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沖牟中奇譚  作者: 大蛇山たんと


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春、離界。姫の役目と里守の役目

「シャアアアアァ!!」

「よっと!」

「それっ!」


まずは飛び掛かってきた蛇を御木千代と旭が蹴り飛ばす。

この中でも特に体術も得意な二人だから出来る事だ。


「そこです!」


巫女服が混じったかのような洋装と和装が混じった川白の服の袖が舞い、帯に差していた扇をバッ、と開くと、風と水の嵐の波がどこからともなく現れ、そしてその流れに呼応するかのようにどこからか……いや、姫華がよく見ると、袖の辺りから、大量の、白く輝く砂が出ていくのが見えた。

その白く輝く砂の塊が複数に分裂すると、川白の扇を動かすのに合わせてその砂の塊が蛇達にぶつかる。


「シャーッ!!?」


蛇には当然ながら足は無い。

だから、普通なら蛇の動きの阻害にはならないだろう。

だが、砂の攻撃を食らった蛇達は、くねくねとまるで絡み着くかのように動きの邪魔をする砂によって身動きが取れなくなっていた。

それだけでは無く、どうやらじわじわと蛇達の元気が無くなっていく。

あの白い輝きが何か関係あるのであろうか。


「いただき……!」

「仕留めます!」


好機と見たのであろう日出と光が、刀と大鎌の斬撃で蛇を真っ二つにする。

これで一気に数匹仕留めて、残りは10匹くらいだ。

その合間に少し不思議そうにしていた姫華に気づいたらしく、玉姫が口を開いた。


「あれは……。」

「あれが川白先生……いいえ、八社家の里守が使える異能力、『八社風浪(やっしゃふうろう』よ~。」

「八社風浪……?」

「八社神社の伝説でね、風浪に悩む人々が神社で祈ったら、翌朝に八つの砂の山が現れた、という事があったらしいわ~。だから、八社家の里守は風と水と砂、何より、川白先生は白い清めの砂を操る事が出来る八社家でも特別な異能力を持っているのよ~。」

「そういう血筋で受け継がれる異能力もあるんですね……。」

「私達の魂に受け継がれる異能力とは違うわよねえ~。」


姫華に解説しながら、周りの状況を確認する玉姫。

能力の影響なのか、玉姫の周りには泡が浮かんだり、周りに御木の根から伸びた蔦が玉姫を囲むように生えている。

あの泡や御木から伸びた蔦から情報を読み取ったり出来るらしい。

なんというか、先程レーダーのような物、という話をしたからこそ、その機械的な能力とは裏腹に自然的な物に囲まれる姿に姫華は、(なんだかイメージとちょっと違うな……)と思うのであった。


「それで、私は周りを見ていればいいんですか、玉姫お姉ちゃん?」

「本格的な出撃の時は私達はこの沖牟中市の離界の地図に触れながら情報を読み取ったりするけれど、こういう普段の周回パトロールの時はそれを使わないわ~。姫華ちゃんは……そうね、この蔦に触れてみてちょうだい?」

「蔦……?わかりましたっ。」


よくわからないまま、指示通りに蔦に姫華は玉姫の周りに伸びている蔦の一本にそっと触れてみる。


「わっ……!?」


すると、姫華の中に膨大な情報がスムーズに流れ込んでくる。

今まで自分の目で見ていた視点とは違う、まるでこの離界を上空から、まるで神様のような視点で見下ろしているかのような景色。

その情報を玉姫と共有しているのか、玉姫はそのまま言葉を続ける。


「慣れている私が今回は離界全体の状況を視るから、姫華ちゃんは今私達が居る繁華街の戦闘エリア周辺の様子をしっかり確認してちょうだい。何かあったらすぐに声をかけるのよ~。」

「え、えっと……カメラのズームみたいな感じかな……繁華街、繁華街……。」


言われたまま、感覚のままに姫華は視点を動かしてみる。

何となくだが、動かし方とかはわかるような直感がある。

視点の動かし方をまるで自分が最初から知っていたかのような感覚……というより、すでにゲームのチュートリアルを済ましているかのような感覚だ。

姫華は視点をぐりぐりとカメラ操作のように動かす。

……場所は繁華街だ。

この普段とは景色の全く違う離界においても、その存在の名残というか、景色の原型は存在する筈だ。

そう思って、目印になる物を探していく。

(ネオン看板……は、今の時間はもしかしたら点いていないかも。人の気配は見当たらない。なら、目印にするなら、繁華街近くのビル……!)

沖牟中市は地方都市である為、都会と比べると流石に全然小さいが、小さいながらに他の建物よりも高いビルが存在する。

それを目印にしたのだ。

そして、その直感は当たった。

ビルはすぐに見つかり、その周辺に地域を絞って御木の周りを探すと……視えた、戦闘している友達たちが。

聴覚も強化されているのか、そこに視点をズームしていくと音や声も聞こえてきた。


「御木千代さん、前に出て陣形を崩してください!その後ろを光さんがバックアップ、その左右は旭さんと日出さんが支援を!私は後衛から砂を使って支援しまいたします!」

「オッケー!一番槍いただきってね!」

「ちょっとー、お兄さんの方が沢山倒しちゃうじゃん!」

「私達のコンビネーションを考えるなら、仕方ない、です……。」

「あはは……邪魔にならないように、気をつけますね……?」


川白の指揮に従いながら戦闘している。

どうやら戦況は優勢らしいのは何となく姫華にもわかった。


「視えた……視えましたよ……っ。」

「よくやったわね、いい子いい子~。なら、その周辺やからの襲撃がありそうかとか、戦闘エリアを迂回してこっちに向かってくる蛇が居ないか確認していてちょうだ~い。」

「わ、わかりましたっ。」

「ふふ、そんなに肩に力を入れなくって大丈夫よ~。」


大丈夫、とは言いつつも、姫華の声は緊張で軽く震えていた。

それを気遣って玉姫は、少し動いたらしく、そっと姫華の頭を撫でた。

あまりにも超常的な事が起きていたせいで感覚が変になっていた姫華だが、玉姫に触れられて、大丈夫だとそっと撫でられて、自分が今確かにここに居る、という感覚を持てたのが安心に繋がったらしい。


「はいっ……頑張りますっ!」


大きく一つ、深呼吸して出した姫華の次の声は、震えてはいなかった。

この世界の主人公は御木千代ですが、この物語の主人公は姫華です。姫華は前線に出て戦う存在ではないので、迫力あるバトルシーンとかは難しいとは思いますが、この世界である御木千代を見守り支えるヒロイン、姫華の目線としてこの物語をぜひとも楽しんでもらえたらな、と思います。

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