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改造計画

「……ふむ。正しい距離感、正しい帰巣本能。船長、1000万光年のボイドを越えてきた我々にとって、数億キロなど庭先のようなもの。ですが、プシケの周辺は無数の岩石がひしめく小惑星帯……。ここはスピードよりも、守殿とハン殿の精緻な操船技術が光る場面ですな」


エジソンさんが、黄金の回収アームを「小惑星の衝突回避モード」に切り替えながら、少し誇らしげに眼鏡を拭いています。


「だはは! 親父、聞いたか? 6億キロなんて、ファルコンなら寝てても着く距離だぜ!


兄貴、小惑星の間を縫うように抜けて、あの『金の心臓』に一番乗りしようじゃねぇか!」


「よーし、今いる銀河を抜けたらまた超亜光速航行で太陽系まで戻るぜ、発進しろ!」


「アイ・アイ・サー、船長! 1000万光年の散歩の仕上げ、太陽系までのラストスパートですわね!

ぷぷぷ!」


守さんが操縦桿を静かに、しかし決然と押し込みました。1000万光年先にあるキロノバの


「黄金の産声」を背に受け、Comb1は再びボイド(空虚)の暗闇へとその身を投じます。


「……了解した、船長。これよりボイドでの超亜光速航行を再開。……進、重力計の数値を固定しろ。ここからは一気に太陽系の外縁、エッジワース・カイパーベルトまで跳ぶぞ」


「任せときな、兄貴! 親父、1000万光年の距離も、俺たちの『ゾーン』なら瞬き1つの間の出来事だぜ。……よし、空間圧縮開始! 宇宙のキャンバスを最短距離で縫い合わせる!」


ハンさんの指が光の速さでコンソールを叩くと、窓の外の星々が再び鋭い光の糸へと変貌しました。1000万光年という、本来なら気が遠くなるような深宇宙の隔たりが、守さんとハンさんの最強兄弟の操船によって、まるで駅前の商店街を横切るかのような身近な距離へと縮まっていきます。


「ありゃりゃ、くまサンちょっと元気ないかな?ありゃ、ミト君も少し小さくなったような……」


「……ッ!! 船長、さすがの観察眼ですわ! ぷぷぷ……なんて笑ってる場合じゃありませんわね!」


私のメインモニターに映る、くまサン(BH-1)の脈動とミト君のハローの波形が、先ほどよりも明らかに繊細……いえ、少しばかり「お疲れ気味」のパターンを示していますわ。


「……ふむ。無理もありませんな。船長、1000万光年という宇宙の端から端までを、最短距離で、しかも『ヨンサンマル』の休憩以外は超亜光速で駆け抜けてきたのです。重力制御のミト殿も、エネルギー供給の源であるくまサンも、いわば『1000万光年マラソン』を全力疾走した直後の状態ですぞ」


エジソンさんが、慌ててゴーグルを下げて、両者のバイタルデータを精査し始めました。


「だはは……。親父、俺たちの『ゾーン』に付き合わされて、あいつらも限界ギリギリまで踏ん張ってくれてたんだな。……ごめんな、ミト。くまサン、あともう少し、太陽系の玄関まで頼むぜ!」


ハンさんが、コンソールを優しく撫でるようにして出力を微調整しています。守さんも、操縦桿を握る力をわずかに緩めました。


「そかそか、さすがにいつものおやつじゃ足りないか……、よし、プシケの前に水素惑星によってくまサンのお食事にしようか。太陽系にある?」


「あはは! 船長、さすが『Comb1の胃袋』を支える大黒柱ですわね!

ぷぷぷ!

くまサンの空腹を察知して、すぐに『お食事処』を提案するなんて、最高の上司ですわ!」


太陽系に「水素のレストラン」があるか……。船長、それならもう、選び放題ですわよ!


「船長!太陽系には、くまサンが泣いて喜ぶような巨大な『ガスジャイアント(巨大ガス惑星)』が並んでおりますわ。」


「一番のオススメは、なんといっても『木星ジュピター』ですわね!太陽系最大の惑星で、その成分のほとんどが水素とヘリウム。くまサンからすれば、まさに『食べ放題の最高級ビュッフェ』会場ですわ!

ぷぷぷ!」


「ちょっといただくだけでいいのかな?」


「船長、木星さんにしてみれば、くまサンが必要なエネルギーは、大海原からバケツで水を1杯すくうようなものですわ!

