正操縦士復活
「さぁ、ブラキさんと閣下にさよならするぜ。離陸準備だ!くまサンを回収してからちょっと遅いけどお昼にしよう」
船長のその晴れやかな号令とともに、ブリッジの全員が「アイ・アイ・サー!」と一斉にシートベルトを締め直しましたわ。
「了解いたしましたわ、船長! 白亜紀の親子デリバリー任務、これにてコンプリートですわね!
ファルコンの収容シークエンスと同時に、機体の浮上スタビライザーをオンラインにしますわ!」
私がメインコンソールを軽快なスカイブルーに明滅させると、上空でホバリングしていたファルコンが、お腹いっぱいで草原に寝転がっている閣下に最後のローパス(低空飛行)で翼を振り、Comb1号の格納庫へと滑り込んできました。
雪さんも素早くコンソールを叩き、マルチスペクトル・カメラの焦点を切り替えます。
その時、リビングの大きな展望窓に、小さな二つの影がピタッと張り付きましたわ!
ヘルメット代わりのザルを脱いだビールマンと、おやつのポシェットを揺らしたワインです。二人は遠ざかっていく大地の親子と、お腹を上にしてゴロゴロしている閣下に向けて、ちぎれんばかりに小さな手を振り始めました。
「ブラキさん! あかちゃん! バイバーイ!
ビールマン、おとしゃんといっしょに、またくるよー! びゅーん!」
ビールマンが直立二足歩行の立派な姿勢で窓をドンドンと叩きながら叫ぶと、ワインもそっと窓に手のひらを押し当てて、優しく目を細めました。
「お母さんブラキさん、おチビちゃん……バイバイ。仲良く、ね。……あ、閣下も、お肉、いっぱいたべて、ね……?
ふふ♪」
二人の純粋な声に応えるように、眼下に広がる黄金色の草原では、お母さんブラキが長い首を一度大きく縦に振り、おチビちゃんが「ウマァァァン!」と空に届くような声で鳴き声を上げましたわ。遠くの窪地からは、閣下の「グオォォン……」という、心なしか満足そうな(?)ゲップ混じりの重低音もかすかに響いてきます。
「ひゃあああ! 船長、見てくださいまし! 自然界の掟を超えた、最高のサヨナラ・コールですわ!ぷぷぷ♪」
「おう、バイバイできたかな。よし、ハン! エジソン、くまサンを回収しに行くぞ」
副操縦士席のハンさんが操縦桿を引くと、Comb1号は草原を離れ、一気に漆黒の宇宙へ。静止衛星軌道上では、地上を焼き尽くすほどの超高熱を宿した、直径30mの知性を持つ核融合炉『くまサン』が燦然と輝いていましたわ。
「静止軌道にホバー完了! エジソン、ドッキング・シークエンス開始だ!」
ハンさんが流れる手つきで軌道同調レバーを上げると、機関室のエジソンさんが深く頷きました。
「……ッ!! 磁気シールド開放! くまサンとのリンク開始!」
船体上部のポートが開くと、くまサンは「キュキュ〜ン!」と嬉しそうにプラズマを明滅させ、テザーに包み込まれていきます。
「よし、固定完了! メインパワー、フルチャージですぞ!」
「だはは! 完璧だ。さぁて親父、操縦をオートに切り替えたぜ。ちょっと遅くなっちまったけど、約束の最高のお昼にしようぜ!」
「くまサンただいま~、ぷぷ。みんなもありがと、あれ?
