誰の心配
烏天狗さんが初めて夜警を行ってから数日が経った。あれから毎晩、町の見回りを続けている。
最初の日は帰りを待っていたが、次から寝ておくように言われたので、夜警の結果は、烏天狗さんが持ち帰ってくれる新聞の記事で知ることが多い。
私は烏天狗さんから受け取った新聞に目を通していた。見つかった妖怪の遺体には火傷跡があり、記事では火吹家の夜警によるものだと断定されていた。火吹家も特に否定していないのか、札による偽装は成功していそうだ。これで町に現れる妖怪達が減ればいいのだが……
夕食を済ませると、烏天狗さんはいつものように夜警の支度を始めた。このまま烏天狗さんに任せ続けることに、少しだけ不安があった。
玄関に向かった烏天狗さんに声をかける。
「すみません、変なことを聞くようですが……烏天狗さんはどれぐらいお強いのでしょうか。」
「?」
烏天狗さんは戸を開ける手を止めてこちらを振り返った。
「いえ、狒々の残党を倒したことは知っているので、お強いとは思うのですが。その……夜警について、心配しなくてもいいんですよね?」
烏天狗さんはふっと笑って答える。
「あぁ……大丈夫だよ。そうか、君の命もかかってるからね。その辺の妖怪に遅れをとることはないから安心して。」
「君の命もかかってる……?」
烏天狗さんの言った言葉が一瞬理解できず、言葉を反復してしまった。
「……?」
烏天狗さんも黙ってしまい、気まずい沈黙が流れる。
「俺に何かあったら、君にかけてる幻術が維持できなくなるから。そういうことじゃなくて?」
ああ、と自分の置かれた立場を思い出す。
「いえ!そうではなく!私個人を助けてもらった上に、火吹家の代わりまでして頂いて……それで怪我をさせてしまったら、申し訳が立たないと言いますか……」
烏天狗さんは不思議そうな顔をしている。
「まあ……とにかく、心配しなくて大丈夫だから。」
烏天狗さんはもう一度笑った。
「行ってきます。」
そう言って家を出ていった。
自分の強さにそれだけ自信があるのか、それとも私が烏天狗さんを心配するとは思ってもいないのか……
私の心配が烏天狗さんに伝わらなかったことに少しもやもやしたが、本人が大丈夫だと言っている以上、心配する必要はないのだろう。
烏天狗さんを見送ったあと、私は用意してもらった薬を飲み、布団で眠りについた。




