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ロボと日記と終末世界  作者: 空戦型


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十月二十七日~十一月一日

 十月二十七日


 新事実が判明した。人類は冬眠できる。

 いや、これは言い訳かも知れないが、昼夜逆転レベルで寝た。地中を移動したことと、寝る為にコクピット内の明りを切ったのがいけなかった。爆音のアラームも鳴った筈なのだが気付きもしなかった。これまでの疲労の蓄積もあっただろう。


 一日以内に目を覚ませたのは幸運だった。

 地中掘削によって出来た背部の空洞が崩落した震動で叩き起こされた。

 もう夜だ。非常によくない。今の世界では生活リズムの乱れは簡単には取り戻せない。


 自分への罰として飯は少なめに食べた。開き直って全力ストレッチし、起きたい時間に少しずつ明りが付くようコクピットでせこせこ設定し、もう一日寝ることにした。


 残存食料、ほぼ十一日(うち完全食料四日)。

 水、十四日。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブC所持。





 十月二十八日


 寝貯めという言葉があったが絶対に嘘だと思う。

 寝過ぎたら寝過ぎた分だけ身体が鈍るだけだ。

 今日は調子を取り戻すまで半日かかったし、振り返るとカバードシルエットなど使わず普通に歩いて越えればよかったと背後の山に恨めしげな視線を送った。恨んだところで山は気にしないだろうけども。


 とにかく多少は調子が戻ったので反省会だ。

 まず、掘削型シルエットはちゃんと退屈に耐える覚悟と深い眠りに就かない準備をセットで揃えてから使わないとしんどい。逆を言えばこの二つの条件さえ揃えば危険地帯を地中から進んでやり過ごすことが出来る。


 次に、掘削には二つの使い道があるように思った。

 一つは当然危険の回避だが、もう一つがトンネルを作ることだ。

 掘削型シルエットの掘削方法は、掘ると言うより融かすのに近いらしい。穴を抜けてから改めて通ってきた道を見ると、断面がつるつるになっていた。多分ガラス化とかいうやつだ。今回は速度重視だったため地盤の問題もあって崩落したようだが、掘削速度を下げればその分側面の強度が上がることが今日の検証で分かった。長距離掘削を試す前にやれという話でここも反省点だ。

 流石にガイストが通るにはギリギリすぎるし強度に不安があるが、『ハウンド』辺りなら余裕で通れそうだ。この知識を使う場面があるかは分からないが、一応覚えておこうと思う。


 残存食料、十一日(うち完全食料四日)。

 水、十三日。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブC所持。


 他にも書きたいことはあったが、眠気に耐えられない。




 十月二十九日


 だいぶ調子が戻ってきた。

 昨日は他にも色々書くことがあった筈なのに、シルエットの分析で力を使い果たした先日の自分の意思を受け継ぐ必要があるようだ。


 まず、掘削型シルエットを捨てることにした。

 理由はシンプルに、唯でさえストレージの小さなホルニッセにこんなデカブツを格納していると装備を全く揃えられないからだ。しかも地理的に恐らく当分山にぶつからないので掘削型シルエットはデッドウェイトでしかない。


 幸い、昨日と今日の間に見つけたコンテナで一通りホルニッセの強化が可能だ。B級ガイストのコンテナもあったが、キーグローブがないのでどうしようもない。


 二連装サイドミサイル、テイルレーザー、揚力ウィング、そして初顔のリアクティブシート。


 サイドミサイルとは脚部や腰部に装着するミサイルだ。

 肩部に装着するタイプと違って初速が速いが、その代償として弾頭の再装填に時間がかかるし、近距離では追尾性能が活かしきれない。ただ、発射口を360度回転可能なので背面にも撃てるというメリットがある。敵に背を向けて逃げながら攻撃や牽制が可能というのはホルニッセと相性が良い。


 テイルレーザーは数ヶ月前にも手に入れたが、名前通り尻尾ビーム。少し機体が重くなるが、ホルニッセの逃げ切り戦法とはやはり相性が良い。


 揚力ウィングはそもそも見つけることが珍しく、俺も数えるほどしか使ったことがないが、これは名前通り揚力を得るための翼で、飛行や加速に優れたユニットの飛行効率、跳躍距離を伸ばすことが出来る。

 地上では鈍足ながらスラスターによる疑似飛行を得意とするホルニッセとは相性が良いだろうと思っていたが、試して見たら予想以上だった。これは嬉しすぎる誤算だ。グレイホークには敵わないまでも、C級や大半のB級からは逃げられるだろう。


 最後に、リアクティブシート。

 詳しくは分からないが、攻撃を受けたときに装甲の代わりにダメージを引き受けてくれるそうだ。シートというだけあって軽量で、シートを貼る位置や量はコクピットから任意で決定出来る。代わりに完全使い捨て。

 こんなシートに高い効果があるとは思えないが、軽いので殆どデッドウェイトにならないのはありがたい。揚力ウィングを中心に機動力を守る方向で全部使い切った。


 ……これでホルニッセのストレージは既に八割ほど埋まった。

 この容量の小ささがC級ガイストの辛いところである。


 残存食料、十日(うち完全食料四日)。

 水、十二日。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブC所持。





 十月三〇日


 ヤエヤマ解放戦線の基地を発見。鍵のない建物だったが、入って見るともぬけの殻だった。

 前の基地と違って、生活の痕跡はあるが書類や非常食も含めて無駄なく綺麗に撤退している。この辺はやはり各隊長の気質によってばらつきがあるのだろうか。或いは撤収の理由が違うだけかも知れない。


