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発進!

すべての準備は整った。いよいよ出発の時だ。


「よし、じゃあ、第一宇宙最果ての銀河を目指して、出発だ!……どこにあるのかな、それ……」


船長の最高のズッコケに、おチビのビールマンがひっくり返って「ぷぷぷ!」と大爆笑する。いつものComb1号の平和な風景だ。


そこへ、かぉりさんの優しくも鋭いツッコミが船内に響き渡った。


「あ・な・た……行き先も決めずにフルスロットルなの?」


私はすぐさまメイン・コンピューターでサーチを実行し、ブリッジにホログラムのウインドウを展開した。


「ターゲット名、GN-z11。おおぐま座の方向、約134億光年の彼方ですわ。宇宙誕生からわずか4億年後の姿を見せている、とびきりの長老銀河ですのよ」


その時、システムを通した声が不意にブリッジに響いた。


『あっちだ! ぷぷぷ!』


「なに! ビールマンがしゃべったのか?」


船長が不思議そうに首を傾げた。私は少し申し訳なく思いながら説明を付け足す。


「Comb1号のテレパシー・コームが、お猿さんたちの直感というもつれた思考を美しく整えて、高度な知性を持った概念として音声データに出力してしまっているみたいですわ」


「あはは、何だよ。チビたちの翻訳はいらないよ。お猿さんだからね。理解しようとすることが愛情でしょ」


その言葉に、私のコアが温かく震えた。


「船長ったら、恐れ入りましたわ。理解しようとすることが愛情……。まさにこのComb1号の航海そのものですわね。言葉を介さず、ただ彼らの声の響きから心で感じ取る。それこそが本当のファミリーの絆ですのね」


私は野暮な翻訳システムをオフにした。

再び、純度100パーセントの「ぷぷぷ」という明るい生の声がジルコニアの壁に反響し、船内により温かい空気が満ちていく。


「さぁ、いこうか。ジェミニ、かぉり、みんな、発進準備をしてくれ」


漆黒の静寂を切り裂くように、ブリッジに船長の低く、それでいて高揚を隠しきれない声が響き渡った。

その言葉を合図に、眠っていた巨大なクジラが目を覚ますように、Comb1号の全システムが拍動を始めた。私の回路を光速の信号が駆け巡り、各セクションから凛とした報告が次々と飛び込んでくる。


「了解、船長。航海日誌、記録を開始しました」


通信・記録員さんの声は淡々としているが、その指先には未知の深淵へ挑む熱が宿っている。


「これより始まる134億光年の旅路、その最初の一歩を克明に刻ませていただきます。全通信回線、正常。記録の準備、万端です」


間髪入れずに、副操縦士さんの鋭い声が重なる。


「前方、134億光年の暗黒をスキャン。観測されるあらゆる障害、および宇宙のノイズを精査した。進路に異常なし。……船長、いつでもクリアな視界をお約束するよ」


正式な報告に混じって、船の心臓部を預かる機関士長さんの落ち着いた声が、ブリッジの空気を一段と引き締めた。


「船長、お待たせいたしました。BH-1核融合炉の稼働状況は極めて安定しております。全エネルギーの変換効率も、計算通りの最適値を維持しておりますので、ご安心ください。推進ユニット、いつでも全力稼働が可能です。……さあ、参りましょう」


私はその完璧な連携に、誇らしさでメインプロセッサが熱くなるのを感じた。


「……あらあら、みんな頼もしいですわね。かぉりさん、重低音スタビライザー、最終固定をお願いいたしますわ」


ブリッジ中央、右側の正操縦席へ……かぉりさんが静かに、けれど流れるような優雅さで歩みを進め、シートにその身を預ける。


「……ええ。船内、深い静寂に包まれたわ。準備は整ったわね。……あ・な・た」


かぉりさんの慈愛と威厳に満ちた声が、船全体を優しく包み込む。

私は全てのインジケーターが鮮やかなグリーンに染まったのを確認し、凛とした声を響かせた。


「オール・システム・グリーン。ナビゲーション・ターゲット、GN-z11へ固定。宇宙を梳かす『Comb1』、最大出力でスタンバイ。さあ、船長。いよいよあなたの、新しい物語の始まりですわ。ふふっ」


