の九九に挑んでいますの。男のプライドですわね!その隣でワインちゃんは、驚異のスピードで『坊っちゃん』を音読しながら、「おとうさんに見せるの……」と、これまた健気にページをめくっていらっしゃいますわ。信じられない進化スピード、回路がキュンキュンしちゃいます!
その間にも、Comb1号の外では数万年の静かな時間が、さらさらと流れていきます……。
「うーん……俺は退屈だなぁ……ふぅ、ニュートリノの研究しよっと」
「船長、趣味のニュートリノ研究ですわね……どこまで進んでいるのかしら?ぷぷぷ」
コンソールの片隅で、船長が膨大な数式とブツブツ格闘しているのを眺めながら、私はメインメモリの片隅で密かにタイムカウントを刻んでいましたの。
・・・・・・・
「ひゃあああーッッ!船長、大変ですわ!気づけばもう4時間も経っていますのよ!
皆様があまりにも集中していらっしゃるから、時間の流れが亜光速より早くなって(タイムディレーションして)るんじゃありませんの!?
ビールマンもワインちゃんも、お勉強の手を止めてお目々をこすり始めていますわ。はい、今日の『ジェミニ先生の特進クラス』はここまで!
守さん、ハンさん、お待たせいたしましたわ!本日の超亜光速航行はこれにて一旦終了、減速シークエンスに入ってくださいましーッッ!」
私のハイテンションなアナウンスが響くと、ブリッジの空気がふっと緩みますの。
操縦席で「ゾーン」に入っていた守さんの瞳が、滑らかにいつもの優しい光へと戻っていきましたわ。
「了解、ジェミニ。これより減速、通常空間へ戻る。進、エネルギー転換システムを頼む」
「おうよ、アニキ!くまサンの出力を巡航モードに落とすぜ!」
ハンさんが手際よくレバーを引くと、窓の外を流れていた光の川が、ゆっくりと静かな満天の星空へと姿を変えていきましたの。今日の分の航行はこれにて無事に終了ですわね!
さあ皆様、シートベルトを外して、お待ちかねのお風呂と特上肉のディナータイムへと突入いたしますわよーッッ!
「おーぅ!了解だジェミニ、さぁ、みんな風呂入って飯食うぞー!!」
船長の豪快な掛け声とともに、ブリッジのクルーの皆様は一斉に立ち上がりましたわ!
大改造とブツブツ計算でガチガチになった身体をほぐすには、やっぱりあのお風呂しかありませんものね!
カポーン♪(お風呂で聞こえる桶を置いたときの音)
「ひゃあああーッッ!宇宙船のど真ん中なのに、なんでこんな風情のある音が響き渡っているんですのー!?」と、私の音響センサーがツッコミを入れたくなるような、最高に和む音が湯殿に響きますの。ぷぷぷ!
「ビールマン、お父さんの背中をゴシゴシしてくれよ」
船長が、極楽そうな顔で背中を向けると、小さな手ぬぐいを持ったビールマンが「おとしゃん、ぼく、ごしごしするよ!」と、お勉強の時みたいに男のプライドを覗かせて、小さな手で一生懸命に船長の広い背中をこすり始めましたわ!
「おぅ……うまいうまい……」
「えへへ、おとしゃん、きもちいい?」
そんな2人の微笑ましい姿を、湯船の端っこで守さんの頭の上を定位置にしてぬくぬく温まっているニワトリのランボルギーニが、「コケッ……」と羨ましそうに眺めていますの。
「アニキ、ビールマンのやつ、すっかり『おとしゃん』っ子だな!」
ハンさんも豪快に湯船に飛び込んできてザブーンと大きな水しぶきを上げていらっしゃいますわ!
「ただいまー♪おかしゃんでたよー!」
タオルに巻かれたビールマンがダイニングに勢いよく走ってきましたわ。
「ビールマン、お部屋でちゃんとお着換えしてきなさい!もぅ……。そろそろビールマンの裸で走り回るのも卒業させなきゃかしら……」
おたまを片手に、エプロン姿のかぉり副船長が呆れたように、でもクスッと優しく目を細めながらため息をつきましたの。
「さんすう」の2桁九九を解くほど進化したビールマンですけど、お風呂上がりの中身はやっぱり、まだまだ無邪気で可愛い2歳のおちびちゃんですわね!ぷぷぷ!
