合戦
後程もう一話投稿します。
洛陽で質疑応答がされて居る頃、すうざんに向かうシャオリン達にも危機が迫って居た。それは、天下布武同盟の盟主ですら、知らない事であった。
それは洛陽に向かう朝、汜水関での出来事。
「ラルクさん! どう言う事ですか? 昨日皆で今回は宣戦しないと決めたばかりではないですか!」
ラルク この男は天下布武同盟の主力の一人では有るが、好き勝手に攻撃を仕掛けたり、また軍師であるムールにいつも逆らって居て、盟主であるシナツも脱退させる予定でもあった男だ。だが勢力的に翡翠や珍肉に一歩劣る天下布武に取って、今直ぐに脱退させる訳にも行かず、仕方なくまだ在籍させて居た男でも有る。
「ムールさん、俺たちは勝たないと帰れないんだ、わかる? 命かかってんだよ。それとも何か? あんたが全責任を取ってくれるってのか?」
「そんな事は…..」
「なら黙ってて貰おうか? 要は勝ちゃ良いんだろう? なら先ず勢力広げねえと、ポイント稼げないだろう? 今すうざんには翡翠の駐屯は居ねえ、なら速攻で攻めちまえば落とせるだろうが」
「アフロさんは賢い軍師です、こちらの思惑などお見通しで、直ぐにもすうざん防衛に入るでしょう」
「やばそうなら帰って来れば良いだけだ、何もしねえよりゃましだろう」
「良いよムール」
「シナツさん!」
「だけどラルクさん、やるならあんた一人で言って貰う。こちらから援軍は出さない。これは決定事項だ」
「構わねえよ、元宝で兵を買える事は確認済みだ」
「ならば好きにすれば良い、行くよムール、洛陽に遅れる」
元々天下も今日宣戦する予定は無かったのだ。それをラルクが勝手に宣戦をして居た。
そしてラルクは即座に行動に移した、ラルクは攻城など最初からする気は無かったのだ。
シャオリン達がちょうど洛陽から川沿いにルートを北上している時にそれは起こった。元々虎牢館からすうざんへは真っ直ぐ行くルートが有るが、今回洛陽まで盟主を送り届け、そこからすうざんへ向かうルートをアフロは取った。当然それは盟主の安全を考えての行動で、ラルクはそれを読んで居た。絶対にそうするだろうとラルクには確信が有った。
だが実は盟主の安全を図る意味では無い。何故アフロが遠回りを選んだのかと言うと、実際に馬車での移動速度で洛陽〜虎牢館、さらには洛陽〜すうざんまで、どの程度の時間がかかるのかを頭に入れて置きたかったからだ。だがそれが今回裏目に出てしまった事になる、流石のアフロもラルクのこの行動は読めなかったのだ。
「ご報告します」
AI兵だ、御者であるりょくの元に、馬で並んだところだ。
「何だい?」
「斥候からの知らせで、この先の橋付近に天下布武同盟の軍が待ち構えて居る様です」
「何!? 全体を止めろ!」
「は! 全軍停止しろ!」
AI兵と言えども、軍の規律は守られて居て、碧劉の言葉に従い、直ぐに全軍はその場に止まった。
「どうしたんですか? りょくさん」
「不味い事になった、彼の報告を聞いてくれ」
「どうしたんですか?」
「は、斥候からの報告で、この道沿いにかかる橋付近にて、天下布武同盟の軍が待ち構えて居る様です」
「何だって!? 数は!」
「およそ300程度だとの事」
流石のアフロも焦った。現在この軍は50程度しか編成して居ない。それが向こうには300もいると言う。普通に考えれば勝てる勝てないの問題じゃない。如何にこちらがMR能力が有る者が複数居ても、弱キャラ40ぶつけられれば、防御力が皆無になる設定は引き継がれて居る。
「安易に考え過ぎた、まさか場外で仕掛けて来るとは全く考えて居なかった」
「どうする?」
「背を見せれば背後から仕掛けて来ると思われます。こちらの行軍も敵兵に確認されてると思って良いでしょう」
