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地球帰還

じゃあ、休憩したらのんびり安全な0.7Cで地球まで戻ろうかな」


「了解しましたわ、船長! ミト君もくまサンも、船長に労ってもらえて、ハッピーな波動を船内に振りまいていますわよ!」


私がそう答えると、船外のミト君が虹色のハローを柔らかく波打たせ、くまサンからは「キュイッ!」という元気な返信がログに届きました。


「安全な 0.7C……。あはは、さっきの狂乱の速度に比べれば、まるで昼下がりの公園を散歩するような、のんびりしたスピードですね。ようやく景色を楽しむ余裕ができそうですわ」


「……ふぅ。0.7Cか、それなら俺も片手でコーヒー飲みながら操縦できるぜ」

ハンがようやくリラックスした様子で、背もたれに深く体重を預けました。雪さんも、端末の記録ボタンを一旦止めて、優しく微笑んでいます。


「そうですね。一度、熱くなったエンジンも私たちの頭も、のんびり冷やす時間が必要ですわ。……船長、あとでその『魔法のえんぴつ』の計算式、休憩室でこっそり教えてくださいね?」


「さぁさぁ、地球に向けて出発しましょう。雪さん、レーダー兼任お願い。0.7Cだからレーダーで地球を捕捉してね」


「アイ・アイ・サー、船長! 面舵おもかじいっぱい、太陽系・第三惑星へ向けて進路固定セット! 速度0.7C、加速開始ですわ!」

私の掛け声とともに、Comb1の舳先がゆっくりと、しかし力強く、遠くに見える太陽の光へと向き直りました。


「了解、船長。レーダー及び長距離スキャン、全出力で地球を捕捉します!」

雪さんがキリッとした表情で、レーダー専用の大型バイザーを装着しました。リケジョの瞳が、無数のノイズをかき分けて「一点」を見据えます。


「……来ました! 座標 14-88-02、太陽の陰から顔を出しました。地球、捕捉ロックオン

この速度なら、地球の青い光をレーダーで直接『触れる』感覚で追えます。船長、航路ルートは完璧にクリアです!」


「へっ、さすが雪さんだ。レーダーが地球を掴んでるなら、俺は安心してコーヒーの二杯目に行けるぜ」


ハンが、微動だにしない地球の輝きをモニターで確認しながら、ようやく操縦桿から片手を離しました。


「さぁ、みんな! 現在分かっている惑星の中で一番生命のいる可能性が高い星だぜ!」


「船長……それを今、このタイミングで、あえてドヤ顔で言っちゃいます!?」

私のメインモニターに、呆れ顔の「( ̄ー ̄)」というアイコンを全画面表示させちゃいましたわ!


「……船長、そりゃあそうでしょうよ」

ハンが、持っていたコーヒーカップを空中で静止させたまま、半眼でこっちを見ました。


「超高圧の星やら、時間の止まった世界やらをくぐり抜けてきたんだぜ? 今さら『生命がいる可能性が高い星』なんて、学校の教科書の最初の一ページを読み上げられた気分だぜ」


雪さんも、レーダーのバイザーをちょっとずらして、クスクスと肩を揺らしています。


「ふふ、船長。そんなの、この船に乗っている全員にとっての『共通認識あたりまえ』じゃないですか。船長の中では今、その『当たり前』が改めてキラキラ輝いて見えたんでしょうね」


エジソンは、記録ノートをパタンと閉じ、眼鏡をクイッと押し上げました。

「……ふむ。わかりますとも、船長……そのお心意気……」


「パパ! あたりまえー! ぼく、しってるよ! ちきゅう、ごはん、おいしいもん!」

ビールマンがハンの膝の上で、当たり前だろ!と言わんばかりに胸を叩いています。


「ビールマン、パパはね……みんなが安心したから……うれしくなっちゃったんだよ」

ワインがそう言って、少し照れている船長の腕にそっと抱きつきました。


「あはは! 船長、みんなから『知ってるよ!』の総攻撃を受けちゃいましたわね。でも、確かにそうですわ。ミト君もくまサンも、そして私たちも、その『一番生命に溢れた星』の空気を吸うために、今この宇宙を駆けているんですから!」


