女帝
あれはなんだ! 鳥だ! 飛行機だ! いや禿げ鷹だ! いや、禿げたスーパーマンだ!!
シャオリンが雷に打たれたあの日の事件の時、シャオリンに不思議な声が聞こえて来た。それは、意図的にシャオリンへ能力解放時に、通信が可能な様に仕組まれて居た物だった。
「川田主任、良いんですか?」
「何がだ?」
「直ぐにバレますよ?」
「上手くやるよ、君が裏切らなければ問題無いだろう」
「またそう言う事を……」
川田 恭子 56才
彼女は放逐少女運営チームの一員で、チームの中核に居る存在だった。そもそもシャオリンが直ぐに能力解放出来なかったのも、セブンイレブンのコンビニで、願い返しが出来るのも、全て彼女が仕組んだ物だった。
彼女はこの日本と言う国家が何をしようとして居るのかを知って居た。そしてこの放逐少女の運営会社が、SDGsに協力している事も知っていた。そしてこの実験が行われる事を察知した彼女は、内部からそれを崩す事が可能な存在を破竹サーバーから探して居た。今回の実験は、破竹サーバーで行われる事が決まって居たからだ。
それが可能な者が公輪盤の能力を得られる様にする為だ。そもそもこの公輪盤と言うキャラを作ったのが彼女だ。彼女はここに、いくつかの他キャラには無い能力を持たせていた。そしてその能力を使いこなす為には幾つかの条件が必要だった。
シャオリンは、その条件の適合率が99.79% シャオリン程公輪盤の能力に適合出来る者はいなかった。そこで彼女は転移事件の時に、シャオリンに意図的にこの公輪盤の能力が得られる様に細工した。コンビニ設定は元から有ったが、願い返しが出来る様な設定はされていなかった。ここは一つの賭けだった。シャオリンがそれに気付くかどうかは、彼女事態も未知数だ。だが見事にシャオリンはそれに気がついてくれた。これで盤面は全て揃った。上層部は全てのプレイヤーの元宝数など把握していない。だがシャオリンは一つ、大きなミスを犯した。上層部がバトル開始の宣言をした時に、それを否定する様な言葉を発した。そこでシャオリンは公輪盤の隠された能力の一つを使ってしまって居た。
公輪盤のアーム、それは巨大な剣をカラクリによって振るうと言う設定から、逸脱した物だと言う事が上層部に知られる事になってしまった訳だ。
ここでシャオリンは目をつけられる事になってしまった。まだあのアームの真の能力は隠されて居る。上層部もそこまでまだ疑って居る訳では無い。
「あなた 遥、上手く彼をサポートしてね……」
すみれのおうやしの能力も、また仕組まれた事である。
その頃朝早くから荷積みをしていた碧劉が、既に馬車の準備も終えて居た。洛陽組とすうざん組は出発の時を迎えていた。大方の予想通り、天下布武からすうざんへの宣戦はされていたし、珍肉は一食や天下への宣戦、一食は逆に珍肉への宣戦を行って居た。やはりこの世界の仕組みや仕掛けに完全に気が付いたのは、アフロと、量子力学を学んで居たフジだけだった。つまり翡翠が勝たなければ、大団円にはならない事が翡翠の誰の目にも明らかだった。
馬車は、購入したUR兵10人と、SSR兵20。SR兵50に守られて居る、ちょっとした大名行列にもなって居た。彼等はこちらから話しかけなければ全く話さず、ただ付き従うだけの存在だった。だが見れば普通に生身だし、体温なども有る。違いは死ぬ時血も流れなければ死体もエフェクトを残し消えるので残らない。つまり完全なるフォログラフィックで有り、立体映像だ。
だがしっかりと攻撃された方は傷も出来るし血も流れる。これは自らが攻撃されたと認識して出来る物だとアフロは言うが、それを考えるようにするなど不可能だ。等のアフロだってそれを回避できないのだから、知って居るからと、どうにかなるものではないらしい。感覚でそう思ってしまうのだからどうにもならない訳だ。
「ではフジさん、虎牢館居残り組への講義お願いします」
「任せてください、それより上手く其方でもやってくださいね?」
「期待は裏切りませんよ」
「じゃありょくさん、お願いします!」
「出しますよ!」
居残りメンバーが見送ってくれる中、俺たちは馬車で一路洛陽へと向かった。洛陽ではすみれさんとガッキーさん、そして青熊さんが行く事になって居る。