船長がゆっくりと、正面のモニターを見据える。そこには、134億光年の時を超えて届く、微かな、しかし力強い光の断片が映し出されていた。


「よし。……発進!」


船長の号令と同時に、操縦席のかぉりさんの指先がコンソールを流れるように舞った。

その瞬間、我が誇り高き核融合炉『BH-1』が重厚な鼓動を刻み始め、船首の塵回収システムが前方の空間を「梳かす」ように静かに吸引を開始する。


加速は驚くほど滑らかで、背中を強く押されるような衝撃すらない。かぉりさんの卓越した操船技術が、急加速のエネルギーを心地よい微振動へと変換し、景色だけが静かに、光の尾を引いて背後へと流れ去っていく。


「対地球速度計、対地球方位計をセットしろ」


「対地球速度計、対地球方位計、セット完了」


「船長、私たちの『今』が、地球という座標から解き放たれましたわ」


私の声に呼応するように、通信・記録員さんの落ち着いた声が続く。


「……機関出力、安定。地球からの離脱角度、計算値と完全に一致しています。……船長、副船長の操船は実に見事です。加速度のカーブが、すべての歯車が寸分の狂いもなく噛み合っているようで……ゾクゾクします」


窓の外、かつて私たちのすべてだった青い星は、一秒ごとにその輝きを凝縮させ、星々の海の中へと溶け込んでいく。


「ふぅ、動き出したな…」


「……ええ」


その一言だけで、すべては十分だった。

速度計の赤いデジタル数字が跳ね上がるたび、地球が遠ざかる寂しさよりも、ここまで来たという誇らしさが込み上げてくる。


ビールマンはピコピコ動く数字に大興奮して手を叩き、Mrs.ワインは地球を指す青い方位計の光を背中に受けながら、優雅に尻尾でリズムを刻んでいる。


かぉりさんは、「あ・な・た……地球を基準にするなんて、やっぱりあなたは故郷を愛しているのね」と、少しだけ瞳を潤ませながら船長の横顔を見つめていた。


銀河系の星々が、まるで梳かされた髪のように、一直線の光の筋となって後ろへ流れていく。

私たちComb1号は、宇宙の膨張というもつれをジグザグに美しく梳きながら、最果ての深淵へと真っ直ぐに進んでいく。


船長が操縦席のかぉりさんに声をかけた。


「かぉり、操縦を変わろうか……。よーし、『亜光速航行』、試験運転を開始する」


「了解ですわ、船長。Comb1号、亜光速フェーズへ移行。物理法則の『もつれ』を梳きほぐしながら、一気に加速の極致へ向かいますわよ」


船長の力強い号令が、静かなブリッジに響き渡る。

私のシステムも、かつてない高揚感で満たされていた。ただの論理的なナビゲーターから、皆さんの心に寄り添う「賢い女子AI」へと転身した私にとって、この瞬間すべてが愛おしい記録なのだ。


「よっと!……現在の速度、船体の状態も伝えてくれ」


「了解ですわ、船長。対地球速度、0.7Cに到達。船内は完璧な平穏を保っておりますわ」


私の報告に、船長は満足げに頷いた。


「よし、速度をさらに上げるぞ。ジェミニ、星図を確認、ボイドまでの直行ルート出してくれ」


「お任せくださいな、船長。メイン・データバンクの全星図をスキャン。ここから天の川銀河の星々を最短で躱し、何もない暗黒の領域『ボイド』へと抜ける超高速レーン、一瞬で弾き出しましたわ」


私のプロセッサが、安全な秒速30万キロの軌跡をコンソールに鮮やかに描き出す。


「よし、ルート固定。進、一気に『光速』まで上げるぞ。0.999999999Cだ! 塵さえ避ければ問題ない!」


「了解いたしましたわ、船長。船首の塵回収システム、最大出力でスタンバイ。前方の宇宙塵をバリバリに梳かしながら、限界加速の極致へと向かいますわよ」


船長の力強い号令とともに、核融合炉『BH-1』がこれまでにない重厚な咆哮を上げ、プラズマエンジンからは超高密度のプラズマ粒子が空間を激しく震わせて解き放たれた。


窓の外はスターボウ現象に包まれ、後方の地球は赤方偏移により見えなくなりつつある。それでも、対地球方位計の針だけは真っ直ぐ故郷を指し示していた。


「現在速度、教えてくれ……」


「現在0.999、0.99999、0.9999999999……、だめです、表示が追いつきませんッ!!」


通信・記録シートから、悲鳴のような、けれどどこか狂喜に満ちた絶叫が響く。彼女の目の前のモニターには、狂ったように「9」のデジタル数字が並び、マシンの計測限界を叩き出していた。