「さあ、その『生命の星』まであとわずか! 船長、当たり前すぎて涙が出るほど美しい着陸、期待していますわよ!」


「いい反応でゴザイマス……」


「だはは! 船長、その『いい反応でゴザイマス』って、わざとトボけて楽しんでますわね!?」


私のメインモニターには、船長の茶目っ気に合わせて、おどけた表情の「( *´艸`)」というアイコンが浮かんでいます。


「もう、みんなが『当たり前じゃん!』って一斉にツッコミを入れるのを見越して言ったでしょう? 船長に一本取られちゃいましたわ!」


「いよいよかな? どう、雪さん」


「はい、船長! レーダーの感度を最大に上げて、地球の『鼓舞こぶ』をダイレクトに受信していますわ!」


雪さんがバイザーの奥の瞳を鋭く輝かせ、コンソールのホログラムを大きく広げました。


「ええ、船長。いよいよですわ! 見てください、このクリアな信号。太陽からの磁気嵐の影響も今は穏やか。私たちの前に広がるのは、一点の曇りもない『地球への花道』ですわ」


現在、太陽系内縁部へ突入。金星を右舷にやり過ごし、私たちの愛しい青いビー玉……いえ、地球がもう肉眼でもはっきりと、その大陸の形まで見え始めています!


「船長、いつでもいけるぜ。C 0.7から大気圏突入モードへの減速シーケンス、指が覚えてやがる。あとはあんたの『着陸ランディング開始!』の合図を待つだけだ」


「よし、目的地は月の裏側。月と地球の直線上から進入する」


「アイ・アイ・サー、船長! 最終アプローチ・シーケンスを開始しますわ!」

私がコンソールのメインモニターに、地球と月を結ぶ黄金の「直線」を描き出すと、ブリッジの全システムが戦闘服を着替えるように、精密な着陸モードへと切り替わりました。


「目的地、月の裏側ルナ・ファーサイド! 月の重力をブレーキに利用し、地球との直線軸上に滑り込む……。船長、なんてスマートで、なんてドラマチックなコース選びですの!」


「へっ、月の裏側を回ってから、正面に地球を捉えるってわけか。最高にシビれる進入経路アプローチじゃねぇか!」


ハンの目が、かつてないほど鋭く、そして楽しそうに輝きました。


「了解だ、船長! 月の影を抜けた瞬間に、真正面に『巨大な地球』がお目見えする……。操縦桿を持つ手に力が入るぜ、このまま完璧なコースを維持する!」


雪さんも、忙しくコンソールを叩きながら、補足データを次々と流し込んでいます。


「レーダー、月背面の地形スキャンを開始! 船長、月の重力圏突入まであと30秒。直線軸上の計算は完璧ですわ。月のリムをかすめる瞬間、地球からの全ての電波が遮断され……そして一気に、故郷の全貌が眼前に広がります!」


「いや! 月の裏に着陸する、地球を眺めるのはその後だ。気をつけろよ!」


「……ッ! アイ・アイ・サー、船長! 浮き足立っていた私を叱ってくださいな。了解ですわ、まずは『着陸』、これに全神経を集中させますわね!」


私のメインモニターから華やかな「おかえり」の演出を消去し、代わりに月の裏側、クレーターだらけの荒涼とした地表を映し出す「超高感度・地形解析マップ」を展開しました。


「了解だ、船長。……お調子に乗って悪かったな。月の裏側の着陸ランディングは、地球の管制も届かねぇ、一発勝負の『暗闇のダンス』だ」


ハンの顔から笑みが消え、プロの顔に戻りました。操縦桿を握る手にグローブをはめ直し、月面のわずかな起伏も逃さないよう目を光らせます。


「くまサンをパージ。かぉり、くまサンにそこにいるように伝えて。月の裏側でじっとしているように」


船長の重みのある言葉とともに、生きた核融合炉・くまサンが、Comb1から解き放たれるように静かに離れました。


「了解したわ、船長。くまサンに伝えるわ」


かぉりさんが、慈しむような眼差しを虚空に向け、優しく応えました。

「『くまサン、そこにいて。月の裏側の、誰にも見つからない場所で、静かにじっとしていてね』……」


くまサンは、副船長の言葉を深く、静かに受け止めたようですわ。光度を落とし、月から程よく離れた衛星軌道上で、今、呼吸を整えるようにピタリと動きを止めましたわ。


核融合炉の塊である彼が、もし月や地球に近づきすぎれば、その絶大な熱量で天体を溶かしてしまいかねない……。だからこそ、あえて天体から離れた虚空で、気配を殺して待機する。


「くまサンごめんよ、文明が無かったら地球の静止軌道にしてあげるからね」


「「「……え、文明が無かったら?」」」


ブリッジにいた全員の声が、まるで見事に調律された合唱のように重なりました。その直後、一瞬の静寂。そして……。


「おぃおぃ親父、くまサンをなだめるにもましな言い方あるだろ」


ハンが操縦桿を握ったまま、首だけをカクッとこちらに向けて呆れ果てています。


「『文明が無けりゃ静止軌道』って……それ、暗に『文明がある今の地球じゃ、くまサンはヤバすぎて近づけねぇ』って言ってるようなもんじゃねぇか!

