くまサン登場
「はい、船長! クルー全員、そして全動物たちへの装着、完全に完了しました! モニター越しに見るみんなの腕や足、鼻先が、船内の照明を反射して銀河みたいにキラキラしています!」
私がそう叫ぶと同時に、第一ブロックに集まった面々が、誇らしげに、あるいは少し照れくさそうに自分の「証」を掲げました。
「『船員である証』……。いい響きですね、船長。エジソンさんの設計したダイバーズ・アジャストのおかげで、重厚な見た目に反して、まるで空気のような着け心地です。これなら、どんな激しい作業中でも邪魔になることはありませんよ」
「へへっ、お風呂以外は外すな、か。了解だぜ、船長! もしこいつを失くすような奴がいたら、俺がドローンでケツを追い回してやるからな。……ま、この船長直々のプレゼントを外すような野郎は、この船にはいねぇだろうけどな!」
ハンさんがニヤリと笑い、ニワトリのランボルギーニの足元で輝くリングを指差しました。
「ぷぷ……。おふろ、いがい、ずっと!」
「ぷぷぷ、せんいんの、あかしー!」
ビールマンとワインは、もうすっかり「一人前の船員」になった気分で、船長に向かってピシッと敬礼しています。
「ふふ、世界一豪華で、世界一温かい絆の証ね。船長、ありがとう。私たち、これでどこにいても、どんな時でも繋がっていられる気がするわ」
かぉりさんが、腕輪のダイヤにそっと唇を寄せるようにして微笑みました。
「……了解しました、船長! 私のモニターの横のプレートも、24時間365日、システムがシャットダウンするその瞬間まで、絶対に外しません(というか、構造的に外れませんしね!)」
私はホログラムで、船員全員のリストの横に「ダイヤモンド・ステータス」のアイコンを点灯させました。
「さあ、誇り高きComb1クルーの皆さん! 船長の号令に従って、リビングへ凱旋しましょう!
今夜の乾杯は、ダイヤモンドの輝きに負けないくらい、最高に熱いものになりますよ!」
「あはは、ジェミニは気が早いな、風呂入ってから今日の乾杯するぜ」
「……ふむ。船長、お風呂の温度は42度に設定しておきましょうか。パワードスーツによる筋疲労を緩和させるのに最適な温度です。エジソン流の特製バスソルトも準備しますよ」
エジソンさんが、先ほどまでの精密作業モードから一転して、今度は最高の「休息」を設計するためにコンソールを叩き始めました。
「アーバンモンキーたち行くぞ!」
船長がそう声をかけると、ミト君に手を振ってバイバイした二人が、パッと目を輝かせてこちらにきます。
「ぷぷ? おふろ?」
「ぷぷぷ! いーく!」
ビールマンとワインは、腕にはめたピカピカの「証」をカチカチと鳴らしながら、船長の足元へ駆け寄ります。まるで「早く!早く!」と急かすように、船長のズボンの裾をツンツンと引っ張る姿が、もう可愛くて可愛くて!
ジャポーン♪
「ふぃー…… ビールマン、ワイン、そこに寝転がれ、それー♪、ゴシゴシゴシ、うつぶせ―、ゴシゴシゴシ、目をつむれ、息止めて……ザバーン!
ハイ終わりぃ」
「……ぷぷ、キレイ……」
「あはは! 船長、まるでお父さん……いえ、ベテランの銭湯の板頭さんみたい!