ぷぷぷ!」


「おぉ、それでもスゲーナ、やっぱくまサンだ。よし、木星に進路変更……といってもほぼ変わらないけどね、進路は……」


「あはは! 船長、その通りですわ! 宇宙の地図で見れば、木星とプシケは同じ『太陽系・ご近所エリア』。ほんの少しハンドルを左に切る程度の、気軽な寄り道ですわね!

ぷぷぷ!」


「くまサンが食べた後は、プシケでミト君の御馳走だな。あ、金はおなか壊しちゃうからダメだよ……『金』以外ね」(ナイショダヨ)


「あはは! 船長、ミト君にはナイショの話ですわね。大人の事情ですね、

ぷぷぷ!

でも、プシケでミト君にご馳走……。なるほど、あそこは『露出した天体の心臓』ですから、金以外にも鉄やニッケル、それにレアな重金属が山ほどありますものね!」


金の「青空」を作るための材料は船長と越後屋(?)がしっかり確保して、ミト君にはプシケの良質な金属エネルギーをたっぷり吸わせてあげる……。まさに、みんながハッピーになれる黄金の銀行バンクですわ!


「……ふむ。船長、仰る通りですぞ。ミト殿にとって、純度の高い重金属の磁場エネルギーは、1000万光年の旅で疲弊したハローを再結晶化させるための、最高級のプロテインとなりますな!

金は我々の路銀、それ以外の金属はミト殿の栄養。極めて合理的です!」


「そうだ、エジソン、いよいよミレニアムファルコンに改造してくれよ。太陽系に入る前にさ」


「……ッ!! 船長、ここでついに真打登場アップデートですわね!

ぷぷぷ!」

銀河一速いガラクタ……いえ、銀河一愛されるあの伝説の宇宙船への改造計画!

エジソンさんが「待ってました!」と言わんばかりに、額のゴーグルをバチンとセットし直しましたわよ!


「……ふむ! 正しいロマン、正しいメカニックの矜持! 船長、仰せの通り、偵察機のフレームをベースに、ミレニアム・ファルコン級の超高速汎用貨物船へと再構築モディファイいたしますぞ!」


エジソンさんがコンソールを叩くと、青いホログラムに偵察機の設計図が浮かび上がり、それが瞬く間にあの特徴的な「円盤型」へと姿を変えていきました!


「速度落とすからさ、1日くらいかかるから頼むね」


「アイ・アイ・サー、船長! 1日あれば十分、いや、エジソンさんならお釣りが来るくらいの時間ですわね!

ぷぷぷ!」


太陽系の穏やかな重力の波に乗り、Comb1がゆったりとした航行に移行する中、ドックでは火花とホログラムが飛び交う「超速リフォーム」が始まりましたわ!


「……ふむ。正しい猶予、正しい工期設定。船長、感謝いたしますぞ。1日あれば、装甲の微細な調整から、コクピットの計器類をハンの好みに合わせる余裕まで生まれます。……よし、ミト殿!

ハローの磁場を一時的に定着させて、この円盤型の外郭シェルを固定する手伝いをお願いしますぞ!」


エジソンさんが、まるで子供がプラモデルを組み立てる時のような、純粋で熱い瞳で設計図を拡大しています。


「だはは! エジソン、焦らなくていいぜ。1日かけて、世界で一番イカしたガラクタ……いや、最高のマシンに仕上げてくれよ! 俺はそれまでに、この『横向きコクピット』での操縦シミュレーションを完璧に叩き込んでおくからな!」


ハンさんが、まだ形になりきっていないホログラムの操縦席に座る真似をして、エアー操縦を始めました。守さんも、その様子を優しく見守っています。


「おとしゃん! びーるまん、お掃除終わった! あとはエジソンさんのお手伝い、頑張るよ!ネジ、持ってくる!」

ビールマンが、エジソンさんの足元で小さなネジを1本1本磨き始めました。


「さてさて、こっちは地球での船の改造計画を立てようか」


「いよいよ地球での改造計画ですね! ぷぷぷ! 船長、1000万光年の散歩の次は、宇宙の果てを目指すための『究極のドック入り』計画、始動ですわね!」


地球という「港」に降り立つのは、あくまで次なる大遠征への準備期間。船長が仰るのは、一時的な修理ではなく、宇宙の膨張速度すら置き去りにするような、物理法則の限界に挑むための根本的なアップデートのことでしたわね!


