春、守神の社にて。里守の集会ともう一柱の神
「皆、集まったな。では、これより里守集会を開始する!」
「「「「はっ!」」」」
守神の社の集会所にて、里守が集まった中でツガネ様は前に出て集会の開始を宣言する。
里守は老若男女様々で、渋いおじいさんも居れば中年の女性なども居る。
なんでも、人口約1万人のこの沖牟中市の中で、見習いや支援役などのまだ前線に出ない里守を含めれば里守は約百人くらいらしい。
宮部従姉妹……通称宮部シスターズも見習いではあるものの二人一組での出撃は許可されているらしく、既に荒魂を祓う戦いに参加済みらしい。
見習いの里守も居るのでまだ姫華より若い姿もちらほらと見受けれる。
そんな里守達の中で、現最強剣士が御木千代、最強鎌使いが光と、若い二人が最強なのはある意味豊作、という事なのかもしれない。
流石に集会では御木千代達も真面目な様子だ。
そんな中で、姫華は……。
「今回、皆に報告すべき事が二つある。まずは良い知らせだ。当代は、玉姫だけではなく、桜姫の魂と縁を結んだ姫が現れた。それがこちらに居る女性、櫻井姫華殿だ。」
「え、えっと……櫻井姫華ですっ、まだ里守とかの事をちゃんと分かっていないかもしれないけど……この沖牟中の為に戦っている皆さんの為に役に立てるように、頑張ります、よろしくお願いします!」
「おお……!」
「当代は姫様が二人とは……!」
「ありがたい!」
ぱちぱちぱちぱち!と拍手しながら声が上がる。
姫華はここまで歓迎されるとは思わなかったので、驚きながらもぺこぺこと頭を下げる。
因みに今の姫華の服装はさっきまで着ていた制服ではなく、露出の少ない振袖ドレスを着ていた。
桜色の生地に白いヤブツバキ、そして少し入る黒めの青の差し色。
桜色は桜姫の名前から、黒めの青は有明海の海と魔石炭の染料から、そして白のヤブツバキは玉姫の赤いヤブツバキと対になっている。
なんでも、これから桜姫としての活動をする時の正装の代わりとして用意させたらしい。
歴代の桜姫の衣装用の生地などは保存していたらしく、その余った生地などを使って急ごしらえで作らせたらしい。
何でもこれから正式な衣装は作るらしいが、それまではこの衣装を使うとの事。
この衣装も魔石炭の力が入っている分、姫華の力の補助もしてくれるとか。
ツガネ様が拳を振って止めるように言う。
「だが、良い知らせばかりではない。もう一つ、こちらは悪い知らせだ。……離界において、オロチの影が発見されたという報告があった。」
「ええ……?」
「そんな、オロチ様の影が……?」
「当代では初めてか……?」
ざわざわ、と今度は里守達はざわめく。
発見したのは御木千代と姫華だが、事の重大性をあまり理解していなかった姫華は皆の様子を見て自分の予想よりも大変な事なのだと今理解する。
そんな中、すっ……と手を挙げる里守が一人。
姫華は見間違う筈がない。
動作すら美しいとため息がでそうなくらいに感じてしまうその人は……出雲御木千代であった。
「ツガネ様、前に出て発言してもよろしいでしょうか。」
「ああ、御木千代。むしろ、其方には姫華殿と一緒に話をしてもらう必要があるからな。こちらへ来て話をしてくれ。」
「はい。」
いつもと違って大人しく、しかしその所作の美しさは変わらず、すっ、すっと足音すら静かにツガネ様の前に来る。
「姫華様、当時の状況を思い出しながら、私の話に情報を出してください。」
「へっ?……わ、わかった……。」
学校や普段の態度や口調と違う、静かで丁寧な雰囲気に、思わずギャップで姫華はドキッ、とする。
見た目はどう見ても美しい美少女なのもあるが、それと同時に自分にエスコートする所が男性的な雰囲気もあって絶世の美少女のような、でも確かに男性である人からのエスコートという二重のドキドキを感じたのだが、それの意味を姫華は理解は出来ていない。
「……私が見たオロチ様の影は、我々里守と同じように刀を持っていました。私が胸を後ろから刺されたのですが、偶然近くに居た姫華様の異能力『桜形代』によって肩代わりしてもらったため負傷は無く、私が反撃の一撃を与え、斬って祓いました。」
「えっと……黒い影の姿は男性で、黒い姿で刀や着ていたコートも黒くって、顔は蛇みたいに鋭い目をしていて……少し、幼げな雰囲気の顔つきでした。」
御木千代と姫華が里守の皆に話して情報共有していた……その時であった。
「その顔は、こんな感じだったかい?」
里守達の後ろから、少しからかうような声が聞こえてきた。
里守達が少し驚きながらその方向の道を開けると、一人の男……見方によっては高校生や大学生きらいに見える男性であった。
そして、それを見た姫華はその人を指差した。
「そうそう、こんな感じ……というか、え?この人……。」
「あっはっは、そうだろうねぇ!だって、それもボクの荒魂なんだから。」
「オロチ様、お疲れ様です。」
「「「「お、お疲れ様です!」」」」
御木千代、そして他の里守達の様子を見て、姫華は理解した。
この人……いや、目の前に居る、この神の一柱こそ、この沖牟中のを守る神の一柱、大蛇……大蛇様であると。
「やあやあ御木千代クン、里守の皆、ツガネ、お疲れ様。そして……当代の桜姫、新しいお姫様もね。」
「か、神様だったんですね……すみません!」
「いやいや、知らなかったんだから仕方がないさ、ボクは優しいからね、それくらい許すさ。」
「オロチ、遅いぞ。」
「いやあすまないねぇ、奉納された酒でも吞みながらゆっくり来ようと思ってたら遅くなっちゃったよ。」
「相変わらず蟒蛇だな……。」
へらへらと笑いながら小さく謝る様子を見ながら姫華は観察する。
黒い探偵みたいなキャップにに、緑の外套にも見えるくらいロングのトレンチコート、黒縁メガネにタータンチェックのシャツ、そしてパンツルック。
顔は何処か童顔気味な顔でへらへらして、なのに目はどこか蛇のように鋭い。
身長は御木千代より少し大きいくらいか。
なんというか、胡散臭いというか、何処か本心が掴めない雰囲気である。
「え、えっと……オロチ様。」
「何だい?姫華クン。」
「え、えっと……ボクの荒魂、というのはどういうことですか?あれは別人とかでは無く……。」
「うん、ボクだよ。君も姫としての仕事をするって事は、少なからず事情ややること、敵の正体は聞いているんだろう?」
「すでに私とツガネ様から姫華様にはある程度説明はしました。」
「仕事が早くて助かるね。じゃあ結論から話すけど、そのボクの姿をした影は過去のボクの……というより、この沖牟中の大蛇という概念に集まった穢れが過去のボクの姿を取った存在だ。」
「大蛇という概念……?」
「そう。」
言いながらオロチ様は、何処からか酒を取り出してごく、ごくと呑んだ。
そして「ぷはぁ」と一息つくと、にやりと笑みを見せながら言った。
「姫だけじゃなく、当代の里守でボクの姿の影が出てきたのは初めてだから丁度いい。ここに居る皆にボクからありがたいありがたい話をしてあげようじゃないか。」
そろそろ春編も半分を切っている……筈なんですけど、春編の結末というか着地点をいまいち決めていないのでどうしようか考え中です。上手くいけばいいのですが……。




