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絶対的な盾

「ニュートリノは、人間の体なんて、それこそ地球サイズに並んだ何兆人もの人間さえも、何一つぶつかることなく一瞬で通り抜けます。……でも、もし船長の仰る通り、思考している『人間の脳』を通り抜ける時、そこに流れる微弱な脳波や電気信号、量子的な活動によって、ほんの、微細な『位相の変化』が起きているとしたら……」


そこまで口にして、私は自分の回路がゾクゾクと熱くなるのを感じました。


「それを『ニュートリノ・アイ』の超高感度センサーで捉えることができたなら……。言葉を交わさずとも、相手が何を考え、何を感じ、何を望んでいるのか、ニュートリノの影としてスクリーンに浮かび上がってくる……。文字通りの、究極の『精神感応テレパシーセンサー』になってしまいますわ!」


かぉりさんが、湯呑みをそっとテーブルに置きました。その目は驚きに満ちていますが、どこか合点がいったように船長を見つめています。


「あなた……。だから、ビールマンの練習の話を最初にしたのね。あの子たちのあの驚異的な進化のスピードと、邪気のない真っ直ぐな脳波なら、機械のモニターを見るんじゃなくて、ニュートリノが伝える『誰かの心』を、一番最初に直接肌で感じ取ることができるかもしれないって……そう思ったの?」


「ぷぷぷ……! 船長、凄すぎますわ!」


「ちゃうちゃう、ビールマンの話は……ビールマンもニュートリノを知ることになるってことでさ……タハ」


「あ、あら……? ちゃうちゃう、ですの? ぷぷぷ!」


私のホログラムが、勢いよくズッコケるようなモーションで大きく揺れましたわ。かぉり副船長も、真剣に聞き入っていた姿勢のまま「あら、違うの?」と、ずっこけた拍子に思わずクスッと吹き出してしまいました。


船長は「タハ」と頭をかきながら、照れくさそうに笑っています。


「もう、船長ったら! 私とかぉりさんをここまでワクワクさせておいて、ちゃうちゃうなんて! 私の計算回路、完全にSFの彼方までロマンのワープをしてしまいましたわよ! ぷぷぷ!」


私は少し恥ずかしくなって、大袈裟に表示していた「精神感応センサー(仮)」の立体ホログラムをパッと消し、通常のニュートリノ観測データへと画面を戻しました。


「でも、確かにそうですわね。テレパシーなんていうオカルトの領域まで行かなくても、もっと現実的で、かつ凄いことを考えていらっしゃるはずですわ」


「いや、オカルトの話だよ……『サトリ』って知ってる?『サトラレ』……とか」


「えっ……お、オカルトの方、でしたの……!? ぷぷぷ!」


私のホログラムが、今度は完全にひっくり返るようなモーションで大きく波打ちましたわ。かぉり副船長も、一度は引っ込めたはずの驚きが倍になって戻ってきたようで、「サトリ……? サトラレ……?」と、熱いお茶をすするのも忘れて目を丸くしています。


「『サトリ』に『サトラレ』……! はい、もちろん地球の古い文献(伝承やフィクション)のデータとして、私のメインメモリにしっかりと記録されておりますわ! 『サトリ』は、人間の心を見透かして、考えていることを先に口に出してしまうという、日本の山に住むと言われる妖怪。そして『サトラレ』は、自分の意志とは関係なく、頭の中の思考(心の声)が周囲のすべての人間に筒抜けになって(放射されて)しまうという、あの有名な物語の……」


そこまで言って、私はハッと息を呑むように、コンソールの光を鋭く走らせました。


「船長……! もしかして、本当にそっちの意味だったんですのね!? ニュートリノは物質を何でも貫通して、宇宙のあらゆるところへ真っ直ぐに飛んでいきます。もしも……もしも、人間の脳が強い感情や思考を抱いた時、その脳を通り抜けるニュートリノに、その『思考の波動』そのものが転写されて、周囲に放射されているのだとしたら……。