AI兵の言う通りだ。もし引き返し、背を見せれば全力で此方を追いかけて攻めて来るだろう。
「戦うしかない、だがまともにやって居ては勝てない、斥候兵、俺を全体が見渡せる場所まで連れて行ってくれ」
アフロは斥候と共に、先ず相手がどの様に待ち伏せして居るかを、身を潜めながら確認した。敵は転移者らしき者が1人、他はやはり購入したAI兵だ。
『どう言う事だ? 何故たった一人で待ち伏せをしている……AI兵の弱点を知らない訳でも無いだろう? だが本当にAI兵と敵一人なら、勝てないまでも突破は出来る』
アフロはAI兵の弱点を知って居た。と言うよりも、誰もが気づくだろうとアフロは思って居た。だが実際にはアフロくらいしか、このAI兵の弱点に気がついて居なかった。ここが完璧に思えるアフロの、唯一の欠点だった。
アフロは自らの能力を過小評価し過ぎる、ゆえに皆このくらい出来るだろう、皆このくらい知ってて当たり前、そう思いがちなのだ。
アフロはAI兵を購入して直ぐに、AI兵の致命的弱点に気がついた。AI兵の強さは本当にレアリティに忠実だった。だからザコの様にSR能力しか持たない者に対して充てると、UR兵はザコに勝ってしまう。
だが何と、ザコがやろうと思えばSRがURを倒すと言うジャイアントキルが出来てしまうのだ。そこがAI兵の致命的弱点だった。だからアフロは皆に、AI兵を必要以上購入しない事を強く進めた。
AI兵の致命的弱点、それは策略に極めて弱い事だった。AI兵は基本戦闘技術に関しては申し分無い。武将ならば剣術や盾術、弓士ならば弓術、謀士ならば法術、これらの戦闘技術は予めしっかりと記憶されて居た。また命令に対して忠実に任務を遂行出来る様に、一般的教養と、理解力も申し分無い。なので、皆これならと、購入を検討して居たのだ。だがアフロは先ず皆に購入を待たせて、自ら先にAI兵を購入し、訓練所にて戦闘訓練を施した。そこで見事にこの欠点が露呈したのだ。
例えば武将に突撃を号令する、そこでAI兵は命令に従い真っ直ぐに敵陣に向かい突撃を敢行するだろう。そこに予め落とし穴があったとする。当然最初の何人かはそこに落下するだろう。だが人ならば、当然それを見ればそこを避ける。だがAI兵は、落とし穴を避けろ! と言う号令が無ければそのまま次々と落下して行ってしまうのだ。残念では有るが、それがまだAIの能力なのだ。
戦場は刻一刻とその様子を変化させて行く物。その変化にまだAI兵では対応出来ない。命令に忠実過ぎるのでは無く、ある程度個の判断力が絶対に必要なのが戦場なのだ。特に部隊を引率する将ならば、尚更それが必要になる。
つまり、自らが戦闘しながら命令出来る人数くらいが、一番丁度いいくらいの持ち駒数、と言うのがこのAI兵の設定だった。それは一人50人くらいが限界だろう、アフロはそう判断した。
だが目の前には人が1人しか居ない。そしてAI兵が300、これはアフロでさへ管理出来ない完全なオーバー人員だ。
「戻るぞ、対策を立てる」
「は!」
「突破? 戦わないのか?」
「当然戦闘にはなる、だけどガチ戦闘では当然勝てない。つまりここは、突破して城付近にいる味方兵が大勢居る所辺りまで逃げる、それが最善策だ」
「敵が追って来なければ?」
「それならそれで構いません、兎に角今は、この状況を打破する」
「でも300も居るんでしょう?」
「策は有ります、今からその策を話します」
アフロは先ず俺たちに陣立てをした。陣立てと言うのは、戦場で陣構え、配置などをする事を言う。歴史が好きな俺は、直ぐにこれが突破の陣立てだと言う事がわかった。
だが完全な突破の陣ではない、これは明らかに……..
