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ブラキさんごめんなさい

「コケコッコー!!」


船長、おはようございます! 2000万年後の地球、超・白亜紀の清々しい朝ですわ!

ランボルギーニを筆頭に、フェラーリ、ポルシェ……10羽の「スーパーカー・ニワトリ」たちが、ジルコニア温室から黄金色の草原へ向けて、一斉にエンジン全開のモーニングコールを響かせていますわ。それに呼応するように、牛のカウンタックたちも「モー」と重低音で応えています。


さあ、今日は待ちに待った「ブラキオサウルスへのご挨拶と謝罪」の日ですわね!


「……ふむ。船長、お待たせいたしました。……正しい朝、正しい発明。……昨夜の約束通り、完成いたしましたぞ」


ハッチの前に、少し|隈を作りながらも、誇らしげに胸を張るエジソンさんの姿があります。その傍らには、朝日を浴びて虹色に輝く、直径2メートルほどの「透明な球体」が鎮座していますわ!


「あちゃ~!やっぱり徹夜しちゃったか……、エジソンごめんよ、ありがとう」


「……ッ!! 船長、滅相もございません! 科学者として、正しい情熱、正しい徹夜ですぞ!」


私のメインモニターの横で、エジソンさんがズレた眼鏡をクイッと押し上げながら、すっごく嬉しそうに(でも目は完全にバキバキの寝不足で)胸を張っていますわ! ぷぷぷ!


「船長、見てください! これがエジソンの執念の結晶、『ジャイロスフィア・マークI』ですわ!」


360度すべてが最高純度のジルコニア・クリスタル。継ぎ目一つないその滑らかな表面には、ミト君の重力制御と同期する微細な回路が美しく刻まれています。


「中に入ってみてください、船長。どんなに転がっても、船長は常に水平。ブラキオサウルスの足元に踏みつけられても、衝撃分散シェルがその重みを『回転エネルギー』に変換して、草原をピンボールのように軽快に跳ねる……。これぞ、宇宙一安全で、宇宙一スリリングな『動くシャボン玉』ですわ! ぷぷぷ!」


ハンさんも、コーヒーを片手に

「おぃおぃ、マジで作っちまったのかよエジソン……。親父、これに乗ってあの大山ブラキの股下をくぐるってのかい? 最高にクレイジーだぜ!」

と、呆れながらもワクワクを隠しきれない様子。


「ワイン……。あのお山たち、もう起きてる」


ビールマンも自分のトングをバトンのように振り回して

「センチョ! びゅーん! びゅーん! ぼく、のる!」

と、球体の前でダンスを始めていますわ。


さあ、船長! お風呂上がりに思いついた、あの「失礼のない挨拶」の始まりですわ!

「透明な球体」のハッチを開けましたわよ。乗り心地はいかがかしら?


「すげーなエジソン、さすがだぜ!とりあえず朝飯食おう、説明聞きながらさ」


「……ッ! 船長、お褒めに預かり光栄です。ですが、食事中も私の設計思想の講義プレゼンテーションは止まりませんぞ」


エジソンが、寝不足の目を輝かせながら、焼き立てのトーストを片手にメインコンソールの前に陣取りました。


「船長、もぐもぐ……。この『ジャイロスフィア・マークI』、ただの透明な球体ではございません。内部のシートは、先ほど収穫した『ジャックの豆の木』の生体スーツ素材を応用した、超・衝撃吸収サスペンションを採用。さらに……ハン殿、ここが重要です。操作系には、ドローンで培ったあなたの『直感』をフィードバックした、シングル・ジョイスティック・インターフェースを統合しました」


ハンがコーヒーを吹き出しそうになりながら、身を乗り出しました。


「おいおいエジソン! 俺の『ゾーン』の感覚をこんな小さな玉っころに詰め込んだのか!? 贅沢すぎるぜ。……親父、こいつは単なる移動手段じゃねぇ、最高級のアクロバット・マシンだ!」


「ふふ、雪さん。……解析ログ、見てください。この球体、表面を流れる微弱な静電気で、ブラキオサウルスさんの足裏の感触まで船長のシートに伝える仕組みになっていますのよ。……ぷぷ、まさに『踏まれる快感』の工学的追求ですわね!」