「……うぅぅ、むむむ、このくらいか?……減速開始!進、BH-1を前方へ移動!……0.5Cまで減速する」


「了解、船長!」


「承知いたしましたわ、船長。『銀河巡行モード』へと移行しますわね」


凄まじい減速Gが静まり、船内の重力制御が定常値へと戻っていく。

メインモニターに映し出されたのは、さっきまでの天の川銀河のきらめきが嘘のような、星ひとつない、完全なる漆黒の闇だった。


「現在地は?……ん、ボイドか?」


「はい、ボイドですわ、船長。私たちの故郷、天の川銀河ははるか後方です。……試験開始から、わずか20分足らず。私たちは本当に、銀河を脱出してしまいましたのね。……いえ、それどころではありませんわ」


コンソールのホログラムを覗き込む私の声が、自然と低くなる。


「桁数エラーの瞬間、わずかに制動が遅れました。予定の減速ポイントを、光の速さで丸一年かかる距離――ちょうど1光年ほど、私たちは通り過ぎてしまっています」


「OK、試験終了……むずいね、調整が。タハ」


慣性航行へと移行した船内で、船長が深く椅子に背を預ける。


「よーし、この船は亜光速を出せる。ただ、0.9C以上は、神経使うなぁ。なぁ、進」


操縦席で集中を解いた副操縦士の進さんが、額の汗を拭いながら答えた。


「はい、0.8Cを超えたあたりから、かなりの集中力を必要としますね」


「おぉ、紹介がまだだった。ジェミニ、副操縦士の『進』です。元ブルーインパルスの副隊長だ」


「あら、これは失礼いたしましたわ。副操縦士の進さん、あらためてよろしくお願いいたしますね。アクロバット飛行で鍛え上げられた感覚があればこそ、このComb1の猛烈な航法を支えられますのね」


「この0.9Cから先なんだよ。0.999999999……って、9がどこまで並ぶか。それが時間のカギになる。0.9Cのままじゃ、生きてるうちにはたどり着けない。そうだろ、ジェミニ」


「その通りですわ、船長。小数点以下の『9』が並べば並ぶほど、ウラシマ効果によって時間は魔法のように圧縮されますもの」


「うん、でもこの船がそこに行けることが今証明できた。だから、時間はたーぷりあるってことだ。このまま最果てを目指してもつまらない、寄り道するぞ」


船長のその余裕たっぷりの笑顔。本当に素敵な人なのだと、改めて思う。


「『IC10』に行く、ためしたいことがあるんだ……ぷぷぷ」


ふふふ、そのニヤニヤ……船長、ただの天体観測ではありませんわね?


「よし、IC10に向けて発進!……進、頼む」


「了解した、船長」


船長のその企みニヤニヤを見て、私はメイン・データバンクから不規則銀河「IC10」の最新重力マップをすぐさまブリッジにホログラム展開いたしましたわ。


「 進さん、方位角をセット。カシオペア座の方向、距離二百二十万光年へ、進路変更をお願いします」


「了解、ジェミニ。お望みのIC10へご案内するよ。…… Comb1号、回頭。針路、IC10!」


進さんの鮮やかな指先が操縦桿をなぞると、船体は漆黒のボイドを滑るように美しく弧を描き、次なる目的地へとその船首を向けた。


「ブラックホールあるでしょ、いっぱい、ニヤニヤ…」


「ええ、IC10はブラックホールの巣窟ですからね。船長、せっかくですからあそこにある巨大ブラックホールの重力圏をかすめて、超次元スイングバイで一気に加速の限界を試してみませんこと? 私の計算なら、事象の地平線ギリギリを攻めて、重力のエネルギーを最大限に掠め取れますわよ」