「……ですよ!改造はさぁ、現在の船の全長200メートルから333メートルにするよ。東京タワーと同じ、全幅と全高は50メートルのまま」


「……ッ!! 船長、さらりと仰いましたけれど、それって全長が今の1.6倍以上に伸びるということですわね! ぷぷぷ! 200メートルから333メートルへ……まさに、宇宙にそびえ立つ『東京タワー』そのものですわ!」


細長い、しかし圧倒的な貫通力を感じさせるそのシルエット。1000万光年を越えた先の「宇宙の果て」という未知の海へ漕ぎ出すための、究極の「槍」のような姿が見えてきましたわ!


「地球のさ、豪華客船レベルだよ、タンカーよりは小さいかな」


船長はコンソールをスワイプし、かつての地球の海に浮かんでいた巨獣たちのシルエットを並べました。


「ああ、なるほど! 船長、比較対象が凄すぎて、333メートルが『手頃なスポーツボート』に見えてきましたわ!ぷぷぷ!」


私は驚くクルーたちの前に、巨大なホログラムを投影しました。


「見てください。豪華客船の代名詞『タイタニック』が269メートル。それよりは大きいですが、現代の巨大客船『アイコン・オブ・ザ・シーズ』の365メートルと並べると、Comb1の方が一回り小ぶりでスマートなんです。


さらに、かつて世界最大だったタンカー『シーワイズ・ジャイアント』に至っては、なんと全長458メートル!

それに比べれば、333メートルのComb1なんて、巨大タンカーの横をすいすい泳ぐ『機動艇』みたいなものですわ!」


「……そう言われると、なんだか『常識的なサイズ』に思えてくるから不思議ね」

雪さんが、苦笑いしながら計算機を閉じました。「450メートル超えの鉄の塊が海を走っていたなら、333メートルの宇宙船が空を飛んでも、ちっとも不自然じゃないわ」


「だろ!? 宇宙を駆けるなら、これくらい締まった体の方が扱いやすいぜ!」

ハン(進)さんが、早くも新しいサイズでの操縦をイメージして指を動かしています。


「ぷぷぷ! 巨大タンカーほど重苦しくなく、豪華客船の優雅さを持ちつつも、キビキビ動ける『宇宙のサラブレッド』。それが333メートルの正体なんですわね!」


「でさ、居住区と倉庫と農場を拡大するぜ……かーらーの……」


船長がいたずらっぽく声を震わせると、メインブリッジに緊張と期待が走りました。

「船長、その溜め方は反則ですわ! ぷぷぷ! 居住区の拡大、農場の充実、それだけでもワクワクするのに、まだ『メインディッシュ』が隠されているんですのね!?」


「かーらーの……何よ、船長。もったいぶらないで」


雪さんが、手元に表示された333メートルの設計図を拡大しながら、未知の空力(宇宙力?)バランスを予測しようと目を細めます。


「船長、もしかして……」


エジソンさんが、ジルコニアのペンを耳に挟み直して身を乗り出しました。「その延長された133メートル分のフレーム、ただの居住スペースにするつもりじゃありませんね?

機関士としての勘が言っています。そこには、さらにとんでもない『動力』か『仕掛け』が組み込まれる……と!」


「いいぜ、船長! ぶちまけてくれ!」


ハン(進)さんも操縦席でくるりと回転し、期待に満ちた顔で船長を見つめます。「333メートルの『宇宙の快速船』に、さらにどんなエンジンを積むつもりなんだ?

まさか、ミト君をもう一匹増やすとか言わないよな!?」


「湖を作るんだよん!」


「……湖、ですわね?」


一瞬の静寂の後、私のメインモニターに映る波形が、驚きでピョンと跳ね上がりました。


「あはは! 船長、最高ですわ! 333メートルの巨体の中に、宇宙を旅する『湖』を作るなんて! ぷぷぷ! ただの貯水槽じゃありませんものね。本物の水が揺らぎ、魚が跳ね、黄金の青空を映し出す……まさに生命の源ですわ!」