 ここでもサツマイモを発見した他、別の作持ちも育てた痕跡があった。

 それと、コンテナを利用した浄水装置の形式もほぼ一致。

 ヤエヤマ解放戦線にはこうした基地の設営や運用のマニュアルがあるのだろう。


 近くの町に降りて探索。

 基地が近い割には意外と荒らされていない。いや、基地があるからこそヤエヤマは慌てて漁る必要が無く、生存者も近寄れなかったのだろう。おかげで色々と手に入ったし、固形のカレールーと再会することが出来た。


 思い出すのはあの日の悪夢、スナイパーにグレイホークをぶち抜かれたことで爆炎に散ったカレーライスの夢。思い出したらめちゃくちゃ悔しくなってきたが、今再会できたことでそれを上回る幸せを得た。アルファ米とレトルトカレーまであった。

 カレーの神よ、ありがとう!!


 残存食料、二〇日(うち完全食料四日)。

 水、十五日。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブC所持。


 (ページから微かに香辛料の香りがする)





 十月三十一日


 やばい、ここは天国過ぎる。

 スーパーもコンビニもあらゆるものが余っている。

 何を食べても懐かしくて涙が出る。

 これほどの満腹感、いつ以来だろう。おやつに美味しいものを食べたのはいつ以来だろう。俺が子供から高校に至るまでに好き好んで食べたあらゆるものが残っている。いや、賞味期限の短いものや管理の必要なものは勿論ダメになっているが、それを補って余りあるものがここに残っている。


 終末世界が始まったばかりの頃は、こういうものは結構食べることが出来た。しかし二年も経過するとそうもいかない。生存者達による食料漁り、食品の劣化、建物の劣化、動物に食べられる、虫に食べられる……様々な理由でこれら文明の味は減少の一途を辿り、俺がもし老人になるまで生きられたとしたらもう幻になっているかもしれない。


 美味しさで泣き、懐かしさで泣き、そして郷愁でもう一度泣いた。


 これ以上ここに留まってはいけない。

 一度ヤエヤマ解放戦線の基地になった場所が近くにある以上、いずれ彼らはまたここに来る。

 そのリスクから目を逸らし、辛い現実から目を逸らして過去に浸れば俺は弱くなる。


 最後に袋ラーメンだけ頂いて、俺は町を後にした。


 残存食料、二六日(うち完全食料四日)。

 水、十五日。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブC所持。


 食料でカバンがパンパン気味だ。幅を取るものから減らそう。





 十一月一日


 十月の終わりが近づいてきた。

 天候は刻々と死と静止の季節、冬へと向っている。


 マサトは無事だろうか。

 故郷の付近で出会ったグレイホークの女は今も凶暴なんだろうか。

 ミノリちゃんはその後変わりないだろうか。

 クラマはちゃんとあの後シャングリアに戻れたんだろうか。

 シャングリアを抜けた集落の人々は、牧場の人々は、A-5部隊で短いながら寝食を共にしたあの兵士達は、この冬を乗り越えられるのだろうか。


 そんなことを考えている暇があったら自分の心配をしろ、と、自分でも思う。しかし、ここを通過するまでの生々しい争いの痕跡を見ると、センチメンタルな気持ちに今くらいは浸らせて欲しい。


 酷い現場だった。

 ヤエヤマとシャングリラ、双方のガイストが破壊され尽くしていた。

 恐らくシャングリラが勝利したのだろう。そして、ガイストでの戦いが終わった後に虐殺が始まった。そこにあったのは超重量で踏み潰されてぐしゃぐしゃになったり、銃で撃ち抜かれて骨すら一部しか残らなかった、男か女かも分からない髑髏が幾つも転がっていた。細菌と虫、獣たちに肉を食い尽くされた虚ろな窪みの奥には影以外のなにもない。


 勝利したシャングリラの部隊は奇襲作戦でもしていたのだろう。

 虐殺の首謀者は撤退前に援軍か伏兵の攻撃を受けたのか、撃墜されていた。

 ただ、コクピットが不自然に……まるで少しずつ陥没させ、時間をかけて中身を押し潰したかのように不自然にひしゃげていたので、まぁ、暴力の応報を受けたのだろう。


 こんな無意味な殺し合いをせず手を繋いで協力していれば、一体何人が生き残れただろう。道を踏み外さず誰かを労る心を持ち続けられた人が、どれほど残れただろう。彼らが殺し合ったからといって、どこからともなく湧き出るターミネイター達が消える訳でもない。有限の命と資源を奪い合って互いに数を減らした先にある未来は、本当に助け合いの結果よりよい未来なのか。


 こんな戦いのどこに意味がある。なんの意味がある。

 どうして生きる事に真摯になれない。一方的に奪うことをやめられない。

 もしこんな悲しい戦いを大したことのない理由で始めた人間がいたとしたら、俺はそいつを許せないだろう。


 命を馬鹿にしやがって。


 残存食料、二五日(うち完全食料四日)。

 水、十四日。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブC所持。


 センチメンタルになっても腹は減る。俺だって下らない人間さ。

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