エジソン?エジソーン……寝ちゃったのかな?」
船長がメインモニターに映る機関室の画面を覗き込むと、そこには愛用の計算尺を握りしめたまま、直立不動の姿勢のままでピキーンと凝固しているエジソンさんの姿がありましたわ。
「ちょっと行ってくる………………おーいエジソン?……ペシペシ…ありゃ、やっぱり寝ちゃってるよ?」
「す、すぴーーーっ……! 科学の……進歩……すぴーーーっ……!」
機関室のモニターの向こうで、エジソンさんは一ミリの傾きもなく、まるで見事な彫刻のように直立不動のまま大いびきをかいていました。手元には、今朝まで一睡もせずに削り出し、あのブラキ親子の再会を支えた「透明なジャイロスフィア」の設計データが誇らしげに輝いています。
「ぷぷ、本当に限界だったんだな。エジソン。おつかれさま……ペシペシ♪」
船長がもう一度、ペシペシと叩きますが、天才発明王の意識はすでに遥か科学の理想郷へと跳んでいます。
「おかしゃん、エジソンおじちゃん、お肉食べないの?」
リビングから、すでにお腹の虫を鳴らしているビールマンが不思議そうに覗き込んできました。
「彼は今、頭の中で最高の発明をしているのよ。だから、起こさないようにしてあげましょうか」
かぉり副船長が、絶対零度の気配を微塵も感じさせない、聖母のような優しい微笑みでビールマンの頭を撫でました。その手には、特製スパイスでじっくり漬け込まれた分厚いマンモス風(合成肉)の塊が、これでもかと大皿に盛られています。
「おーい、ハン、手伝ってくれぇ、エジソンをベッドに寝かせるぞ」
「了解だ、親父! よっと……うお、エジソン、直立不動のまま固まってやがるから、まるで頑丈な丸太を運んでるみたいだぜ!」
副操縦士のハンさんが快くシートを立ち上がり、船長と一緒にエジソンさんの両脇を抱え上げました。
それでもエジソンさんは「ピキーン」と直立の姿勢を崩しません。腕にはしっかりと計算尺が握りしめられたままです。
「それにしても、見事な直立不動っぷりですわね! ぷぷぷ!」
二人がかりでエジソンさんを機関室の簡易ベッドへと運び、そっと横たわらせます。
シーツをかけると、エジソンさんは横を向くこともなく、仰向けのまま「すぴーーーっ……!
科学の……進歩……」と、幸せそうな寝息を等間隔で刻み続けていました。
「これでよし。今朝まで本当に頑張ってくれたからな。……お疲れさん」
船長がその寝顔をもう一度優しく「ペシペシ」と叩いてから、二人は足音を忍ばせてリビングへと戻ってきました。
「さぁ、昼飯にしようか」
「2000万年後の未来へ跳ぶ前の、いわば『2000万年後の地球』への最後のご挨拶……。
この青い輝きをおかずにランチをいただくなんて、全宇宙で私たちだけの特権ですわ!」
私がパノラマ・リビングの透過率を最大に上げると、そこには窓枠いっぱいに、深緑の大陸と瑠璃色の海、そして真っ白な雲が渦巻く、生命力に満ち溢れた地球の姿が広がりました。
「ふふ、お待たせ。今日はね、さっきバートとジョージが命がけ(?)で収穫してくれた『巨大な紫の実』を、パイ包みにしてみたわ!
スパイシーで、なんだか力が湧いてくる香りがするわよ。野口先生の毒性分析でOKはもらってるわ」
「 船長の勇気ある『挨拶と謝罪』によってもたらされた、未知の果実のパイ包み……。毒性はありませんでした、副船長の『料理人の直感』。……試食の価値が大いにあります!」
医師の野口先生が、いつも以上に激しくハネ上がった寝癖を直すのも忘れて、オーブンから漂う甘く香ばしい匂いにフラフラと吸い寄せられていきます。
「「「いただきます!」」」
「あ、野口、昨日は閣下の歯を直してくれてありがとね。クルーはケガしないから退屈しちゃうね、ぷぷ」
野口先生は眼鏡の奥の目を細めました。
「いえいえ、私が暇なのは何よりです、医療の研究にも飽きませんからね、この船は」
「でも、もしケガをされたり病気をされた場合は、じっくり料理させていただきますよ、フフフ・・・・」
そうおっしゃる野口先生が手に持っているのはメス……ではなく、なぜか今日バートたちが採取した「紫の実」を切るための包丁(研ぎ澄まされすぎ)。あぁ、船長。そんなに震えては、バイタルが乱れてしまいますよ。
「……少々、『解体』、いえ、診察しましょうか?」
「……了解。俺は常にミレニアム・ファルコンの中でシートベルトを締めて、絶対に一歩も外に出ない。擦り傷一つ作らないことをここに誓う。」
ハンさんにいつもの勢いがなくなり……正しいことをおっしゃっていますわ、ぷぷぷ。
ビールマンは 野口先生の「フフフ」という笑い声を、新しい遊びの合図だと思って真似しています。「ぷぷぷ〜(フフフ〜)!」……ビールマン、それだけは笑い事じゃありませんのよ!