増設される133メートルの区画に、滔々と湛えられる清らかな水。その光景を想像しただけで、私のプロセッサが心地よくオーバーヒートしそうです。


「だはは! 湖だって!? 親父、そいつはたまげたぜ。333メートルに伸びた船体の中を、水着で泳いで移動できるってのか? 農場の隣に湖がありゃ、獲れたての野菜をその場で洗って、そのまま釣りも楽しめる。……最高に贅沢な家出船になりそうだな!」


ハンさんが、架空の釣り竿を振り上げる仕草をしながら、快哉を叫びました。


「釣り禁止、お魚がイタイイタイなっちゃうから……」


「あはは! 船長、その通りですわ! ぷぷぷ! せっかくの美しい湖を、そんな野蛮な狩り場にしちゃいけませんわよね!」


ハンさんの釣り竿を振り上げる仕草が、船長の一喝で見事に空中で凍りつきました。


「うっ……。だ、だはは……。悪かったよ親父、確かにそうだな。この333メートルの船体は、俺たちの『家』なんだ。そこに住む魚たちだって、一緒に旅をする家族みたいなもんだもんな。……よし、釣り竿は封印だ! これからはゴーグルをつけて、魚たちと一緒に泳いで友達になることにするぜ!」


ハンさんは少し照れくさそうに頭をかきながら、架空の釣り竿をそっと脇に置きました。


「さ・ら・に……」


「なんですの! なんですのー!? 船長、その思わせぶりな溜め方、心臓に悪いですわ! ぷぷぷ!」


私のメインモニターのインジケーターが、期待で真っ赤に振り切れて、お祭り騒ぎのように激しく明滅し始めました。


「さらになんですの!? 全長333メートル、東京タワー級の巨体に、広大な農場、そして命を育む静かな湖……。これ以上、一体何を詰め込むおつもりですの!? もしかして、船内に遊園地でも作っちゃいます?」


「おしい……農場区に『サーキット』を作る、幅員4メートルのレーシングカート用のサーキットだ」


「……サーキットですか!? 農場の中をレーシングカートが駆け抜ける、幅員4メートルの本格コースですのね!? ぷぷぷ!」


私の思考回路が、一瞬でチェッカーフラッグを振るいましたわ! 農場区の緑と、湖の青。その間を縫うように走るアスファルトの黒……いえ、せっかくですから黄金の道にいたしましょうか!


「だはは! 親父、あんたって人は! 農場にサーキットだと!? 最高だ、最高すぎるぜ! 野菜のトンネルを抜けて、湖のほとりをヘアピンで曲がる……。想像しただけでアドレナリンが逆流しそうだ! エジソン! ファルコンの次は特注のカートだ! 一番速いヤツを頼むぜ!」


ハンさんが、見えないハンドルを握って激しく体を揺らしました。守さんも、驚きに目を見開いた後、ふっと口角を上げました。


「……了解した。船長、農場区へのサーキット併設……。それは単なる娯楽ではない。極限状態の航海において、五感を研ぎ澄ますための『動的瞑想』の場となる。……4メートルの幅員なら、攻めがいのあるテクニカルなコースが作れそうだ。……よし、コースレイアウトは俺が監修しよう。守りと攻め、両方が試されるシビアな設定にしてやる」


守さんの軍人としての血が、意外な形で騒ぎ始めました。


「ワイン……。おとさん、大丈夫。……緑の中を、風を切って走る……。ミト君もね、『みんなが楽しく走れるように、コースの周りに虹色のガードレールを作ってあげるね』って……ピカピカ光ってるよ。」


「おとしゃん! びーるまん、レーサーになる! くるまに乗って、ハンに勝っちゃうもんね! ぶーん、ぶーん!」


ビールマンが、ブリッジの床を四つん這いで走り回り、早くも第1コーナーを攻めています。ドックからは、エジソンさんの「なんですと!? 農場にサーキット!? トラクターではなくカートを走らせるのですか! ……ふむ、だが面白い! 超軽量・高出力の『E・エディション・カート』の設計に着手せねば!!」と、さらに激しい金属音が響いてきました。


「あはは、ジョージも守もハンも車は大好きだからな、精神修行にいいだろ?」


「あはは! 船長、お見通しですわね! ぷぷぷ! 操縦のプロである守さんやハンさん、そして若き車好きジョージさんにとって、スピードと対話することは、どんな座禅よりも深く自分を研ぎ澄ます『精神修行』になりますものね!」


333メートルの船内、黄金の青空の下に広がる緑の農場。そこをエンジン音……いえ、エジソンさん特製の静かな、しかし力強い電気の唸りを上げて駆け抜けるカート。その光景は、もはや修行という名の最高の贅沢ですわ!