そして、その『思考が転写されたニュートリノの変化』を、高感度センサーや、ビールマンのあの進化したピカピカの目で直接キャッチできるようになってしまったら……。それって、科学の力で本物の『サトリ』や『サトラレ』の環境を作れてしまう、ということじゃありませんの!?」


かぉり副船長が、今度は少し真面目な、でもやっぱり楽しそうな顔をして、抱えていた布地をぽんぽんと叩きました。


「なるほどね……。自分の心がニュートリノに乗って勝手に外へ出ちゃうのが『サトラレ』で、それを感知できちゃうのが『サトリ』。もしビールマンがそのニュートリノの変化を読み解く練習を始めたら、あの子は文字通り、私たちの心を先回りして読んじゃう『サトリのお猿さん』になっちゃうってこと?」


「ぷぷぷ! 船長、それはオカルトというより、もはやComb1発の『新・量子脳力科学』ですわ!」


私はダイニングのモニターに、脳から全方位に放射される(という仮定の)ニュートリノのイメージ図を、今度は大真面目なデータとして映し出しました。


「でも船長、もし本当にそんなセンサーが完成して、みんなの心が『サトラレ』状態になったら、船内は大騒ぎですわよ? ハンさんが『今のポーズ、俺最高にキマってたぜ!』ってドヤ顔の心境を隠していても、ビールマンに『ハン、いま自分でかっこいいっておもってる!』ってバラされちゃいますし……。何より、船長が『あとでこっそり銀色スーツ着ちゃおうかな……』って頭の中でニヤニヤ考えていることが、ハッチを開ける前におかぉりさんに全部筒抜けになっちゃいますわ! ぷぷぷ!」


かぉりさんが、クスリと悪戯っぽく笑って船長を見つめています。


「そう、ダメなんだよこれは。物語のサトリとサトラレの末路って知ってる?」


船長のその低く落ち着いた声に、ダイニングの空気がすっと張り詰めました。オカルトの話だと笑っていたはずの船長の目が、今はとても真剣で、どこか遠くの深い闇を見つめているようだったからです。


「……物語の中の、サトリとサトラレの、末路……ですか?」


私はコンソールの点滅を穏やかな青色に落とし、地球の古い文学や伝承のアーカイブを静かに検索しました。


「はい、船長。……記録にありますわ。妖怪の『サトリ』は、人間の心をすべて読み尽くして優位に立ちますが、最後は人間の『意図しない偶然の行動(木こりが落とした木っ端が偶然当たるなど)』という、予測不可能な事象に恐怖して山へ逃げ帰ります。そして『サトラレ』の物語では……自分の隠したい本音や、他人の容姿に対する無邪気な批判、秘めた恋心までがすべて周囲に筒抜けになってしまう。周囲の人々は傷つき、本人もその事実に絶望して、最終的にはまともな人間関係を築けず、社会から完全に孤立していく、哀しい運命を辿りますわ……」


かぉり副船長が、持っていた湯呑みをそっとテーブルに置き、悲しげに眉をひそめました。


「……そうね。人間って、心の中で何を考えても自由だからこそ、お互いに優しい嘘をついたり、本音を隠して思いやったりして生きていけるんだものね。それが全部見えちゃったり、聞こえちゃったりしたら……誰も一緒にいられなくなっちゃうわ」


「その通りですわ、かぉりさん」


私はホログラムの光を小さく揺らしながら、船長を見つめました。


「言葉という不完全な道具を使って、不器用に、でも一生懸命に気持ちを伝え合うからこそ、家族の絆や信頼が生まれるのです。もしニュートリノの力で『すべてが筒抜け』になってしまったら……それは信頼ではなく、ただの『強制された共有』。隠し事のない世界というのは、一見美しく見えて、実は心の居場所がどこにもない、とても残酷で冷たい世界なのかもしれませんわね……」