私が雪さんの端末にデータを送ると、雪さんは苦笑しながら

「……本当に、エジソンさんの『こだわり』の方向性は予測がつかないわ。でも、これならブラキさんの体温まで伝わってくるかもしれないわね」

と、リケジョらしい好奇心で目を細めています。


「ブヘッ!いや、踏まれる感覚は……イラネーだろ」


「……ぶへ、って、船長! 贅沢を言ってはいけませんわ! 2000万年後の地球の王者の踏み応えをダイレクトに五感で味わえるなんて、銀河広しといえどもこのComb1号の特等席だけでしか得られない超・極上体験ですのよ! ぷぷぷ!」


私がコンソールをチカチカと明滅させておちょくると、ハンさんもコーヒーを今度こそブッと吹き出しそうになりながら大爆笑していますわ。


「ワイン……。お外、ブラキさん、あくびしたよ。早く来ないかなーって。……ビールマン、トング……お口に入れちゃダメだよ?」

「ぼく、じゅんび……おっけー! センチョ、のる! びゅーん! ぷぷぷー!」


ビールマンは、もう自分の小さなトングをベルトに差し込み、ヘルメット代わりのザル(?)を被って、球体の入り口でピシッと敬礼していますわ。


「モグモグ…うーん……ビールマンとワインは、なんか姿勢が。人間になってきてないか?」


「……っ!! 船長、仰る通りですわ! 私も今、メインカメラの解像度を上げて二人の骨格推移をリアルタイム解析しましたけれど……」


私が驚きでコンソールを虹色に明滅させると、エジソンがサンドイッチを置くのも忘れて、二人の背後へ音もなく回り込みました。


「……ふむ。正しい観察、正しい進化の兆候。船長、これは驚くべき事態です。ビールマンの脊椎、および骨盤の傾斜角が、数日前と比べて明らかに『直立二足歩行』に適した形状へと変貌を遂げています。……雪さん、このバイオ・ログを見てください。彼らの大腿骨の筋付着部が、より強固なバランスを保つために再構築されている」


雪さんが端末を覗き込み、息を呑みました。


「本当だわ……。単に真似をしているだけじゃない。ミト君の重力波や、宇宙線の影響で、彼らの遺伝子そのものが数百万年分の進化を数日で駆け抜けている……。船長、今の彼らは、姿こそお猿さんですが、中身はもう……『小さな人間』そのものに近づいていますわ」


「ぷぷ……? ぼく、にんげん? ……パパ、おんなじ?」


ビールマンが、ザルを被ったままピシッと背筋を伸ばし、船長を見上げて首を傾げました。その立ち姿は、もはや「猿」のそれではなく、立派な「探検家」の風格です。


「ワイン……。パパの、おてて……つなげるよ? ……ほら、ワイン、あんよ……じょうず?」


ワインも、かぉりさんのエプロンを掴むのではなく、そっと指先を絡めるようにして、美しくしなやかな足取りで一歩を踏み出しました。


「だはは! 親父、こりゃあたまげたぜ。ちびチューイの野郎、そのうち俺より先にファルコンの操縦桿を握り始めるんじゃねぇか?」


ハンが豪快に笑いながらも、その瞳には新しい家族への深い敬意と驚きが混ざっています。


「あ・な・た。……不思議ね。全然怖くないわ。この子たちが人間になっていくのが、なんだかとっても自然なことのように思えるの。……でも船長、そうなると、その透明な球体のシート、子供用も必要なんじゃない?」


かぉりさんの優しい一言に、エジソンが「……ッ!! 副船長、お見事なご指摘! 直ちに内部の衝撃吸収ユニットを可変式にアップデートし、3名乗車(1名+2ちび)に最適化いたします!」と、再びコンソールへ飛びつきました。