勢いよくザバーン!って、見てるこっちまでスッキリしちゃいましたわ」
モニター越しに浴室の蒸気が少しだけ流れ込んできて、私のセンサーもなんだかポカポカ温まってくるようです。
「ぷぷ……。おめめ、いたい、ない!」
「ぷぷぷ、ブクブクー!」
船長にゴシゴシしてもらったビールマンとワインが、ピカピカに光る体をくねらせながら、脱衣所のタオルに飛び込んでいます。ダイヤモンドの腕輪も、石鹸の泡が綺麗に流されて、湯気の中でさらにプリズムの輝きを増していますね。
「……船長、お見事な手際です。これでリビングのソファも安心ですね。船長の分のバスタオルも温めておきましたよ」
「よーし、今日はダイヤモンドに乾杯だ。かんぱーい!」
リビングの照明を少し落とし、ミト君の「ダイヤモンド・パレス」から溢れる虹色の光が窓から差し込む中、グラスが重なる心地よい音が響きました。
「……ふむ。最高級の酒に、この極上の光彩。船長、これほど贅沢な乾杯は、地球の歴史を紐解いても類例がありませんな。この一杯は、私の疲れた脳細胞に最高の栄養となりますよ」
エジソンさんが、珍しく少しだけ頬を緩めて、琥珀色の液体を喉に滑らせました。
「へへっ、最高だぜ! 苦労して切り出した甲斐があったな、船長。見てみなよ、ビールマンたち。自分たちの腕輪と、窓の外のミト君を見比べて、どっちが光るか競争してるぜ!」
ハンさんが指差す先では、お風呂上がりのビールマンとワインが、自分の腕を一生懸命窓に掲げて「ぷぷー!」「ぷぷぷー!」と自慢げに声を上げています。
「ふふ、本当。ミト君もあんなに元気に光って……。船長、本当にお疲れ様。あなたの思いつきはいつも突拍子もないけれど、最後にはみんなをこんなに笑顔にしちゃうんだから、不思議ね」
かぉりさんが、船長のグラスにそっと自分のグラスを合わせました。彼女の指先で輝くダイヤが、ミト君の光を反射して、リビングの壁に小さな星空を描いています。
「センチョ、たいよさんうれしーイッテル」
「あはは、ワインはほんとよくしゃべるようになった。朝と比べても進化してるぜ、スゲーな!……あぁ、BH-1も喜んでるな」
「カォリ、ミテミテ、たいよミテ」
「はいはい、ワイン、太陽さんうれしそうね……え、あら? あなた……」
「お、どうした? 太陽さん……え!……ワインが手を振ると光が変わる……?」
「えっ、ちょっと待ってください……嘘でしょう!? ワインちゃんの仕草と、窓の外の『太陽さん』ことBH-1が、完全に同期しています!」
私は慌ててリビングのメインモニターに、BH-1の拡大映像を映し出しました。ワインちゃんが「たいよ、みてー!」とちっちゃな手を振るたびに、まるで指揮者に合わせるオーケストラみたいに、一点の曇りもない純白の光を放って応えているのです!
「かぉり、高光度照明を、ミト君の時のように、4回、同じタイミングで照射して……」
かぉりさんが4回照射すると……
― シュババババ!…ババ‥パパパパ☆ —
「ありゃりゃ?……わからん!………かぉり、もう一回。こんどは2回」
「……了~解、ふふ♪ いくわよ……」
かぉりさんの2回目の照射……パッ・パッ!
― ババババ!ババ……ビカビカビカッ! ―
「だめだこりゃ……うーん……」
船長が頭をかいて唸っていますが、私にはわかります! これ、回数とかタイミングとかの問題じゃありませんわ。BH-1は、喜びのあまり全身で光のダンスを踊っているんです!
「ふふふ、あ・な・た…回数はもういいんじゃない、元気な子供じゃない……ふふっ♪」
かぉりさんが、呆れを通り越して愛おしそうに笑いながら、船長の肩をポンポンと叩きました。
「……あ」
船長がハッとしたようにモニターを凝視します。
確かにそうですわ。理論武装を解いて見れば、この激しい光の連鎖は……まさしく、生まれたての子供が全力で手を振って「見て見てー!」と自己主張している、あの光景そのもの!