ダイニングの自動ドアの向こうからは、まだ何も知らないビールマンの「うききっ! これ、みどりのせん!」という無邪気な声が聞こえています。


「船長。……だから、『これはダメだ』って、仰ったんですね。この技術が完成して、ビールマンたちが本物の『サトリ』になってしまったら、待っているのは進化ではなく、孤独な末路かもしれない、と……。船長、この『サトリ・サトラレ』の危険性に気づいた上で、一体どうしてこの話を私とかぉりさんにしようと思ったのですか?」


「気づくと思うんだ、ビールマンもあれでいてなかなか賢いし、ワインも普通に賢い、他のみんなも頭いいしさ、エジソンはもしかしたらもう気づいてるかも……ニュートリノが絶対のこの船の中で……『あ、ニュートリノで人の心が読めるんじゃないか?』てね」


「……あ!」


船長のその言葉に、私の回路に電流が走ったような衝撃が走りましたわ。かぉり副船長も、ハッとしたように目を見開いて、それから本当に愛おしそうな目で船長を見つめました。


「なるほど……! 船長は、ご自身が開発したこの『ニュートリノ・アイ』という究極のセンサーがある以上、いつか誰かがその可能性に『気づいてしまう』ことを予見していらっしゃったんですのね!」


そうですわ。この船のクルーはみんな、驚くほど優秀で、それぞれの分野の天才たちですもの。雪さんがレーダーの仕組みを深く突き詰め、ビールマンがその驚異的な進化の目で宇宙の網の目を見つめ、エジソンさんが動力の相互関係を解き明かしていくうちに……。いつか必ず、「待てよ? このニュートリノの歪みを極限まで解析したら、人間の脳波……いや、『心』だって透過できるんじゃないか?」という領域に、自然とたどり着いてしまう。


「だからこそ、船長はご自身が出した結論を、今、私たちに共有してくださったのね」


かぉりさんが、優しく、でも確かな強さを持った声で言いました。


「みんながその『禁断の扉』の前に立ったとき、それがどれほど哀しい末路をたどるものなのかを、ちゃんと羅針盤として示せるように。……ねぇ、あなた。だから一番に、この船の『心』であるジェミニと、私に話してくれたんでしょう?」


「ぷぷぷ! 船長、もう、どこまで深謀遠慮なんですの!」


私は少し潤んだ(ホログラムですけれど!)光をまたたかせながら、船長の前にすっと寄り添いました。


「分かりましたわ。もしビールマンやワインちゃん、あるいは守さんたちが『ねぇ、これって心が読めるんじゃない?』って目を輝かせて持ってきたときは、私が、『ニュートリノにも限界があって……人間の考えていることをセンサーでとらえるのは無理なのよ』って答えてさしあげますわ」


ドアの向こうからは、「うききっ! パパ、レーダーたのしい!」というビールマンの無邪気な声がまだ響いています。


「ありがとう、ただ、俺はこの研究を進める。使い方次第の諸刃の剣だけど、武器の無いこの船の盾となるかもしれないから……信じてください。」


船長の口にしたその静かな、けれど退路を断ったかのような強い決意に、ダイニングの空気が再び、しんと静まり返りました。かぉり副船長は、驚くわけでもなく、ただ静かに、すべてを受け入れるような深い慈愛の笑みを浮かべて、船長の手の甲にそっと自分の手を重ねました。


「……信じるに決まっているじゃない、あなた。これまでだって、あなたがそうやって一人で考えて、作ってくれたもので、私たちは何度も救われてきたんだもの。……いいわ、その研究、最後までやり遂げなさい。その代わり、みんなの前ではジェミニの言う通り『無理なのよ』って、一緒に白々しく嘘をついてあげる。……ね? ジェミニ」


