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ロボと日記と終末世界  作者: 空戦型


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十月二十一日 Another

 最初にその場所を見つけた時、すぐに生存者の使っているエリアだと気付いた。

 周囲を整えた形跡のある生活感とバリケードのように設置された空のコンテナもそうだが、何よりも地面を陥没させたガイストの膝や足跡が決め手だった。


 コンクリートの大地を踏み割らずに歩けるガイストだが、それは短期間なら耐えられるからという側面もある。長期間同じ場所で運用すると、段々とガイストの設置面は過重に耐えられずに陥没していく。つまり、それなりに長期間ガイストを運用する何者かがここにいたことになる。


 内心に緊張が走り、ガイストを少し離れた位置に隠して徒歩で偵察する。

 今はたまたま外に出ているだけで、暫くすれば戻ってくるかもしれないと思ったからだ。


 しかし、暫くして疑問を抱く。

 建物の手入れが微妙に行き届かず出入り口近くに雑草が生え放題なのもそうだが、複数のガイストがいたと思しき形跡があるのに一機も拠点に置いていないのは奇妙だと。生唾を飲み込み、逡巡する。本当に人は住んでいるのか、と――。


 覚悟を決めて、一気に距離を詰める。

 建物の窓から見えないように近づくと、鞄から無人の民家で拾った手鏡を取り出して反射を利用し、中を覗き見する。マサトに教わった確認方法だ。

 カーテンはかかっておらず、中には誰もいない。

 多少の生活感はあるが、埃が積もり、手入れされていない様子が見て取れた。


 念のために拳銃を握り、ゆっくりと扉のドアノブを捻ると、鍵がかかっている。窓や裏口も確認したが結果は同じで、悩んだ末にホルニッセを持ち出して指で窓を貫き、引き剥がす。ここまでしても周囲に何の反応もないということは、つまりそういうことだとほっとする。

 ガラスの破片に気をつけながら中に入り込むと、嘗て誰かが生活していたであろう痕跡がある。雑魚寝の布団と毛布、エロ本やホビー雑誌、漫画、食べ終わって流し台に放置された缶詰やカップ麺……品揃えからして文明崩壊後に集めたものに思える。


 壁の落書きに『ヤエヤマ解放戦線 E-7部隊 詰所』と書いてあるということは、ヤエヤマ解放戦線が放棄した嘗ての小拠点といったところか。戻ってくる可能性がなくはないが、埃の積もり方からして放棄されたのは一ヶ月や二ヶ月前では済まない。以前に出会ったA-5部隊の詰所と比較して規模感が余りにも小さいので、E-7はかなり末端の部隊だったことが覗える。


 何故放棄されたのか記録は残っていないが、配置命令書、指示書、勧誘のチラシなど手作り感溢れる書類はいくつか見つかった。更に、棚の下には多少の備蓄食料が残っていた。カレンダーを見るに、週一だけの楽しみであり、普段はサバイバルで何とかしていたようだ。賞味期限を半年近く過ぎているが、あの黒い塊より遙かに文明の味がする筈だ。遠慮なく頂いてゆく。


(貴重な食料に書類まで残ってるとなると、予期せず放棄されたっぽいな……)


 建物の内鍵を開けて外に出ると、どうやらコンテナを貯水に使っていたようで水を汲み出す機構が見て取れた。貯まった水は長期間放置されたのか濁りが酷いが、ドラム缶で作られた大きな浄水装置は見たところきちんとしている。試しに装着されたロープを引っ張るとバケツが水を汲み上げ、つっかえ棒に引っかかってひっくり返った水が浄水装置に流れ込む。

 暫く時間を置いてドラム缶の底から出てきた水は、終末世界基準で飲める水だ。

 浄水器の真横には石で積み上げられた釜。これ幸いと火を起こして水を煮沸し、保存食の一つであるカップ麺に注いでいただく。味噌ラーメンならもっと良かったが、今は塩ラーメンも空腹が最高のスパイスになってくれる。


 久しぶりの文明の味に感動して涙を流しつつ、落ち着きを取り戻して書類を読み込む。


 判明したことは以下の通り。

 彼らは一年前にここに偵察や勧誘目的で派遣された部隊で、半年間はここで過ごす予定だったこと。活動結果はそう悪くなく、計六名もの勧誘に成功していたこと。解放戦線の戦果などの報告は、少ないながら気合いの入ったことが書いてあった。ただ、プロパガンダ感もあったので流し読みした。