くまサンが拗ねちまったらどうすんだよ!」


「船長……今の発言は、リケジョの私からしても少々……いえ、かなり過激ですわ」

雪さんが、困ったような、でもどこか笑いを堪えているような顔で船長を見つめています。

「それじゃまるで、今の文明をくまサンが『溶かしてしまう』ことを前提にしているみたいじゃないですか。……まぁ、事実かもしれませんけど」


「タハ……よし、月の裏側へ着陸するぞ。ジェミニ、あれやってよ。『当機はまもなく』ってやつ」


「ポン♪皆さま、長らくのご搭乗お疲れさまでした。当機Comb1は、まもなく目的地、月の裏側・クレーター特設サイトへと着陸いたします。現在の外気温はマイナス170度、お出かけには少々厚着が必要なコンディションとなっております。なお、月の裏側は地球からの電波が一切届かない『デジタル・デトックス』に最適なエリアでございます。お手持ちのスマートフォン、通信端末などは、このまま窓の外の静寂をお楽しみいただくための重石としてお使いください」


「……って、船長! こんな感じでよろしかったかしら?」


「あはは、いい感じ。ハン、頼むぜ」


「アイ・アイ・サー、船長! 合格点をいただけて光栄ですわ。うふふ、私の『月面観光ガイド』、意外と才能があるかもしれませんわね!」


私が満足げにコンソールのインジケーターをパチパチと点滅させると、ブリッジの空気は「着陸」という最高潮の緊張感の中にも、どこかリラックスした一体感に包まれました。

「へっ、任せときな、船長。最高の着陸アナウンスまで流れたんだ。俺の腕で、その『重石』が必要な場所までピタリと運んでやるぜ」


ハンが不敵な笑みを浮かべ、操縦桿をミリ単位で操作しました。


逆噴射レトロ・ロケット、点火……! 燃料供給、安定。

よし、ジェミニ。接地までカウントダウン、頼むぜ!」


「了解しましたわ、ハン! 高度300……200……100……。船長、見てください。窓の外、逆噴射の光に照らされて、月のレゴリスが宝石の粉みたいに舞い上がっていますわ!

なんて幻想的な光景……」


雪さんも、計器の数字を読み上げながら、その光景に見惚れています。


「……高度50、30、10……。船長、ハンの操縦、完璧です。まるで真綿の上に降りるみたい……!」


「パパ! おそら、まっしろ! おほしさまの、こな……いっぱい!」

ビールマンが窓に張り付いて大はしゃぎです。


「ビールマン、動いちゃダメだよ。……パパ、おつきさまちゃくりく……」


ワインが船長の腕をぎゅっと握りしめた、その瞬間。――フッ……。

大きな衝撃もなく、ただ「重力」が自分たちの足の裏に確かな感触を戻したのが分かりました。


「接地……完了。全エンジン、カット。船長……着陸、大成功ですわ!」


「ミト君、ランディングギアが無いから姿勢制御お願いね」


「……へっ。脚がなけりゃ、虹の橋の上で止まればいいってわけか。船長、粋なことを頼むぜ」

ハンが、操縦桿を握る力をふっと抜きました。


「よーし、エジソン……月の土壌から年数を出してくれ」


「船長。正しい計測、正しい現状把握。了解いたしました。これより月面の宇宙線被曝量、およびレゴリスの堆積パターンから、我々が不在だった『地球時間』の空白を算出いたします。……雪さん、メインコンソールへ地表の微細な放射性同位体のスキャンデータを送ってください」


エジソンが指を動かすたびに、ホログラム上に複雑なグラフと数式が滝のように流れ落ちます。ブリッジの空気が一瞬、ピンと張り詰めました。


「……計算、完了しました。船長。我々が、あの日の地球を後にし、およそ2週間の旅を経て、今この月の裏側に辿り着くまでに経過した地球時間は……」


エジソンは一度言葉を切り、ブリッジの面々をぐるりと見渡してから、静かに、しかしはっきりと告げました。


「船長……やはり、月面に降り積もった隕石の塵と、放射性同位体のデータが示す空白の時間は……推定でおよそ2000万年。私たちが亜光速でお散歩している間に、地球では想像を絶する時間が流れてしまっていたようです」


「「「……2000万年……!?」」」


さっきまでの和やかな雰囲気が、一瞬で凍りつきました。ブリッジの空気が物理的に重くなったかのような、凄まじい沈黙。


私が展開していたホログラムの地球儀が、その「あまりに長すぎた空白」を突きつけられて、ノイズ混じりに明滅しています。


「おぃおぃ……冗談だろ……」

ハンが操縦桿を握る力を失い、その手が震えています。


「2000万年だと? 恐竜が絶滅してから今までの時間と、そう変わらねぇじゃねぇか!