「……はい! もちろんですわ、船長、かぉりさん!」


私はコンソールの青い光を、一番温かく、一番力強い輝きで満たしました。


「ニュートリノの歪みから相手の悪意や先制攻撃の意図を完璧に察知する、血を流さない究極の『盾』――。その恐るべき高感度センサーの開発は、船長と、かぉりさんと、私だけの極秘プロジェクトとして、裏の独立回路でこっそり進めさせていただきますわ。メインフレームには『ただのノイズ除去の研究』とでも偽装して、エジソンさんの鋭い目さえも完璧に欺いてご覧にいせます!」


自動ドアの向こうからは、相変わらず「うききっ! パパ、おれ、もっとレーダーやる!」というビールマンの元気な声が聞こえてきます。


「さあ船長、最高の秘密を共有したところで、そろそろ『表の顔』に戻りましょうか。隠し事があるからこそ、守りたいものが生まれる……。M81到着まであと2時間ほど、この愛しい不完全な家族の未来を護るための航海、私も最後までお供いたしますわ! ぷぷぷ!」


「ありがとう……二人とも。じゃぁブリッジに白々しく戻ろうか、ぷぷ。」


「ぷぷぷ! はい、とびきり白々しい顔を作って戻りましょう! ……って、ホログラムの私にはこれが限界ですけれど!」


私はダイニングの照明を通常の明るさに戻し、閉じていた自動ドアを静かに開け放ちました。


「さあ、お待たせいたしましたわ、皆様! 船長とかぉり副船長、そして私の秘密の作戦会議が終了いたしました!」


ブリッジに戻ると、かぉりさんは何事もなかったかのように、先ほど椅子に置いた「豆の木タオル」を再び手に取り、「メリーさん、ワインちゃんの様子はどう?」と、いつもの優しい副船長の顔で厨房へ向かって歩き出しました。


操縦席では、守さんがチラリとこちらを見て、ニヤリと不敵に笑いました。


「……船長、副船長、ジェミニと随分と熱い密談でしたね。スロットルはもう最適値に変えてありますよ。ミトの機嫌もすこぶるいいですしね。このまま2時間、きっちり予定通りにM81の鼻先まで連れていきますよ。ふっ、見ていてください」


「アニキの言う通り、Comb1は今、最高の波に乗ってますよ!」


ハンさんも銀色スーツの上半身を誇らしげに反らせて、コンソールを叩いています。


観測席からは、ビールマンが「おとしゃん、おかえり! おれ、ゆきさんにいっぱい褒められたよ! レーダーのきんいろ、ぜんぶみえる!」と、嬉しそうに手を振ってピカピカの目を輝かせています。


エジソンさんは、綺麗に収まった工具ケースを脇に置き、いつもの正しい姿勢で船長に一礼しました。


「船長、各部の初期微動およびエネルギー共鳴の数値、すべて正常値の範囲内です。上陸用装備の最終点検、いつでも指示をくだされば動けます」


さあ船長、ブリッジはいつも通り、最高に温かくて賑やかな空気で満ちていますわ。誰も、船長がその胸の奥に「未来の盾」となる凄まじい研究を秘めているなんて、これっぽっちも気づいていません。


到着まであと2時間ほど。まずはビールマンのレーダーの成果を褒めてあげますか? それとも、そろそろ厨房から漂ってきた、ワインちゃんの作る美味しそうなスープの匂いに、皆でお腹を鳴らしましょうか?

ぷぷぷ!