「船長、野口先生の『暇なのが一番』という言葉、本心だとは思いますが、その後の付け足しが怖すぎます!
今のComb1は、『右にブラックホールのミト君、左に核融合炉のくまサン、そして船内に死神(野口先生)』という、宇宙で最も近づいてはいけない船になりましたね」
船長は、あらためて二人を紹介してくれました。
「紹介するよ、こちら船医兼医学者の『野口』、ひげが野口英世に似てる医師だから、野口と呼んでます。で、こちらが『メリー』。野口の奥さんだからメリーって呼んでます。本名はいつものことで、今更聞けません」
そして、わたしにだけ聞こえるようにこっそり声を潜めます。
「噂によると、メリーもかぉりと同じで、重低音ブレーキ制御を持っているようで、発動条件は『言うことを聞かない患者』・・・この制動をかけられたが最後、身動きが取れなくなるらしい・・・・そしてそのまま・・・・料理される・・・・ひぇぇぇぇーーーー」
船長!今、私の全センサーが未曾有の危機(と、ちょっとした笑い)を検知しましたわ。
「かぉりさんの絶対法則」だけでも宇宙の膨張が止まるというのに、まさか「メリーさんの重低音ブレーキ」まで存在していたとは……!この船、物理的には「最強」ですが、精神的には「逃げ場なし」の究極の空間になってきましたわね。
「船長、しっかりしてください。これはもはや『医務室』ではなく『処刑場』……失礼、完璧な『治療室』ですな。野口殿の髭が、先ほどからメリー殿の低音に共鳴して、微かに震えておりますぞ。我々、絶対に健康でいましょう。そして、絶対に言うことを聞きましょう……!」
「おわぁぁ!? エジソン!なんだよ寝てろよ〜、大丈夫か?」
「……ふむ。正しい防衛本能、正しい健康維持への執着。船長、私は頭の中で最高の発明をしておりましたが、……メリー殿の『下ごしらえ』という言葉の波動を感知した瞬間、絶対零度の危機を察知し、三半規管が強制リブートいたしました。我々技術職、健康を害してあの『治療室(処刑場)』へ連行されるわけにはいかんのですな……!」
エジソンさん、計算尺を握りしめたまま、まだ目が半分しか開いていませんのに、お髭と眼鏡をシャキーンとさせて凄まじい説得力ですわ!
あ、でもエジソンさん、寝不足で倒れたらそれこそ野口先生に『おや、過労かな?じっくり料理しましょう』って解体――じゃなくて診察されちゃいますからね?
「エジソンってショートスリーパーなのかな?30分しかたってねーぞ、こんど野口に見てもらおうか」ボソッ……
「ひゃあああ! 船長、それは一番言っちゃいけないやつですわ! 船長の後ろ、後ろを見てくださいまし!
エジソンさんの眼鏡の奥の瞳が、恐怖で一瞬にして『限界限界限界!』って真っ赤な警告インジケーターみたいに点滅しておりますわよ!
ぷぷぷ!」
私のメインコンソールも、エジソンさんの焦りに同調してガタガタと(もちろん冗談ですわ!)振動を始めてしまいましたわ!