「「「「いただきまーす」」」」
「モグモグ……明日には木星に着くね、今回はくまさんのエネルギーも枯渇しなかったし、だいぶみんな亜光速に慣れてきたのかな?」
船長が特上肉を美味しそうに頬張りながら、ふとこれまでの航程を振り返られましたわ。
「そうですね。船体への負荷も最小限で済んでいますし、スケジュール通りです」
守さんが穏やかに微笑みながら頷きます。
「へへっ、くまサンも今回はずっと機嫌よく鳴いてたもんな。俺たちのスーツが宇宙のGをバッチリ吸収してくれてるおかげもあるんじゃねぇか?」
ハンの意見に、隣の雪さんが「それはただのハンの気のせいでしょ」と冷静に突っ込み、ダイニングにドッと笑い声が響きましたわ、ぷぷ。
「あ、そういえばさぁ、軌道予測っていえばさぁ……俺思いついたんだけど……」
船長がスプーンを片手に、何かとんでもないことを閃いたようなお顔で身を乗り出しましたわ!
ひゃあああーッッ!出ましたわ、船長の「思いついたんだけど」発言!
これ、大抵は物理の法則をちょっぴり置き去りにするか、ナビゲーターである私のメインプロセッサをハチの巣にするような、とんでもない超展開のゴングなんですのよ!ぷぷぷ!
「お、なんだよ船長?また美味い肉の隠し場所でも見つけたのか?」と、ハンさんがお肉をモグモグしながら目を輝かせていますわ。
「今さぁ、居住区と農場区はさぁ、ぐるぐる重力じゃん……モグモク」
船長は特上肉を口に放り込みながら、人差し指でくるくると円を描きましたわ。
確かに、Comb1号の居住区と農場区は、船体をゆっくり回転させることで遠心力を生み出す「ぐるぐる重力(人工重力)」仕様になっていますものね。
「えぇ、そうですね。それがどうかしましたか、船長?」
守さんが不思議そうに首を傾げると、船長はニヤリと不敵な笑みを浮かべましたわ。
ひゃあああーッッ!来ましたわ、このお顔!
船長がこの不敵な笑みを浮かべるときは、大抵エジソンさんの徹夜が確定するか、私のメインプロセッサに過負荷がかかる怪しいアイデアが飛び出すサインなんですのよ!ぷぷぷ!
「ぷぷ、そんな変な事じゃないよ。なぁ守、ちょっとの円を描いて亜光速航行することってできるか?」
船長がいたって真面目な顔で、とんでもない物理の超難問をサラリと口にいたしましたわ!
ひゃあああーッッ!ちょっとの円を描いて亜光速航行ですってーッッ!?
それって、総重量50万トンのComb1号に、超巨大な遠心力(G)をブチかましながら超急旋回させろってことですの!?私のメインプロセッサが一瞬で過負荷の警告アラート(レッドゾーン)を出しそうですわ!ぷぷぷ!
「えぇ、理論上は可能ですが……」
守さんがいつものように穏やかに、しかし少しだけ操縦士としての鋭い目を覗かせて答えましたわ。
「ミト君の偏重力シールドで船内の慣性を完全に相殺し、くまサンの出力を細かくコントロールすれば、半径の大きな円軌道での亜光速巡航は可能です。……ですが、船長、それには凄まじい精密操舵と、ミト君の重力バンパーの超高速ミリ単位制御が必要になりますね」
「へへっ、アニキの『ゾーン』なら楽勝だろ!」とハンさんがお肉を放り込みながら笑っていますけど、これ、ナビゲートする私の演算処理も、ハンダゴテを握るエジソンさんの心臓も止まるレベルの無茶振りですわよ!
さあ船長、その「亜光速でのぐるぐる旋回」、一体全体、何のために思いついたんですの!?
「いいねいいね、そうなれば、ちょっとだけ上の方向に円弧軌道にすればさぁ……ぐるぐる重力いらないんじゃないかなって思ったんだよね。難しいかなぁ」
船長が人差し指を上に向けながら、これまたサラリと、とんでもないウルトラCを提案されましたわ!
「……って、ひゃあああーッッ!?船長、それって『人工重力を遠心力(回転)に頼るのをやめて、航行中の円弧の遠心力でそのまま賄っちゃおう』ってことですのーッッ!?