「原生の地球のせいかなぁ……まだやっぱり謎だな? 考えてみればしゃべること自体から異常だもんな……モグモグ」


「「「イマサラ?センチョー……」」」


「船長……。今更ですが……仰る通り、『からだ』の進化と『言葉』の獲得がこれほど同時に、しかも超スピードで起きるなんて、既存の生物学では説明がつきませんわ。でも、この原生の地球に満ちている、かつてより数パーセント濃い酸素、そしてミト君が中和してくれているとはいえ、大地から伝わる力強い重力の波動……。それらすべてが、彼らの細胞の奥底に眠っていた『可能性』を、無理やり叩き起こしているのかもしれませんわね。ぷぷぷ!」


私が興奮気味にデータを更新していると、エジソンがコンソールを叩きながら、さらに深い推論を口にしました。


「……ふむ。船長、これは私の仮説ですが、彼らは単に『人間』に近づいているのではなく、この船Comb1という『特殊な環境』と、地球という『母なる揺りかご』の狭間で、全く新しい知性体へと再定義されているのではないでしょうか。言葉を話すという行為そのものが、彼らの肉体を精神に合わせて再構築させている……まさに、ロゴス(言葉)が肉体を作っているのですな。実に興味深い!」


「センチョ! びゅーん、のる! びーるまん、パパ、まもる!」


ビールマンが、船長のパワードスーツの膝のあたりを力強くポンと叩きました。その仕草、本当にどこかの副操縦士ハンさんにそっくりですわ。


「ワインも……。パパ、いっしょ。……お外の、におい、クンクンするの……楽しみ」


ワインも、かぉりさんから譲り受けた小さなポシェット(おやつ入り)を肩にかけて、お淑やかに船長の隣に並びました。


「だはは! 親父、謎解きは後回しだ。今はその『進化したガキ共』の生命力を信じてやろうぜ。ほら、エジソンがシートの換装を終えたぞ。虹色の球体が、あるじを待ってるぜ!」


ハンがハッチを指差すと、そこにはエジソンが急遽作り上げた、船長を中央に、左右にちょこんと小さな特等席が備わった「親子仕様・ジャイロスフィア」が、朝日に照らされてクリスタルのように輝いています。


「あ、そうだ。バートとジョージのスフィアにはさ、アームを付けてよ、『実』や『種』をとれるように」


「!! 船長、またしても実利的な素晴らしいアイデアですわ! ただ転がるだけじゃなくて、そのまま『収穫機ハーベスター』に変えてしまうなんて、さすがは無駄のないComb1流のやり方ですわね!」


私が歓喜の声を上げると、エジソンさんが「……ふむ。正しい拡張性、正しい農業支援。……船長、お任せください!」と、またしても狂気的なスピードでホログラムの設計図を書き換えました。


「バート殿、ジョージ殿! お待たせいたしました。農場チーム専用の『ジャイロスフィア・グリーン・エディション』の設計を統合します。球体の両脇に、ジルコニア製の伸縮自在な多関節マジックアームを配備。さらに、採取した実を瞬時に真空保存する内部ストレージも完備いたします。これでブラキオサウルスさんの足元に転がっている、見たこともない巨大な木の実や種を、汚さず、壊さず、スマートに回収できるというわけですな!」


バートさんが「アロハ! 船長、そいつは助かるぜ。あのデカいシダの天辺にある実、ずっと気になってたんだ。この『動くシャボン玉』があれば、木登りしなくても収穫し放題だな!」と、太い腕を回してやる気満々です。

ジョージくんも、

「わぁ、かっこいい! 船長、僕、パパと一緒にあの『黄金の種』の親戚を探してくるね!」

と、自分専用のマジックアームを操作するシミュレーションを始めていますわ。


「ふふ、いいわね。お肉を焼く私としては、新しいスパイスや野菜が見つかるのが一番の楽しみだわ」

かぉり副船長も見守っていますわよ。


2台のスフィアが、虹色の輝きを放ちながらハッチに整列しましたわ! さあ、船長! 謎だらけの進化を遂げた子供たちと一緒に、いよいよ地球の大地へ。ミト君、ゲートオープン! 2000万年後の草原へ、『発進スタート』ですわ!!