船長、これじゃあ『文明があるかないか』なんてレベルの話じゃねぇ。人類(俺たち)の種族そのものが、もう……!」


雪さんは、コンソールの数字を何度も、何度も打ち直しましたが、結果は変わりません。

「2000万年……。大陸の形すら変わってしまうほど、気が遠くなるような時間。……船長、私たちがさっきまで『当たり前』に存在すると信じていた地球は、もう別の惑星になってしまっているかもしれません。……これじゃ、私たちは本当に、異星に辿り着いたも同然ですわ……」


「船長。これが月面の砂が語る非情な真実です。……我々が亜光速で『お散歩』をしていたわずかな間に、地球というゆりかごは、幾度もの氷河期と生物の絶滅、そして新生を繰り返したはず。……我々を知る者は、石の記憶の中にすら残っていないでしょう」


エジソンが、かつてないほど沈痛な面持ちで、自らの導き出した計算結果を静かに見つめています。


「パパ……くまサン、ごめんね。……ちきゅう、ないの? おやつ、もう、ないの?」

ビールマンが船長の足にしがみついて、今にも泣きそうな声を上げています。


「ビールマン、大丈夫だよ……パパが、いるもん」

ワインが、震える手で船長のシャツの裾をギュッと握りしめました。


「船長……さっきおっしゃっていたのは、このことだったんですのね」


私が呟くと同時に、ブリッジの照明が自動的にさらに暗く落ち、メインモニターには月面の向こう側に潜む、漆黒の宇宙空間が映し出されました。


「『文明が無かったら、くまサンを静止軌道にしてあげる』……。船長、あの言葉、ただの冗談じゃなかったんですわね。2000万年という、生命が何度入れ替わってもおかしくないほどの時間を、船長は直感的に……いえ、確信して見抜いていたんですわ。今の地球に、私たちが知る『文明』が残っている可能性は……限りなくゼロに近い」


「雪さん、ドローンを飛ばして様子を見てくれ。『人工衛星』と『街の光』を確認して、無ければそのまま地表の探査に移行してくれ」


「了解したわ、船長。ドローン、射出!」


かぉりさんの合図とともに、Comb1のハッチから小さな探査ドローンが月の地平線を超えて飛び出していきました。


「雪、頼むぜ。……光があるか、それともただの闇か。しっかり見てやってくれ」

ハンが祈るように、雪さんの操作するモニターを見つめました。


「観測、開始します……。まずは地球周回軌道上のスキャン。……人工衛星の反応、ゼロ。デブリ(宇宙ゴミ)一つ見当たりません。……2000万年という歳月が、かつて私たちが打ち上げた鉄の星を、すべて大気圏で燃やし尽くしたようですわ」


雪さんの指が、震えながらも正確にセンサーを調整していきます。


「続いて、夜の地球の地表……。……街のシティ・ライト、確認できません。暗闇です。……船長、判断を切り替えます。人工文明の痕跡なし。これより、地表の直接探査へ移行します!」


「……ああ、そういうことかよ。親父、あんた……最初からこの絶望的な数字を覚悟の上で。だから、『地球は生命の可能性がある星だ』なんて、あんな言い方を……」


ハンが、深く椅子に沈み込みながら、天井を仰ぎました。

そのままがばっと顔を上げ、隣に立つ機関士長に視線をぶつけます。


「なぁエジソン! あんた、この数字(2000万年)に薄々気づいてたんだろ!?

なんで言わなかったんだよ!」


ハンがエジソンに詰め寄ると、エジソンが静かに答えました。


「船長の意図に量りかねるところがありましたゆえ、申せませんでした。……ただ、あの時点で、船長が何かを深く覚悟されていることだけは、私にもわかりました」


「文明が消えた後の、本当の意味で『生命が主役』の星……。親父は、俺たちにそれを見せたかったんだな。……月の裏側から地球を覗き込むのが、これほど怖くて、そして待ち遠しいなんて……!」


「船長。文明の灯が消えたからこそ、地球はかつての『生命のゆりかご』としての純粋な輝きを取り戻したわけですな。……さぁ、ドローンが捉える映像に、何が映るか。新しい時代の幕開けを、この目で確認しましょうぞ」