俺とアフロ、りょくりゅうさん、はるんさんがすうざん駐屯となる。
「だけどリアル駐屯とかやる事になるとは全く思わなかっよ」
「そりゃ俺もです。まさか傾国とは」
「でもこの世界を私達の意識が作って居るとはとても思えないわ」
「私もそう言う概念だけは何となく知って居たが、まさか実際にこうなるとは、未だに信じられません」
そんな話に盛り上がって居る中、馬車が突然止まった。
「どうしたんですか? りょくさん」
「敵です、ここはもう洛陽の勢力地なのでしょう」
「リアル戦役と言うやつですか、では行きますか」
すみれさんがおうやしの能力を解放した。俺たちも各々の能力を解放した。
見ると、りょくさんは黒いマントの様な物を羽織って居た。そこに刀を刺して居る。俺は一目で何のキャラなのかわからなかった。
「アフロ、あれはなんだ?」
「夏侯惇だ、実際にあれを持って居る人は少ないが、眼帯が何よりの証拠だろう」
確かに夏侯惇は眼帯をしている。だが俺の知って居る夏侯惇は、SSRキャラの夏侯惇であり、服装は全く違う。
「すみれさん、俺が引きつけるんで、その隙に攻撃を」
「わかりました! それは反射も有るんでおまかせして大丈夫そうですね」
夏侯惇には反射ダメージと言う物が有る。これはアウグストゥスにも有るし、有名なのは程普の天然ボケだろう。
「さて、俺は難しい事はあまりわからない、だけどこれくらいはわかる。この世界を俺は認めない!」
りょくさんが馬車の御者台から飛び降りて、敵数十の中に飛び込み、居合の様な斬撃で一瞬で3人を切り伏せた。そして敵の何人かがりょくさんめがけて武器を振るう。りょくさんはバックステップなどでそれを交わしていく。
恐らくこれは、夏侯惇のスキル、残酷武道だろう。残酷武道は自身のデバフ状態を1つ解除し、敵3名に480%の物理ダメージを与える。さらに、2ターンの間、自身が「挑発」と「援護」状態になり、敵の攻撃を自分に集中させる。
そして、敵1人の攻撃がりょくさんに当たるが、りょくさんはそれを自身のマントで防いだ。すると……..夏侯惇のスキルは自身の持つダメージ反射が30%増加する、つまり、敵が自身の攻撃をマントで返されて、それをモロに受けてしまい、自らの攻撃で自爆した。
「あとはお任せを!」
りょくさんのスキルで挑発状態になった敵をすみれさんが巨大ハンマーで殴り倒していく。スキルを使って居る様子ではないが……..
「まるで重戦車だね…….」
「おうやしの攻撃力ただでさへヤバいですからね……」
「俺たち要らなくね?」
「父さん頑張れ〜♪」
「任せなさいはるん!!」
俺もガッキーさんもアフロ、はるんさんも、りょくさんとすみれさんの戦役戦を見ているだけで、何もしないと言うより、何もさせてもらえなかった。
若干はるんさんだけはすみれさんの応援に自ら回って居たようだが……それに笑顔で手を振るすみれさん、親バカとはこう言う事を言うのだろう……
と言うかはるんさんもどう言う訳だか洗脳を解いて居る所に俺以外気にして居る様子が無い、大丈夫か? それはまあ良いとして。
よくゲームでパワーレベリングと言う言葉が使われる。これはレベルが高い者が低い者を連れて歩き、本来レベルが低い者が立ち入れ無いような場所に行き、経験値が均等に入る事を利用して、一気に低い者のレベルを上げてしまおうと言う物だ。
俺達もすみれさんもりょくさんも、主力、準主力メンバーなので、そこまで大きなレベル差は無いが、この場合敵が弱過ぎて、俺達の出番が無いと言う状態から、このパワーレベリングみたいな現状になって居た。
戦闘は敵が数十居たのに何と1分かからず終わった。
「72秒以内だから、戦役ステージとしては低いですね、もう少し強い敵が居る所に行かないと」
「りょくさん…….」
「何ですか?」
「今は戦役ステージ良いですから……,」
「ああ、確かに」
何と頭の中でカウントダウンをして居たらしい、ゲームの様にリアルでりょくさんは遊んで居た。
その後何度かこの様な戦闘を行い、俺達はレベルが1ずつ上がった。そして洛陽に到着したのはちょうど11時過ぎ、あの徒歩での旅が何だったのかと言うくらい速い。流石は馬車と言いたい。
実際の中国ではもっと距離が有るのだろうが、ここはそこのミニチュア版と言う感じなのだろう。