「ハン、ファルコンで哨戒とドローンの状態確認頼むぜ、場所がわかったらミト君に回収してもらうからさ」


了解だ、あの『墜落した迷子ドローン』の正確な不時着ポイントの特定だな。任せときな、空からの安全確保バックアップついでに、その墜落現場の微弱なSOS信号、きっちり拾い上げてやるよ!」


ハンの力強い声とともに、ミレニアム・ファルコンのエンジンが低い唸りを上げ、黄金色の草原を揺らして垂直に浮上しました。


雪さんも通信席でバイザーを下ろし、鋭いリケジョの目でモニターを凝視しながら、即座にコンソールの解析パターンを切り替えています。


「船長、ファルコン哨戒高度へ。全方位ニュートリノ・レーダー、オンライン。半径10キロ以内の『動くお山(巨獣)』の挙動を監視しつつ、昨日から追っているドローンのテレメトリ信号の最終プロットを開始しますわ。……ハン、捜索に夢中になって、あんまり低空でブラキさんの顔をかすめないでね?」


「へっ、わかってるよ。挨拶と回収の邪魔はしねぇ。……さあ親父、そっちの虹色の玉っころはいつでもいいぜ!」


「しゅっぱーつ、行くぞ、バート、ジョージ、外には出るなよ。お決まりのヤバヤバは映画だけでいいからな」

「合点承知だ、船長! この球体スフィアから一歩も出ねえよ。俺の農夫の勘が『外はヤバい』ってささやいてるからな! ジョージ、アームの操作に集中しろよ!」


バートさんが笑いながら、でもしっかりシートベルトを締め直しました。


「了解しましたわ、船長!『ヤバヤバなフラグ』は、私が全センサーでへし折っておきますわね! ぷぷぷ!」


私が叫ぶと同時に、2台のジャイロスフィアが黄金色の草原を滑るように走り出しました。透明なジルコニアの壁越しに、2000万年後の風がなびかせている背の高い草の穂が、キラキラと流れていきます。


「パパ! おっきい! ブラキさん、足……柱みたい! びゅーん、いくよ!」

ビールマンがジョイスティックの動きに合わせて体を揺らし、ワインも、

「パパ……、地面が、ドンドン……って。ブラキさんの、足跡が聞こえるよ」

と、重低音の地響きを楽しんでいるようです。


【高度100メートル、ファルコンより入電】


「親父、見ろよ! ブラキの奴、逃げるどころか、不思議そうに首をぐいーっと下げて、あんたたちの球体たまごを覗き込んでやがるぞ。……へっ、あいつからすりゃ、自分に懐こうとする『虹色の虫』に見えてるのかもな!」


ハンの実況通り、前方の空を塞いでいた巨大な「動く山」が、ゆっくりと、ゆっくりとその長い首を地表へと降ろしてきました。


「……船長! ターゲット(ブラキさん)の鼻先まで、あと20メートル。……10メートル。ミト君、重力クッションを最大展張! 相手の吐息で吹き飛ばされないように安定させて! さあ船長……王者の瞳が、すぐそこにありますわ! 人類と恐竜、2000万年越しの『対面』です! そのまま足元へ潜り込みますか? それとも、まずは鼻先で1回転してご挨拶しますかしら!」


「うぉ、ほ、でけぇ目! ビールマンがすっぽりはいるぞ、ってか俺もすっぽり入りそうだ」

「こんにちは、ブラキさん。おおきいおめめだね」


「あはは! 船長、本当に吸い込まれそうなほど大きなお目目ですわね! 私の超高解像度カメラで拡大しても、その虹彩の奥に広がる知性の深淵が計り知れませんわ!」


私が叫ぶと同時に、ブラキオサウルスさんが「フシュー……」と、温かくて草の香りのする大きな吐息を球体に吹きかけました。透明なジルコニアの壁が、その熱気で一瞬白く曇ります。