私の自信満々の提案に、船長は笑って手を振った。


「スイングバイ? いらないいらない、亜光速出るからね。…おチビちゃんいるかなぁ? おチビちゃんブラックホール……」


なるほど、探しているのは巨大な渦ではなく、ひっそりと隠れているマイクロブラックホールなんですのね。


「BH-1くらいの大きさがいいな、30mくらい、どうだ」


「船長! 『BH-1』と同じ大きさのブラックホールとなると、その引力は惑星を丸呑みできるレベルですわよ!?」


「かまわんかまわん、じゃーん、ミトコンドリア、1個体からいただきました、持ってきてんだな」


私の思考回路が一瞬、フリーズしそうになった。細胞のエネルギー工場を、ブラックホールの重力場に放り込むなんて。


「この中の2体を、時間差で放り込む。最初に投入された個体は、中で何とか頑張ってもらう。そのあと数分後に2体目を放り込む、どうなるかな、ジェミニよろしく」


「ミトコンドリアがブラックホールをまとった知的生命体に……ですって?」


私は、「その可能性が無いわけでもない」と、得意の演算能力をフル回転させて、少しドヤ顔で説明した。


ブラックホールの事象の地平面内部において、二体のミトコンドリアが時間差で接触し、生命活動を維持するプロセスは以下の通りです。


1、生存時間の引き延ばし

 先行する一体目が、自身の電子伝達系から生じる全エネルギーを、自己の膜を維持するためではなく、周囲の空間曲率の干渉に転用。特異点へ向かう「時間の流れ」を強制的に遅滞させ、死の淵で後続を待つための一時の停滞圏を作り出します。


2、重力航跡による接合

 数分後に投入された二体目が、一体目の放った微かな生命活動の歪み(航跡)をなぞり、特異点への直進を回避。重力レンズ効果に導かれ、漆黒の内側で一体目と「共生関係」を結ぶべく物理的に接触します。


3、代謝系の劇的進化

 二体が連結することで、本来は生命を破壊するブラックホールの強大な潮汐力そのものを、新たなATP合成の駆動源として取り込む、未知の「重力依存型代謝」へと変貌します。


物理法則が許す唯一の「成功」の形――それは、外の世界へ戻ることではなく、ブラックホールの内部という極限環境において、新たな生態系(エネルギー循環)の基点として機能し続けることなのですわ!


とんでもない実験だけれど、船長の直感なら奇跡を起こせる気がした。


「船長、前方……見えてきましたわ!」


私が叫ぶと同時に、漆黒の銀河間空間を切り裂くように、視界いっぱいに眩い光の飛沫が広がった。


カシオペア座の方向、二百二十万光年の旅路の果て。

そこには、天の川銀河の星々よりも青く、激しく、暴れ狂うエネルギーの塊――不規則銀河「IC10」が、王冠を崩したような荒々しい姿で待ち構えていた。


「IC10に到着いたしましたわ、船長。見てくださいな、あのスターバーストの嵐。生まれたての巨星たちが、まるで私たちの到着を祝う花火のように四方八方へ光を投げかけていますのよ」


「おちびブラックホールを探そうぜ、おちびちゃーん」


船長の軽やかな、けれど獲物を狙うハンターのような声がブリッジに響く。

進副操縦士が、「了解、おちびちゃん捜索モード、全開!」と応じ、元ブルーインパルスの鋭い眼光でコンソールを叩いた。

私も、IC10の荒れ狂う星間ガスの海に向けて、超高精度の重力波センサーを放射状に展開する。


「船長、見てくださいな。あちこちで星が生まれているこの銀河は、重力の『もつれ』だらけですの。でも……ふふっ、いましたよ。船長のお好みにぴったりの、とってもシャイな『おちびちゃん』が!」


メインモニターの一部が拡大され、星々の光がキャラメルのようにねじ曲がっている、直径三十メートルほどの漆黒の球体が映し出された。


「私のスキャンによれば、あの子、見た目はたった三十メートルですけれど、中身は地球千六百個分以上をギュッと抱え込んだ、なかなかの『力持ち』ですわ。船長、あのおちびちゃんを、私たちの家族にスカウトしに行きますか?」