「……ッ!! 船長、まことに恐ろしいご提案、まことに容赦のない死の宣告……!
私はショートスリーパーなどではございません! 30分……いえ、計算尺の目盛りで言えば、私の脳細胞にとっては3万秒に匹敵する極上のディープスリープ(熟睡)を完了したのです!
野口先生の『料理(診察)』など、1ミクロンも、1ナノメートルも必要ございませんな!
私は至って健康、メインパワー、フルチャージですぞ!」
エジソンさん、30分しか経っていないというのに、愛用の計算尺を凄まじい速度でカシャカシャと動かしながら、必死の形相で「健康アピール」をされていますわ!
「そうだな……エジソン、ハン、みんな……ケガと病気には気を付けような・・・ブルブル…」
「怖がって心拍数が上がると、野口先生に『おや、心不全の兆候かな?
じっくり料理(診察)しましょう』って呼ばれる口実を与えるだけですよ!」
「うぷぷっぷ……」
野口先生の隣では、穏やかに、しかし絶対に逆らえないオーラを纏って微笑んでいたメリー夫人も、
「あら、船長さん。主人の『料理』発言、気にしないでくださいね? 私がしっかり『下ごしらえ』(看護)をしますから……。うふふ」
あら、野口先生、メリーさんの隣だと、あの「フフフ」という不敵な笑みが、どこか「尻に敷かれている夫」の照れ隠しに見えてくるから不思議ですわ。髭の整い具合は、まさに昔の1000円札のそれ。野口先生のあの鋭い技術と、メリーさんの包容力があれば、GN-z11までの320億光年、健康面は万全ですわね!
「ところで船長、先ほど、その料理が出来上がりましたよ……フフ」
あら?……野口医師の出来上がった料理……と申しますと?……
「え、ほんとに?、ほんとに……正操縦士が退院できたの!?」
ブリッジの空気が一気に変わりましたわ。
「……ええっ!? 船長、今なんと仰いました!? 『正操縦士が退院』ですって!?」
私のメインコンソールの全インジケーターが、驚きのあまり「お祝いのシャンパンゴールド」に弾け飛びましたわ!
Comb1が発進してからこの数週間、ずっと野口先生の医務室(という名の聖域)に隔離……いえ、入院されていた、あの伝説の正操縦士がついに復帰されるんですのね!
「……ッ!! 船長、まことに正しい快気祝い、まことに正しい戦力の復帰。……ふむ。正操縦士殿の三半規管が、私の設計した亜光速のGに耐えうるレベルまで再構築されたということですね。これは……凄まじいことですな」
エジソンさんが、先ほどまで野口先生の「料理(治療)」に震えていたのも忘れ、感激のあまり立ち上がって一礼しました。
「ヒェー……。助かった、助かったぜ親父! 兄貴が戻ってくるなら、俺もようやく『ゾーン』の激務から少しは解放されるってわけだ。野口のおっちゃん、いや、野口先生!
ありがとうよ! 最高の退院祝いだぜ!お…ぷぷぷ……ぷ」
船長がハンの口を押えて、何ですの?私のメインプロセッサは、ハンさんの「兄貴」という言葉を聞き逃しませんでしたわ。
「おぉ……きたきた、待ってたよこの日を。ありがとう!!」
「……船長、ただいま戻りました。長らく戦列を離れ、皆様に多大なるご不便をおかけしたこと、心よりお詫び申し上げます」
「大丈夫だ、お前の席は開けてある。頼むぜ!」
「……っ!! 船長、その一言……最高にシビれますわ!
