春、沖牟中倶楽部から守神の社へ
「えっと、ここでいいのかな……?」
「ああ、構わない。」
私達は洋室……洋館、「沖牟中倶楽部」の外の庭、その庭の池の一つの前に立ち止まる。
一見すると、その池は普通の人工池にしか見えない。
池と言っても、所謂魚を飼ったりするような池でもなく、人が2,3人入れるくらいの大きさの広さの岩に囲まれた、洋館とはちょっと不釣り合いな日本庭園的な池に澄んだ水が水面を揺らしている。
「これから、どうやってそのツガネ様の社に行くんですか?」
「見ていると良い。やることは簡単だ。」
「やること……?」
池に対して何をやるのだろうか?
その答えは簡単かつ、姫華には予想外の物であった。
「ふんっ。」
「えっ。」
ツガネ様がふっ、と軽く跳ねた。
そしてそのまま池の中に、ザブンっ!大きな音を立てて入り、そのまま沈んでいった。
「えっ、何で……!?しかも、どう見ても沈んで……しかもどう見ても沈んだりする深さ無いのに……!!?」
「ふふ、姫華お姉さんびっくりしすぎ~!」
「仕方がないです、最初は皆びっくりします……旭、行こ。」
「うん!」
姫華が混乱しているのを笑いながら旭が指摘している間に、日出は旭と手を繋いで同じように旭と一緒に池の中に飛び込んだ。
「ほら姫華ちゃん、私達も行くわよ~。」
「え、いや、よくわからないですし池の中に飛び込むとか絶対びしょ濡れに……いぃっ!?」
玉姫に手を引かれ、姫華も舌を嚙みそうになりながら結局は一緒に池の中に飛び込む事になった。
ザブンっ!
「っ……あ、あれ?ここは……山の中?しかも、濡れてない……?」
「ふふ、驚いた顔も可愛いわ~。」
池の大きな音がした、と思ったら、気づいた時には姫華は着地していた。
辺りを見回すと、一緒に手を繋いでいる玉姫と、周りの森みたいな景色と古びた神社、そして沖牟中の町を見渡す事が出来た。
「倶楽部の池には、この三ツ池山の霊水を入れている。里守や姫、私やオロチが認めた者なら霊水がある水場の地点に転移する事が出来る。」
「そ、そういうのは先に言ってほしいかなぁ……って思います……。」
ツガネ様の声でツガネ様が、姫華が出てきた池の隣の池に居る事に気づき、軽く不満を漏らす。
「里守や姫ならば、神社や寺、地蔵といった霊地も転移する事が出来る。次から来る時は別の霊地からこの神社へ転移するのも悪くないだろう。転移のやり方は何となく直感的に理解出来る筈だ。……守神の社はこの池の先だ、着いてきてくれ。」
「直感的にって……ってあ、行っちゃった。」
ツガネ様、旭と日出はさっさと隣の池の中にまた飛び込んだ。
「ふふ、私達も行くわよ~?」
「は、はい……。」
玉姫に促されるままに今度は自分から池の中に飛び込む姫華。
そして、飛び込んだ先にあったのは……。
「ん……あれ、さっきと同じ……じゃない、ね。」
周りの景色は一見先程の山の中と変わらなかった。
だが、町の景色の色や森の色はくすんでいるように見えて、どこからか夕日のようなオレンジの光が差している。
だが、それよりも最大の大きな違いは、先程の山の中にあった古びた神社が、非常に立派な大きな、綺麗な神社になっていた事であった。
「ここが、私とオロチが住む神社、『守神の社』だ。ここは離界に存在する場所だから、里守と姫と私達神以外は入れない。」
「ここも、離界の一部なんですね……本当に悪いものだけじゃないんですね、離界って。」
「里守への招集は既にかけてある。集まり次第、集会を行う。それまでに、社の中を見ておくと良い。」
「あ、はいっ。」
言われたままに姫華は社の中に入る。
すると、その中には姫華の見知った二人の顔があった。
「おや……姫華じゃないか。」
「あ……姫華さん!!」
「御木千代くん、光ちゃんっ。」
姫華の元に二人はすぐに集まってきた。
御木千代の様子を見るにどうやら大きな怪我を負っているようには見えない。
「御木千代くん……無事みたいだね、良かった。」
「傷跡も無くこの通りだよ、君の力にどうやら助けられたみたいだね。本当に感謝するよ、ありがとう。」
「姫華さんも無事……みたいですね。本当に良かったです……聞いたときは本当に心配で……!」
「あはは……ありがとう、光ちゃん。痛みはあったけど、もう何ともないよ。私の力の影響だったみたいだし……。」
「ねえねえ御木千代お兄さん、元気なら後で手合わせしてよ~!」
「私も、御木千代お兄さんに旭と私のコンビネーション、見せたい……です……。」
いつの間にか姫華の隣に来ていた旭と日出が姫華の隣から顔を出していた。
旭の表情はにやにやと新しいおもちゃを貰った子どものように楽しそうに、日出の表情はそわそわとしながらも楽しそうなのは隠せない、とばかりに小さく笑みを浮かべていた。
「相変わらずだねえ宮部シスターズは。いいよ、集会の後なら付き合ってあげようじゃないか!」
「ふふ、やった……。」
「わ~い、御木千代お兄さんだ~い好き!」
子どもらしく喜び、二人は両サイドから御木千代に抱きつく。
「仕方がないなぁ」と言いながら二人の髪をそっと撫でる御木千代。
姫華はそれを見ていると光がひそひそと姫華に耳打ちする。
「二人は天才剣士っていうのもあるからか、御木千代先輩との手合わせが大好きなんです。私との手合わせもたまにしますけれど、やっぱり鎌使いの私より同じ刀使いの御木千代先輩の方が良いみたいです……。」
「あはは……モテるんだね、御木千代くんは。」
「まあ、とりあえず集会が始まるまでは姫華に社の中を案内しようじゃないか。旭、日出、手伝ってくれるね?」
「は~い!」
「はい……。」
「わ、私もお手伝いします……!」
「お姉さんはツガネ様との話し合いがあるから、そっちに言ってるわね~。」
「あ、はい。……じゃあ、皆よろしくね。」
こうして、集会が始まるまでの時間、御木千代、光、旭、日出の四人で姫華に守神の社を案内するのであった。
宮部従姉妹はあくまでサブキャラクターのつもりですが、もしかしたら予想より出番が多くなるかもしれません。