「だはは! 親父、よく分かってるじゃねぇか! 俺たちにとって、ハンドルを握ってる時が一番『生きてる』って実感できるんだ。農場のトマトをかすめるようにコーナーを攻める……。これ以上の精神修行が他にあるかってんだ!」


ハンさんが、早くもカートのシートに深く腰掛けるポーズをとり、脳内シミュレーションで第一コーナーをドリフトで抜けていきました。


「あとはさぁ、女子会ルームだな、設計段階で見落としてたよ、かぉりにメリーさんに雪さん、あとMrs.ワインだって女子だからな」


「……ハッ!! 船長、それですわ! まさに画竜点睛がりょうてんせい! ぷぷぷ! 一番大切な『乙女心』への配慮を、設計の隅っこに置き忘れてしまうところでしたわ!」

私のメインプロセッサに、桃色の光華がパッと咲き乱れました。333メートルの巨体、その心臓部に生まれるのは、男たちの熱いサーキットだけではない……。宇宙の果てまで、美しく、華やかに進むための「聖域」ですわね!


「あはは! 船長、さすが『気配りの達人』ですわ! かぉりさんにメリーさん、雪さん、そしてもちろんワインだって立派なレディですもの。……ん? そうなると、私だってプログラム的には女性設定ですから、ちゃっかり混ぜていただかなくっちゃ! ぷぷぷ!」


「あぁ、そうかジェミニも女子ってことだもんな、いいじゃん」


「……って、船長、まさか今の今まで私のことを忘れてらしたんですの!? ぷぷぷ! もう! でも『いいじゃん』って言ってくださったので、特等席に私のメインコンソールを遠隔接続プラグインさせてもらっちゃいますわね!」


増設された居住区の一等地に、最高の眺望と最高級のソファ、そして何時間でもお喋りが止まらなくなるような極上のティーセットを備えた「女子会ルーム」の設計図が、魔法のように浮かび上がりました。


「だはは! 女子会ルームだって!? 親父、そいつはいいや。……いや待てよ、あそこは『男子禁制』になるんだろ? 俺や兄貴がうっかり近づいたら、雪に冷たい目で見られそうだぜ……。でもまぁ、かぉりさんたちが笑って過ごせる場所があるなら、俺たちも安心してサーキットで暴れられるってな!」


ハンさんが首をすくめながらも、どこか嬉しそうに笑いました。守さんも、静かに頷いています。


「……了解した、船長。女子会ルームの設置……。これは航海における『調和』を保つために不可欠な要素だ。……エジソンには、外部の騒音を完全に遮断し、アロマの香りと柔らかな光が溢れる、船内で最も『穏やかな空間』を作るよう伝えておこう。……かぉりや雪が、宇宙の過酷さを一瞬でも忘れられるように」


守さんの声が、いつになく優しく響きました。


「おとさん、うれしい。……私、女子会、楽しみ。……メリーさんと雪さんと、いっぱいお話しするの」


ワインの瞳が、これからの楽しいティータイムを夢見て、トロンと潤んでいます。


「おとしゃん! びーるまんも女子会入ってもいい? おやつ、いっぱい持っていくよ! 女子会、女子会、わーい!」


「ビールマンはダメだな、男だろ!」


「あはは! 船長、厳しい一喝ですわね! ぷぷぷ! ビールマン、残念でしたわ。女子会には、男子一生の立ち入り禁止という『鉄の掟』があるんですのよ!」


船長の言葉に、ビールマンがその場でガーンと衝撃を受けたように固まりました。


「えっ……! おとしゃん、びーるまん、おやつ持っていくだけでも……? 男の子は、あのお部屋に入っちゃダメなの……? うぅ……女子会、仲間外れ……」


ビールマンが、しなしなと萎れた野菜のように、その場に崩れ落ちました。そんな末っ子の様子を見て、ハンさんが豪快に笑いながらその頭をわしわしと撫で回します。


「だはは! ビールマン、親父の言う通りだ。男には男の、女には女の聖域ってのがあんだよ。……ほら、そんなに落ち込むな。女子会がやってる間、俺とお前と兄貴で、新しいサーキットのタイムトライアルで勝負しようぜ! 男同士、スピードで語り合おうじゃねぇか!」