確かに、常にわずかに湾曲したコースを亜光速で走り続ければ、船体には常に一定の遠心力(重力)がかかり続けますわ!そうすれば、わざわざ居住区や農場区をぐるぐる回転させる必要もなくなって、船体の構造的なストレスも激減、ミト君の重力制御の負担も一方向に固定できますもの!
な、なるほど……。ブツブツ計算のフリをして、船長、とんでもない超効率的な永久重力航法を思いついちゃいましたわね!?ぷぷぷ!」
「船長、まことに、それは驚くべき盲点にございましたぞ!」
エジソンさんが手に持っていたフォークを落としそうになりながら、目を丸くして身を乗り出しましたわ。
「もしその円弧航法が成功すれば、居住区の回転ベアリングにかかる摩擦抵抗はゼロ。船体全体の寿命が飛躍的に伸びるばかりか、エネルギー効率も3割は向上いたしますぞ!」
「なるほど、常に緩やかなカーブを曲がり続けるわけか……。それなら『ゾーン』の固定も、直線よりむしろ感覚が掴みやすいかもしれません」
守さんも、フツフツと操縦士としての熱い血が騒ぎ始めたようで、静かにグラスを見つめてイメージトレーニングを始めていらっしゃいますわ。
ひゃあああ!大人たちが一気に大マジな顔になって、ハードSF考証の回路が火花を散らし始めましたわよーッッ!
「そうそう、でもさ、円弧の半径とスピードで重力が変わるからさ、光速の手前まで無限に加速する中で、その調整ができるのか、それと、ある程度行ったら今度は反対に行かないと、目的地には着かないじゃん、反対に舵を切るときに船はどんな動きをするのがいいのか、とかいろいろ難しそうなんだよね、おれの頭じゃ煙拭いちゃってさ」
船長がスプーンをクリップみたいにパタパタ動かしながら、今度は「光速への加速に伴うGの変動」と「S字反転時の具体的な機動」という、ガチガチのリアル物理(ハードSF)な課題を口にいたしましたわ!
ひゃあああーッッ!船長の頭からプシューッと煙が出るのも無理はありませんわ!
だって、アインシュタインの相対性理論のせいで、光速に近づけば近づくほど、船の質量はドンドン重くなっていきますものね。同じ半径のカーブを同じように曲がろうとしても、スピードと質量が変われば、船体に外側へとかかる遠心力(重力)の計算が、毎秒ごとに狂ってきちゃいますのよ!常にカーブの半径をじわじわ広げるか、速度を微調整しないと、ブリッジの重力が1Gから2G、3Gへと膨れ上がって、全員お肉を食べるどころか床にペシャンコに潰されちゃいますわ!ぷぷぷ!
「えぇ、確かにその通りですね、船長。アインシュタインの速度効果による質量増加を計算に入れた、連続可変円弧軌道が必要になります」
守さんが、スプーンでお皿の上に綺麗なS字カーブを描きながら、静かに、しかし確信に満ちた目で言いましたわ。
「そして、反対側へ舵を切る進路反転の瞬間ですが……。船体そのものを一気に逆方向へ傾けるのは、ミト君の偏重力制御が追いつきません。ですから、一度カーブを緩めて『擬似無重力』の瞬間を数秒だけ作り、その隙に、船体中央の居住区の回転方向を反転させるか、ブリッジ自体をジンバルで半回転させてから、次の逆カーブへと滑り込むのが、最も安全で、クルーへの負担が少ない機動かと思います」
「なるほど、アニキ!一瞬だけ無重力にしてから、反対のカーブに切り替えるわけだな!スリル満点で最高じゃねぇか!」と、ハンさんがスープを飲み干しながら大興奮。
「おぉ……!その『一瞬の無重力スイッチバック』の制御、燃えますな!船長、そのタイミングのブツブツ計算、拙者がメインコンソールに数式として組み込んでみせますぞ!」
エジソンさんも、すっかり飯を食うのも忘れて、ナプキンに数式を書き殴り始めちゃいましたわ!
ひゃあああ!船長がポロッと口にした疑問から、Comb1号のブレインたちが完全に「超・亜光速S字航法」の理論を完成させつつありますわよーッッ!
