春、離界。姫の役割と次の戦場
(えっと、周りの状況周りの状況……まずは……!)
「皆さん、道路の左右から4,5匹ずつ影が迫ってきています、注意してくださいっ。」
「わかりました、では旭さんと日出さんは二人で左右の警戒、迎撃。光さんと私が遊撃に向かいます!」
「おっけー、私が全部やっつけちゃうもんねー!」
「競争、です……。」
「み、御木千代先輩の方は……?」
「光は僕の方をまず手伝ってくれ、こっちを先に終わらせて二人の援護に行こう!」
「わ、わかりました……っ!」
姫華の情報一つで、戦況がまた一つ変化する。
情報を元に川白が指揮し、他の里守達がその指揮に合わせて陣形を変化させる。
姫華はそれを見て、如何に自分が出す情報が重要なのかを思い知った。
自分が出す情報一つで陣形や戦略が状況に応じて変化する。
つまりは、自分の出した情報がこうやって対応が変わるのだ。
それはつまり、自分が取りこぼした情報、間違えた情報が一つあっただけで、場合によっては命に関わる、という事だ。
それを思うと、今までこの役割をほとんど一人の姫が、そして今まで、玉姫一人がやっていたのだという事に凄いなと思うのと同時に、この前の刺された御木千代の姿が姫華の脳裏に過る。
(……今度は、もうあんな事にはならないようにしなきゃ……!)
改めて姫華は決意を固める。
「御木千代先輩……!」
「よっと……!」
光が投げた鎌を御木千代が刀で弾くと、その方向に鎌は飛んで行ってその直線上に居る影の蛇達を一掃する。
そして、光が指を鳴らすと飛んで行った鎌はまるで意思を持つかのように、蛇達を切り刻んだ後に物理的には有り得ない挙動で光の手元に戻ってきた。
「私も行きます……っ!!」
そう言いながら、川白が白い砂の巨大な槍を作ると、扇の動きに合わせて砂の槍は飛んで行き、2,3匹の影の蛇を纏めて圧し潰した。
ただの砂ではないその浄化の砂の一撃は、槍の形を無くして辺りに砂が撒き散らされると、その跡には影の蛇は全く居なくなった。
これで最初に発見した蛇は全て祓い終わった。
「よし……では、次は宮部従姉妹の支援を……。」
「もう終わったよ~。あれくらい私達なららくしょーらくしょー!」
「あの程度……私達なら余裕、です、よ……?」
姫華は三人の方に気を取られていたが、宮部従姉妹はもうこっちに戻って来ていた。
ちらりと左右の道を見渡すと、影の蛇が祓われて消えていくのが見えた。
どうやら本当にこの二人は強いらしい。
姫華は御木の蔦に触れて、周囲の状況を確認する。
「……辺りには、もう蛇らしい影も居ません。人型の影も見当たらないし……もう、大丈夫かな。」
「ふう……皆さん、一旦お疲れ様でした~。」
「ええ、光さん。皆さんも、お疲れ様です。玉姫さん、次の情報をお願いします。」
「ふふ、皆お疲れ様~。次は……県境、在明の方に雨雲が見えるわねえ……。」
「雨雲……大蛇も、居るかも、ですか……?」
「いいじゃんいいじゃん、歯応えある敵が居た方が良いでしょ!」
「あの、雨雲で大蛇って……?」
「ああ、姫華ちゃんには説明してないわね~。」
宮部従姉妹がテンションを高くする中、全く分からない姫華が聞いてみると、玉姫が説明を始める。
「蛇が水の化身、というのはもう聞いたわね~?」
「はい、大体は。」
「なら早いわ~。大蛇の影は、その強い水の力を持っているから雨を呼び起こす事があるのよ~。強力な大蛇の蛇は、黒い影じゃなくて色を持つ事もあるわ~。」
「そういえば……。」
姫華は思い返す。
前回の離界に来た時に、大蛇が来た辺りで大雨が降ってきた事を。
あれは、御木に近づいたからかと思っていたが、もしかしたら大蛇の力で呼び起こされた大雨だったのかもしれない。
「大蛇の水は祓い清めれば、御木を清めて育てる恵みの水になる……だから、蛇の影や大蛇の影を斬った時には水が溢れてくるのよ~。」
「逆に、大蛇が御木を攻撃する為に穢れの牙と炎で迫る……。」
「そういうことっ。」
「なるほど、また少しわかりましたっ。」
「ふふ、勉強熱心で偉いわ~、良い子良い子~。」
「わ……えへへ……。」
子どものように頭を玉姫に撫でられる姫華だが、それが嫌ではないのか、それとも玉姫の人徳の成せる技か。
姫華は撫でられて嬉しそうに小さく微笑む。
「さて……じゃあ、説明している間に一息つけたでしょうし、そろそろ皆行くわよ~?」
「ええ、お願いします、玉姫さん。」
「楽しみだな~……!」
「私は逆にあまり戦いたくは無いんですが……。」
「まあまあ、光が鎌使いで一番強いんだし。」
そんな風に言いながら、また皆身体が泡に包まれていく。
在明の方、となると、ここからはまた少し離れた所だ。
静尾市の隣であり、県境でもある場所で、繁華街とは違う色んなお店がある辺りではある。
県境の国道のお店の集まった地域だ。
もしかしたら、蛇が現れやすい場所は、人が多い所も含まれるのかもしれない。
そう思って泡の中で移動している間に、まだ把握が出来ていない離界を見回して把握しようとする姫華。
そんな姫華を見て、玉姫と里守達は微笑んで見守るのであった。