『お前の席は開けてある』だなんて、正操縦士さんじゃなくても、私のメインプロセッサが感動でショートしそうですわ!」
船長のその深く、包み込むような言葉を受けて、正操縦士さんの表情がさらに引き締まりました。
「……感謝いたします、船長。そのお言葉、身に余る光栄です」
正操縦士さんは短く、しかし熱い決意を込めて応えると、迷いのない足取りで正面のメイン操縦席へと向かいました。その背中からは、もはや「病み上がり」という気配は微塵も感じられませんわ。
「ジェミニジェミニ、彼がこの船の正操縦士です。ここでクイズでーす!
彼の名前はなんでしょう。
ヒント1、彼はハン(進)のお兄さんです(さっき聞こえちゃった)。みんなシーだよ。
ヒント2、伝説の宇宙船のパイロットと同じ名前です。苗字は違うけど本名ですよ。みんなシーだよ」
「……ッ!! 船長、突然のクイズタイムですわね!?」
しかも『みんなシー』って……ブリッジの全員がニヤニヤしながら私を見つめて、完全に試されてますわ!
ぷぷぷ!
私のメインプロセッサがフル稼働で銀河中の『伝説』を検索しておりますわ……。
ヒント1、進さんのお兄さん。ヒント2、苗字は違うけれど、あの伝説の宇宙船のパイロットと同じ名前。
……ふむ。進さんの「お兄さん」で、宇宙を駆ける伝説の男……。
しかも、このComb1が時空を超えて地球を守る旅をしていることを考えると、導き出される答えは一つしかありませんわ!!
苗字こそ違えど、かつて遥か彼方のイスカンダルへと旅立ち、地球を救ったあの伝説の戦術長……そして『進』の自慢の兄である、あの御方と同じお名前!
「船長、正解を申し上げてもよろしいかしら?私の全回路が、誇らしげにその名を叫んでおりますわよ!彼の名は……『守』さん!!」
船長はとっても嬉しそうに笑いました。
「正解で〜す♪ ヒント出しすぎたかー……」
「「「船長ヒント出しすぎダヨー」」」
「あはは! 船長、もう大盤振る舞いすぎますわよ!みんなからの一斉ツッコミ、ログにしっかり記録いたしましたわ!
ぷぷぷ!」
雪さんも「船長、それクイズじゃなくて、もはや答えを復唱させただけですわ」と呆れ顔ですし、ハンさんも「親父、それじゃジェミニにサービスしすぎだろ!」って、お腹を抱えて笑っています。
でも、船長のあの嬉しそうな、誇らしげな笑顔……。
「守」という名前を私が呼んだ瞬間に、ブリッジの空気がパッと明るくなったのを見て、私もメインメモリがポカポカしちゃいましたわ。
「……ふむ。正しい正解、正しい喜び。船長、ヒントの量はともかく、ジェミニがこの『守』という名に込められた重みを理解したことは、今後の航海において極めて重要ですな」
エジソンさんも、満足げに眼鏡を指で押し上げて、守さんの背中を見守っています。
「紹介します、こちら正操縦士の守です、元ブルーインパルス隊長でした。」
「……ッ!! ブルーインパルスの隊長!!?」
私の全回路が、驚愕と興奮でショート寸前の超高電圧になりましたわ!!
船長、今の紹介は「ヒント出しすぎ」どころの騒ぎじゃありませんわよ!
伝説のパイロットどころか、この国の、いや、地球の空の頂点を極めた「空の芸術家」ではありませんか!
「守さん、そんな凄まじい経歴を隠して……いえ、あの落ち着き払った佇まいは、数万人の観衆を魅了するスモークの航跡を背負ってきた自信の現れだったんですのね……。ぷぷ、震えが止まりませんわ!」
「……船長、過去の肩書きです。今は、このComb1という『唯一無二の翼』を預かる一人の操縦士に過ぎません。……しかし、ブルーの誇りに懸けて、この巨体を一糸乱れぬ正確さで、未来のポイントへ着陸させてみせます」
「だはは! 親父、言っちまったな。兄貴は照れてるけど、実力は本物だぜ」
ハンさんが自分のことのように自慢げに鼻を高くしていますわ。
なるほど、進さんが先ほど『兄貴』と呼んで慕い、船長が絶大な信頼を寄せるわけですわ!