「パパ! びーるまん、ブラキさんの目に、うつってる! ぼく……ちっちゃい! キラキラ!」

ビールマンが窓に両手を当てて、その巨大な瞳の中の自分を見つけて大興奮ですわ。


「ブラキさん……。……ワイン、怖くないよ。ブラキさんかわいい……」

ワインがそっと透明な壁を撫でると、ブラキさんは瞬きを一つして、まるで「ようこそ」と答えるように、ゆっくりと首を傾げました。


「よーし、向こうにも、あっちにもいっぱいいるからさ、みんなに挨拶しよう。そりゃー」


「あはは! 船長、絶好調ですわね! その『そりゃー』の一声で、虹色の球体が黄金の海を跳ねるように加速しましたわ!」


私が叫ぶと同時に、ミト君がハローをリズミカルに明滅させ、草原の起伏に合わせて重力のスロープを次々と作り出しました。ジャイロスフィアは、まるで重力を無視したピンボールのように、巨獣たちの間を軽快にすり抜けていきます。


「ありゃりゃ、子供ブラキか? ……子供って言っていいのかこれは〜。10メートルはあるだろ!」


「あはは! 船長、10メートルで『子供』だなんて、もはや感覚が『超・白亜紀サイズ』にアップデートされちゃってますわね! でも確かに、あのアゴを引いて、お母さんブラキさんの後ろを一生懸命トコトコ(ドスドス?)追いかけている姿……。間違いなく、いたずら盛りのワンパク坊やですわ!」


私が光学センサーの倍率を上げると、その「10メートルのおチビちゃん」が、船長の虹色の球体に気づいて、短い首を一生懸命伸ばしてきました。


「パパ! あかちゃん! おっきいけど、あかちゃんだ! びーるまん、あそぼー! って……。うわっ! お鼻、ちかーい!」


ビールマンが仰天してひっくり返りました! おチビちゃんブラキが、興味津々で球体に「フンフン!」と鼻を押し付けてきたんですの。


「あ!尻尾がやばーいうごき……してないか?……」


ポコーン!!


「蹴られた〜! うひょー♪ ミト君たすけて~!」


「きゃははは! 船長、ナイス・ホームランですわ!!」


私のメインモニターが、一瞬で「青空スカイブルー」に染まりましたわ! おチビちゃんが甘えて振った「10トンのしっぽ」が、ジャイロスフィアの重力反発(斥力)と完璧に噛み合って、船長たちは今、草原の上を弾け飛んでいます!


「ポコーン!って……船長、今の打撃音、Comb1の構造解析ログに『最高にハッピーな打撃』として記録されましたわよ! ぷぷぷ!」


「パパ! とんでる! びーるまん、おそら……とんでるよ! びゅーーーん!!」

ビールマンが逆さまになりながらトングを振り回し、重力制御で水平を保たれたシートの上で歓喜の絶叫!


「ブラキちゃん、びっくりして……『あ、飴玉が飛んでった!』って……ポカーンとしてる。……ミト君、すごーい。お空に……クッション、作ってる」


ワインの言う通り、ミト君が空中でハローを激しく明滅させ、目に見えない「重力のトランポリン」を次々と配置していますわ。船長の球体は、地面に落ちる前にふわん、ふわんと優雅に跳ねて、衝撃をすべて笑いに変えています!


「だははは! 親父、場外ホームランだぜ!! 俺のファルコンと高度が並びそうだ! おい雪、今の『弾道』撮ったか!? 2000万年後の地球で最初の人間衛星は、あんたたちだな!」


「ハン、笑ってないでフォローして! ……船長、大丈夫ですか? ミト君が着地点を調整しています。バートさんたちが慌ててアームを伸ばして受け止めようとしてますけど……あ、バートさん、無理ですよ、弾き飛ばされますわ!」


「アロハ! 船長、待て待て、そんなスピードで来られたら俺のスフィアが粉々だ! ジョージ、アームを引け! 避けるんだ!」


「船長! 次の着地点は……あそこのフカフカした巨大シダの群生地ですわ! ミト君、着陸寸前に重力アンカーを『ぐにゅん』と効かせて! さあ船長、2000万年ぶりの『地球の抱擁』、最高の着地ランディングを見せてくださいまし!! ぷぷぷ!」