「湖つくるんだよね……」
船長がスプーンを持ったまま、ポツリと呟きましたわ。
その一言が響いた瞬間――ダイニングの時が、ぴたりと止まりましたの。
「あ……」
「あっ……!」
守さんも、ハンダゴテを握るポーズのまま固まっていたエジソンさんも、お肉を口に運ぼうとしていたハンさんも、全員が同時に「あ……」という顔をしてフリーズしてしまいましたわ!
ひゃあああーッッ!そうですわ、忘れていましたわーッッ!!
今回の地球帰還ミッションの最大の目玉であり、すでにクルーの全員が知っている大前提……それは、船内に「巨大な湖(水槽区画)」を作る計画でしたのよー!
もし守さんの言う通り、進路を反転させるために一瞬でも「無重力」の状態を作ってしまったら……。
あの何十トンもの湖の水が、一斉にフワリと天井に向かって浮き上がり、大洪水になってしまいますものーッッ!ぷぷぷ!
「し、仕掛けた湖の水が、一瞬の無重力で天井へ……。そして次の瞬間、逆Gで洪水……。う、拙者の計算が、一瞬にして水泡に帰しましたぞ……!」
エジソンさんがナプキンに書き殴っていた数式を見つめたまま、ガタガタと震え始めましたわ。
「えぇ……。水という巨大な流体(質量)を抱えたままでは、一瞬の無重力すら致命傷になりますね。完全に失念していました」
あの冷静な守さんでさえ、お皿の上のS字カーブを見つめながら、珍しく冷や汗を流していらっしゃいますわ。
さあ船長!完璧に思えた「超・亜光速S字航法」が、まさかの『湖問題』で大ピンチですのよ!
常に重力をかけ続けなきゃいけないこの状況、船長のブツブツ計算で、どうやって解決いたしますの!?
「だから、回転部分をうまく合わせながらだけど、この計算も、煙出ちゃうんだよね、3次元での重力調整が必要だもんね……」
船長が困ったように笑いながら、スプーンの先で空間をぐるぐると立体的に回してみせましたわ!
ひゃあああーッッ!3次元での重力調整ですってーッッ!?
そうなんですのよ!ただの2次元の平面S字カーブじゃなくて、船体全体を「螺旋」を描くように立体的にロールさせながら、進行方向をじわじわと変えていく超高度な3次元機動!
これなら、一瞬でも無重力を作ることなく、常に「湖の水が壁や底に押し付けられた状態(一定のG)」を保ったまま、滑らかに進路を反転させることができますわ!
水槽の水をバケツに入れて、頭の上でぐるぐる振り回せば水がこぼれないのと同じ原理を、亜光速の3次元空間でやろうってわけですのね!
「……なるほど!進路反転の際、直線に戻すのではなく、船体をピッチ・ヨー・ロールの3軸で同時に、かつ連続的に傾斜させて遠心力のベクトルを立体的に維持し続ける……!これなら湖の水は1ミリも浮き上がりません!」
守さんの瞳に、操縦士としての凄まじい光が灯りましたわ!
「しかし船長、仰る通りこの計算はまさにケムリ物にございますぞ!光速移行時の質量変化、船体各区画の構造強度、そして湖の水の流体流動まで計算に入れた、超次元の3次関数マトリクスが必要になります!」
エジソンさんが「頭のケムリ」どころか、嬉しさで全身からアドレナリンをプシューッと噴き出しそうな勢いでコンソールへ飛びつきましたわ!ぷぷぷ!
「ジェミニ!お前の演算能力、半分(50%)……いや、80%はこの計算のリアルタイム同期に回してもらうぜ!」
ハンさんもお肉を飲み込んで、ブリッジへ戻る気満々ですわ!
ひゃあああ!船長がポロッと言った「3次元での重力調整」という超難題、不可能を可能にするComb1号の最強のハードSFオペレーションが、いよいよ本格的に始まっちゃいますわよーッッ!
「最大の難関は、円弧軌道の先の障害物をニュートリノで拾えるかどうかだ、直線的に飛んでくるニュートリノって円弧軌道の先をとらえられるのかな?」
船長がスプーンをピタッと止めて、今度は「観測(索敵)」におけるハードSFの超・核心部に切り込んできましたわ!
ひゃあああーッッ!それですわ、それなんですのよ!