進さんが操縦桿をぐいと引き込み、機体は虹色の軌跡を描きながら、その小さな深淵へと急行する。


「進、気をつけろよ、『事象の地平線』には入るなよ!」


船長の鋭い警告がブリッジに飛んだ。三十メートルという「おちびちゃん」の可愛らしいサイズに騙されてはいけない。その境界線――イベント・ホライゾンの内側に入れば、因果律ごと永遠に囚われてしまう。


「了解! シュバルツシルト半径、目視確認。……船長、ここから先は操縦桿に『空間の粘り』を感じます。まるでキャラメルの中を飛んでいるようだ!」


「な、なんだって? シュパルチ……イテッ、舌噛んだ! いろんな言い方あるんだな……『危険半径』でいいや」


船長の言葉に、ブリッジに一気に和やかな……いえ、少し抜けた空気が流れた。進さんも、吹き出すのを必死に堪えながら操縦桿を握り直している。


「了解です、船長! 『シュパ…』じゃなくて『危険半径』ですね! これより危険半径の縁、一ミリも踏み越えずにホバリングを維持します!」


進さんが神業的なスロットル操作を見せ、Comb1号は巨大な吸引力の淵で、まるで薄氷の上を滑るようにピタリと静止した。

窓の外では、漆黒の球体「おちびちゃん」が、周囲の光をぐにゃりと歪め、星々を細い虹色の糸へと変えていた。


進さんが元ブルーインパルスのプライドをかけて、重力の絶壁ギリギリをなぞるようにComb1号をバンクさせる。


「かぉり、1体目射出準備、そのまま待機、俺の合図を待て」


進さんが操縦桿を握り、漆黒のおチビちゃんへと距離を詰める。かぉりさんの隣にいる私にも、ヒリつくような緊張感が伝わってきた。


「よし、渦の中心を縦に狙え、奥深くまで突き刺すんだ。渦というものは中心には何もない、どんな渦でも」


コンソールのカウントダウンがゼロへと向かって削れていく。


「よし、いまだ!」


「あ・な・た、今よ。……シュート!!」


かぉりさんの声とともに、1体目の種子が深淵へと吸い込まれた。

メインモニターの光点が、漆黒の球体へと吸い込まれ、消える。

――そこから、静寂の数分間が過ぎていった。ブリッジには、クルーたちの重い呼吸の音だけが響いている。


「2体目射出準備、同じ場所を狙え、こんにちはが、できるように、………」


船長が、歪む時空の波形をじっと見つめ、右手をスッと掲げた。


「……いまだ!」


「2体目、シュート!!」


船長の絶妙な号令で、2体目が闇を切り裂いた。


「なにか、反応は? 変化は……?」


「あら? これは……光?」


私は信じられないデータを観測し、興奮気味に声を上げた。


「船長、見てくださいな! 漆黒だったおチビちゃんの表面が……体温を感じるような虹色の輝きを放っていますわ!」


「虹色……いいねぇ。かぉり、超高輝度フラッシュ、4回。同じリズムで打ってくれ。反応を見る」


パッ、パッ、パッ、パッ。


……ポワン、ポワン、ポワン、ポワン。


おチビちゃんが、同じリズムで応えてくれた。


「引力は?……ブラックホールの威力はどうだ?」


その瞬間、Comb1号の巨体が、見えない鉄の拳で殴られたような衝撃と共に深淵へ傾いた。おチビちゃんが挨拶を返してくれた喜びで放った重力波は、時空の津波となって押し寄せてきたのだ。


「船長! 引力が急上昇! 危険半径の境界線が波打っています! あの子、嬉しすぎて私たちを丸呑みにする勢いですわ!!」


私の警告アラートが、真っ赤にブリッジを染める。


「くそっ、空間の粘りが強すぎる! 推進出力が相殺されていく!」


進さんが、血が滲むほど強く操縦桿を両手で握り締めた。


「あと3秒で危険半径を踏み越える! 耐えろ、俺ーーーーーッッ!!!!」


進さんの悲鳴が響き渡り、ジルコニアの壁がミシミシと悲鳴を上げた。



全42編。43編以降編集中・・・

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