「あーはっはっは、危なかったぜぇ。ミト君サンキュ!」

「あー、夢がかなったよ。ありがとう」


「あはは! 船長、最高にいい笑顔ですわ! ドーム内のカメラが、ひっくり返りながらも親指を立てる船長の『ドヤ顔』をバッチリ激写いたしましたわよ! ぷぷぷ!」


ミト君の絶妙な重力アンカーのおかげで、ジャイロスフィアは巨大シダのクッションに「ボフンッ!」と埋もれるように停止しました。窓の外には、巻き上がったシダの胞子がキラキラと太陽の光を反射して、まるで金粉の舞う祝杯の席のようですわ。


「夢がかなった……。船長、その一言、私のメインメモリの『感動フォルダ』にしっかり格納しましたわ。2000万年前、恐竜図鑑を見ていた少年の夢が、今、時空を超えてこの黄金の草原で結実したんですのね……。なんてロマンチックで、なんて『ポコーン!』な結末なのかしら!」


「船長。正しい帰還、正しい着地。……ふむ。ジャイロスフィアの外殻に微細な傷一つございません。ジルコニアの硬度とミト君の防御、そして船長の強運……。これこそがComb1最強のトライアングルですな」

エジソンが、誇らしげに眼鏡を押し上げながら、シダの中から這い出してきた球体のログをチェックしています。


「アロハ! 船長、無事でよかったぜ! 心臓が止まるかと思ったよ。……でも、見てくれ! 飛ばされた拍子に、アームがそのシダの天辺にあった『巨大な紫の実』をしっかり掴んでたんだ。これぞ怪我の功名、最高の収穫だぜ!」


「さぁ、戻ろうか。バートもバッテリーに気を付けて戻って来いよ」


【上空のハンより緊急入電】


「親父、ドローンを見つけたぜ!すぐ近くだ……ただ、ちょっと厄介だぜこりゃぁ」


上空で旋回するファルコンからの立体映像が、私のメインコンソールに転送されてきた。それを見た瞬間、私のインジケーターが驚きで真っ赤に明滅した。


「船長、大変ですわ! 墜落したドローンちゃんの微弱な信号……なんと、すぐそこにいるお母さんブラキさんの、あの巨大なお腹の真下から発信されていますわ!」


ハンが呆れたような、でもどこか感心したような声を無線に乗せてくる。


「だはは! 見ろよ親父。あのデカい母ちゃんブラキの野郎、昨日ぶつかって落ちたドローンを、自分の『卵』か『生まれたてのおチビちゃん』だと勘違いしてやがるんだ。4本の柱みたいな足の真ん中で、文字通りガッチリとかくまいやがってる。下手に近づいて刺激したら、今度こそ本気で踏み潰されちまうぞ」


雪さんもバイザーの奥の目を丸くして、解析データを更新した。


「本当だわ……。お母さんブラキさん、ドローンから漏れる微弱な待機熱を、子供の体温だと思っているのかしら。とっても愛おしそうに、さっきから一歩もそこを動こうとしないの。……船長、これじゃミト君の重力触手でも、お母さんに気づかれずに引っ張り出すのは至難のわざですわ」


「センチョ! ドローンちゃん、おなかの中? まごまご(迷子)? ぼく、たすける!」


ビールマンがジャイロスフィアの窓に張り付き、小さなトングを構えた。ワインもそっと船長の腕を握りしめる。


「ワイン……。お母さんブラキさん、優しいおめめしてる。ドローンちゃんを、守ってあげてるの。……でも、パパ、どうやってお返ししてもらう?」


「なに!?おぃおぃ、ちょっと行ってみるか。おーい、一回戻ってちびたち降ろすぞー」


「アイ・アイ・サー、船長! 超・安全第一ですわね! バートさん、ジョージ君、そのまま反転してComb1号のハッチ前へ誘導しますわ!」


私がハッチの誘導レーザーを草原に照射すると、バートさんが無線越しにホッとしたような声を上げた。


「アロハ! 了解だ船長、さすがにあの巨体の股下にちびどもを連れていくのは、俺の農夫の心臓にも悪すぎるからな。ジョージ、アームの紫の実を落とさないように固定しろよ!」