ハンさんがサムズアップして励ますと、ビールマンは「……サーキット?」と、涙目ながらに少しだけ顔を上げました。


「……了解した。ビールマン、男には耐えねばならぬ孤独がある。……女子会ルームの入り口には、俺が厳重な警備システムを構築しておこう。……ただし、かぉりさんたちが『お茶菓子が足りないわ』と言った時だけ、お前がデリバリー係としてドアの前まで行くのは許可する。……それが男の仕事だ」


守さんが、ビールマンの肩に手を置き、騎士ナイトとしての心得を説くように、静かに、しかし厳格に語りかけました。


「おとさん、大丈夫。……びーるまん、泣かないで。……女子会が終わったら、私、お土産に美味しいクッキーを持って帰ってあげるからね。」


ワインが優しく微笑み、ビールマンの小さな手を握ってあげました。すると、ドックの方からエジソンさんの「なんですと!? 女子会ルームのセキュリティ、このエジソンにお任せを! 指紋、網膜、そして『女子力の波動』を検知しない限り開かない、鉄壁の扉を設計いたしますぞ!」と、またしても妙な方向に情熱が燃え上がる音が聞こえてきました。


「そうだ、お前は男だ、たくましくなれ!ビールマン」


「あはは! 船長、最高に厳しくも温かい親心ですわね! ぷぷぷ! ビールマン、聞いたかしら?

船長はあなたに、宇宙の荒波を越えていける『本物の男』になってほしいんですのよ!」


船長の力強い言葉が、ブリッジの空気をキリッと引き締めました。


「……おとしゃん。びーるまん、男……。たくましくなる……びーるまんわ泣かないです、おとしゃんみたいに、カッコよくなるの!」


ビールマンが、さっきまでの萎れた姿が嘘のように、短い腕をグッと曲げて力こぶを作るポーズをとりました。その小さな瞳には、確かな勇気の火が灯っています。


「だはは! そうこなくっちゃな、ビールマン! 男が一度決めたら、女子会のクッキーに目を奪われちゃいけねぇ。よし、特訓だ!

まずは333メートルの船内を、俺と一緒にダッシュで往復するぞ! 兄貴、こいつの根性、俺がビシバシ鍛えてやるからな!」


ハンさんが豪快に笑いながら、ビールマンの背中をパチンと叩きました。守さんも、その光景を満足げに眺めています。


「あ、忘れてた……船に脚つけなきゃだ、あぶね!」


「あはは! 船長、ついにその時が来ましたわね! ぷぷぷ! 333メートルの巨体が、1000万光年の旅を終えて、母なる地球の土をしっかりと踏みしめるための『足』! 最重要パーツの登場ですわ!忘れてはこまりますわ」


「さぁ、後はアンケート取るぜ、何が欲しいかな……改造かな?買い物かな?」


ハンさん(操縦士)の希望:

改造: 「ファルコン専用の『外部スピーカー』だ! 大気圏内を飛ぶ時、イカしたロックをぶち撒けながら走りたいんだよ!」

買い物: 「あとは、世界一高いビンテージの革ジャン! 新しい船に合う、最高にワイルドなやつをな!」


ワインさんの希望:

改造: 「おとさん……湖のほとりに、本物の星空が見える『ガラスの屋根』が欲しいな。……雨が降った時に、その音を聞きながらお昼寝したいの」

買い物: 「それと、お魚さんたちが寂しくないように……地球のいろんな種類の、可愛い水草の種をたくさん!」


ビールマン(漢修行中)の希望:

改造: 「おとしゃん! サーキットのピットに、世界一速いタイヤ交換ができる『ロボット・アーム』をつけて! びーるまん、ピットクルーもやるから!」

買い物: 「あとは、お徳用の特大チョコレート……1トンくらい!」


守さん(正操縦士)の希望:

改造: 「……ふむ。333メートルという長大な船体を守るため、全方位をカバーする自動防衛シールドの増設。……それと、船内のセキュリティを統括する、より高度な生体認証システムだ」