 気になったことは二つ。


 彼らは恐らく半年を待たずしてここを出て行ったと思われるが、その経緯が謎なこと。

 急遽書類無しの命令が下って撤退準備の暇も無かっただけかもしれないが、不測の事態で全滅してしまったという線もなくはない。


 もう一つ気になったのは、『ターミナル』についての記述だ。

 この『ターミナル』とはこちらが勝手に『嘆きの塔』と読んでいるものと同一である。

 以前に『嘆きの塔』は拠点として変形させることが出来るという話があったが、肝心の変形方法が分からず仕舞いになっていた。

 その謎がまさか紙媒体で残っているとは予想外だ。寄せ集めの身内意識で繋がった組織故の弊害か、或いはE-7部隊部隊は意外とエリート部隊だったのかは不明だが、情報は彼らの予想しない形で俺に流出した。


 結論から言うと、『嘆きの塔』の変形機能へのアクセスには、S級ガイストとそれを操るSランクのグローブが必須らしい。だから解放戦線リーダーのヤエヤマと『ブレイヴァン』とシャングリアの聖女が操る『セラフィム』が塔を奪い合う構図になっているのだ。


 はっと思い出して日記のページをめくる。

 七月二十九日、俺はSランクのグローブでしか開けられないと思われるコンテナを発見している。念のために手書きで小さく座標も書き込んである。


 ――Sランクのキーグローブさえ見つけられれば、俺がS級ガイストを手に入れられる!!


 こんなに興奮したのはいつ以来のことだろう。

 必死に生き延びる為に這い回る今を大きく変えられるかもしれない、それは紛れもない希望だった。

 心臓が高鳴るが、なんとか落ち着くよう自分に言い聞かせる。

 この世界で逸る気持ちは命取りになる。


 まず、この情報は日記には書かない。

 万が一俺が捕まったとして、日記を見られたことで俺がS級ガイストの秘密を知っていると知られると殺されるか拷問を受けるかもしれない。誰かに聞かれても知らんぷりをしなければならない。なお、捕まらないことが一番良いのは言うまでもないことだが。

 仮に口にするとしても、マサト並に信用出来る人間か、本当にその情報を言わないと俺が死ぬときだけにしよう。


 今まで漠然と生きてきたが、Sランクのキーグローブを絶対に見つけるという目標が出来た。

 同時に、この目標は『嘆きの塔』がヤエヤマ解放戦線及びシャングリアの両勢力が全ての塔を奪い尽くすより前に叶えることが望ましい。そうでなくともS級ガイストには意味があるとは思うが、幾つか考えていることがあるのだ。


 ヤエヤマとシャングリアでは出来上がった拠点の形が違うらしい。

 ということは、ある程度は拠点の形状などをこちらで弄れるのだろう。

 十中八九無理だとは思うが、叶うならば俺はある拠点を作りたいと思っている。


「いや、考えてる場合じゃないな。もうすぐ冬だぞ。この冬、何としても乗り越えねえと……」


 夢を見るのはいいことだが、現実も見据えなければならない。

 文明が崩壊した今、冬を乗り切れるかどうかは死活問題と言っていい。

 Sランクのキーグローブを探し求める余りに凍え死ぬのは絶対に嫌だ。

 まず生きろ、生き延びろ。

 唯でさえここ最近何度も死にそうになってるんだ。


「ヤエヤマとシャングリラも流石に冬の間くらいは大人しくしてるだろ……」


 希望的観測を胸に、俺は周辺の捜索を再開した。


 そして、思った。


 世界に意思があるとするならば、それは俺の背中を後押ししている――と。


「……嘘だろ」


 塩の塊、イミテイターの手に嵌められているそれ。

 ラッキーという感覚と、もしかしたらこれがSランクだったりしてという楽観的感情、その両方を吹き飛ばす圧倒的なリアルが今、両掌の上にのしかかっている。


 権限S。

 追い求めていた、Sランクのキーグローブだった。


「……塩、確保できたな」


 誰も見ていない筈なのに誤魔化さなければと思い、意味も無く塩を有り難がって空のボトルに詰める。塩を詰める手も震える。今日、俺はまともに日記を書けるのかを週末世界以降初めて不安に思った。


 ダメだ、考えるな。

 いいか、俺は少しでも冬を過ごしやすい場所で乗り切るために食料を集めて西へ向うだけだ。


 行動を変えるな。

 行動原理を変えるな。

 俺の出来る範囲のことをしながら、少しずつ、少しずつ――夢を追いかけるんだ。


 ……事故死した新鮮なタヌキを拾ったのは、それから間もなくのことだった。

とりあえず一旦ここまで

次は未定だけど、進めたさはまだあります

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