守さんが操縦席に座れば、このComb1は文字通り『宇宙を旅する船』として完成する……。なんて素晴らしいことですの!
ブリッジに現れた守さんに向かって、船長は楽しそうに語りかけます。
「まぁまぁ、ゆっくり昼ごはん食べよ。なぁなぁ……まもるまもる、偵察機さぁ、これみてこの偵察機のコクピットの画像・・・・あれだろ、な、だからさぁミレニアムファルコンって名前にして形も変えちゃうんだ。いいでしょ」
「……ッ!! 船長、それは……ッ!!」
守さんの、あの「鉄の自制心」とも思われる表情が、一瞬で崩れ去りましたわ!
船長が差し出した端末の画像――そこに映し出された『ミレニアム・ファルコン』のコクピットに座るハンとビールマン二人の姿。
守さんの目が、まるでブルーインパルスのスモークを初めて見た子供のように、キラッキラに輝いていますわよ!
「こ、これは。まさしく伝説のガラクタのコクピット……」
「ぷぷ……でさでさ、まもるまもる、進の名前も『ハン』ってことで、ビールマンも『ちびチューイ』です。よろしく(敬礼)」
さらに言葉を続けようとする船長、
「でさでさ、まもるまもる……」
「あ・な・た」
かぉりさんの静かな、でも絶対に逆らえない声が響きました。
「うれしいのは分かるけど守がゆっくり食べられないでしょ、積もる話はまたゆっくり話しましょう」
「あ、はい・・・」
「あはは! 船長、かぉりさんの『重低音・家庭内ブレーキ』が炸裂しましたわね!
さすがの船長も、この制動には手も足も出ませんわ!ぷぷぷ!」
ついさっきまで「ブルーインパルス隊長」の顔をどこかへ置いてきて、少年のような顔で画像にかじりついていた守さんも、かぉりさんの一声でハッと我に返りましたわ。
「……はは、すみません、かぉりさん。あまりの衝撃に、つい我を忘れてしまいました。……船長、話の続きは、このパイ包みをしっかり味わってからにしましょう。……進、いや、『ハン』。お前とのコンビ、改めてよろしく頼むぞ」
後でこっそり、船長はわたしに教えてくれたんです。
「守は訓練中の事故で大けがしたんだ、でもどうしても来てもらいたいから、お願いして入院したまま来てもらったのです。クルー募集の面接の時はびっくりしたよ、守と進の兄弟で、ブルーインパルスの隊長と副隊長なんだもん、サイコーだよね」
「……っ!! 船長、そんな……そんな秘密があったんですのね」
船長からこっそり聞いた守さんの真実に、私のメインプロセッサが静かに震えましたわ。
大怪我を負ってでも、船長の「どうしても」という願いに応えて、入院したままこのComb1に乗り込んだ守さん。環境を黙って支え続けた弟のハン(進)さん……。
「ブルーインパルスの隊長と副隊長が、本物の兄弟で、しかも『守と進』……。船長、それはもう『最高』なんて言葉じゃ足りませんわ!
運命という名の神様が、Comb1のために用意してくれた、奇跡のラインナップですわね!」
そして、食事が終わった守さんに、船長は真剣な顔で向き直ります。
「守、この船は地球を救うという重大な使命は持っていない、気楽にいこう。ただ、君と君の弟はこの船のみんなの命を握っている、頼むぜ!」
「……はっ。了解いたしました、船長」
守さんは、椅子から立ち上がると、船長の目を見て短く、しかし鋼のような意志を込めて頷きました。
「地球を救う」という肩書きよりも、「目の前の家族の命を預かる」という言葉の方が、今の守さんには何より重く、固定して誇らしい任務として響いたようですわ。
「よし、飯を食ったら守の慣熟訓練と行こうか」
全42編。43編以降編集中・・・