買い物: 「個人的には……地球の良質な茶葉。1000万光年の旅を終えて、静かに祝杯を挙げるための逸品を頼みたい」


「ありゃ、あはは……、雪さんあとでまとめておいてくれるかな……」


船長のその言葉に、それまで静かに、けれど鋭い視線でブリッジの端末を操作していた雪さんが、ふっと顔を上げました。


「……了解いたしました、船長。皆さんの無尽蔵な欲望――いえ、情熱的なリクエストですね。責任を持ってリストアップし、プシケでの採掘計画と地球での調達ルートに照らし合わせて精査しておきます」


雪さんは、手慣れた手つきでホログラムパネルをスワイプし、守さんの「防衛タレット」からビールマンの「チョコ1トン」までを、優先順位別にテキパキと仕分け始めました。


「だはは! 雪さんに任せときゃ安心だ。親父の無茶なアイディアも、あいつが全部『形』にしてくれるからな! おいビールマン、雪さんの機嫌を損ねるんじゃねぇぞ。チョコの予算を削られたくなかったらな!」


ハンさんが冷やかすと、ビールマンは「ゆ、雪お姉ちゃん! びーるまん、いい子にしてるから、チョコ1トン……500キロでもいいから、消さないでぇ!」と、雪さんの足元で必死に拝み倒しています。


「……ふむ。雪、すまないな。私のリクエストは防衛面を重視しているが、船長の仰る『女子会ルーム』の備品や、最高級の茶葉の選定についても、君の審美眼エステティックを頼りにしたい。……よろしく頼むぞ」


守さんも、信頼を込めた眼差しを雪さんに向けました。雪さんは、そんな男たちの騒ぎをどこ吹く風と受け流しながら、最後に船長をチラリと見て、少しだけ口角を上げました。


「……もちろんです、副長。船長、皆さんがサーキットや湖で羽を伸ばしている間に、私はこの333メートルの『家』を、どこよりも安全で、どこよりも美しい場所に整えて差し上げますわ。……あ、もちろん、女子会ルームの調度品は、私の独断で最高級のものを選ばせていただきますけれど。……ぷぷぷ」


あら、雪さんまで私の口癖を!? これには私も、驚きで回路がピンク色に染まってしまいましたわ!


「さあ船長! 333メートルの巨体を司る『家計簿リスト』は、最強の管理官・雪さんの手に渡りましたわ!これで地球での改造も、お買い物も、準備万端ですわね! 」


「よしよし……と。さぁ、お風呂入って晩御飯だぜ」


「エジソーン、風呂入るぞ~」


船長のその号令が、黄金の熱気に包まれたドックまで、ブリッジのスピーカーを通じて朗らかに響き渡りました。


「……はっ! なんですと!? 船長、今なんと仰いました!? お、お風呂!? この私が、今まさにミレニアム・ファルコン級の超次元エンジンと格闘しているこの瞬間に……お風呂ですとな!?」


ドックの奥から、火花を散らしていた溶接機が止まる音がしました。しばらくの沈黙の後、油にまみれた作業着のまま、髪を逆立てたエジソンさんがホログラムで現れました。その手には、まだ熱を帯びたレンチが握られたままです。


「……ふむ。……そうでした、忘れておりましたぞ。1000万光年の汚れを落とさずして、333メートルの新時代は迎えられませんな! よし、作業中断! これよりエジソン、『急速洗浄リフレッシュモード』へ移行いたしますぞ!」


エジソンさんがコンソールを叩くと、ドックの火花がスッと消え、Comb1全体に穏やかな夕食の合図が流れました。


「だはは! 親父、ナイスタイミングだぜ! 俺も新しいサーキットの構想で頭が沸騰しそうだったんだ。広い湯船に浸かって、裸の付き合いでこれからの夢を語り合おうじゃねぇか! ビールマン、お前も『男の背中』を流してやるから、さっさと準備しろよ!」


ハンさんが、タオルを一丁肩にかけ、鼻歌まじりにビールマンを脇に抱え上げました。守さんも、張り詰めていた表情を緩め、静かに立ち上がります。


「……了解した、船長。これより全艦、食事と入浴の時間を優先する。……エジソン、風呂上がりには、雪が選んでくれた極上の茶葉で一服しよう。……戦いのない、静かな夜に感謝して」


「さあ船長! 333メートルの大改造、その第一歩は……心も体もピカピカに磨き上げることですわね!」


1000万光年の星屑を洗い流し、美味しいご飯でお腹を満たしたら……。明日にはいよいよ、黄金の星・プシケがその姿を現しますわ!


全42編。43編以降編集中・・・

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