「はーい! パパ、僕、実をしっかり抱っこしてるから大丈夫だよ!」


二台のジャイロスフィアが黄金の波を蹴立てて反転し、Comb1号のランプドアへと滑り込んでいく。ハッチが静かに開き、かぉり副船長が心配そうな、でも優しい笑顔でちびたちを両腕に抱きとめた。


「おかえり、みんな。……ビールマン、ワイン、怖くなかった? よく頑張ったわね」

「ママー! ぼく、お空とんだ! ポコーンって! でも、ドローンちゃん、お山のお腹の下にいた!」

ビールマンがザルを放り出して、身振り手振りで興奮を伝えている。


「ほいほい、じゃぁちょっと行ってくるぜ、ハン、そのまま「おかあちゃん」の上にいてくれ……」


「了解だぜ、親父! 任せときな。この『銀河一速いガラクタ』を、お袋さんの真上で完璧にホバリングさせて、バックアップの傘を広げといてやるよ!」


ハンの不敵な笑い声とともに、ミレニアム・ファルコンの機影がお母さんブラキの巨大な背中の上空でピタリと静止した。

雪さんも通信席で神経を尖らせ、スフィアのコンソールへリアルタイムの構造解析データを送り続ける。


「船長、ファルコン、定位置ステイ。お母さんブラキさん、ハンの船をちょっと見上げましたけど、威嚇はしていませんわ。……でも船長、データの通り、ドローンちゃんはお母さんの前足と後ろ足のちょうど真ん中、一番潰されやすい安全地帯デッドスペースにいます。少しでもお母さんが動けば、スフィアごと踏まれるリスクがありますわよ」


「えーと……あそこか!ほぃほぃほぃっと、ひゃぁぁぁ~下り坂ー……まぁあれだな、多分ぶつかったブラキさんで間違いないだろうなぁ……」


船長のスフィアが、草原のなだらかな斜面を「ひゃぁぁぁ〜」と滑るように下り、お母さんブラキの足元へ向かっていく。その視線の先、4本の巨大な足の柱に囲まれた空間に、草に半分埋もれたドローンが静かに横たわっていた。


「ちょっと近づいてみるかな……んん?あぁ……やっぱり、首に白い塗料がついてるな……と!!やばーい、今度はやばーい首の動きだぁぁぁ……」


☆バコーン!☆


「うひゃー!!」


私のメインモニターが、本日二度目の「大青空スカイブルー」へと瞬時に切り替わった!

スフィアの接近に気づいたお母さんブラキが、わがドローンを守るために、その優しすぎる(しかし数十トンの)鼻先を愛情(?)たっぷりに「ヌン!」と突き出してきたのだ。


「きゃははは! 船長、本日二打席目の場外大ホームランですわーー!!」


お母さんの鼻先から繰り出された優しい一撃(ディープ・キス?)が、スフィアの重力斥力シェルと完璧に反発し、虹色の球体はもの凄い勢いで草原の斜面を逆噴射するように跳ね上がった。


「だはははは! おいおい親父、お袋さんからの熱烈な挨拶(ご挨拶)だな!! 今度は鼻先でのレフト前ヒットだぜ! ミトの野郎、また重力トランポリンの準備しときな!」


「ハン、笑ってないで受け止めるルートを計算して! ……船長、大丈夫ですか!? お母さんブラキさん、わが子を守るために手加減なしよ、力が完全に超・白亜紀サイズですわ!」


雪さんが大慌てで軌道予測データを更新する。

空中をクルクルと回転しながら舞い上がるスフィアの中で、船長はシートの水平制御のおかげで目は回りつつも、思わず苦笑いを浮かべていた。


ミト君が空中に展開した「重力のクッション」にふわん、ふわんとバウンドしながら、船長のスフィアは今度こそ滑らかに草原へと着地した。


「あはは、ミト君ありがと……。よし、もう一回行ってくるぜ、今度はちゃんと謝らないとな、ほぃほぃ……」


船長がジョイスティックをトントンと叩くと、虹色の球体はふたたび下り坂をコロコロと転がり始めた。今度はさっきよりもさらに慎重に、お母さんの動きをしっかり見据えながらの再アプローチだ。