「では俺たちはこのまますうざんに向かいます。すみれさん、ガッキーさん、16の質問、お願いします」
「大丈夫、しっかり聞き出しますよ」
「でははるん、体にはくれぐれも気おつけるのだよ?」
「お父さん、子供じゃないんだから」
「そうか、すまないな」
「青熊さん、何か有れば」
「すっ飛んで知らせに行きますよ、文字通りの意味で」
「頼みます」
そこで俺達は別れた。
「なあアフロ、質問の答え、どう見る?」
「恐らく質問には答えるだろう、その答えが事実かどうかは別として。ただ恐らくだが、奴等はそこで選別をすると俺は見ている」
「選別?」
「ああ、完全にではないが、俺は盗聴器や盗撮機を朝探して居た。勿論全部確認出来たとは思わないが、主要な各部屋には幾つか既に見つけて有る。だから昨日の会話は奴等に筒抜けになったと思ってかまわない。だが個人の部屋にまでは用意されていない、つまりここは何処かの巨大な実験施設か何かなのだろう。だから奴等とてそこまで大量の盗撮機や盗聴機は用意できていない」
「なら昨日のフジさんとの話は」
「聞かれていない。そして講義室の盗聴機はフジさんが別の場所にセットし直した」
「フジさんも探してたのか」
「ああ、俺がやらなければフジさんが俺の代わりをするつもりだったらしい、だから前もってあの人はこの世界に来てから独自で動いていたらしい。今フジさんのメモには虎牢館の盗撮機、盗聴機が全て書かれて居る」
「凄えな、あの人」
「当然だろう? 物理学を専行して、独自の研究でもって、宇宙と世界の仕組みに気が付けば、自ずと今の歪んだ世界の裏側に気がつく。この世界がどう言う風に造られて居るか、今あの人以上に理解してる人は居ないだろう」
「つまり誰がこの一連の実験を行って居るのか……」
「知っている、そのバックもな」
シャオリン達と別れ、ガッキーとすみれ、青熊は洛陽に入城した。当然初日の様に矢は飛んで来ず、出迎えてくれたのは、一食の同盟員だった。
「あの部屋に皆さん揃っています」
「皆さんて事は?」
「はい、既に翡翠以外の同盟の盟主さん達はお揃いです」
中に入る手前で、兵士達に青熊だけが止められた。
「この先入室出来るのは、盟主と代表者のみです」
「よく僕が代表者じゃ無い事がわかりましたね?」
「………その問いに答える権限は有りません」
「でしょうね、ではここで待ちますか」
青熊は部屋の前で待つ事になり、すみれとガッキーのみが大きな扉の奥の部屋へと入った。そこには所狭しと宮女の様な格好をした女性が並んでおり、一段高い位置に、猫娘が座って居た。そしてそれよりも高い、まるで皇帝の様な位置にある席に、何と放逐少女の女帝が居たのだ。
女帝と言うのは、放逐少女のコンテンツの一つに、皇帝の陰謀と言う物があり、そこで得られた報酬で、一定期間だが、女帝を得る事が出来る。その女帝は、自軍の主将のアバターであり、自らの主将を女帝に出来ると言う物だった。
「なんだ!? 翡翠の盟主は林檎姫じゃないのか? 林檎姫とか言いながら、まさかそのおっさんのどっちかだったって事じゃねえだろうな? 俺はもやしだ」
「もやしさん、ガッキーです、お久しぶりとでも言えば良いですかね?」
「裏切り者か、それで?」
「私もシャオリンさんも、ヨウヘイさんも、それこそザコさんも、裏切った訳ではありません。言った筈です、私達はひろさんに惚れてたんだと、皆気持ちは同じです。それと、盟主は権限移譲しました。今の盟主はこのすみれさんです」
「すみれさんがおじさんね、まあそんな事より、何でいきなり権限移譲を? 私はシナツよ」
「林檎さんは高校生です、様々な危険を考えここには権限移譲され、私が来ました」
「そんな事言うならこの私の隣に居るムールも高校生なんだけど?」
「其方は其方の都合があるのでしょう、こちらにもこちらの都合が有ります」
そこで急にパシン!! と大きな音がなった。そして…….
「妾の前でそれ以上私的な会話は控えよ、妾はこの世界を統べる者、女帝である」
感情が有った、そこにガッキーとすみれは驚いた。声の主はNPCに質問に答えさせると言った。恐らくだが、この女帝がそれなのだろう。だが明らかに他のNPCとは違う、この女帝には、明らかに不愉快だと言う感情が見えた。