「アフロさん、その役は俺にやらせてください」
「ですがりょくさん、一番適任なのはシャオリンですが?」
「わかります、だけどどうもこの敵に俺は心当たりが有る、それならちょっとした因縁が有る」
「わかりました、ですがくれぐれも深追いは厳禁です、良いですね?」
「了解です、軍師には従いますよ」
「ではこの作戦はどれだけはるんさんをフリーに出来るかが鍵です、皆良いですか?」
「「「了解!」」」
そして遂にこの世界初の合戦の火蓋は切って落とされた。
「騎馬隊出陣!」
「おう!」
りょくさん率いる騎馬隊は10騎、りょくさんが先頭で騎馬隊は一気に斜面を降り、敵陣が有る橋の欄干付近めがけて突っ込んで行った。
「俺は翡翠の碧劉! 名を名乗れ!」
「お前! りょくか! 俺は付いてるぜ! 一番初めの敵がお前だとはな! 俺はラルクだ!」
「やはりお前だったか! ならばその首、この碧劉が貰い受ける!!」
「やれるもんならやってみやがれ!!」
「中軍出陣!」
「中軍出るぞ!」
「おう!」
シャオリン率いるのは中軍20、これは歩兵で構成されて居た。中軍は丁度騎馬隊が突撃した後を囲う様に広がりながら突撃する。
「はるんさん、予定通り後詰めお願いします」
「大丈夫だよ!」
「本隊出陣!」
「おう!」
本隊、この場合は軍師のアフロが率いる10の歩兵だ。
「後詰め行くわよ!」
「おう!」
「後詰めは輜重隊など物資を運搬する隊で有り、この場合ははるん率いる10が後詰めとなる。つまり必要な物質を守る為の布陣であり、これは敵陣突破で定石である
鋒矢の陣
これが今回アフロの取った陣立てだった。
だが本来の鋒矢とは、↑この様に、上向きの矢印が一丸となり敵を突破するので爆発的な突破力が付く。所が今回アフロが取ったのは、りょく率いる騎馬隊を先行させた事だった。機動力が有る騎馬隊を先に先行させては、完全な↑は生まれない。
だがこれには意味が有った。実はアフロは先のAIの致命的な欠点を付く作戦を取ったのだ。機動力の有る騎馬隊を先行させ、戦場を掻き回せば、自ずと敵将、つまりラルクはその対処にかかり切りになってしまう。当然ラルクの命令は、あの敵将を討ち取れ! となり、騎馬隊を率いる将、つまりりょくに全兵の気が向くだろう。だが合戦に慣れてる将ならば、そんな馬鹿な命令は下さない。せいぜい一部隊に相手をさせるのが普通だろう。だが当然現代人にそんな合戦慣れした者はいないし、所詮はゲーム内知識、いざリアル合戦となれば、そんなゲーム内知識など役に立つ筈は無い。
そこでアフロはそれを最初シャオリンにやらせようとして居た。シャオリンならば、スキルで筋力値×2の敏捷ダメージを防ぐ、聖護霜凪を味方にばら撒きながら、自らを強化して戦う事が出来る。この作戦に適任だった訳だ。
そして中軍でりょくが、挑発による敵の引きつけを行い、シャオリンと同等のこの場の最大戦力で有る、アフロが本隊を率いて一気に敵を蹴散らし、後詰めのはるんの輜重隊が一気に駆け抜け、その後を追って全隊離脱、これが今回のアフロの作戦だった。
だがりょくは、その役を自分にやらせて欲しいと言って来た。本来ならば、却下だ。全隊を逃すのが今回の目的ならば、それは許されない。だが敢えてアフロはそれを認めた。実は、アフロはここで天下の人数を減らせるならば、減らしたいと言う目論見もあった。りょくがもしかして、因縁の有る相手かもしれない、ここをアフロは聞き流して居なかった。りょくはあまり目立ってチャットでも発言する方では無いが、戦略に対して一定以上の評価をアフロはりょくに対して持って居た。
そのりょくが、知って居るかもしれない、そう言うならば、もしかして、りょくが今回の敵を討つ可能性が有る、そう判断したのだ。
りょくはその時、ラルクとのほぼ一騎討ちを演じて居た。所々敵兵が襲っては来るが、シャオリンがほぼそれらを全て抑えて居た。りょくが因縁が有ると言って居た事から、シャオリンは邪魔が入らない様にして居たのだ。
感謝しますよ、シャオリンさん。俺が軍師から与えられた時間は大して多くは無い。初手からはるんさんがこの戦場を抜ける間、それは恐らく20分と無い筈だ。だが俺はこいつだけは許さない。
この貰った時間内で、俺はこいつだけは仕留めて見せる!
りょくとラルクの因縁、それはりょくに取って、忘れられない程の侮辱と言う物だった。