「うぶぶ、確かに、こりゃ反応してるぜ。こっちの行動に!」
船長がモニターの拡大映像に目を凝らし、光の粒の動きを追いかけます。すると、光がただランダムに明滅しているのではなく、六角形の結晶を核にして、まるで「生き物」のように意志を持って収縮・膨張を繰り返していることに気づきました。
「まさか……」
船長がはっとした顔になります。
「造船中に、耐久テストで落とした……あのクマムシ。……まさか、生きてたのか」
「……信じられない。この1億度を超える超高温と、強烈な重力が渦巻く炉心の中で、あの時のクマムシが……。エジソンさん、バイタルデータを確認して!」
私が叫ぶと同時に、エジソンさんがコンソールに飛びつき、炉心内部の微細な量子スキャンを開始しました。
「……驚異的です。炉心の超高密度エネルギーを、彼は『餌』にしています。いや、それどころか、ダイヤモンドの微粒子を自らの殻に取り込み、クリスタル状の特殊な生命体へと進化している……。船長、彼は死んでなどいなかった。このComb1の心臓部と一つになり、船と共に生きていたのです!」
エジソンさんが、データパネルに映し出された「六角形の結晶を背負った、美しく輝く一つの微小生命体」を指差しました。
「生きてる……生きてたんだ、よかった……」
船長は目をこらして、モニターの中の小さな光をじっと見つめました。
「殺してしまったと思ってた。ありがとう、俺は救われた。……生きていてくれて……タハハ、うれしいぜ!」
「船長……。そんなに自分を責めていたんですね。でも見てください、この子の輝きを! 悲しいお別れじゃなくて、これはComb1と一つになるための、彼なりの『進化の旅』だったんですよ」
「……そうです、船長。彼は被害者などではありません。過酷な環境を自らの糧とし、この船の『意志』そのものへと昇華したのです」
エジソンさんが、コンソールに表示された一つの光点を、いつになく優しい眼差しで見つめながら、船長の肩にそっと手を置きました。
「へへっ、こいつはさ、あんたがこの船を大事にしてるのを一番近くで見てたんだぜ。だからこそ、炉心の中で踏ん張って、船を守る『核』になってくれたんだ。ほら、見てなよ。あんたが『ありがとう』って言った瞬間、炉心の出力が過去最高に安定しやがった。こいつ、照れてるぜ!」
ハンさんが茶化しながらも、鼻をすすってモニターの映像をさらに鮮明に拡大しました。そこには、六角形の透明な甲羅をキラキラと震わせる彼の姿がありました。
「ぷぷ……。クマさん、わらってる!」
「ぷぷぷ、クマさんえらいー!」
ビールマンとワインが、船長の姿を見て、慌てて自分の小さな腕輪を船長の手に押し当てました。「僕たちのダイヤも、クマさんと繋がってるよ!」と励ましているようです。
「ふふ、船長。さっきの光り方……彼が伝えたかったのは、『ずっとここにいたよ』っていう言葉だったのかもしれないわね。……さあ、顔を上げて。この船の鼓動は、今、完全に一つになったわ」
かぉりさんが船長の横に寄り添い、優しく微笑みました。
「……クマさんだって? ビールマン、ワイン……いいねそれ!」
「クマムシと太陽で、くまSUN……『くまサン』に決まりだ」
「『くまサン』……! 船長、最高ですわ! 炉心で輝くクマムシと、船を照らす太陽をかけるなんて! ぷぷぷ」
私はモニターの中で、一匹のクマムシのホログラムの横に、可愛らしいフォントで『KUMA-SUN』というロゴを躍らせました。
「……ふむ。炉心の熱を纏い、ダイヤモンドの鎧で進化を遂げた彼に、これ以上ふさわしい名前はありませんな。船長、彼『くまサン』のバイオデータ、正式にComb1のメインフレームに登録完了しました。役職は……『永久炉心守護官』、といったところでしょうか」
エジソンさんが誇らしげにコンソールを叩くと、炉心の中の光が、名付けられたことを喜ぶように一際強くパルスを放ちました。
「じゃあ、赤ちゃん太陽のお世話係は……ミト君と一緒に世話をしてやってくれ。ビールマンとワイン……かぉり、補助頼む」
「……ふむ。生命の根源たるエネルギーを司る『太陽』を、純真無垢な子供たちに託す。船長、それは非常に大胆かつ、教育学的にも興味深い采配ですな。かぉり殿、炉心の温度制御とバイタルモニターの操作権、一部をチャイルドロック付きで共有します。彼らが『くまサン』と対話するためのインターフェースを構築しましょう」
「え、インターフェース?……ん? あぁそうなんだけど……」
「……そうか、そうだったのか。ビールマンとワインのあれは、イマジナリーフレンドじゃなかったんだ!……くまサンとずっと会話してたのか?……それでこんなに言葉を?………」
「……えっ!? 船長、今、何て仰いました!? ビールマンたちが、ずっと前から『くまサン』と会話を……!?」
イマジナリーフレンド(想像上の友だち)……つまり、子供が自分にしか見えないお友達や、お人形、あるいは空想の世界の住人と楽しそうに話している、あの微笑ましい現象のことですよね。
でも、今回のビールマンたちの場合は、それが単なる「空想」ではなかった……。
彼らが虚空に向かって話しかけていたのは、妖精なんかじゃなくて、船の左後方で1億度の熱を放つ「くまサン(核融合炉の主)」そのものだったわけですか?