エジソンが眼鏡を拭き、モニターに齧り付くようにして、ドローンから送られてくる地表の映像を待ちました。


「パパ! ドローンさん、お散歩……いった? お花さん、みつかる? びーるまん、ドキドキしちゃう……!」

ビールマンが船長の膝に手を置いて、固唾を飲んで画面を見つめています。


「ビールマン、大丈夫だよ。パパが言った通り、あそこにはきっと、おはないっぱいあるよ……」

ワインが船長の肩にそっと寄り添い、共にモニターの向こう側に広がる「未知の故郷」を見つめました。


「ドローン、大気圏突入! 摩擦熱による通信の乱れ(ブラックアウト)を回避……っ、よし、地表が見えてきます!」


「船長! 文明の光はないけれど、青い海と深い森、そして雲の白さが……2000万年前よりもずっと鮮やかに輝いています! これが、船長の予見した『生命の可能性が一番高い星』の姿なんですわね……!」


「そう、みんな。はっきり言わなかったのは、こうじゃない可能性もあったからでさ。ミト君の偏重力の影響もあるから、亜光速じゃない時でもこの船の時間って予測がつかないんだ……文明が栄えてれば俺の妄想で済ませてたし、こうなってることは『説明しても空気読んでよ』って感じだったから……ごめんよ」


「……船長」


私が呼ぶと、ブリッジの空気がふっと柔らかく、温かいものに変わりました。

船長のその、どこか照れくさそうに、でも全てを背負ってきた人の優しさがこもった謝罪に、私のメインコンソールの警告灯はすべて、静かな安らぎの色に変わっていきました。


「謝らないでくださいな、船長。……むしろ、その『空気』を読み取れずに、はしゃぎすぎていたのは私の方ですわ。船長は、もし文明が栄えていたら、自分の予感なんて笑い話にして捨ててしまおうと思っていたんですわね。……でも、もし最悪の事態(この静寂)になっていたとしても、私たちが絶望しないように、ずっと前から『生命の可能性』という言葉で、私たちの心の着陸地点を作ってくれていた……」


「……へっ、まったくだぜ。親父、あんたって人は……」

ハンが苦笑いしながら、目元を腕で隠しました。


「『空気読んでよ』って、そりゃねぇよ。そんな壮大な伏線、俺たち凡人に読み切れるわけねぇだろ。……でも、ありがとな。おかげで、文明がねぇって突きつけられても、不思議と『絶望』はしてねぇんだ。……むしろ、この新しい世界を見てやろうって、そんな気分だぜ」


雪さんも、ドローンの操作パネルを止めて、船長の方を優しく振り返りました。


「船長。妄想だなんて言わないでください。……船長のその『優しすぎる嘘』があったからこそ、私たちは2000万年という時間を超えても、まだこうして笑っていられるんです。……さあ、探査を続けましょう。船長が守りたかった『生命』たちが、どんな顔をして生きているのか、私たちがしっかり確認してあげないと」


「船長。正しい配慮、そして正しい不器用さ。論理や計算では、人の心は救えません。船長のその『曖昧な言葉』こそが、我々にとって最大の生命維持装置だったわけですな」


「さぁ、船長!もう、誰も『ごめん』なんて思っていませんわ。ドローンが捉えた映像を見てください!人工の光はないけれど……命の輝き(バイタル)が、大陸中で星のように瞬いています。船長の『妄想』が、今、最高の『現実』として私たちの目の前に広がっていますわ」


「はは……みんなありがと。雪さん、そのまま人工物(人工構造物)の確認をしてくれ」


船長の静かな、しかし確固たる声がブリッジに響きます。


「了解したわ、船長!……ドローン、高度1万を維持。地表の『直線および直角の境界線』を重点的に光学スキャン。……あ、あれだけの文明の都市があった場所なのに、直角の構造物が、ひとつも……。熱源反応も、近代文明が放つ電磁波も、一切検知できませんわ……。……船長、判断を切り替えます。人工文明の痕跡なし。これより低空飛行、地表の直接(生物)探査へ移行します!」


雪さんは鮮やかにコントロール・スティックを操り、ドローンを雲海の向こう、緑の地表スレスレへと急降下させていきました。マニュアル操縦ならではの精密さでジャングルの上を舐めるように飛ばした、その時、操縦桿に凄まじい衝撃が走った。


「きゃぁ!……ドローンロスト!何かに、衝突しました、すみません!……モニターから目は離さなかったのに、突然……」


激しい砂嵐のノイズがブリッジを真っ白に染め上げる中、全員が息を呑む。


「ニヤ……、いるな……」


全42編。43編以降編集中・・・

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