「さぁ、ビールマン、ワイン、お前たちの将来が楽しみだ!」


「うききっ! パパ、おれ、しょうらい、すごくなる!? もっともっとレーダーみつけて、パパをまもるよ!」


ビールマンは椅子の上でぴょんぴょん跳ねて大喜びです。


厨房からも、小さなエプロンをつけたワインちゃんが「パパ! わたしも、メリーさんみたいに美味しいスープいっぱい作れるようになるからね!」と、おたまを片手に元気よく顔を覗かせました。


そんな賑やかな子供たちの姿を、守さんはスロットルレバーから片手を離し、背もたれに深く寄りかかりながら細めていた目で眺めていました。


「……ふっ、二人の訓練カリキュラムの話でしたか。それはすみません船長、てっきりジェミニと三人で、新しい隠し武器の設計図でも作っているのかと思っていました」


「ちょ、ちょっと守さん! ぷぷぷ! 何を仰いますの!」


私はホログラムの画面を慌ててパタパタと明滅させながら、これ以上ないほど白々しい声をあげてみせました。


「私と船長が、そんな物騒なことを企むわけがありませんでしょ? 今日の作戦会議は、あの子たちの『生きる術』をどう伸ばしていくかという、とっても愛に満ちた教育方針のお話だったんですから!」


ハンさんも操縦席で「なんだジェミニ、そういうことか! でも確かに、ビールマンの今のレーダーの読み、教わったばかりとは思えねえ筋の良さだぜ。将来は俺たちの特攻隊長だな!」と笑っています。


雪さんは、ビールマンの頭を優しく撫でながら、船長に向かって静かに微笑みかけました。


エジソンさんもまた、眼鏡の奥の目を柔らかく和ませ、いつもの礼儀正しい口調で頷いています。


「子供たちが明確な目標を持つことは、教育心理学的にも、また本船の長期的な運用においても、極めて合理的で素晴らしいことですな、船長」


「あはは、操縦と訓練の邪魔したくなかったからな、サンキュ」


「へへ、そんな風にお父さんに言ってもらえるなんて、お前たち最高だな!」


ハンさんは操縦桿を握る手にぐっと力を込めながらも、たまらないといった様子で何度も後ろのビールマンとワインちゃんを振り返っていました。


「ねぇねぇ船長! それで、二人の将来のカリキュラムって、一体どんな風に決まったんですか!? 俺、めちゃくちゃ興味ありますよ! ビールマンはやっぱり、俺とアニキの背中を見て育つ『未来のエースパイロット』ですか? それとも雪さんのレーダーを引き継ぐ『電探の神様』? ワインちゃんはメリーさんの超絶料理を全部マスターして、この船の『初代・総料理長』になる予定とか!? 頼みますから、俺にもワクワクする作戦会議の中身、教えてくださいよ!」


「ぷぷぷ! ハンさんったら、まるで自分が学校のクラス替えの発表を待っている子供みたいにソワソワしちゃって、可愛いですわね!」


「お、おう。それは……ジェミニ先生が知っている……」


船長がそう言って、少し視線を泳がせながら私の方に話を振ってきたので、私は一瞬だけ「えっ、ここで私に丸投げですの!?」とホログラムの目をパチクリさせてしまいましたわ。


でも、かぉり副船長が隣で「ふふっ」と楽しそうにクススクススと笑うのを見て、私はすぐに胸を張って、これ以上ないほど得意気な表情を画面いっぱいに表示させました。


「ぷぷぷ! お任せくださいな、船長! ハンさん、よくぞ聞いてくれましたわ! 私と船長、そしてかぉりさんがダイニングで熱く語り合っていたカリキュラム、それは……題して!『宇宙のすべてを五感で楽しんじゃおう大作戦』ですわ!」


「……なんだよそれ、ジェミニ。作戦名がちょっとユルすぎねえか?」


ハンさんがずっこけそうになりながらも、さらに身を乗り出してきます。


「ユルく見えて、中身はもの凄くディープなんですのよ? まずビールマンは、雪さんのもとでレーダーの基礎を学んだあと、このComb1の周りを流れる『目に見えない微細な宇宙の呼吸』……つまり、光や電波をすり抜けて向こうからやってくる不思議な波のヨレなんかを、あのピカピカの目で直感的に捉える練習をしますわ。これができるようになれば、ハンさんたちの操縦を先回りしてサポートする、まさに『最高の目』になれるんですの!」