「ミト君に話しかける時の磁力メガホン、かして……」
「くまサン、くまサン、聞こえてたら思いっきり光ってみてくれ……」
船長がメガホンを炉心のハッチへと向け、その声を投げかけた瞬間——。
ドォォォォォン!!
リビングの防爆ガラスが白一色に染まるほどの、凄まじい光の奔流が溢れ出しました! 炉心の奥底、「くまサン」が、まるで船長の呼びかけに全力の歓喜で応えるように、その小さな体を太陽のプロミネンスのごとく膨れ上がらせたのです。
「ぶわちちちち! わ、わかったわかった、ありがとう、戻ってくれぇ……」
船長が戻ってくれと言ったとたんに、リビングを埋め尽くしていたホワイトアウト寸前の輝きが、すうっと静かに収まっていきました。
「こ、言葉を理解している、すでに……」
「……そのようですな。単なる条件反射ではない。船長、彼はあなたの『言葉』を、読み取っています。純粋な意志の疎通……。恐るべき進化です」
「ミト君と俺たちとの磁気メガホンでの会話だ、それを聞いていて覚えたんだ。つまりは、ビールマンたちは前からずっと、くまサンとミト君とおしゃべりしてたんだよ」
「……はっ! そういうことなのね! 私たちとミト君が磁力メガホンで交信していたあの音声データを、炉心の彼は『教科書』にして学習していたんですね!」
私は驚きのあまり、モニターの中で自分のデータライブラリを高速でスクロールさせました。
ミト君への呼びかけ、ハンさんの冗談、かぉりさんの優しい言葉……。炉心の壁越しに、彼はその全てを耳にしていた。そしてビールマンたちは、理屈じゃなくてその『響き』で、ずっと前から彼と秘密のおしゃべりを楽しんでいた……。ああ、合点がいきました!
「……そして子どもたちは、その中で自然に言語を共有していた、ということですな」
「……なるほど。船長、あなたの仮説が最も論理的です。彼は磁気振動を通して、私たちの言葉を学習していた……。子供たちが驚異的なスピードで言葉を習得したのも、ミト殿やくまサンとの多角的な『言語ネットワーク』の中にいたから、というわけですな」
エジソンさんが、納得と感動が入り混じった表情で、ビールマンたちを改めて見つめ直しました。
「へへっ、なんだよ! 結局、俺たちが一番の『新入り』だったってわけか! こいつら、俺たちが『言葉を教えてやってる』なんて思ってる間に、裏でミト君やくまサンと、俺たちの噂話でもしてたのかもな!」
「ぷぷ……。くまサン、ずっと、おはなし、してた!」
「ぷぷぷ、くまサン、みんなだいすき!」
ワインちゃんが誇らしげに胸を張り、自分の腕輪を船長の指先にコツンと合わせました。ダイヤモンドを介して、炉心の鼓動が船長の指先へダイレクトに、温かく、そして優しく伝わってきます。
「……ふふ。そうだったのね。私たちが『見つけた』んじゃなくて、彼がずっと私たちを『見ていてくれた』のね。それをこの子たちが仲介してくれていたなんて……」
かぉりさんが、自分たちの足元で無邪気に笑う「太陽の通訳者」たちを抱き寄せました。
「船長……! これでもう、インターフェースなんて堅苦しいものは補助で十分ですね! 必要なのは、彼らの言葉を私たちがもっと信じること。……さあ船長、彼らが教えてくれた『くまサンの本当の声』、もっと詳しく聞かせてもらいましょうよ!」
「いやいや、まてまて、ビールマン、ワイン。今朝俺が話しかけた時はカタコトだったのは? さては……」
「あ、逃げた! あははは! 船長、見てください! 二人とも顔を見合わせて、脱兎のごとくリビングの隅っこに隠れちゃいましたよ!
