春、離界。パトロールと戦闘開始
とんっ、と一歩校門の外に出た瞬間、姫華は寒気のような物を感じた。
「わっ……。」
姫華は小さく声を出す。
それに気づいた御木千代はふふ、と笑う。
「まだ離界の空気には慣れないのは仕方ないよね。この妙な寒気というか冷たい空気は。」
「う、うん……。なんというか、清められていない空気ってこんな感じなんだなっていうか……。」
「神社のような霊験あらたかな場所では澄んだ冷たい空気があって、それは不快には感じないですけど、それとは違う、穢れの混じったこの離界特有の冷たい空気は、あまり長居はしたくない空気ですからね……。」
川白がそう解説しながら辺りを警戒する。
そうすると、玉姫が何かに気づいた。
「皆、御木の根本にいくつか反応があるわ~、数はそんなに多くは無いけど、強い反応が幾つかあるから、行くかしら~?」
「行く行くっ!ねっ、お兄さん!」
「行きましょう、お兄さん……。」
「ああ、じゃあ玉姉さん、頼むよ!」
「……?」
盛り上がる宮部従姉妹と御木千代にきょとんとする姫華。
それについて光が小さく耳打ちする。
「前に玉姉様の話した異能力について覚えていますか……?」
「ああ、桜なんとか……とか、なんとか結界……だっけ?」
「ふふ、御木結界、ですね……。御木結界には、御木の周辺の状況を把握したりする事も出来るんです……。」
「なるほど……所謂レーダー、みたいな感じなのかな?」
「それです、はい。」
納得した姫華は頷くと、二人で玉姫の所に近づく。
「皆さん、全員大丈夫ですね?」
「「は~いっ。」」
「はい…。」
「だ、大丈夫、です……。」
「た、多分大丈夫……ですっ。」
「わかりました。では、玉姫様、お願いいたします。」
「は~い、じゃあ皆、行くわよ~。」
川白の確認を合図に、玉姫が異能力を発動すると、皆身体が泡に包まれる。
そして、身体がぷかぷかと浮いた後、まるで御木の元に導かれるように泡ごと身体が引っ張られていくのを姫華は感じた。
御木結界、という名前から、御木の根などを使った移動なのかと姫華は思っていたのだが、どうやら泡に包まれている辺りツガネとの逸話が由来らしい泡でふわふわ浮いて移動する事に少しの驚きと、身体が浮いて実質的に空を浮いて飛んでいるような感覚にテンションが上がった。
「わあ……!?う、浮いてる……!?というか、飛んでる……!?」
「ふふふ、特殊な泡だから落ちたりはしないわよ~。」
「り、離界って、不思議な事が多すぎる……!?」
「君の桜形代も大概な気もするれどねー。」
そんな事を話しながら、場所は御木の根が張る所の一部……繁華街の所に全員ゆっくりと着地する。
ここは、沖牟中の中でも、キャバクラやホストクラブ、飲み屋街などがある所謂大人の町であり、普段は学生は問題がある生徒以外はまずほとんど行かない場所だ。
だが、離界の中ではここも普段の大通りに人は見当たらず、見えるのは……。
「あれが反応の元だね、姉さん。」
「ええ、数は多いけど、今は強い反応は居ないみたいね~、多分違う所に行っちゃったのかしら~?」
「どっちでもいいよ、お兄さんやお姉さん達に強くなった所、見せちゃうんだからっ!」
「相手が弱くても手は抜きません……獅子は兎を狩るにも全力を尽くす……です。」
視界に入ったのは、この前の大蛇と比べると全然小さい、だがそれでもコブラとかくらいに見える大きな蛇が十数体も居た。
普通に見れば、こんなに大量の大きな蛇に囲まれたら、普通の人間はそれだけで卒倒するか、死を悟るであろう。
だが、里守達は……そして、里守達の強さを知っている玉姫は全く動揺せず、特に里守の中でも血気盛んな御木千代、旭、日出はテンションを上げながらそれぞれの獲物を構える。
川白と光も、先程までの静かな雰囲気から一転、瞳には闘志が満ちている。
そして、ついこの間御木千代の強さを目の当たりにした姫華も、恐怖はあれど、この間程の死の予感は無かった。
「指示役は?」
「では、教師として今回は指揮は私が。」
「わかったわ~、なら、周囲の状況確認は私と姫華ちゃんでやるわね~。」
「わ、私に出来ますか……?」
「慣れるのも大事よ~、特に桜形代については分かっていない事も多いんだから~。」
「そ、それは確かに……。」
「それに、この間は不意打ちで無意識に桜形代を使ったわけだし、状況確認は尚更に重要だわ~。」
「……わかりました、桜形代の把握の為にも、やってみます……!」
方針は決まった。
蛇達も、御木千代達の存在に気づいたらしく、舌を出しては威嚇する。
そして一匹の蛇がその野性的な本能を抑えきれなくなったのであろう、御木千代達に向かって飛び掛かったのと同時に。
「では……皆さん、祓い清めましょう!」
川白の言葉と同時に、お互いが一気に戦いの始まりを告げた。