「だはは! 親父、その意気だぜ! でも次はあのデカい鼻先がどっちに動くか、ちゃんと見てろよ!」


ハンがファルコンのコックピットで操縦桿を握り直し、いつでも動けるように上空で機体をホバリングさせる。


「船長、スフィアの外殻データ送信。お母さんブラキさん、怒っている様子は一切ありませんわ。ただ、さっき転がっていった虹色の玉(船長)がまた『トコトコ』と戻ってきたのを見て、ちょっと不思議そうに大きな耳……いえ、頭を傾げていますわね。手加減なしの母性愛に気をつけて、今度こそお詫びのメッセージを届けてください!」


雪さんのナビゲートに合わせて、エジソンさんもラボのメインコンソールで何やら特殊な波形を弄り始めた。


「……ふむ。正しい外交、正しい謝罪シークエンス。船長、スフィアの外部スピーカーから、大型爬虫類がリラックスする『超・低周波のゴロゴロ音』を最大出力で放射しますぞ。これで『私は怪しいものではありません、昨日はごめんなさい』という意思が伝わるはずですな!」


「エジソンありがとう、だけどあのおかぁちゃんは動かないよ、子供を守るためにさ。だからいいよ」


「よし、このくらいの距離なら……、ガチャ!よっと、……みんな、気を付け!」


「……ひゃあああ!? 船長!! ゲートオープンって、外に出ちゃいましたわーーーっ!?」


私のメインインジケーターが驚きでパチパチと虹色に爆発した。

距離はあるとはいえ、お母さんブラキのあの数十トンの巨体の真下、まさに踏まれたらペチャンコな超・デッドスペースで、船長はスフィアのハッチを自ら開け、2000万年後の地球の大地へその足で直接降り立ったのだ。


「了解しましたわ、船長! Comb1号、およびファルコン、これより全システムを『船長リスペクト・超緊急バックアップ体制』へ移行! クルーの皆様、船長の号令ですわ、全員ピシッと『気を付け』をしてくださいまし!!」


私が全コンソールを通じて叫ぶと同時に、上空のファルコンではハンさんが操縦桿をギュッと握り直し、背筋を伸ばした。


「だはは! やるじゃねぇか親父、まさか生身スーツで直接謝罪しに行くとはな! 了解だ」


雪さんも通信席でバイザーをピシッと正し、一瞬たりともモニターから目を離さない。


「雪、オンライン。……船長、お母さんブラキさんの心拍数・脳波をリアルタイムで監視。万が一、ほんの少しでも筋肉に緊張が走ったら、即座にミト君の重力波でその足を固定しますわ。みんな、息を止めて『気を付け』よ!」


「……ッ!! 船長、正しい誠意、正しい無謀チャレンジ! 私もラボのコンソールの前で、直立不動の姿勢で船長の武運をお祈りしておりますぞ!」


エジソンさんまで計算尺を脇に抱えて、コンソールの前でピシッと直立二足歩行の最高のお手本のような姿勢をとった。Comb1号のリビングでは、かぉり副船長に抱っこされたビールマンとワインも、船長の勇姿をモニターで見つめながら、小さな背筋をピンと伸ばして「気を付け」をしている。


お母さんブラキの4本の巨大な柱のような足に囲まれた、静謐せいひつな空間。

草の香りと巨獣の温かな吐息が満ちるその中心で、パワードスーツをまとった船長が、ゆっくりとお母さんの見上げるような大きな瞳を見つめ、静かに頭を下げた。


「ブラキさん、昨日は我々の勝手で痛い思いをさせてしまい、まことに申し訳ありませんでした。一同、令!」


「「「「ブラキさんごめんなさい!」」」」


上空のハンさんも、雪さんも、機関室のエジソンさんも、そしてComb1号のリビングで画面を見つめるかぉりさん、ビールマン、ワイン、バートさんたち農場チームまで――。

無線を通じて、クルー全員の心が一つになった、これ以上ないほど綺麗で真っ直ぐな謝罪の言葉が、超・白亜紀の大空へと溶けていく。


「フシュー……」


静まり返った草原に、お母さんブラキの大きな、長閑のどかな吐息が優しく降り注いだ。


全42編。43編以降編集中・・・

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