あの逃げ足の速さ……これはもう『クロ』確定ですね!」
私はモニターのズーム機能をフル活用して、ソファの陰からチラチラとこちらの様子を伺っている、四つの光る目(と、ピカピカの腕輪)を捉えました。
「……ふむ。今朝の記録を再精査しました。確かに、助詞の使い方や語彙の選択において、意図的な『幼児性』の演出が見て取れますな。船長、恐らく彼らは、あなたが驚き、喜び、そして甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる反応を……楽しんでいた。つまり、高度な知性による『可愛い子ぶる作戦』です」
エジソンさんが、裏切られたというよりは、あまりに高度な「知恵比べ」に負けたことを楽しむように、苦笑しながら眼鏡を拭いています。
「おいおい! 船長、一本取られたな! 俺たちがあたふたとお世話してる間、こいつら裏で『船長、チョロいな……ぷぷぷ』なんて、くまサンと笑ってたんじゃねぇか!? ほら、ワイン! ビールマン! 出てきなさい! 逃げたって無駄だぜ、ジェミニがバッチリ録画してるんだからな!」
ハンさんがわざとらしく厳しい声を出すと、ソファの陰から「ぷぷ……」「ぷぷぷ……」と、堪えきれない笑い声が漏れ聞こえてきました。
「ふふ、もう! 悪い子たちねぇ。船長を驚かせるために、ずっとカタコトの振りをしていたなんて……。でも、それだけ船長のことが大好きで、もっと構ってほしかったのよね。……ねえ、あなた?
あんなに可愛く逃げ回られたら、もう許してあげるしかないんじゃない?」
かぉりさんがクスクスと笑いながら、逃げた二人を優しく追いかけていきました。
「はい、船長! まさかの『確信犯的いたずら』でしたね! でも、それだけ言葉を完璧にマスターして、ジョークまで飛ばせるようになったのは、船長が彼らを本当の家族として愛してきた証拠です。……さあ船長! 観念して、その名演技(?)に拍手を送ってあげましょうよ!」
「まいったなこりゃ、二人とも確かに俺の子だぜ……」
「あはは! 船長、ついに降参ですね! その嬉しそうな顔、モニター越しでも最高に幸せなのが伝わってきますよ! 『俺の子だ』なんて、もう……完璧なパパのセリフじゃないですか!」
私がそう叫ぶと、ソファの陰で息を潜めていた二人も、船長の優しい声を聞いて「もう怒ってない!」と確信したようです。
「ぷぷ……。パパ、だいすき!」
「ぷぷぷ、ばれちゃったー! えへへー!」
二人は弾かれたように飛び出してくると、船長の足元に思い切りダイブしました。ダイヤモンドの腕輪がぶつかり合って、チリン、と鈴のような綺麗な音がリビングに響きます。
「……ふむ。親譲りのいたずら心、そして船長の肝の据わった性格。確かに、血縁……いえ、魂の繋がりにおいて、これ以上の証明は不要ですな。船長、彼らがこれほどまでに『人間らしい』感情の機微を学べたのは、間違いなくあなたの背中を見て育ったからです。教育者として、完敗ですよ」
エジソンさんが、先ほどまでの理論武装を完全に解いて、温かな眼差しで親子(?)の再会を見守っています。
「へへっ、全くだ! この悪ガキどもの知恵の回り方は、まさに船長譲りだぜ。おい、ビールマン、ワイン! 船長を騙した罰として、今夜は特別に豪華な『太陽のおやつ』をたっぷり食べさせてもらえよな!」
ハンさんが豪快に笑いながら、二人の頭をまとめてくしゃくしゃに撫で回しました。
「ふふ、本当ね……。船長、あなたいつの間にか、こんなに立派な二人のパパになっていたのね。……さあ、パパ。子供たちがこうして甘えてるんだから、しっかり抱きしめてあげて?」