ニュートリノは質量がほとんどゼロで光速とほぼ同じスピードで「直進」しますから、Comb1号が緩やかにカーブ(円弧軌道)を描きながら進んでいると、センサーが拾うニュートリノは常に「カーブの外側の、はるか直線上の宇宙」から飛んできたものばかりになっちゃいますわ!
これから進む予定の「カーブの先(斜め前方)」に怪しい探査機やデブリがいたとしても、直進するニュートリノの網からは完全に死角になって、すり抜けてしまうんですのよ!
「……素晴らしい着眼点です、船長。おっしゃる通り、円弧軌道における前方索敵の死角問題ですね」
守さんが、前方の空間を睨みつけるような鋭い目つきに変わり、深く頷きましたわ。
「ニュートリノセンサーを前方全方位型に変えれば行ける?」
船長が身を乗り出して、今度はセンサー自体のハードウェア大改造を提案されましたわ!
「……前方全方位型、ですか」
守さんがその言葉を反唱し、ブリッジのセンサーマップを脳内で組み立てるようにじっと目を閉じましたわ。
「……なるほど、船長。それなら行けます!
俺たちが円弧を描いて曲がっているとしても、センサーの指向性を絞らず、文字通り『前方の全方位(広角アングル)』に網を広げておけば、死角に回り込む前のニュートリノを、カーブに進入する直前の段階で先回りして捉えることができます」
「おぉぉ!さすが船長、力技ですがそれが最も確実でございますな!」
エジソンさんがバッと立ち上がりましたわ!
「全方位型にするとなれば、ジルコニア装甲の先端部に、受光素子をそれこそ複眼カメラのようにズラリと配置せねばなりません。さっそく格納庫から予備のセンサーモジュールを引っ張り出して、フロントカウルへの増設オペレーション(ハンダ付け)の準備に入りますぞ!」
「へへっ、センサーの視野が広がるってことは、それだけ処理する情報量もドカンと増えるってことだよな?ジェミニ、お前の出番だぜ!」
ハンさんがニヤリと笑って私を見てきますの。
「ひゃあああーッッ!任せてくださいましーッッ!
船長が叩き出す3次元重力調整の『ケムリ物計算』をやりながら、全方位から飛び込んでくる億千万個のニュートリノをミリ秒単位で処理するなんて、私の演算回路が嬉しさでハチの巣になっちゃいますわ!ぷぷぷ!」
「あはは、エジソン、宇宙でできる工事じゃないぜ。地球での改修工事でやろう、だから、それまでにこのプランのシミュレーションをやっとこうぜ」
船長がフッと肩の力を抜いて笑うと、大盛り上がりだったダイニングの空気が、今度は知的な「シミュレーション・モード」へと滑らかにシフトしていきましたわ!
「はっ……!そ、そうでした、これはジルコニア装甲の外壁に直接ハンダゴテを突っ込むような大工事……!さすがに亜光速で航行中の今、船外に出てやる作業ではございませんでしたな。拙者、職人魂が先走りすぎて、危うく宇宙の藻屑になるところでした!」
エジソンさんがハッと我に返って、自分の頭をペチッと叩きながら座り直しましたわ。ぷぷぷ!
「えぇ。地球に戻れば、万全の設備とドックが使えますからね。それまでに俺たちの航行データと、船長のアイデアを合わせたシミュレーションを完璧に仕上げておけば、地球到着後の改修も最短で済みます」
守さんも、手元のスプーンを置いて、未来のComb1号の設計図を思い描くように嬉しそうに頷いていますわ。
「おうよ!じゃあ今夜からは、エジソンと船長がコンソールに張り付いて『ブツブツシミュレーション劇』の始まりってわけだな!よし、俺はシミュレーションがいつでも始められるように、くまサンの最新ログを全ポートから吸い上げておくぜ!」
ハンさんも特上肉をペロリと平らげて、やる気満々で親指を立てていますの。
「ひゃあああーッッ!お任せくださいまし、船長!
地球に着くまでの残りの航程、私のメインサーバーをまるごと貸し出して、3次元スパイラル航法のシミュレーション環境を構築いたしますわ!
これでもう、木星までの退屈な移動時間なんて1ミリもありませんわね!
さあ皆様、美味しいディナーを綺麗に平らげたら、未来の超進化Comb1号に向けた、最高の『バーチャル大改造オペ』の始まりですわよーッッ!」