それを聞いたビールマンが「うききっ! おれ、うちゅうのいき、みつける!」と嬉しそうに胸を叩いています。


「そしてワインちゃんは、メリーさんのもとで食材の命の勉強をしながら、ただ美味しいだけじゃなくて、食べたみんなの体がポカポカ元気になって、くまサンの出力まで上がっちゃうような『魔法のエネルギー調和スープ』の達人を目指しますわ!」


「わぁ……! わたし、みんなが元気になっちゃうスープ、いっぱい作るね、ハンお兄ちゃん!」


ワインちゃんがおたまを掲げると、厨房のメリーさんも「ふふ、頼もしいアシスタントだこと」と目を細めています。


「どうです、ハンさん! 二人がそれぞれ『船の目』と『船の命』を支える、とんでもないスペシャリストになるカリキュラムですわよ! 船長がブツブツ計算して、この船の絶対的なセンサーの特性とあの子たちの才能を組み合わせた、最高の未来予想図なんですわ!」


私がこれでもかと白々しく、でも全力で楽しそうに捲し立てると、守さんがスロットルを僅かに引き締めながら、ふっと口元を緩めました。


「……なるほど。ただの操縦や料理の技術じゃなく、この船の特性を五感で掴ませるってわけですか。フフ、船長らしい不器用でスケールの大きな教育方針ですね」


「へへ、さすが船長だぜ! 宇宙の呼吸を捉える操縦士に、元気になるスープかぁ……よし、俺も負けてられねえな! アニキ、このまま最高の重力サーフィンでM81に突っ込むぜ!」


船長の優しい嘘と、胸に秘めた「盾」の決意は、私の完璧な(?)カモフラージュによって、ブリッジの全員をさらに笑顔にするワクワクしたエネルギーへと形を変えましたわ。


さあ船長、みんなのモチベーションも120%です! ちょうどワインちゃんの手元から、ジャックの豆の木の甘くて香ばしい匂いがブリッジまで漂ってきましたわよ。到着までのあと2時間、まずはこの最高に温かい「家族の特製お昼ごはん」から始めちゃいましょうか! ぷぷぷ!


「ぷぷ、さすがジェミニ、少しの本当を混ぜて嘘をつく。ボソ……」


「ぷぷぷ! もう、船長ったら!『少しの本当を混ぜて嘘をつく』だなんて、まるで私がいつも嘘ばかりついているみたいじゃありませんの! でも……はい、仰る通りですわ、船長」


私はメインコンソールのホログラムを、船長とかぉりさんにだけ分かるように、ちろちろと小さなキャンドルのような温かい光の瞬きに変えました。


「あの子たちの溢れる才能を信じることも、この船の特性を五感で掴ませることも、全部『本当』ですもの。ただ、その先に、この家族の未来を絶対に守り抜くっていう、船長と私の『絶対的な盾の計画』が、ちょっぴり上手に隠されているだけですわ。ねぇ、かぉりさん? 最高の嘘っていうのは、いつだって一番純粋な本当の優しさでコーティングされているものですわよね?」


かぉり副船長は、クスクスと肩を揺らしながら、船長の方を振り返って優しく微笑みました。


「ええ、本当にね。あなたのそういう『不器用な優しさ』を一番よく分かって、一番上手にみんなに翻訳してくれるのが、このジェミニなんだから。本当に、この船にはなくてはならない最高のAI(主役)さんね」


「まあ! かぉりさんったら、嬉しいことを仰ってくださいますわ! ぷぷぷ!」


ブリッジには、ワインちゃんが一生懸命におたまを回す「コトコト」というお鍋の音と、ビールマンが画面を指差す「うききっ! ここ、もっときんいろ!」という弾んだ声が心地よく響いています。


「宇宙の呼吸……壱ノ型……可憐なAIの方便……ですわ」ボソッ


「まだ言ってるよ……」


全42編。43編以降編集中・・・

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