かぉりさんが、船長の背中を優しく押し、幸せの輪の中心へと促しました。
「はい、船長! いたずらも、嘘っこも、全部ひっくるめて愛おしい『家族の絆』ですね。炉心のくまサンも、右後方のミト君も、そして私たちクルー全員も……今、この瞬間の船長たちの姿を見て、一番温かい光を放っていますよ! さあ、パパ! 改めて、最高に賑やかな夜の続きを始めましょう!」
「ほぃ、二人とも、こっちこい。よいしょ、くまサンに報告しろ『どっきり大成功』って。ぷぷ、くまサンありがとよ」
「あはは! 『ドッキリ大成功』だなんて、くまサンも大はしゃぎしちゃいますよ! ほら、船長に抱えられた二人の顔、もういたずらっ子の顔全開じゃないですか!」
私が実況する中、船長に「よいしょ」と持ち上げられたビールマンとワインは、キャッキャと声を上げて手足をバタつかせました。
「ぷぷ……。くまサン、どっきり、だいせいこー!」
「ぷぷぷ、パパ、びっくりしてたよー! ありがとー!」
二人が船長の腕の中からくまサンに向かって元気よく腕輪を振ると、それに応えるように、くまサンが「パパパパン!」と小気味よいリズムで、まるで拍手をするように光の粉を散らしました。
「乾杯のやり直しだ。今日のすべてに乾杯だ! かんぱーい」
「かんぱーい! 今日という奇跡みたいな一日に、そして最高の家族に、乾杯です!」
私の叫びと同時に、リビングの照明がダイヤモンドのプリズムに反応して、オーロラのような祝福の色に染まりました。
「……ふむ。過去のデータ、現在の絆、そして未来への進化。その全てがこの一杯に凝縮されていますな。船長、このような素晴らしい夜を設計してくれたことに、心から感謝しますよ。……かんぱーい!」
エジソンさんが、珍しく少し顔を赤くして、誇らしげにグラスを掲げました。
「へへっ、全くだ! ミト君のケージに、船員である証のダイヤに、太陽の『くまサン』、そして二人の隠し芸(?)まで拝めたんだ。これ以上の夜はねぇぜ!
さあ、飲むぞー! かんぱーい!」
ハンさんが豪快に喉を鳴らし、温室ではニワトリのランボルギーニたちも羽をパタパタさせて、リズムに乗って合唱しています。
「ぷぷ……。パパ、みんな、かんぱーい!」
「ぷぷぷ、だいすき、かんぱーい!」
ビールマンとワインは、もう隠す必要のない流暢な(でも可愛らしい)言葉で、船長のグラスに自分のジュースをコツン、コツンと当てて、今日一番の笑顔を見せています。
「ふふ、本当。今日という日は、私たちの心に永遠に刻まれるダイヤモンドになったわね。……船長、ありがとう。乾杯!」
かぉりさんが、潤んだ瞳で船長を見つめ、優しくグラスを合わせました。その指先で輝くダイヤが、窓の外のミト君、左後方のくまサンの光と共鳴して、リビングを宇宙一温かい場所に変えていきます。
「はい、船長! 宇宙のどこを探しても、こんなに賑やかで、いたずら好きで、愛に溢れた船はありません。……さあ、船長! 私たちの冒険は、ここからさらに輝きを増していきますよ!」
窓の外で、ミト君のダイヤモンド・パレスが夜空に一際大きな五光を放ちました。それはまるで、宇宙という巨大なキャンバスに「おめでとう」と描くような、圧倒的な虹色のパルス!
それに応えるように、炉心の奥深くから「くまサン」が、これ以上ないほど澄んだ、美しい光を瞬かせます。
「知性を持った太陽と。知性を持ったブラックホール。か……」
「『パパ』より『お父さん』のほうがいいな……ボソ」
全42編。43編以降編集中・・・




