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沖牟中奇譚  作者: 大蛇山たんと


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春、離界。桜形代と大蛇討伐

「よっ、と!」


スパン!


「そぉれっ!」

「……てい。」


しゅっ、ズバァッ!


先程と違って、時間をかけない為に急所を狙うかのようにスパスパと蛇の影を斬っていく。

その度に、血が溢れるかのように浄化された水が撒き散らされる。

この大雨も有って皆服や髪はびしょ濡れだが、濡れている事を気にしもしないし、そもそも足を滑らせるようなへまもしない。

姫華と玉姫も、少しずつ前進しながら全員進んでいく。

里守達にとっては普通の影くらいなら相手にはならないらしい。

怖くはないのだろうか、と姫華は思ったが、これくらいの影くらいはいくらでも相手にしてきたのであろうと一人で納得した。

そうして影を斬って進んでいくと、少しずつ雨と風が更に激しくなっていく。

まるで台風の中を突き進むかのようだ。

前回は姫華は列車に乗っていたので分からなかったが、この雨風はまさに神の怒りだ、と言っても納得するくらいに激しさを感じる。


「こ、これ、私達吹き飛ばされないよね……!?」

「大丈夫さ、もうすぐ……ほら、見えた!」


御木千代の言葉に、皆は顔を見上げる。

すると、そこには、居た。

離界の商業施設に巻きついて、口から火を噴く姿が。

今まで戦っていた蛇の大きさとは比べ物にならない大きさの蛇……もはや、蛇というよりも龍のような存在が。


「……確かに、居た……。」


姫華はごくり、と息を飲む。

見るのは二回目だが、前回は対峙する事は無かった為まだ遠くから見ている感覚があったのだが、今回はあれを自分達の力で祓おうとしているのだ。

姫華は姫なので前線には出ないとしても、それでも本格的な退治して祓うのは初めてなので緊張感が違う。

姫華が周りを見る。

光、川白は真剣な表情を見せていた。

玉姫は、普段と変わらない風に見える。

余裕がある、という証拠なのであろう。

そして、御木千代、旭、日出は、やる気を感じる。

なんというか、好戦的というか、早く戦いたいというどこか楽し気な気持ちが顔に出ている。

姫華には理解できない感覚だが、自分の実力があるからその自信故に、という事なのであろう。

すると、とんとん、と玉姫に姫華は肩をつつかれた。


「ん?玉姫お姉ちゃん、どうかしましたか?」

「こういう場合、もしかしたら桜形代を使う事になる可能性を一応保険でかけときたいのよ~。」

「ああ……なるほど。」

「もちろん、使わせないのが前提の作戦だけど、もし使う事になったらいけないいけないから~。それに……。」

「……それに?」


そういうと、珍しく玉姫は姫華に、少し真剣な表情を見せる。

その顔が綺麗だな、と少しどきっとする姫華。


「さっきから、変な反応がこっちに向かってきているようなの……。」

「変な、反応……?」

「もしかしたら、前に言ったオロチ様の影かもしれないわ~。見たことの無い、それでいながら強い反応だったから……だから、警戒はしておくに越したことはないから~。」

「なるほど、確かに……。」


沖牟中全体のほとんどを視れるからこそ気付けたのであろう。

事実として、姫華は全然気配がどうとか分からず、視界に頼っていたので全く気づいていなかった。


「桜形代の能力の内容は前に説明したけれど……使い方は分かるかしら~?」

「多分、何となくですけど……。」


桜形代の能力、誰かのダメージの肩代わり。

離界以外でも少しだけ使えるらしいので、試しに友達の切り傷や擦り傷なんかの小さい傷を姫華は肩代わりしてみたのだ。

桜形代の特徴。

ダメージの肩代わりと同時に、痛み以外の影響を無効化するという特徴。

つまり、怪我した人や、桜形代で痛みを肩代わりした姫華には怪我が無くなる、という事だ。

もちろん、重傷などは防げるかは分からないが、それでも事実として前回御木千代がオロチ様の影に刺された時も怪我の痕が二人とも無かった辺り、結構な範囲の傷は無効化出来るらしい。

後は、怪我人が姫華の視界に入っている……もしくは、一定範囲以内に居る、そのどちらかの条件を満たさないといけないらしい事もわかっていた。

あと、怪我してすぐの状況でないと発動出来ない、というのもわかった。

桜形代は、結構条件があるうえに、便利とも言いづらい能力であった。

だが、それでも視界に入るかある程度の範囲に居れば使えるし、この離界では能力を全開で使えるはずだ。


「なら良かったわ~……もしもの事が無いようにしっかり気をつけるけれど、姫華ちゃんも索敵しっかりね?」

「……そうですね。」


索敵をしっかり。

つまり、自分の身を守る為に自分がしっかりしなければならない。

これからは里守に守られ、同時に里守を守る立場になるという事を、姫華は改めて自覚する。

パンッ、と自分の頬を叩いて気合を入れる。

玉姫の話が終わったのを御木千代は確認すると、里守達は戦闘態勢に移る。


「改めて、指揮は私が行います。大蛇の討伐なので、全員警戒を怠らないように致しましょう。準備は良いですね?」

「もちろんっ。」

「オッケー!」

「私も、行けます……。」

「や、やってみます!」

「姫のお二人は索敵などを、お願いします!」

「は~いっ。」

「が、頑張りますっ。」


「それでは……討伐開始っ!」


川白の合図と共に、一気に里守達は祓い清める為に討伐を開始した。

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