春、洋室にて。玉姫とツガネ
「玉姫お姉ちゃん……凄い、綺麗な恰好……。」
「あら、うふふ。姫華ちゃんにそう言われたら、私もとても嬉しいわ。」
お世辞ではなく、姫華は心からそう思っていた。
玉姫の姿は、まるで時代劇のお姫様のような豪勢な和装をしていた。
所々黒の差し色があるのは、恐らく里守と同じように魔石炭による染料であるだろうか。
赤を中心に、ヤブツバキの意匠が施された花のような美しさは、玉姫の少女的な可愛らしさと、お姉さんらしい美しさを尚更引き立てていた。
ヤブツバキは、沖牟中の市の花なのでそれもやはり関係があるのだろうか。
生地の上質さは素人目でもなんとなく分かる物であった。
「あ、そういえば御木千代くんが玉姫お姉ちゃんが違う役割があるって言ってたけど、もしかして、その姫って……。」
「そうよ、オロチ様とツガネ様、そして姫である私……そして、姫華ちゃんを守るのが、里守の役目の一つでもあるのよ~。」
「なるほど……そういえば、私や御木千代くんをワープさせていましたけど……。」
「あれは、私の姫としての異能力ね~。里守の力を持つ人や、私達姫は異能力を持つ事が出来るの。私の場合は、『御木結界』。御木が張り巡らせられている所の近くに人や物をワープさせる事が出来るの。離界の状況を把握する能力もあるけれど、それは姫華ちゃんも出来る、姫の基本的な能力ね~。」
「なるほど、そして私の異能力が『桜形代』……。里守にも特殊な異能力を使える人も居るんですね?」
「ええ、光ちゃんは『稲山』、植物、特に稲を操ったり生やす事が出来るわ~。それとは別に大鎌使いの里守の基本的な能力である『飛来鎌』も使えるわ~。」
「御木千代くんは?」
「御木千代くんは……分からないわ。もしかしたら異能力を持っていないかもしれないし、まだ目覚めていないだけかもしれないから。御木千代くんも、あと旭ちゃんも日出ちゃんも里守の中ではかなり若いから、まだわからないわね~……。」
「里守になったからって、異能力を持つわけでは無いんですね……。」
「身体強化の加護は魔石炭の魔力による物だから、里守全員の持つ能力だし……そんな中で当代最強って言われている御木千代くんも、天才剣士って言われてる旭ちゃんも日出ちゃんも凄いわ~。」
「なるほど……。」
そう言われてみると、と思って姫華は思い返す。
確かに超人的な身体能力を御木千代も光もしていたが、御木千代が何らかの能力を持っていた記憶は無い。
少しずつ里守の事はわかってきた。
だが、そこでそういえば聞いていなかった事を姫華は思い出す。
「玉姫お姉ちゃんも、沖牟中の歴史の中のお姫様の魂に縁があるから、姫になったんですよね?」
「ああ……ええ、私は、玉姫の魂に縁が出来た、当代の姫よ~。」
「たまひめ……それって、どんなお姫様だったんですか?」
「それは……ツガネ様、話しても良いかしら~?」
玉姫はツガネ様に声をかける。
ツガネ様はこくり、と頷いた。
「ああ、構わない。むしろ話すべきだろう。」
「は~い、じゃあ、お話するわね~。」
「お願いしますっ。」
そうして、昔話が始まった。
沖牟中のとある時代、とある村。
玉姫と呼ばれる美しい長者の娘が居た。
優しい長者の娘の玉姫も優しい性格で、ある日怪我をした沖牟中の方言でツガネと呼ばれる沢蟹……津蟹を手当し、毎日毎日ツガネに餌をやっていた。
やがて元気に、大きく逞しくなったツガネと仲良く過ごしていた玉姫であったが、いつの間にかツガネは居なくなってしまった。
玉姫は寂しく思いながらも、故郷に帰ったのだろうと思う事にした。
そんな村には、ある悩み事があった。
山に大蛇が住みつき、天気を荒したり暴れたりして村人達を脅かしていたのだ。
村人達は、大蛇の怒りを鎮める為に毎年の夏に、白羽の矢が立った家の娘を生贄にして、大蛇の怒りを鎮めていたのであった。
村人達は、いつ自分の娘が生贄に選ばれるか怯えて暮らしていた。
そしてある日、ついに長者の家に矢が刺さっていた。
玉姫が生贄に選ばれたのだ。
両親や村人に悲しまれ、惜しまれながらも、自分が犠牲になって村が守られるならば……と、玉姫は白い着物を着て籠に入り、自分が生贄になる事を選んだのであった。
やがて山に着き、籠が置かれ、自分が大蛇に飲み込まれるのを待つのみ……。
ところが、異変が起こった。
やけに周りが騒がしく、何かが暴れたり叫ぶような音が聞こえてきたのだ。
不思議に思った玉姫。
やがて、音が収まったのを確認し、そっと籠の外に出てみた玉姫。
すると、そこには三等分に斬られて血まみれになって絶命した大蛇と、同じく力尽きた、あの時に助けた大きなツガネの姿があった。
ツガネが自分を助けてくれた。
その事実を察した玉姫は悲しみと、それ以上の感謝の気持ちで涙した。
やがて、大蛇の死により、村に白羽の矢が立つ事は無くなり、村に平和が訪れた。
村人達はツガネと大蛇を手厚く供養し、沖牟中の民は津蟹を食べないという掟を作って感謝の念と信仰を捧げた。
また、不思議な事に、三等分された大蛇から溢れた血は三つの池を作り、その水は病を癒し、畑の作物を守る霊水になり、今でも枯れず湧き続けているという。
「……というのが、玉姫とツガネのお話かしら~。」
「なるほど……玉姫の魂がこの沖牟中の地を今でも守っているという事はわかりました。……あと、ツガネ様が守り神をやっている理由も。」
「今の私はこの沖牟中の地の守り神であり、生前のあの玉姫と過ごした私と同じ……と言っていいかはわからないがな。かつてはハサミで戦った私だが、人の身を得て今は刀を振るう時間の方がずっと長くなってしまった。」
「……その人の事、大好きだったんですか?」
「……人の言う恋情のそれと同じだったかはわからぬがな。ただ……あの方の、あの人の差し伸べる手と、笑顔は今でも忘れていない。」
ツガネ様は、昔を思い出すように、遠くを見つめていた。
ツガネ様のその表情からは、その内心を計る事は姫華は出来なかった。
だが、その表情には、様々な感情が篭っている事だけはわかった。
……やがて、その表情からツガネ様は表情を戻す。
「私はあの方が愛したこの地を、あの方が愛した人々を、そしてあの方の魂と縁を持つ姫を守るのが、私の役目だと思っている。……もちろん、桜姫の魂と縁を持つ其方もだが。」
「あら、ツガネ様や御木千代くん達から守ってもらえるなんて嬉しいわ~。」
微笑みながら、そのまま姫華の事をぎゅっと抱きしめる。
「わっ。」
「それに、今代の姫は私だけじゃなくて後輩が入ってきてくれて、お姉ちゃん嬉しいわ~。」
「が、頑張ります……。」
姫華はある程度自分の置かれた状況は理解した。
理解したうえで、頑張ろうと改めて思うのであった。
話が纏まったのを確認したツガネ様は、この部屋に居る全員に向かって宣言をする。
「……では、この後里守の集会を行う!新たな姫の誕生、そして……。」
「今回現れた、謎の剣士についてだ。」
久しぶりの更新になりましたが、こちらの方も少しずつ更新していけたらいいなと思います。




